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「くどいッ」
きっぱりとした叫び声が、教室内に響きわたった。
ついで、声の主であるスマイル女子高等学院総長・和田彩花の、細身ながら生気にあふれた姿が、弾むように廊下の端に現れた。
鋭い眼は怒りを湛えているにもかかわらず澄みきり、紅潮した頬の色とあいまって、彩花は歳より若々しく見える。
「総長、待ってください」「ともかく、もう一度話を」子分たちが、ばたばたと追いすがってきた。
彩花は振り返った。
「何度同じことを云わせる?私はみんなの言い分をとっくり聞いて、納得のゆくように決めた。今さら蒸し返すことじゃない」

彩花の短気は今に始まったことではない。何せ表裏のこれっぽっちもない人だから…というのが子分たちの彩花評である。
その清廉さが好ましくもあり、微笑ましくもあり、時にこうして、いささか手が焼ける。

しかし、ことはそう簡単に収まる問題ではない。問題とは、各校との間の覇権争いであった。
それぞれがそれなりの言い分を持っている。しかも、幹部の中に他校制圧を支持する者があって、もつれている。
彩花は、心の底からうんざりしていた。
歴史の浅いスマ高は、おとなしくしていると食い物にされるというのも、分からなくはない。
しかし、理のないところに言い分をこじつけ、他校を攻めて勢いをつけようとする有り様を、
―――醜いッ。耐え難いと感じる心性を、彩花は持っていた。子分たちがくどくどと云えば云うほど嫌悪がつのった。

ただ、彩花には、―――私でなくて誰が、このスマ高を平和に保っておくことができるのか。
という確信もあった。自惚れでも傲慢でもない。事実である。
馬鹿らしくて投げ出したくなることも多かったが、結局、頑迷で強情なヤンキーたちを一つに従えるためには、
絶対の強さをもって君臨することが唯一の方法であり、それは自分にしかできないことだった。

私はこのスマ高に、誰の手も足も、爪の先ほども掛けさせることは許さない。
我に天意あり、と信じて立ったら、全神経を傾けて情報を収集し、分析を加え、思念を凝らす。
いよいよ抗争となれば、指揮を執り、時に自ら、全軍の先頭に出て疾駆する。
外敵――例えば、地区を併呑しつつあるモー商の如き貪欲な敵に、打ち克つためには…。

いつの間にか近くにいた竹内朱莉が、「こちらからは動きませんか?」と切り出した。
言外の含みを、彩花は感じ取った。きっ、と顔を上げるなり、「不満か?」と云った。
「不満ではありません」朱莉は悠然と答えた。
ならば良いではないかと突き放してくるかと思ったが、そうはせずに彩花は向き直った。「飯窪さん絡みで殴り込みした件ですね」なめらかな調子で、グサリと彩花の心を刺した。
「いや。…ああ、そうだな。そうとも云える。ずっと考えていた。
何のことでも、火急の時には、善し悪しをゆっくり考えているひまがない。かと云って、よく確かめもせずに殴り込みなんて、なるほど、したくない」

少し照れたように、彩花は朱莉と眼を合わせず、窓の外を見つめていた。
「あかりは和田さんが決めたことに従います。和田さんのためにできる限りのことはしますから」
「うん。頼む」
さらっと返ってきたその言葉が、朱莉の中に深く沁みた。頼む、と云った彩花の声音に、わずかな濁りもなく、真率そのものだった。

―――スマ高は大丈夫だ。心のきれいな総長だ。
モー商とのゴタゴタの後、スマ高の行く末を案じていた朱莉の心中に、ほのかに希望の灯がともった。