※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

おそらくこれが総長として最後の仕事になるわね…
本来入学試験の試験官は入ってくる期の1コ上がやんなきゃいけないんだけど
生田はパワー馬鹿でまだまだ教育が必要だし、鈴木は肉体改造中
フクちゃんはようやく殻が破れたとこだし、鞘師は手加減ってモンを知らないからねぇ…
九鬼にはまだ任せらんないわ
九鬼の時にやった光井は入院中、七鬼の時は田中っちがメチャクチャにして中止、追試をさゆみんに任せたら入ってきたのがあの子だもんね…そりゃトラウマなるわ
結局私しかいないのよねぇ…
モー商黄金時代を肌で感じたメンバーも残るは私だけ
“高橋絶対王政”(タカハシステム)を参謀役として影で支えてきた私に総長として与えられた使命は、伝統あるモー商のバトンをスムーズに次の世代に託すこと…

モー商第七代総長・新垣里沙は天鬼入学試験を前にしてこれからのモー商について考えていた
同期で第六代総長・高橋愛の卒業、光井愛佳の大ケガ、九鬼の加入…
モー商は今生まれ変わろうとしている、王道復権に向けて…!

「そろそろ時間ね。行くとしますか!」

新垣は教室を出て入学希望者が待つ校庭へ向かった

 

待ちに待った入学試験当日、遥と優樹はモー商の校門前に来ていた
いよいよね…ハルの伝説はココから始まるっ!

「ねぇどぅー、人いっぱいいるよー!」

意気込む遥をよそに優樹は相変わらずマイペースだ
勢いで連れてきちゃったけどホントに大丈夫かなぁ…
モー商の校庭には日本全土から集まった少女たちが目をギラつかせ、ピリピリしたムードに包まれていた

『♪Wow Wow Wow 今光れ! 真剣に生きろ…』

突然しゃがれたおっさんの歌声が響き渡る
その声とともに現れたのは…

「ウォッホン!よく集まってくれたねアンタたち!私はモー商現総長・新垣里沙よっ!」

現総長自ら入学試験の舞台に顔を出すというまさかの事態に周囲はどよめいた
(ほ、本物だ…)(か、かっこいい…)
受験生も思わず声を漏らす

「静かにしなさいっ!アンタたちも知ってると思うけど前総長が卒業して今のモー商に絶対的なトップはいないわ
だからこの中にこれからのモー商を背負っていけるような、そんな奴がいることを本気で願ってるんだよ!」

うおおおおおおおおおおおお!!!!!
総長からの熱い言葉に受験生のボルテージが上がる

「静かにしなさいっ!!二回も言わせないっ!!ったく…これだから平成生まれは…
それじゃあ早速一次試験の内容を言うわよ!」

受験生たちの顔が引き締まる

「今アンタたちの胸についてるネームプレート、それを奪い合ってもらうわ
取られた人は即失格!何が何でも自分のプレートを守り抜きなさい
開始の合図は次のチャイム!終了は私が『やめ』と言うまで!わかった?」

「どーゆーこと?」
「だから相手のネームプレートを取ってアンタのネームプレートを誰にも取られないようにするの!それだけ!」
「なるほど~!じゃあ一緒に戦おう、どぅー!」
「それはダメ!これくらい一人で勝ち抜けないようならハルもアンタもモー商なんか入れっこないわ!ハルは絶対生き残るからアンタは自分の事だけ考えな!」
「え~…わかった。絶対だよ?」

遥と優樹は必ず勝ち抜くことを約束して一旦別れた
そして時計の針がテッペンを指す

キーンk…
うおおおおおおおおおおおお!!!!!
始まりの鐘が鳴り止まぬうちに受験生たちは雄叫びを上げた

「さぁ~て、何人残るかな?」

校庭ではモー商入りを狙う少女たちによって熱戦が繰り広げられていた

「うぉりゃああああああああ!!」

ハルだってエッグでやってきたプライドがあんのよっ!
こんなところで躓くワケにはいかないっ!
エッグの中ではお世辞にも強い方ではなかった遥だが、これまでに培ってきた経験と持ち前の度胸で他の受験生をはねのけていた

