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校庭の端に建てられているプレハブ。
J農果樹課の実習室である。
いまは使われていないその実習室の簡易テーブルの上に、
宮崎由加は菓子折りの箱をそっと置いた。

由加たちのたまり場であるその部屋に、いまは由加しかいなかった。
ポッシハイとの間で、ちょっとした揉め事があった。
もともと争い事を好まない由加は、仲良くしてもらっているベリ工のトップ、
清水佐紀に「調停役」を頼んできた帰りだった。

快く引き受けてくれた佐紀から“お土産”を持たされた。
佐紀は料理を振る舞うのが好きらしく、
今回は特製のパウンドケーキである。

由加はテーブルの上の菓子折りの箱を見てゴクリと唾を飲み込んだ。
食欲をそそられたわけでは、もちろんない。
佐紀の料理は必殺の代物である。
誰であろうと決して無事ではすまない。
その恐怖を知らなかったころ、目の前で佐紀から「食べて食べて」と勧められ、
由加は死にかけ、何日も生死の境をさまよった。

だが食べ物を粗末にすると罰があたる。
「…あとでニワトリのエサに混ぜよう…」
由加は実習室をあとにした。


「あ~…往生したわ…」
実習室のドアを開けて、あかりはフーッとため息をついた。
「…誰もおらん…」さきほど暴走チャリンコに撥ね飛ばされ、
それでもなんとか力をふりしぼり、
ホームに戻ってきたのだ。
制服のあちこちがボロボロになっている。

「ん?なんやこれ…」食いしん坊のあかりは、
テーブルの上に置いてある菓子折りの箱をめざとく発見した。
パカッと開ける。美味しそうなパウンドケーキではないか。
「誰のやろ?…」まったく躊躇せずひとつ取りあげた。
誰のものかは関係ない。食べてほしいから置いてあるに違いない。

あかりは、パウンドケーキを一口つまみあげ、口の中に放り込んだ。
「――――!!」あかりは無言であえいだ。
その目が白くなる。
「――むお!!」2度目のあえぎが響いた。
足元がヨロヨロッとふらつく。
あえぎ、そしてのけぞり、苦悶しながらあかりは意識を失った。