クロスオーバー・モンスター闘技場wiki リレー小説企画
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クロスオーバー・モンスター闘技場wiki リレー小説企画
ja
2023-06-15T21:23:54+09:00
1686831834
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メニュー
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**本編
-[[本編SS目次(投下順)]]
-[[本編SS目次(時系列順)]]
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**設定/ルール
-[[参加者名簿]]
-[[ルール]]
-[[会場地図]](&[[現在位置表>http://www48.atpages.jp/chizu/#/Views/RowaListPage.xaml]])
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**資料
-[[支給品一覧]]
-[[死亡者リスト]]
-[[書き手紹介]]
-[[SSタイトル解説]]
-[[支援絵]]
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**リンク
-[[現行スレ>http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1387321766/]]
-[[前スレ>http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1367069325/]]
-[[俺ロワ・トキワ荘>http://jbbs.shitaraba.net/otaku/12648/]]
-[[2chパロロワ辞典@wiki>http://www11.atwiki.jp/row/]]
//**更新履歴
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2023-06-15T21:23:54+09:00
1686831834
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書き手紹介
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/26.html
|トリップ|合計話数|作品番号|
|[[◆3g7ttdMh3Q]]|37|08、11、13、14、20、22、24、30、31、32、33、35、37、38、40、42、43、46、47、49、51、56、58、59、63、68、70、72、77、80、81、82、83、84、90、91、92|
|[[◆/wOAw.sZ6U]]|13|05、12、29、36、48、52、55、61、64、71、74、86、88|
|[[◆5omSWLaE/2]]|12|00、01、18、34、44、50、65、67、73、79、87、94|
|[[◆TAEv0TJMEI]]|11|45、54、57、62、66、78、85、89、93、95、96|
|[[◆Z9iNYeY9a2]]|3|17、28、41|
|[[◆BotyFm3mMY]]|3|09、26、76|
|[[◆7NiTLrWgSs]]|3|25、53、69|
|[[◆6XQgLQ9rNg]]|2|06、21|
|[[◆193R5b5IKU]]|2|04、39|
|[[◆7Ju4MZPjio]]|2|60、75|
|[[◆GOn9rNo1ts]]|1|02|
|[[◆n4C8df9rq6]]|1|03|
|[[◆9eFMlaiqFQ]]|1|07|
|[[◆j1Wv59wPk2]]|1|10|
|[[◆1eZNmJGbgM]]|1|15|
|[[◆uBeWzhDvqI]]|1|16|
|[[◆2VuKLsNfm.]]|1|19|
|[[◆9n1Os0Si9I]]|1|23|
|[[◆Bu4r51EP82]]|1|27|
||||
2017-11-19T00:36:46+09:00
1511019406
-
◆TAEv0TJMEI
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/140.html
*◆TAEv0TJMEI
**投下作品
|45|[[そんなことよりきのみが食べたい]]|
|54|[[言葉も想いも拳に乗せて]]|
|57|[[我ハココニ在リ]]|
|62|[[勝者なき戦い]]|
|66|[[~チカラ~]]|
|78|[[君のとなり]]|
|85|[[レナモンの唄 ~Memories Off~]]|
|89|[[ブルーディスティニー]]|
|93|[[クロス・ソングス]]|
|95|[[描き出す未来図]]|
|96|[[手をつなごう]]|
**作品に寄せられた感想
#comment
2017-11-19T00:36:11+09:00
1511019371
-
トップページ
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/1.html
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様々なゲームに登場するモンスターたちを戦わせよう、というリレー小説企画です。
&color(red){本編には殺人をはじめとした暴力シーン、グロテスクな表現が含まれています。苦手な方はご注意ください。}
[[メニュー]]
[[モンスター闘技場チャット入口>http://cmbrcha.chatx.whocares.jp/]]
**2015年07月29日 完結!
***2017年11月19日 「また、会えたね」グレイシアのエピローグ【[[手をつなごう]]】を投稿しました。
お楽しみいただければ幸いです ◆TAEv0TJMEI
#endregion
2017-11-19T00:25:26+09:00
1511018726
-
手をつなごう
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/210.html
あれから、数年の月日が流れました。
人間たちの手で開かれたモンスターたちによる殺し合い。
悲鳴や、怒号や、魂の咆哮に彩られていた喧騒の日々も今は昔。
私は――グレイシアは。
あの日願ったように、争いのない人里から遠く離れた場所で静かに生きています。
クロスオーバー・モンスター闘技場
~epilogue~
ここ数年ですっかりと慣れ親しんだ潮風が頬を撫でる中、荷造りを終えた私は最後にお世話になった場所を目に焼き付けていました。
人ひとりいない最果ての孤島。
長い永い放浪の旅の末に私がここへ辿り着いたのはきっと偶然ではなかったのでしょう。
だってこの島には“彼女”がいますから。
私は島を後にする前に彼女へと挨拶をしに行きました。
「お世話になりました、ミュウ」
ふわふわと浮きながら大自然と戯れていた彼女は、私に気付くとくるりと宙を舞うように移動してこちらへと向かってきます。
彼女……幻のポケモンであるミュウには本来性別がありません。
それでも私がミュウのことを彼女と呼ぶのは、他ならぬミュウ自身がこう言ったからです。
『ボクはね、お母さんなんだよ』と。
その真意は今でもグレイシアには分からない。
彼女が人間たちに噂されているように、私たちのご先祖だからか、或いはそれ以外の意味があるのか。
ただ、誰よりも自由なはずのポケモンは、私という来訪者を全てを知っているかのように優しく迎え入れてくれました。
『そっか、もう帰っちゃうんだね。寂しくなるね』
こつん、と、私の額に自らの額を当てたミュウが念話で喋りかけてきます。
彼女ほどの存在なら特に肉体的な接触もなく念を飛ばせるのでしょうが。
どうも、本人の言う通り、ずっと一匹で過ごしてきた寂しさからか、触れ合うことを好んでいるようです。
「はい。多分、そろそろだと思いますので」
そんな寂しがりな彼女を一人置いていくことに気が引けないわけではありません。
私の一生において、二番目に長い時を共に過ごした彼女。
勝手気ままにふらふらと旅に出て、でも、帰ってくる度にお土産を持ってきてくれて私に抱きついてくる彼女。
このままこの地で静かに余生を送り、彼女とともに骨を埋めるのもきっと悪くはないのでしょう。
……けれど。