「ヤッホ~♪まーにもくれよ~!」

一方優樹は『相手のネームプレートを取る』『自分のネームプレートを守る』遥に言われたその二つの事だけを天性の素質で実行していた
“臥竜鳳雛”
優樹が途轍もない才能を秘めていることは誰も知らない…本人さえも…

(若いなぁ…私にもあったなぁ…こんな時が)

新垣は目の前の事にがむしゃらに立ち向かっていく後輩たちを見て昔を思い出していた…

モー商全盛期真っ只中…
創設以来モー商最強の名をほしいままにしていた、安倍なつみ 通称“なっち”
その安倍に入学早々勝利したモー商史上最強の女、後藤真希 通称“ゴマキ”
タレント揃いの当時のモー商をまとめ上げた第二代総長・飯田圭織など黄金時代と呼ぶに相応しいメンバーが在籍していた
そんな中入学したのが五鬼だった
五鬼にとって先輩たちはまさに雲の上の存在で天下を獲るなんて夢のまた夢に思えた
あれから時が経ち一番下だった五鬼が一番上になり、また新たな世代が入ってくる…
新陳代謝を繰り返しながらも核の部分は変わらない

(これぞモー商ね!…って思い出に浸ってる場合じゃなかった!)
「それまでっ!ネームプレートが残ってる者は私のとこに集まりなさい!」

一次試験終了の合図に、ネームプレートを奪われた受験生たちは悔しそうに校庭を去る
勝者の影には必ず敗者が存在する
しかし人生の中で一回勝ったら勝ちではないし、一回負けたから負けではない
モー商も元は負け組からのスタートだったが、そこから黄金時代を築き今再びその輝きを取り戻しつつあるのだ


「どぅーーー!!よかった~」
「あたりめーだろ!ってかまだ終わってないんだから気ぃ抜くなっ!」

勝ち残った中には遥と優樹の姿もあった

(8人かぁ…思いのほか減っちゃったわね…)
「まずは一次突破おめでとう。だけど喜んでる暇はないわよ
二次試験は…4対4のチーム戦よっ!」

チーム戦…!?

「モー商生たるもの、個人の力だけじゃなく時には団結力も必要よ
じゃあチーム分けするからこのBOX(ボンッボンッ)から紙引いて」

奪ったネームプレートの数を見ると石田と大上、この二人はなかなかやるみたいね…
それに比べてあの飯窪って子、一つも取ってないじゃない!
どうやって生き残ったのよ!?

「全員引いたわね。じゃあAチームはこっち、Bチームはあっちに集まって」

(いい感じにバラけたかな?)
「今から5分後に始めるからそれまで自己紹介なり作戦会議なりなんでもしちゃって頂戴」

「やった~!どぅーと一緒だ~!」
「はいはい。わかったから」

遥と優樹は幸運なことに同じAチームになった
冷たく返した遥だったが内心ホッとしていた

「アンタたちさっきから緊張感なさすぎでしょ」
「なっ!?ハルまで一緒にすんなよっ!このチビ!」
「はぁ!?どう見てもアンタの方がちっちゃいでしょーが!」

遥たちにつっかかってきた小柄な女、彼女が石田亜佑美だ
一次試験では自慢のスピードで他の受験生を圧倒した
以前は東北を拠点に活動する「ドロシー」というチームに所属していた注目株である

「ほら!ハルの方がおっきいじゃん!」
「ちょっと!背伸びしてんじゃないわよ!」
「二人とも!喧嘩はやめましょ。そんなことしてる場合じゃないでしょ?」

遥と石田の意地の張り合いに細身の女が仲裁に入る
彼女の名前は飯窪春菜
喧嘩に関しては全くの素人だが、外交力と知力を活かしチーム「ラブベリー」を動かしていた

「向こうのチームに勝つために作戦を考えましょ」
「作戦なんていらねーよ!ハルが全員倒してみせる!」
「アンタ、デカい事言うわりにはあんまり強そうに見えないけどねw」
「んだと~!なんならココでやってやろーか!?」
「喧嘩しないっ!!私から提案なんだけどペアを組むのはどう?相手の強さもわからないし一人で戦うよりはリスクは減ると思うんだけど…
そっちの二人は仲いいみたいだしね」
「いえ~い!どぅーガンバろーね!」
「じゃあ私は石田さんと組むわ」
「負けたら承知しないよ?」
「ふんっ!それはハルのセリフ!」

