「しまったなぁ。こんな事なら雅や佐紀と別れるんじゃなかったなぁ。」
その日Berryz工業嗣永桃子は珍しく困っていた。
学校からの帰宅途中、駅のロータリーで複数人のヤンキー達に絡まれ今にも襲われそうな状況となっていたからだ。

「オラ、さっさと夏焼や清水を呼び出せや。オメー等まとめてヤキ入れてやっからよ。」
「大体オメー等生意気過ぎんぞ。街中で歌ったり踊ったり飛んだり跳ねたりよぉ。」
「あんまチョーシくれてっとひき肉にしちまうぞコラ」
口々に喚きたてる6~7人はいるであろうヤンキー供をよそに桃子は1人ごちた。
「ウチら随分と嫌われてんだなぁ。まぁしょうがないよね。」
そう言ってスカートのポケットに手を入れた桃子はハッと気がつき青ざめた。

「ハッ!ヤバイ。今日鉄パイプ持ってないッ!!」

「何ブツクサ言ってんだコラ。オメーを真っ先にボコんぞ。オイ。」
名も無きヤンキーの一人が桃子のももち結びに手を出す。
「ちょ、止めてくださいって。天使の羽ですよ!」
バシッ
ヤンキーの手をはねのける桃子。
「痛ッてぇなコラ。何ワケワカンネー事言ってんだ?おー痛ぇ。決めた。オメーを殺す。」
ヤンキーがこれ見よがしに拳を振り上げた。

ペッ
桃子は咄嗟にヤンキーの顔面に向かって唾を吐きつけた。

瞬間、桃子は脱兎の如くその場を逃げ出した。

呆気に取られたヤンキー達に向かって逃げながら桃子が叫ぶ。

「悔しかったら捕まえてみろ。馬~鹿。」

「待てコラァ。」
怒声と共に走り出したヤンキー達。しかし走っても走っても一向にその距離が縮まらない。

走り続けること5分。
「ハァま、ハァコラァ」
「ハァこ、ハァこの嗣永ももち様はねぇ、逃げ足、逃げ足は誰にも負けないんだよ!」
そんな事をうそぶきながら桃子は更に走り続けた。
地元の商店街を通り抜ける頃、追いかけるヤンキーは1人にまでその数を減らしていた。

ふと、桃子がその足を止め路地裏に入る。
追って来たヤンキーが路地裏を覗くと桃子はこちらを向いて仁王立ちしていた。
「ハァハァ追い詰めたぞ。観念しろや!」
「観念するのはアンタだよ。」
桃子が右のももち結びに手を触れる。そのままももち結びを引きちぎり村山実ばりのザトペック投法でヤンキーに投げつける。
否、引きちぎったように見えたそれはももち結びに仕込まれた棒手裏剣であった。

ガンッ
棒手裏剣がヤンキーの額に命中し路上に落ちる。
次いでヤンキーも路上に崩れ落ちた。

「伊達や酔狂でこんな頭してんじゃないのよ。」
桃子は路上の棒手裏剣を拾い上げポケットにしまうと、
髪を下ろしいずこかへと消えて行った。


桃子伝 完(2回目)

最終更新:2013年08月26日 17:38