またいつか、と約束しました。
その約束を私は叶えに行きたいのです。
『……うん、分かってるよ。ボクは大丈夫』
「ありがとうございます、ミュウ。
あなたとの日々は穏やかで楽しいものでした。
……ミュウはこれからもこの島で?」
置いていく身でありながら、私はミュウの今後が気にかかり、これからのことを訪ねます。
すると彼女は私からおでこを離すと、小さな手で腕組みらしきポーズをしてうんうん唸ったあとに、照れたように笑って答えてくれました。
『そうだね、ボクは待つよ。
ボクと遊んでくれる誰かがまた現れる日を。
キミが今から会いに行く人のような、ボクにとってのたった一人を』
その答えは“希望”でした。
恐らくは誰よりも人間の醜さを知っているポケモンの彼女が、それでいて尚“いつか”を求める。
叶う日が来て欲しいと私は心の底から願いました。
「会えると、いいですね。あなたの帰りたい場所になってくれる、そんな人と」
そうして私は慣れ親しんだ島から一歩を踏み出しました。
波乗りは使えぬ身なれど、それなら海を凍らせて歩けばよいまでのこと。
海一面を凍らせるなんて芸当は私にはできませんが、歩みに合わせて足場を作るくらいならお手の物です。
「それでは、お元気で」
『……キミも、よい旅を』
最後に、一度だけ振り返って別れを交わし、私は島を後にしました。
振り向きはしませんでしたが、きっと、ミュウは私が見えなくなるまで見守ってくれていたんだと思います。
だって彼女は、お母さんなのだから――。
▽
水の上を歩けるとは言え、私の歩みは決して早くはなく。
野生のポケモンとの戦いを避けたり、捕まえようとしてくる人間から逃げるために何度も迂回したこともあり、陸地へと辿り着くだけでも一苦労でした。
勿論、出逢ったのは敵対的なポケモンや人間たちばかりではなく。
時に友好的なポケモンや人間たちと楽しい時間を過ごすこともありました。
ええ、ええ。それはもう素敵なひとときで。土産話が沢山、沢山増えました。
そうそう、土産話と言えば。
旅の最中不思議な出来事がありました。
……それは海を歩いて数週間経った日のこと。
疲れてきたため、いつものようにどこか休める浮島や孤島がないかと探していた時のこと。
ちょうどよさげな島を見つけた私は早速上陸してみたのですが、そこには“予想外の物”がありました。
“予想外の物”――それは宙に浮かぶ不思議な輪っかでした。
「なんなのでしょうか、これは?」
正直、興味が湧かなかったと言えば嘘になります。
私はコンテストやポケスロン用のポケモンではありませんでしたが。
こう本能的にというか、輪っかとはくぐってみたくなるものなのです。
ただ……黄金のリングの中心――本来空洞があるべき場所は穴の代わりに何かが渦巻いていました。
流石にそんな何だかよく分からない物に顔を突っ込むような軽はずみなことはしませんでした。
それでも何故だか目を離すことはできなくて。
すると渦巻いていたはずの穴は、いつしか凪いで水鏡のようになりました。
目を見開いた私でしたが、驚くのはそこからでした。
黄金の水鏡は幾つものここではないどこかの誰かを映し出していきました。
例えばそれはいかにもお金にがめつそうな女の人だったり。
闘技場を盛り上げる男の人だったり。
爆心地で俺達の勝ちだと言わんばかりに拳を突き上げる漢だったり。
星の海を泳ぐ巨大な龍の姿だったり。
色んな人が、いろんな景色が、映し出されては切り替わっていきました。
中でも私の印象に強く残っているシーンがあります。
一つはある小さなログハウスの光景でした。
中では一人の人間がせっせと料理をしていました。
スポンジを焼いてクリームを載せ、果物で飾って。
そこまで見れば何を作っているのかは一目瞭然。
それはケーキ作りでした。
きっと大切な誰かを祝うためのものでしょう。
だってそこには人間には意味が無いはずの、黄金の輝きがトッピングされていたのですから。
人間がケーキの仕上げに溶けたチョコで文字を刻むのに合わせて、私も祝いの言葉を捧げました。
誕生日、おめでとう、と。
もう一つは打って変わって戦いの一場面でした。
胸から人間の首を生やした超巨大なモンスター。
いかにも邪悪なそのモンスターは暴れ回り街を火の海に変えていました。
トラウマを刺激するその光景に、思わず目を逸らしかけましたが、しかしふと気付いたのです。
炎に撒かれているはずの街の人々は絶望に沈んではいませんでした。
何故なら巨悪に抗うように、何体もの“人型”のモンスターが立ち上がったからです。
特にその中の一体。
美しい髪を靡かせ、巫女の装束を纏ったモンスターは人々の祈りや声援を一心に受けていました。
その背に、多くの子どもたち守っていたから。
人の子を、モンスターの幼体も守っていたから。
なら。そのモンスターが負けるはずがありません。
ご武運を。私はただ一言祈りを捧げました。
応えるように巫女は黄金の戦士へと姿を変え、そして……。
…………。
………。
……。
…。
気づけば不思議な輪っかは無くなっていました。
まるで初めから存在していなかったように消え去っていました。
私は幻でも見ていたのでしょうか?
なんて考える方が無理がありますよね。
正直私には理解できない光景も沢山ありましたが。
見たもの全てに意味があるのだと信じることができました。
「ありがとうございました」
いつかを、どこかを、誰かを見せてくださった姿なき存在にお礼を言って、また旅を続けました。
▽
そして、私は……。
今、懐かしい場所で、懐かしいポケモンと再会しました。
「久しぶりだな」
まるで私がここに来ることが分かっていたかのように、彼は夕焼けを背に落ち着いた様子で声をかけてきました。
対する私はまさかの再会に心臓が止まりそうなほどびっくりしました。
「貴方は……お久しぶりです。ですが何故ここに」
小さな町の小さなポケモンセンターの壁にもたれかかっている小さな彼。
その服装から一見人間のように見える彼は、間違いなくポケモンで。
しかも今や準伝説として語られている程の有名人ならぬ有名ポケモンで。
何よりも私にとっては大切な戦友で。
そんな彼と、今、この場所で再開するとは思ってもいませんでした。
「何、この町までの護衛を頼まれてな。
護衛対象を送り届けた後しばらく滞在させてもらっていたまでだ」
こうして話している間にも、通り過ぎていくポケモンや人間たちが彼に軽く会釈をしたり、挨拶をしていきます。
彼は彼で無言ながらも無視すること無く、頷き返していました。
どうやらすっかり顔なじみのようです。
「そうですか。そんな偶然もあるのですね」
「……偶然、か。或いは俺は導かれたのかもしれないな」
「? どういうことですか?」
「すぐに分かるさ」
そう言って彼は笑いました。
モリーと戦っていた時の鬼気迫る形相とは違う、穏やかな笑み。
かつて、戦いの後に私たちと語らった時と同じように彼は静かに笑って。
「行くんだろ? 俺ももう行く。だからお別れだ。仲間に会えて、嬉しかった」
私に、別れを告げました。
その言葉に込められた響きに。万感の想いに。
私は全てを察しました。
どうしてだかは分かりませんが。彼はなんのために私がここに来たのか知っているのだと。
私に会うために待っていてくれたのだと。
「私もです。会えて、嬉しかったです。……またいつか」
だから私も、別れを告げる彼に、敢えて次を望む言葉を口にしました。
そのいつかが彼には来ないかもしれないことも知っています。
でも、彼ともまた会いたいという思いのままに私は願ったのです。
「……ああ。俺にいつかが来るのかは分からない。お前たちと同じ場所に行けるのかも分からない。けれど」
彼は空を見上げました。
赤い赤い夕暮れに照らされた空には幾つもの星々が顔を出していて。
「もし、もしもまたお前たちと出会えたならその時は」
私たちを見守ってくれているようで。
「同じ夢の話をしよう」
そんな星々に微笑むように、彼はそう言ってくれました。
人間を憎んでいた彼が。帰る場所を探し続けていた彼が。
人間を想い続け、今、この場所に帰ってきた私に。
「はい。その時を楽しみにしていますね」
ならきっと、彼はもう大丈夫。
彼は夢見た世界をなくさない。
そんな世界を彼の仲間たちだって待っているから。
私も笑みを返して、次の冒険に旅立つ彼を見送りました。
その小さな背に町のポケモンたちや人間たちも手を振り、別れを惜しんでいました。
▽
旧友との別れを終えた足で、私はもう一つの再会へと向かいました。
今や一児の母となったかつての少女は私のことを暖かく迎えてくれました。
彼女から大切な人を奪っておきながら、何も償わずに一人勝手に姿を消したというのに。