5分が経過し校庭の中央に2チームが集まる

「それじゃ準備はいい?いくわよ?『はじめっ!!』」

新垣の号令とともにAチームは二手に分かれ、それに追従するようにBチームも二分される

校庭北側、飯窪・石田が対するのは田中・三輪の二人だ
一瞬石田と田中の目が合ったがお互いすぐさま視線を外す

「石田さん、ちょっといい?」

飯窪が石田に耳打ちをする

「実は私さっきの試験でケガしちゃって今満足に動けないの…」
「え!?ウソでしょ!?」
「それで石田さんなら何人相手でも勝てる!と思ってペア組もうって言ったの
ごめんなさい。でもこんなこと頼めるのあなたしかいなかったから…」

二次試験がチーム戦と聞いた時心の中でガッツポーズが出た
タイマン勝負では勝ち目がないことを自分が一番知っている
チームの一番強そうな人に付けば戦わずに済むかもしれない…そう考えて飯窪は二人で戦うことを提案したのだった

「…わかった。あの二人は私が何とかするからアンタはここで見てなさい
ま、“見えない”と思うけど」

その言葉を残して石田は視界から姿を消した
え…?
突然の出来事に敵二人も身構える

「どこやっ!?」
「ここよ」

ババババババババババッ
三輪の懐に入り込んだ石田がラッシュを浴びせる

「うぉりゃああああ!!」

それを見た田中が石田目掛けて蹴りを放つ
…がまたしても石田が消える
虚空を切った蹴りは追い討ちをかけるように味方の三輪にクリーンヒットする

「ごめんね…ぷっか」

トンッ
田中の背後に回った石田はそう小さく呟いて首筋に手刀を入れた
どさっ
その間わずか数秒、電光石火の早業で敵は地に伏した

「さすが石田さん!私にできない事を平然とやってのけるッ
そこにシビれる!あこがれるゥ!」

自分の描いたシナリオ通り、否それ以上の結果に飯窪の褒め芸が炸裂する
飯窪の十八番“褒め殺し”
たとえ初対面の相手だろうと瞬時に良いところを見つけ出し、幾千の言葉で褒めちぎる
こうして数々の組織を渡り歩き人脈を広げてきた

「ふぅ…飯窪さんだっけ?あっちの二人手伝いに…げふぅ!」
「こんなんで勝った気になってんじゃねぇよ!!」

飯窪の喜びも束の間、田中が立ち上がり石田に蹴りを喰らわす

「三輪さんっっ!!アンタもまだ立てるでしょ!?
こっちは私が相手するからあっちの細い子はアンタがなんとかしてっ!!」
「うぅ…き、気合いやっ!!」
「ひぃぃ!」

彼女たちもまたここまで勝ち残った実力者
そうやすやすとモー商入りの座を明け渡すほどヤワではない

「あのちっちゃい子…確かエッグにいたような…」
「エッグってあの!?」
「ええ。まずくっついてるあの二人を離しましょう
ちっちゃい方は私が。ヘラヘラしてる方は村上さん、あなたに任せるわ」

校庭南側では大上と村上がそれぞれの担当を決めていた
遥と優樹は…

「どぅー、どーする?まーは何すればいい?」
「あーもーくっつくなっての!ハルが動けないでしょ!…ってうおおおお!」

先手を取ったのは大上
長いリーチを活かした踵落としは二人の体を掠めただけだったが、二人を分断することには成功する
『そっちは頼むよ』大上からのアイコンタクトを受け取り、頷いた村上は佐藤を引き離すべく攻撃を仕掛ける

「あっぶねー。不意討ちとはフェアじゃないねぇ」
「あなた達がじゃれてただけでしょ?」
「じゃれてねーよ!アイツが一方的に来たんだよ!ま、これでのびのびやれるからいいけどさっ」
「あなた、エッグにいた子よね?」
「おっ!よく知ってんじゃん!私が“エッグの狂犬”工藤遥よっ!!」