美しく成長した少女は、私の顔を見るや涙を流しながら抱きしめてくれました。
心配したんだからね、と、懐かしいあの日々のように、私は叱られてしまいました。
少女の腕の温もりと頬を濡らす涙に、もう少しだけこのままでいたいと思ってしまいましたが、残念ながら残された時間はあと僅かで。
私は少女の頬に前足を伸ばし涙を拭うと、ぴょんっとその腕の中から降り立ちました。
あ……と手を伸ばしかける少女でしたが、大人になった彼女は――昔から私たちよりもよほど大人だった少女は、私を困らせまいと腕を下ろしました。
そして彼女は、私が何かを言うまでもなく、これを取りに来たんだよね、と“それ”を差し出してくれました。
“それ”は私の忘れ物でした。彼女の元を去った時に置いていった家族の証でした。
一目見ただけで分かります。
中身のない“それ”を、無用の長物だったはずのものを、彼女がどれだけ大切にとっていてくれたのかを。
綺麗に磨かれた“それ”に手を伸ばし、私は彼女に頭を下げました。
“それ”が残っていた以上、彼女は無理やり私をここに留めることだってできたのです。
でも、彼女はそうすることなく、“それ”を私に託して、行ってらっしゃいと送り出してくれました。
もう、最後まで勝手なんだから。本当に、誰に似たんだか。
泣きながらに笑う少女に、今度はちゃんと行ってきますと告げて、私は出かけました。
外はもうすっかり夜で、星々は一層輝いていて。
傍らでよく聞いた歌をふと思い出し、口ずさみながら、重い足を引きずって、その場所へと辿り着きました。
私の旅の始まりであり、終わり。
町を見下ろす丘の上に建てられた小さな墓標。
私が愛し、私を愛してくれた人が眠る場所。
……。いいえ。あの人だけでは、ありませんでした。
そこには、“みんな”がいました。
「みんな気持ちは同じだったのですね。
私だけじゃない、私たちの帰る場所はアナタだった」
小さな墓標に供えられた幾つもの花と共に並ぶ、五つの墓標。
私が手にしている“それ”と同じ、モンスターボール。
それら色とりどりのボールの組み合わせを忘れるはずがありません。
私と肩を並べ、笑い合い、共にトレーナーのために戦ったポケモンたち。
彼を愛し、彼に愛された同胞たちのものに他なりませんでした。
「薄情ですね、私は。自分のことばかりで。あの後みなさんがどうしていたかなんて考えたこともありませんでした」
勇者や少女が全てを理解していたのは何ということはない、既に先達がいたからだと得心がいきました。
あの悲劇から散り散りになった六匹。
去った者も、残り少女を庇護していた者も、帰る場所をここだと定め、護衛を頼んでまでみんな戻ってきていたのです。
「全く、エースが一番最後だなんて、みなさんに笑われてしまいますね。
いいえ、それとも、お前は切り札なんだからそれでいいんだよといつものように言ってもらえるのでしょうか」
どうやら自分は思っていた以上にのんびりと回り道をしていたみたいで。
けど、そのおかげでみんなが揃った光景を見ることができて。
それは貴女のおかげなのですねと黄昏色の思い出に感謝して。
私も、私のボールをみんなの隣に並べました。
すると気が抜けたからでしょうか。身体から力が抜け、私は地に伏せました。
死ぬに死ねなかった一生。
生きてと願われた一生。
もう少しのんびりと生きてみようと思えた一生。
その終わりが、すぐそこまで来ていました。
私は最後の力を振り絞り、身体の向きを変え、仰向けになりました。
「なんて、綺麗……」
そこには雲一つない、満天の星空が広がっていました。
澄んだ空気に映し出された空はキラキラと輝いていて色に満ちたものでした。
ああ、ずるい。
こんな、こんな空を見てしまったら、本当に、死んだアナタたちがずっと見守っていてくれて。
アナタのところに帰ってきた私のことを迎えに来てくれたんだって、そう思わずにはいらなくて。
私は、涙を流しました。
涙にかすみ、ぼやけていく世界に。それでもきらめく美しい世界に。
私は祈りを捧げました。
どうか、どうか。
――夜空に、星に、届け、愛よ。みなさんの願いが繋がってゆきますように
&color(midnightblue){【グレイシア@ポケットモンスターシリーズ 天寿全う】}
|No.95:[[描き出す未来図]]|[[時系列順]]|fin|
|No.95:[[描き出す未来図]]|[[投下順]]|fin|
|No.93:[[クロス・ソングス]]|レナモン|&color(blue){未来へ}|
|No.92:[[だけど、生きていく ]]|ハムライガー|&color(blue){未来へ}|
|No.92:[[描き出す未来図]]|ルカリオ|&color(blue){未来へ}|
|No.92:[[延長戦]]|グレイシア|&color(midnightblue){またいつか}|
2017-11-19T00:17:51+09:00
1511018271
-
グレイシア
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/49.html
&bold(){――……まったく、最低の下劣です}
【名前】グレイシア
【出典】ポケットモンスターシリーズ
【説明】
水色の体に、耳元からおさげのような毛を垂らした神秘的なポケモン。
とくこうが非常に高く、強力な冷気を操ることが出来る。
その美しい容姿から、ある特定の趣向を持つトレーナーたちからの人気は高い。
【パーソナルデータ】
性別はメス。一人称は「私」、性格は真面目で、口調はですます調。
その昔ポケモンリーグという大きなポケモンバトルを制覇している一匹で、トレーナーとの死別が原因で一人生きることを決めた。
判明している技は『れいとうビーム』『まもる』『ふぶき』、他にもあると思われる。
【スタンス】
対主催
【初期支給品】
不明
【登場話】
#region(close,開示する)
|話数|タイトル|
|07|[[Fantastic Future]]|
|28|[[歪みの国のアリス]]|
|46|[[命の価値は?]]|
|52|[[そんなものはない]]|
|74|[[黄昏の影を踏む]]|
|86|[[交差して超える世界]]|
|87|[[ハルモニア]]|
|91|[[決勝(1)]]|
|92|[[延長戦]]|
|96|[[手をつなごう]]|
#endregion
2017-11-19T00:01:47+09:00
1511017307
-
描き出す未来図
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/208.html
いつからだろうか、その伝説が人に、ポケモンたちに、囁かれだしたのは。
曰く、それは黄金に輝く鎧を纏い、漆黒のマントを靡かせて、炎の剣を掲げし者。
人であるとも、ポケモンであるとも、人でもポケモンでもないとさえ囁かれし者。
彼の者は悪しきを挫き、弱きを助けし者。
人、その者を――勇者と呼ぶ。
▽
「……っ、戻れえええっ、ガー太郎!」
青年が付き出したモンスターボールから放たれた光が傷だらけのガーディーを包み込む。
ガーディーはまだいける、やらせて欲しいとばかりに抵抗するも、そのままボールに吸い込まれていく。
(わりいな、ガー太郎。お前がよくても、俺っちが駄目なんだ。もうこれ以上、お前たちが傷つくのを見たくないんだ)
分かってる。これがその場しのぎにしかならないどころか、状況を悪化させるだけの選択なのは誰よりも青年自身が分かっている。
分かっていて尚、彼には立つことも叶わなくなった自分のポケモンを前に、こうするしかなかったのだ。
ここでポケモンたちに無理をさせられるような人間なら、こんな所に一人で乗り込んだりはしなかっただろう。
こんな、こんな――悪の秘密基地になど。
「おや、どうしました? 新しいポケモンを出さないのですか?
我々が瀕死にしたあなたのポケモンは5匹。ポケモントレーナーなら後一匹持ってきているものですよねえ?」
白衣のスナッチャーの言う通りだ。
ポケモントレーナーが連れ歩けるポケモンは最大6匹まで。
本来、6匹以上捕まえているトレーナーなら、万一に備えてとりあえず6匹満員で連れ歩くだろう。
捕まえたばかりのポケモンでも主力のポケモンを回復するまでの壁にはなるし、何なら一撃で倒されること前提で盾にすることだってある。
そんなのは賢いポケモントレーナーにとっては常識だ。
別に非道でもなんでもない。勝つためにはあたりまえのことなのだ。
だが。
青年が手持ちに用意してきたポケモンは5匹。
5匹で戦うことの不利を承知で、敢えてその定石に背いていた。
「ああ、それとも。わたくし共にポケモンを盗られたせいで6匹目を用意できなかったとか?
それはそれはご愁傷様! 果てさて君のポケモンはどの子かな~?
こちらのチコリータですか? それともあちらのブラッキー?」
「ちげえよ、俺っちのポケモンは、ぺー介っつうんだよ!」
これもそれもそう、他所様のポケモンを商品として見せびらかすこのクソッタレなポケモンスナッチャーにポケモンを盗まれたから?
否。
盗まれたことは事実だがそれにしたって即席でも6匹目を用意してくればよかったのだ。
暇さえ惜しんでタマゴ孵化を繰り返していた青年なら、非理想個体のポケモンが山程余っていたはずだ。
第一、盗まれたのはコンテスト用のポケモンだ。
バトル用のポケモンは手付かずだった。
なのにフルメンバーで来なかったのは即ち、奪われたポケモンを取り返した時に、その場で抱きしめてやりたかった青年の我儘に過ぎない。
手にしたポケモンの7匹目は自動的にパソコンへと送られてしまう。
それを回避しようと、すぐに手持ちへと加えなおしてやりたいばかりに、青年は愚行を成したのだ。
ああ、そうだ。
愚かとしか言いようが無い。
たった一人で悪の組織に挑んで壊滅させられる。
そんなことができるのは未来のチャンピオンくらいだ。
そもそも青年はそのパンクでロックな風貌が指し示すよう、ここ最近はバトルを離れコンテストにのめり込んでいた。
空いた時間で片手間に卵の厳選こそしていたがポケモンバトルのブランクは相当だった。
せめてバトルに強い知り合いに協力してもらうとか、ジュンサーさんや国際警察に通報するなどすれば勝負にもなったろうが……。
孵化作業も放り出し、いなくなったポケモンを探してる中でコンテストを見に来る好事家たちから掴んだ闇取引の情報。
コンテスト上位に入る愛らしいポケモンたちを売り渡す日がまさに今日この時だと知ってしまった以上はすぐに動くしかなかったのだ。
その結果がこのザマだ。
大事なポケモンを取り戻せないどころか、このままでは他の手持ちまでスナッチャーやブローカーたちに捕まってしまう。
(すまねえ、ガー太郎、ナット君、ニョロ之、王ドラ、スッピンピン……。
俺っちの無茶に付きあわせちまって。せめてお前たちだけでも!)
ならば青年にできるのは命をかけてでも仲間たちを逃がすくらいだ。
そのためなら敵に背を向けるというトレーナーとして恥じる行為も厭わない。
ここまで使っていた自転車は度重なる敵の迎撃で既に原型を留めていないが打つ手はある。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああ!」
「むう!?」
ボタン一押しで靴底のスケートが展開する。
ポケモンコンテストでポケモンたちだけでなく、自分たちも跳んだり踊ったりできないかと取り寄せたおニューのローラースケートだ。
こんなことに使う羽目になろうとは思ってもいなかったが出し惜しみするわけにはいかない。
まだあまり出回っていないアイテムだからだろう。
ランニングシューズだと思い高をくくっていたのだろう白衣からはぐんぐん遠ざかり、青年は入ってきた出口へと近づいていく。
これならば或いは……。
僅かながらに逃げ延びる可能性が見えたその刹那、
「ええい、他の者たちは何をしているのです! 基地を壊したくはなかったのですが、仕方ありません。
サザンドラ! りゅうせいぐんです!」
影が、落ちる。
どこから?
後ろからではない。
上からだ。
屋内だろうが容赦なく降り注ぐ流星群に打ち据えられ、青年が地面を転がる。
600族のタイプ一致技を生身で受けたのだ。
マサラタウンに生まれたわけでもなく、武闘家ならざるポケモンコーディネーターの身で耐えられるはずがなかった。
「あ、ぐっ、ガっ、は、ひ」」
スケートは砕け散り、全身の骨が何本も持って行かれた。
それでも尚這いずり出口を目指そうとするも、遅々として進まず、撒いたはずの白衣が姿を現す。
「頑張りましたがここまでです。また何かされても堪ったものではないですからねぇ―。
とどめをさしてあげなさい、サザンドラ! もう一度りゅうせいぐんです!」
特攻が下がっていようが、再びの流星群は青年にとって処刑宣告だった。
今一度落ちる影に、青年は目の前が真っ暗になっていく。
(ち、っき、しょおお……。死ぬのならぺー介と舞台の上で死にたかった……)
これが走馬灯という奴か。
ボールに入れず、一緒に布団で寝たりもしていた相棒のことばかり最後の最後に思い出してしまう。
青年は涙した。
楽しかったあの日々に。
救えなかった相棒に。
巻き込んでしまった仲間たちに。
無力な自分自身に。
そして
「流星群か。こんなもの、アイツのメテオに比べればただの石ころだ」
最後の時はいつまで経ってもやってこなかった。
「……え?」
誰とも知れぬ声に恐る恐る目を開ければ、破片さえ残さず粉砕された流星群の姿。
それを成したであろう存在は、青年に背を向け庇うかのように立っていた。
(学ラン……? スクールボーイか……? なんでこんな所に。
俺っちと一緒で盗られたポケモンを取り返しに来たのか?)
這いつくばったままの青年には、背を向ける乱入者の顔は見えない。
ただ、小柄な身長と身を包む服装から学生と判断したまでだ。
けれど事実は違ったらしい。
「ル、ルカリオだと!? けったいな服装をしているがいやそうか、コンテスト用のポケモンか!
さっき人の言葉を話したのも芸ということですね!
なるほど、それが君の6体目ということですか!」
ルカリオ。
言われてみれば学ランから垣間見える頭部は青い。
何故か頭頂部には金の王冠が輝いているが今はどうでもいい。
重要なのはこの乱入者は、青年のポケモンではないということだ。
やはり他のトレーナーが助けに寄越してくれたのだろうか?
「あ、あんたは一体……」
「人間か。お前がポケモンの敵でないというのならそこでじっとしていろ。すぐに終わらせる」
こちらの問いかけに僅かながらに振り返り、むべもなく答えた顔は確かにルカリオのそれだ。
人間の言葉を扱うのには驚きだが、声というのもつまりは音の波。
波導使いのルカリオがテレパシーのように人語を伝達できても不思議ではない。
噂では古の波導使いの弟子だったルカリオも人語を話せたというし。
それよりも今、気になるのはルカリオの言葉の内容だ。
(すぐに終わらせるって、まさか一匹でか……? む、無茶だ!
あのスナッチャーは違法取引で儲けた金に任せて強力なポケモンを揃えてやがる!
俺っちのポケモンたちだって歯が立たなかったんだ、一匹で勝てるはずがない!)
スナッチャーも同じことを考えたのだろう。
馬鹿にするように鼻を鳴らしてポケモンを入れ替える。
「言うじゃないですか。弱体化していたサザンドラの攻撃を止めたくらいで調子に乗るんじゃありませんよ。
ルカリオごとき、このポケモンの敵じゃないんですよ、ねえ!」
三つ首の竜の代わりに現れたのはファイアロー!
言わずと知れた環境上位のポケモンであり、タイプはほのお・ひこう!
最悪だ。
かくとう・はがねのルカリオに勝ち目はない。
「さあ、やってしまいなさい、ファイアロー! フレアドライブ!」
「クアアアアオッ!」
主の命を受けたファイアローが炎を纏いルカリオへと強襲する。
青年とのバトルでのブレイブバードの威力から察するに持ち物は命の珠。
上乗せされた火力と相性補正でルカリオはよほど耐久構築でもない限り確定一発だ。
万事休すか!?