 

ヒュン、ヒュン…ガシィ!
受けてるだけじゃダメだ…でも、どうしたらいいの…?
石田の頭の中は複雑な思いで埋め尽くされていた

「どうして…?どうして打ってこないのよ!」

石田が攻め気になれないのには理由があった
数時間前…

ジリリリリリ…
始発のベルがホームに鳴り響く

「「それじゃいってきます!!」」
「「「「二人とも頑張れよ!!」」」」

仙台駅には二人を見送りにドロシーのメンバーが駆けつけていた

「ドアが閉まります。ご注意ください」

空いてる席を見つけ隣り合って座る二人
窓の向こうでは仲間達が手を振るが、その風景もやがて見えなくなった

「二人で合格できるといいね、あゆみん」
「うん。お互い全力で頑張ろうね、ぷっか」

二人の手には東京行の片道切符が握りしめられていた…

同じ夢を抱いて上京した戦友
自分が勝ってしまえば友の夢は潰える
かと言って自分の夢を諦めたくはない
そのジレンマが石田の動きを鈍らせていた

バシィィ!!
今度はモロにミドルを受ける

「いつまでそうやってるつもり!?お互い全力でやるんじゃなかったの!?
アンタが全力出さずに勝つんならそれでもいいわ。でも全力出さずに負けたら絶対に許さないからっ!!」

友からの檄に石田がハッと目を覚ます
敵として当たる可能性もあるのはわかっていたことだ
そうなった時、手加減して相手を勝たせて何の意味があるだろうか
そんなんで勝っても嬉しくないし、負けた方もきっと後悔するだろう
『仲間だからこそ全力でぶつかろう』石田の頭から迷いは消え去った
バシンッ
両手で自分の頬を叩く

「本気で行くよ、ぷっか!」

ギアを一つ上げた石田のスピードはもはや常人の肉眼では捉えられない
地面を蹴る際に舞い上がる砂塵だけがその速さを物語っている

「うぐっ…ごふっ、がはっ!」

四方八方からの攻撃に田中は為す術もない
反撃に出ようと懸命に反応するが、ボールがキャッチャーミットに入ってからバットを振るかのように攻撃は空振りする
トドメの一撃…その拳は田中の顔の前で寸止めされた

「ハァ…ハァ…やっぱり本気のあゆみんは強いなぁ…」
「ぷっか…ありがとう。ぷっかが言ってくれなかったら私…」
「いいの。全力出して負けたんだから悔いはないわ
私の夢、あゆみんに託すね。あゆみん、モー商に入ってね。絶対だよ?」

そう言うと田中は石田に凭れるようにして倒れた


「あっ!UFO!」
「あるワケないやろ!待てやコラ!…ハァ…ハァ」
「はぅぅぅ!」

ちょっと待った!確かに今のは嘘だけどUFOはホントにありますからっ!
飯窪はひたすら逃げ回りながら闘わずして勝つ方法を模索していた
しかし今は頼れる人もいないし、話し合いで解決できる状況でもない…
今できることは逃げながら時間を稼ぐ、それだけだった

「ええ加減にしぃや!…ハァ…ハァ
ここに何しに来たんやジブン!闘う気ぃないんやったら帰れや!」

ピクッ
飯窪の右眉が動く
何しに…?モー商に入るために決まってるでしょ!!
今までいろんな組織にお世話になったけど先の見えない不安で押しつぶされそうだった…
だからモー商に入って、もっとBIGになってやるのよ!!
飯窪は足を止めて振り返った

「ハァ…ハァ…やっとやる気になったんか」
「そこまで言われて黙ってられるほどいい子じゃないわよっ!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァー!!!」

気分は空条承太郎…だがその攻撃はパンチと呼ぶにはあまりにもお粗末
やたらめったら両腕をグルグル回しているだけに見えたが、強く握った拳には飯窪の決死の覚悟が籠もっていた