鳴り響く激突音に肝を冷やす青年。
その心配は思いもよらぬ手段で覆されることとなる。
「ヌルい! あの銀月の魔の踏み込みはもっと鋭かったぞ!」
「な、何ですかそれは、炎の、剣!?」
ルカリオはブレイブバードを両手に掲げた、いや、違う、天高く掲げた足――本来、足がある場所に接続した剣で受け止めていた。
袖を通していたのではなく、羽織っていただけの学ランはマントのようにはためき、その内を露わにする。
表出したルカリオの身体には、両腕がなかった。右足もなかった。左足だけがあった。
欠けた足を補うように炎の剣が接続され、義足となっていた。
(ああ、なるほど、そういうことか。
炎の剣ならタイプは炎・鋼でフレアドライブも等倍……いや、まさかあれ、貰い火か? 剣が炎を吸収している?)
思いもよらない光景に、却って冷静になってしまった青年の前で、異形のルカリオは反撃に打って出る。
「ギガスラッシュ!」
ファイアローの突撃との鍔迫り合いを押し切り、炎を失った敵に対して、今度は足の剣に雷を帯びせ踵落としの容量で切り裂いたのだ。
かみなりパンチならぬ、かみなりキックに近い、かみなりソード。
無論効果は抜群であり、哀れファイアローは地に落ちる。
「いくら鋼タイプだからとはいえルカリオが剣を使うだと!? ギルガルドでもあるまいに!」
「どうした、次のポケモンは出さないのか?」
「……っ、調子にのるなと言いましたよねええええええええ!」
ルカリオの挑発にスナッチャーは戻したばかりのサザンドラを再び繰り出す。
サザンドラだけではない。
ギルガルドが、ウォッシュロトムが、エーフィーが姿を現す。
炎の剣という謎の持ち物を装備した正体不明のルカリオ相手には常のタイプ相性は通用しないと判断したからだろう。
「両腕のない身でこれだけの数が捌けますか!? お前たち、あのポケモンを殺しなさい!」
まずはエーフィーから超常の力が放出され動きを奪おうとするも、ルカリオから発せられた邪悪なる波導がこれを打ち消す。
「死亡遊戯!」
悪鬼を身に宿したルカリオはそのまま攻撃に転じ、その場で左足を軸に、剣の足で回転斬りを放つ。
剣より生じた無数の飛ぶ斬撃は、そのままスナッチャーのポケモンを全滅させんとするも王の盾に防がれる。
「今だ、やれええ!」
そうしてギルガルドの後ろに隠れていたウォッシュロトムが、サザンドラが飛び出す。
ルカリオの足は大技を放ったばかりだ。
すぐには体勢を立て直せまい。手も足も出せないルカリオは、されど、経験から残る攻撃手段を知っている!
頭だ。まだルカリオには頭が残っている!
空中で身体を一回転させてからのサザンドラの突撃をカウンターの頭突きで撃墜。
味方ごと貫けと命じられ発射されたウォッシュロトムのハイドロポンプも、ルカリオの身体から放たれた波導弾に相殺される。
(すげえ、捌ききった!)
青年が安堵しかけるも、まだだ、まだ敵の攻撃は終わっていなかった。
サザンドラが使った技の名はとんぼ返り。つまりそれは、入れ替わりに第二陣がやってくることを意味する!
「これで終わりです!」
モンスターボールより射出された巨体の持ち主はマンムー。
倍ほどの身長差もあるルカリオを、マンムーはその巨体と馬鹿力で押し潰さんとする。
手もなく、足も頭も波導も出しきったルカリオに、これを凌ぐ手がないのは目に見えて明らかだった。
なのにどうしてだろう。
このルカリオなら、さっきまで同様なんとかしてくれるのではないか。
青年はいつしかそう信じてた。
故に、目を伏せることのなかった青年は次の瞬間、瞳に焼き付けることになる。
――奇跡を。
輝く両の義手でのしかかってくる重さ291キロのマンムーを軽々と持ち上げたルカリオを!
黄金の鎧を身に纏い、炎の剣を携え、学ランをマントのごとくなびかせる波導の勇者の姿を!
「そ、その姿は一体……! まさか、メガシンカ!?」
「違うな、アーマー進化だァァァッ!!」
言うやいなやルカリオはマンムーをブレードフォルムに切り替えて打って出ようとしていたギルガルドに投げつける。
そして空いた両腕で撃ち込むは必殺の波導弾!
「全画面攻撃で一気に決めさせてもらう! 活ッ!殺ッ!豪ォ……波導弾!!!!」
これまで受けた攻撃の全てを波導として取り込んだ極大の波導弾はスナッチャーのポケモンたちを一撃で打ちのめし気絶させた。
「貴様で最後だ」
「ば、馬鹿な……。たった一体のポケモンにわたくしのポケモンが……全滅?
いや待て、全滅だと? わたくしで最後、だと? ま、まさかこれだけの騒ぎで尚部下たちがやってこないのは……」
「貴様がそこの人間に手こずっている間に私が全て倒し、ポケモンたちも解放したまでだ」
「この施設の人間とポケモンをたった一人で、だと!?
そんなこと伝説のポケモンでもなければなせるはずがない!
いや、そもそも君はポケモンなのか!? 悪魔だ、そうだ、その力、その威容、悪魔に違いない!
う、うわあああああああああああああああああああ!」
「……黙れ、愚かな人間め」
どすり、と。
取り乱すスナッチャーの腹部にルカリオの拳が突き刺さり、声を失う。
「こ、殺したのか……?」
「……この人間たちに復讐する権利は私のものではない。お前たちの好きにしろ」
疑問に答え、もうやることは終わった、興味はないとばかりにルカリオは鎧を消し立ち去ろうとする。
「待ってくれ!」
青年はその背を引き止めた。
「……何だ?」
胡乱げに見つめてくるルカリオ。
どこか敵意さえ感じるその視線に竦み上がりかけるも青年は立ち上がり、背筋を伸ばし、頭を下げた。
自分よりずっと小さく、細い体に、ありったけの感謝を込めて。
「ありがとう、あんたのおかげで助かった!」
「別に……お前のためにしたわけではない。私はただ私の仲間たちが売り買いされると聞き助けに来ただけだ」
照れてる、というわけではない。どうやら本当にそうらしい。
ポケモンコーディネーターとして、コンテストの観客たちの喜怒哀楽を読むに長けた青年はすぐにそう理解した。
理解した上で、頭を下げ、感謝の言葉を続け、一番聞きたかったことを口にする。
「そうか……。なら厚かましいかもだが聞かせてくれ! その仲間に、ポケモンたちに……俺っちのペー介は、ジュペッタはいたか!?」
果たしてここに、いなくなった自分のジュペッタは囚われていたのかと。
ペー介――彼がコンテスト用に育て抜いた自慢のアイドル。
布団で寝ていたはずなのに朝になったらいなくなっていたポケモン。
ペー介が逃げたとは青年には考えられなかった。自分とぺー介の間には確かに絆があった。
そう確信できるだけの時間を共に過ごしてきた。
だから探した。探して、探して、一縷の望みを賭けて、こんな無謀とも言える潜入すらやってのけたのだ。
「ジュペッタ……。いや、捕まって商品にされていたポケモンの中にジュペッタはいなかった。
だが……聞かせて欲しい。そのジュペッタがいなくなったのはいつの話だ?」
現実は非情だった。
ぺー介はここにいなかった。
そのことに青年は項垂れ膝を尽きそうになるも、命の恩人の問いかけに応じないでいるほど恥知らずではない。
それに、気のせいだろうか。
ルカリオから感じていた敵意が和らぎ、真摯にこちらと向い合ってくれているように思えるのは。
青年は答えた。
ジュペッタがいなくなったと日にちと、消えたと思われる時間帯を。
「そうか……。その日時ならやはり……」
得心がいったとルカリオが頷き、口を開く。
「……残念だが、ペー介は、お前のジュペッタはもうこの世にいない」
告げられたのは最悪の真実だった。
今度こそ崩れ落ち、泣きじゃくる青年にルカリオは続ける。
「私も詳しくは知らない。
だが、俺を救ってくれた勇者が言っていた。
『ジュペッタは……僕の友だちは、人間のご主人様が大好きだった』、と」
そんな、青年にとっては当たり前のことを。
「知ってる、よ。俺っちは、あいつのご主人様で、あいつは俺っちのアイドルなんだぞ!?」
「……なら、誇れ。お前のパートナーは勇者に勇気を与えるほどのアイドルだった。
勇者がお前を愛するお前のジュペッタを信じたからこそ、俺も勇者を信じ、お前を……人間だからと殺さない」
「なんだよ、勇者、勇者って……。あんたは勇者じゃないのかよ」
この目に焼き付いた勇姿を、勇者と言わずに何というのか。
嗚咽しながら訴えかける青年に、ルカリオは静かに首を横に振る。
「俺はよくて見習いだ。勇者の代理をしているに過ぎない。そして今、お前のおかげで俺は一つ勇者に借りを返せた」
「……それなら、それならよう。あんたは、どうすんだ。
勇者の代理を果たし終えて、その後あんたはどうなんだ……」
止めどなくあふれる涙は、相棒を失ったことへか、それともこの細くてちっぽけで今にも消えそうな勇者の未来を嘆いてか。
延々と泣き続ける青年に、そうだな、と呟いて。
どこか昔を懐かしむように目を閉じ、少しだけ考えて。
ルカリオは。小さな勇者は答えを口にした。
青年に。自分自身に。いつかの、誰かに。
「生きるさ。生きて生きて生きて。帰れる場所を探して。そして。そう、だな。
伝説にでも、なるとするさ。
この世界で生きるグレイシアにだけじゃない。
天国や地獄にいるボナコンたちや、異界で生きるハムライガーやレナモンにも伝わるような。
アイツらの死を、俺たちの生を伝え続けるそんな伝説に」
そう言ってルカリオは一度だけ小さく笑って。
止めていた歩みを再開し、基地の入口へと辿り着き、扉を開け、陽の光の中へと消えていった。
▽
これはある勇者の活躍の一ページ。
勇者に助けられたポケモンコーディネーターがポケモンコンテストライブで観せた劇の一幕。
今はまだ知る者は少ないだろう。
だけど勇者が今を生き、死して尚伝説として生き続けるというのなら。
いつしか誰しもが知ることになる。
彼が背負った罪を。彼が奪った命を。彼を救った者たちを。彼と共に戦った仲間たちを。彼が送った生を。彼が帰り着いた場所を。
【ルカリオ@ポケットモンスターシリーズ そして伝説へ…】
|No.94:[[だけど、生きていく]]|[[時系列順]]|No.96:[[手をつなごう]]|
|No.94:[[だけど、生きていく]]|[[投下順]]|No.96:[[手をつなごう]]|
|No.92:[[延長戦]]|ルカリオ|No.96:[[手をつなごう]]|
2017-11-19T00:00:55+09:00
1511017255
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だけど、生きていく
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/207.html
目が覚めるとそこは深い森の中だった。
風と共に吹き抜ける湿った草の香りで、ここが故郷の世界だとすぐにわかった。
あぁ、帰ってこれたんだな。
安心してしまって、4本の足が同時にくたっと力が抜けてしまった。
そうしてそのまま、ゴロゴロと寝そべった。
こここそが僕の居るべき世界なんだ、と実感した。
「おいィ? 俺の縄張りに勝手に入るとはいい度胸だなァ」
ぼーっと余韻に浸る僕に、荒々しい声が掛けられた。
ノラモンだ。ロードランナーの一種だった。
そうだ、ゆっくりしてはいられないな、と思った僕はワンパンでノラモンを蹴散らし、あてもなく歩き始めた。
拐われる前とくらべて、気温はほとんど変わってなかった。
時間はそんなに経ってないのかもしれない。
だけどこれ以上ブリーダーさんに心配をかけさせちゃいけない、一秒でも早く帰らなくちゃ。
日が沈むまで走ってるうちに、見覚えのある場所にたどりついた。
ジャングルでのトレーニングで通った事がある道だ。
ファームまではまだまだ遠いけれど、なんだかもう泣きそうになってしまった。
少しだけ休もう。
僕はうずくまって身体を休めた。
「アタシは赦してあげないもんね」
白いボディコン服を来た悪魔が耳元で囁いた。
真っ暗な視界の中に、ニタニタと笑う彼女だけが鮮明に浮かび上がっている。
これが夢だと言う事にすぐに気が付いた。
「いや~見事生き残れてオメデトウ。すごいねェ~ハムライガー君。
どう? どんな気分? 何人もぶち殺して生を勝ち取った気分は??」
甲高く、不快な声で悪魔は煽り立てる。
「ホーント、生者たちってば勝手だよね。勝手だと思わない?
自分たちの解釈で罪を正当化して、その意識から楽になろうとしてさ~。
死人に口無しって言うじゃん? 残念だったね、今ここでアタシが死人代表で言ってあげる。
ぜっっっったいに、赦してあげなァ~~~~いwwwwwwwwwwwww
アタシらを踏み台にして幸せを勝ち取ったキミを恨みますゥ~!
ホイミスライムとハムも超痛かったって言ってたしィ、死んだみんなはホントもう苦しくて苦しくて……」
「ハムライガー、これは死者の言葉でも何でもない!」
言葉を遮ったのは、レナモンの声だった。
「この悪魔はお前自身の中にあるネガティブな感情だ。幻影にすぎない」
「あァん? キツネ風情は黙ってろし!」
「こんな悪意に耳を貸す必要など無い
現実の私達がお前を赦した、それこそが確かな事実なのだ」
当然ながらレナモンは、ハムライガーの意識の中に潜り込む事など出来ない。
このレナモンもまた、夢の中の存在だ。
「いーや、コイツはアタシの言葉を無視する事なんて出来ないハズよ。
確かな事実ならこっちにだってあるんだからね」
夢の中の悪魔は、レナモンの後ろに回りこみ、口をグイっと押さえつけた。
「ガブモンも、プチヒーローも、きっとキミの事を赦すだろうね。それは確信してもいいわよ。
……でもね、彼らはもう二度と新鮮な空気を吸う事が出来ないのよ。
青空を見る事も出来ないし、彼ら自身の友達にも会えない。
キミは、キミを救おうとした者から、その権利を奪ったの。
わかる? キミがこれから享受しようとしている幸せって、そういった犠牲の上に成り立つのよ。
赦す赦さないとか関係のない、動かしようの無い事実なの。どーう??」
悪魔は両手をパッと離す。
夢の中のレナモンは、何も言えなかった。
「あれあれ~、キツネちゃんでも擁護出来ないのかな~。
ヒヒヒ。さて、じゃあハムライガー君は今どう思ってるのかな?」
「く、ハムライガー……そいつの言葉に耳を貸すんじゃない」
心配しなくていいよ。
ほくそ笑む悪魔の目を、しっかりと見つめ返した。
これは戯言なんかじゃない。
単なる悪夢なんかじゃない。
僕を蝕もうとする呪い、背負わねばならない十字架だ。
僕はもう、それに立ち向かうだけの勇気を持っている。
心に動揺など全く無い。僕は静かに言う。
「僕はちゃんとわかってるよ」
「キミの身体は今、たくさんの返り血で汚れているって事実は?」
「わかっているよ」
「当然、命を奪った罪から逃げたりはしないよね?」
「みんなの死は受け入れるつもりだよ」
「よしよし、それじゃあキミはこれからどうするのかな?」
「ブリーダーさんのところへ戻るよ」
ハッキリと、淀みなく答えた。
悪魔は目を細めて、苦笑いを浮かべた。
「ふーん、心は傷まないの?」
「正直、謝りたい気持ちでいっぱいだよ」
「そんなキミが、ブリーダーさんと幸せな日々を送ってもいいと思ってるの?