「君にッ 勝つまで 殴るのをやめないッ!」

飯窪のへなちょこパンチによるダメージはほぼ0
しかし、石田の猛攻に加え田中の蹴りを受けた三輪は立っているのもやっとの状態だった
飯窪が攻め始めてから程なくして彼女は力尽きた

「オラオラオラァ…ってあれ?いつの間にか倒れてる!」

念のため三輪のほっぺをツンツンして起き上がらないことを確認する
サッと立ち上がり決め台詞を吐く

「てめーの敗因は…たったひとつだぜ…たったひとつの単純な答えだ…『てめーは私を怒らせた』!!」


「セイヤァー!!」
「ぐぼぁぁ!!」

つ、強ぇ…
大上の正拳突きで遥の体は後方に吹っ飛んだ
一方的な展開…遥が立ち上がっては打ちのめされ、また立ち上がっては打ちのめされる
しかしそれも時間の問題…遥の限界はすぐそこまで来ていた

「ふぅ…“エッグの狂犬”とか言うからどんなヤツかと思ったら、とんだチワワね」

大上には空手の心得があった
構え・突き・蹴り・受け、どれをとっても遥の数段上
一対一の格闘においては大上が一枚も二枚も上手だった

「誰がチワワだ…ハルはまだやれるぜ…」
「さっきからそればっかり…もういいよ。次で終わりにしよ」

頭がガンガンする…吐き気がするし足もふらつく…でも負けらんないっ!
ここで負けたらエッグのみんなに、竹内さんに、そして優樹に合わせる顔がない!
仲間との約束を守るため、気合いと根性だけが今の遥を突き動かしていた

「ハァッッッ!!」

掛け声とともに放たれた上段の蹴りを遥は紙一重でかわす

「おりゃああああああああああ!!!」

そして全身全霊を込めた右拳をまっすぐ突き出した

バキィィィ!!!

会心の一撃
遥のありったけをぶつけた右ストレートは大上の左頬に突き刺さった
倒れろ…倒れてくれ…
全ての力を使い果たした遥はその場に両膝をついて、よろめく敵を見つめていた

「…ごほっごほっ!…なかなかいいパンチ持ってるじゃない
でももう動く力は残ってないみたいね。私の勝ちよ」

大上は遥の全力の一発を喰らいながらもなんとか持ち堪え、トドメを刺すべくゆっくりと近づいてくる
クソッ!動け、動け!動いてよっ!
遥が必死に身体を動かそうとするが手も足も言うことを聞いてくれない
嘘だろ…このままやられるしかないのかよ…

「・・・・・・・-ック!!」

崩れゆく意識の中で遥の目に飛んでくる黒い影が映った
ばたっ
前のめりになって倒れた遥を闘いの終わりを告げる春風が撫ぜた
 


 コンコンッ

「はーい」

ガチャッ
「お見舞いに来たよ~」
「あっ!ありがとうございますぅ~。すみません、私なんかのために」
「いいのいいの。かわいい後輩の為ならいつでも来るよ」
「さっすが次期総長!」
「でしょ~?もっと褒めて♪」

波浪区内のとある病院の321号室
モーニング商業のロッキーズ・道重さゆみはそこに入院する患者のお見舞いに来ていた

「どう?体の調子は?」
「おかげさまでだいぶ良くなりました。もうちょっとで退院できるみたいです!」
「ホントに?よかった~、これで新学期に間に合いそうね」
「…。道重さん、実はお話が…」

ん…
ゆっくりと目を開けるとそこには白い天井が広がっていた

「痛゛ッ!」

起き上がろうとしたが全身に痛みが奔る

「目、覚めたみたいね」

右の壁に寄り掛かった石田が真っ先に気付く

「…ここは?」
「モー商の保健室よ」

飯窪が左側の椅子に腰かけながら答える
そうだ…ハルはアイツにやられて…

「どぅーーーーー!!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!」

正面から勢いよく飛びついて来たのは無論、優樹だ

「殺す気かっ!」
「よかった!いつものどぅーだ!」

アンタもいつも通りね…まぁ少し安心したわ
ってかボロボロなってんのハルだけ?

ハッ!
「試験は…?試験はどーなったんだよ!?」

ガラガラッ
「おっ!やっと起きたか」

タイミング良く保健室の戸が開いて新垣が入ってきた

「試験はどうなったんスカ?」
「今から話すから。ケガ人はおとなしくしてなさい」

あーもーどーなったんだよ!

「とりあえず二次試験ご苦労さま。結果的にはAチームの勝ちよ
急造チームの割にはなかなか面白かったわ」

っしゃあああ!!
ん?でも誰がアイツを…

「で、これからこの4人で最終試験に移ろうと思うんだけど…工藤アンタ動ける?」
「も、モチロン動けますよ!こんなのケガのうちに入んないッスから!」

ズキーン!!
ぐっ…でもさっきよりは動ける!ここまで来たらとことんやってやらぁ!
痛む身体にムチを打って遥は精一杯強がってみせた

「フフッ。ならよかった。でもその前にここで発表があるわ」

発表?なんだろ?

「飯窪春菜!」
「えっ?」
「『えっ?』じゃないでしょ。返事は?」
「は、はい」
「石田亜佑美!」
「ハイッ!」
「佐藤優樹!」
「ハ~イ♪ハイハイハーイ!」
「返事は一回!…工藤遥!」
「…はい!」

新垣が目を見つめながらそれぞれの名前を呼ぶ
一体何が始まるのか、優樹を除く3人の鼓動が少し速まる

「以上4名。…全員合格!」

えっ?
突然の合格発表に3人はただただ唖然としている

「やったーーーーー!!」
「コラッ!佐藤!まだ話終わってない!…正直、個人個人で見たらまだまだ力不足。特に飯窪と工藤はもっと鍛えないとこの先大変よ」

ぐぬぬ…このざまじゃ言い返せない…

「だけど4人共それぞれいいものを持ってる。これから4人で切磋琢磨していけばきっとモー商にとって大きな武器になる、そう信じてるわ」

「最後に一つ。今日からアンタ達はライバルでもあり、仲間でもあるわ。特に同期は大切にしなきゃダメだよ
私からは以上。ここがゴールじゃないからね!まぁ一生懸命頑張んなさい!」
「「「「ハイ!!頑張ります、先輩!!」」」」

ガラガラ…ピシャッ
はぁ…あとは卒業を待つのみか…
ホントにあの子たちで大丈夫かしら?
飯窪ならガツガツした2人とハチャメチャなあの子、まとめてくれるでしょ。口は達者そうだし
石田はあの中では頭一つ抜けてたね。鞘師もいい刺激になるかな?
佐藤は…賭けね。ま、同期に3人もいれば小春みたいにはならないと思うけど…
そして、工藤。弱い犬ほどよく吠えるなんて言うけど私はああいうバカは嫌いじゃないよ。あの子の牙がどこまで届くか…楽しみね
これでモー商再建の下準備は整った…さゆみん!頼んだよ!
あとはアイツが帰ってこれるかどうか…

「…ってことなんです」
「でもさっきもうすぐ退院できるって…」
「日常生活は問題ないんです。ただモー商でやってくのはもう無理みたいです…」

天鬼のサプライズ発表とほぼ同時刻、先ほどの病室に入院している光井愛佳の口から凶報が告げられた
思えばあの事件から入退院の繰り返し…ある時は松葉杖を突いて、またある時は車いすを押して学校に来ていた光井だったがその心身にかかる負担は相当なものだった

「これからって時に…ホンマすみません」
「愛佳が謝ることないよ」
「新垣さんと田中さんにも『すみません』て伝えといてください」
「…」

なんで愛佳が謝るの…?一番つらいのは自分自身のはずなのに…
志半ばで苦渋の決断をせざるを得なかったにもかかわらず、涙一滴流さず先輩を気遣う後輩を見て道重は言葉を詰まらせた

バァン!
「「「「光井さん!!」」」」

静まり返った病室に血相を変えて飛び込んできたのは“九鬼組”譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音の4人だ