何人もの命を踏み越えてきたキミが」
「逆だよお姉ちゃん。たくさんの命の上に立っているからこそ、僕は幸せにならないといけないんだ」
「ふーん……なんで?」
「僕が、僕自身の都合で奪い取ったもの。
僕を救うために……こんな僕なんかのために、捧げてくれたもの。
僕が今立っているのは、それらが積み重なった山の上なんだ。
ブリーダーさんともう一度会うために、僕はかけがえのないものをたくさん貰ったんだ。
それを無駄にするなんて、それこそ罪と向き合わない事だと思う」
「へぇ……でもアタシが、幸せに生きるアンタを妬ましいって言ったら、どうする?」
悪魔は右足をゆすりながら、ワンレングスの長い髪をかきあげた。
「ごめんなさい。……だけど、僕は生きていくよ。
お姉ちゃんの想いだって、逃げずに、向き合って、受け入れる」
「あ、そう」
悪魔は退屈そうに答えた。
どこからともなくタバコを取り出し、煙を吐いた。
「……アンタのブリーダーさん、喜んで迎えてくれると思う?」
「わからない。けど、確信しているから」
「ふーん……」
レナモンはハムライガーの元に歩み寄り、優しく頭を撫でた。
そして、つよくなったな、と微笑んだ。
「つまんないの。アタシ帰る」
真っ白な朝の日差しに包まれると共に、悪魔は跡形もなく消えた。
今までずっと生活してきて見慣れたハズのファームが凄く懐かしくて、また目がじわりと熱くなった。
ログハウスの窓から中を覗きたい気持ちを抑えて、ドアを叩いた。
心臓が急激に高鳴る。やっぱり不安になった。
ブリーダーさんはどんな顔で迎えてくれるだろうか。
居なくなっていた僕の事を、どう思っていたのだろうか。
いや、もしかすると僕が拐われる時にブリーダーさんがモリーに……。
中からコツコツと足音がした。
僕はそれがブリーダーさんである事を、祈った。
開いたドアの先には、驚いた顔のブリーダーさんが居た。
僕は一声「キャウン」と小さく鳴いた。
痛いくらいの抱擁と、僕の毛並みに零れた涙が、とてもとても温かかった。
【ハムライガー@モンスターファームシリーズ 償いは、幸福な日々によって】
fin
|No.93:[[クロス・ソングス]]|[[時系列順]]|No.95:[[描き出す未来図]]|
|No.93:[[クロス・ソングス]]|[[投下順]]|No.95:[[描き出す未来図]]|
|No.92:[[延長戦]]|ハムライガー|No.96:[[手をつなごう]]|
2017-11-18T23:59:38+09:00
1511017178
-
クロス・ソングス
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/205.html
「ねぇねぇレナモン、どこいったの―?」
「またおかのうえなんじゃないかな―?」
「おかー?」
「おかー」
「そっか、おかかー」
「うんー」
「おかって、なにもないよね。レナモン、なにしてるんだろね」
「むずかしいかおしてたから、きっと、むずかしいことだよ」
「むずかしいこと? おとなだね」
「おとなだよ」
「ぼくたちもおとなになったら、むずかしいこと、できるかな」
「できるできる」
「だったらはやく、おとなになりたいね」
「ねー」「ねー」
「おとなになって、レナモンと、いっしょ。むずかしいこと、いっしょにがんばる!」
「いっしょに、かんがえる!」
「「るー!」」
▽
そよぐ風に乗って届く子どもたちの声に、仰向けに寝転んだまま頬を緩める。
ピンと立った大きな耳が伊達ではないことに感謝する。
街を見下ろせるこの丘にいようとも、子どもたちの声を受け取れることが堪らなく嬉しい。
ここははじまりの街。デジモンたちが生まれ育つ場所――。
あれから、ルカリオとグレイシアとハムライガーと別れを済ませてターミナルを起動させた私は奇しくもこの場所へと送還された。
子どもたちが沢山いる賑やかな場所を求めた私の意志が反映されたからか。
或いは連絡点となるターミナルがこの近くにも設置されていたからか。
はたまたここが全てのデジモンにとって始まりの場所でいつか還る場所だからか。
理由は分からない。
けれどもこの地へと辿り着けたことに私は運命を感じた。
いや、運命などという仰々しいものではなく、祝福とでも言うべきか。
君のやりたかったことをやりなよと、お節介な誰かたちが背中を押してくれたような気がしたから。
笑顔で迎えてくれた子どもたちに手を引かれて、私はこの街の住人となった。
デジタマを見守り、生まれてきてくれた赤ん坊を祝い、子どもたちと遊んで、大きく育った者たちと共に街を守る。
それが今の私で、充実した日々を送れている。
きっと私は笑えているのだろう。
一時は忘れていた笑顔。瞑っていた瞳。塞いでいた耳。
今は違う。ありたい自分として私はここにいる。
あるがままにこの世界を、時に残酷で、けれど私が愛し、私を愛してくれている子たちがいる世界を受け止めて。
私はここで生きている。
「クラモン」
「ココモン」
「ジャリモン」
「ズルモン」
「ゼリモン」
「チコモン」
「ウパモン」
「カプリモン」
「ギギモン」
「キャロモン」
「キュピモン」
「キョキョモン」
もう心配ないよと空に笑いかけて、続けて思い出すのはあの闘技場での戦いで出会ったモンスターたち。
「ガブリアス」
「コイキング」
「はぐれメタル」
「モー・ショボー」
「メタモン」
「エアドラモン」
「メタルティラノモン」
「シャドームーン」
「アリス」
「ピクシー」
「グレイシア」
「ソーナンス」
「ハムライガー」
「ルカリオ」
彼らだけではない。
私が忘れたくないと思うのは彼らだけではない。
だからその名前も口にする。
「スラリンガル」
「スライム」
「モリー」
「――人間」
モリーをはじめとした人間たち。
モリーや人間に従わされていたモンスターたち。
彼らのことも、想う。
ずっとずっと考えてきた。
ずっとずっと想ってきた。
あの戦いの最中では真っ当に想う時間もなかった彼らのことも。
想おうとも思っていなかったかもしれない彼らのことも。
取り出した“それ”に手を這わす。
“それ”は電源の切れたスマートフォン。
別れの前にハムライガーから返してもらい、グレイシアに譲ってもらったソーナンスたちの形見であり、スライムの墓標だった。
今でも忘れられない、画面からスライムのステータスが消えたあの瞬間を。
あっけなかった。
あまりにもあっけなく命が消えたことが表示されていた。
こんなものなのか。命が消えたというのに、たったこれだけ?