「アンタらここ病院やで!?静かにしぃや!」
「す、すみません。でも光井さん…自主退学ってホントですか?」
「…ホンマやで。口うるさい先輩がいなくなってせいせいするやろ?」
「そんなことないです!いつも怒らせてばっかですみませんでした…」
「…ウチの方こそなんもできんくてゴメンな」
「いや、今の九鬼があるのは光井さんのおかげです。ホントにありがとうございます!」
「ありがとな。アンタらももうすぐ後輩入ってくるんやからしっかりせなアカンで?
あと道重さんと田中さんに迷惑掛けんよーにな」

またそうやって後輩の為、先輩の為…ここはひとつ言っておかないとね

「愛佳、もう気ぃ遣わなくていいんだよ。今までモー商の為に頑張ってきたんだからこれからは愛佳自身のこと大切にしなさい
先輩らしいことなんて何一つできなかったけどモー商やめても愛佳はさゆみの後輩なんだからたまには顔見せに来てね」
「道重さん…ありがとうございます」

光井の笑顔を一筋の涙が伝った

一方その頃、新垣がいなくなったモー商の保健室では天鬼試験の合格者たちがその喜びを少しずつ実感し始めていた
飯窪は口に手を当てて嬉し泣きをしている…苦節十余年ようやく掴んだ大きなチャンスに彼女の涙腺は崩壊した
石田は電話越しに誰かと話している…

『おめでとう、あゆみん。東京でひとりでたいへんだけど頑張ってね』
『…うん』

そんな二人をよそに、一人浮かない顔をしている者がいた…

ハル達が勝ったのはいいけどさ、誰がアイツを倒したんだよ!
そもそもいくらハルでも完全無防備でアイツの一撃喰らってたらこんなにピンピンしてられないはず…
ってことはアイツがトドメを刺す前に誰かがアイツをやった…?
遥は自分が気を失う直前のおぼろげな記憶を引っ張り出した

―クソッ!動け、動け!動いてよっ!
遥が必死に身体を動かそうとするが手も足も言うことを聞いてくれない
嘘だろ…このままやられるしかないのかよ…

「マサキーーーーーック!!」

赤ん坊みたいな金切声とともに突如として現れた黒い影
特撮ヒーローを想起させる飛び蹴りは一閃、大上の顔面にヒットした
自分よりも少し大きな大上の体を吹っ飛ばしフワリと着地してみせた

「どぅー!だいじょぶ?」

ばたっ
優樹の問いかけに答えること無く、遥は前のめりになって倒れた―

そうだ、優樹だ…またコイツに助けられたのね…
竹内との一件に続き今回も窮地に立たされた遥を救った優樹
認めたくねーけどコイツがいなかったら…

「おい、優樹」
「ん?まーちゃんでいいよ?」
「あの、その…あ、ありがとな」

余程言い慣れてないのか、遥の口から出た言葉はカタコトになった

「いいよ、お礼なんて。友達でしょ?」

『友達でしょ?』その言葉に遥は目を丸くする
ちっちゃな時から喧嘩に明け暮れる毎日、エッグのみんなは勿論大事な仲間だけどダチと呼べる、呼んでくる奴はいなかった
なのにコイツは出逢ってまだ数ヶ月だってのに、お互いの事も大して知らないのにハルの事をダチだって…
ホントなんなんだよ!

「どぅー?泣いてるの?」

えっ?んなワケ…
そっと頬に手を添えると小さな掌に雫が落ちた

「バッ、バカ!傷が痛ぇんだよ!」

大上に勝てなかった悔しさ、モー商に合格った嬉しさ、そして何より生まれて初めて『友達』と呼ばれたこの胸の温かさ
溢れ出るその感情は止めどなく零れた

「あー痛ぇ…糞痛ぇ…」

“天邪鬼”で喧嘩っ早い遥
“無邪気”で天真爛漫な優樹
そんな二人が“天鬼組”としてモー商に合格した

これが偶然なのか、はたまた神様のキマグレなのか…
答えはわからないがこの出会いが二人の運命を変えた

去る新垣、光井。そして新たに道重が第八代総長に就任し、天鬼組を迎える
この4人の加入がのちにモー商内外を巻き込む大騒動を起こすことになるとはこの時誰も知る由はなかった…