その簡素さに何が起きたのか瞬間には理解できなかった程だ。
命が消える、誰かがいなくなるなんてことは今まで何度も経験してきた。
子どもたちを守れなかった時、その命がこの掌から零れ落ちた時の嘆きはこの胸のうちに残っている。
世の中は劇的な死だけではないということくらい嫌なほど知っている。
ムゲンキャノンの一撃で、さっきまでそこにいた子どもたちが次の瞬間には跡形もなかったことだってあったのだ。
だが、あの死は違った。異質、だった。
スライムが死んだと次第に分かって来た時に感じたものは、これまでに経験してきたものとはどこか違っていた。
それは喪失感。
怒りや悲しみよりも先行したただただいなくなった、抜け落ちた、そんな感覚。
スライムのことを殆ど知らなかったからでもあるのだろう。
スライムの内面に殆ど踏み込むことなく、ろくに話すこともできなかったのもあると思う。
その点スライムと肩を並べて戦ったというルカリオは私がよく知る怒りや悲しみを抱いていた。
スライムのことを想い、私に感謝してくれた程だった。
『憎むべき存在に操られていた俺だからこそ分かる。
共にモリーを相手に戦った俺だからこそ言い切れる。
あいつは、スライムは自分の意思で戦えた最後に悔いはなかった。
自分の生を送れたことをお前たちにも感謝しているはずだ。ありがとう、と』
では私のこのもやもやは何なのか。
引っかかりは何なのか。
それをずっと私は考えてきた。
考えて、考えて、考えて。そして、思ったのだ。
それはきっと私とスライムとの関係性にこそ答えがあるのではないかと。
あの時の私はスライムのトレーナーだった。
ではトレーナーとは何なのか。
トレーニングをするもの、という意味ではない。
あの時の私が、所謂ポケモントレーナーとは何なのか。
自らのトレーナーのことを親や兄のようだったと口にしていたグレイシアには悪いが、敢えて言おう。
客観的に見ればあの時の私とグレイシアはスライムのご主人様だった。持ち主、だった。
小さな機械一つでスライムとの契約を一方的に操作できる存在。
命令することもできる存在。
スライムがモリーにしていたのと同じように、スライムを支配できる存在だった。
子どもたちは違った。
私の子どもたちという意識がなかったかと言えば嘘になるが、彼らは私のものではなかった。
保護者と庇護者という関係ではあれども、同じデジモンとデジモン、対称的な関係だったから。
失った、奪われた、失くしたという想いはあれど、あの子たちの命はあの子たちのものだということは力を追い求めていた時の私でさえも理解していた。
真に命を奪われたのはあの子たち自身で、あの子たちが生きた結果で、私がとやかく言えるものでもなくて。
だからこそ自分を責めるだけではどうしようもないやり場のない怒りと哀しみに私は逃げたのだ。
けれどスライムは違った。
スライムは紛れも無く私のものだった。
スマートフォン越しにでも私が逃げろと指示していれば逃がすことのできた命だった。
……分かっている。
そんなことをしていたのならモリーには勝てなかったということは。
スライムを含めあの日、あの時、誰か一人でも欠けていたなら今自分はこうして子どもたちと笑い合うことはできなかったろう。
ともすれば自分の意志で戦い散ったスライムへの侮辱にもなりかねない。
それでも、重くのしかかるのだ。
あまりにもあっけない生の喪失。
この手から消え去ったスライムの命。
全部が全部、私のものであったが故に――。
「重いな――」
守るでもなく奪うでもなく、命を、所持する。
それはその存在の全ての責任を自らに負うということ。
何から何まで本当の意味で自分の物とするということ。
人間は分かっているのだろうか。その重みが。
自分はもう真平ゴメンだ。トレーナーなんかに二度となりたいとは思わない。
「なんなのだろうな、本当に。人間とは何なのだろうな」
多くのモンスターたちがそれぞれの理由で人間を求めたあの場所で。
人間たちだってモンスターを求めた闘技場で。
私は人間を求めることがなかった。
モリーだってあくまでも私にとっては私が本当にしたいことをするための、みんなを忘れないための通過点に過ぎなかった。
あの場所に連れて行かれる前の私にとってもそうだ。
力を得るための一つの手段としては認識してはいたけれど、あの子たちを守れなかった後悔に押しつぶされていた私には。
人間の子どもを求めるなんて出来うるはずもなかったのだ。
だから今更ながらに考えることにした。
「モンスターと人間とは一体何なのだろうな」
デジモンとテイマー。
モンスターとブリーダー。
ポケモンとトレーナー。
悪魔とサモナー。
魔物とモンスターマスター。
「どこまでいっても人間とモンスターは別の存在で」
パートナーや仲魔とか言い換えたところで、人間とモンスターは異なる存在で、その関係性だってイコールではない。
家族のように対等であっても絶対に非対称な関係。
それが人間とモンスターで、その違いは絶対だ。
なのにどうして2つの存在は交ざってしまったのだろう。
人間同士、モンスター同士で向け合うような感情を抱いてしまったのだろう。
「いや、或いはそれこそが答えなのかもしれないな」
モンスターと人間は違う。
でもモンスターと人間は違うからこそ、モンスターとモンスター、人と人ではありえない関係が生まれるのかもしれない。
違うからこそ強く憎めてしまう。
違うからこそ心許すこともある。
違うからこそ愛を尊く感じられる。
違うからこそ命を軽くみなしてしまう。
モンスターと人間は違うからこそ同族に向けるのとは別の関係を築き上げてきた。
それは良くも悪くもきっとこう言えるものなのだ。
特に分かたれた別なる存在――特別な存在、と。
「はは、そうか、特別か。どこまでも別モノだからこそか!」
天啓を得たりとばかりに納得がいき思わず笑い声を上げてしまう。
あの知恵を求めたコイキングならこの答えをどう評すだろうか。
頷いてくれるだろうか。首を横にふるだろうか。
どっちにしろきっと彼なら話に乗ってくれて、この答えで留まらずずっとその先も答えを探し続けたはずだ。
私も、そうしよう。
忘れないということは足を止めるということではないのだから。
▽
「たいへんたいへん!」
「こども、こどもー?」
「レナモン、キテ、キテ!」
「きみだれー? なにー?」
▽
思考の海から帰ってくると、街の様子が騒がしい。
子どもたちの声からして事故が起きたとかそういう危険な話ではなさそうだが心配には心配だ。
とにかく急いで戻らなければと全力で駆け出すためにスマートフォンをしまおうとして気づく。
さっきまで握っていたはずの、すっかり見慣れたスマートフォン。
それはこんな形だったろうか?
切っていたはずの電源もいつの間にか点いている。
もしかしたら考え事に没頭するあまり変なボタンを押してしまったのかもしれない。
異界の機械の全容を把握はしていない以上それも十分有り得る。
……いや、考えるのは後にしよう。
今は子どもたちのほうが心配だ。
今度こそしまって走りだす。
丘を駆け下り
街の門をくぐり抜けて
子どもたちのはしゃぐ広場へと到着して
そして私は
私たちは出会った。
「ようこそ、始まりの街へ。私はレナモン。デジタルモンスターだ」
#right(){【レナモン@デジタルモンスターシリーズ&???――――――――to be ∞ Dreamers!!!!!!】}
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2017-11-18T23:59:14+09:00
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延長戦
https://w.atwiki.jp/monsterbr/pages/203.html
「君は……誰?」
「私はアリス」
「そっか、僕はハムライガー」
邪教の館.exe――つまりは、悪魔合体プログラムを起動し、ハムライガーは自分の肉体を失った。
自分の肉体と二つの魂、そして一つの魔晶によって――新しい者が誕生するのだろう。
そして、それは――ハムライガーの望みであり、少女の望みだった。
きっと、誰かが止めなければ――何時の日か、何処かの世界で、それこそブリーダーさんが住まう世界に、少女は現れるかもしれない。
だから、ハムライガーは彼女を呼ぶことにした。
「ねぇ、何で僕を呼んだの?」
暴走COMPは呼んでいた、その中にある邪教の館アプリを利用するものを――すなわち、アリスを召喚する者を。
シャドームーンによって、アリスは討ち倒された。
だが、肉体を失い、魂の欠片を失い――それでも、眠っているだけだった。
だから、逃げ場所を探していたハムライガーはCOMPに引きつけられていた。
悪魔合体を行えば、ハムライガーはハムライガーをやめることが出来る――アリスになることが出来る。
「アナタが……みんなが私を望んでいるから」
「みんなって?」
「人間を望む者……人間を愛し、人間を憎み、人間に救済を求めるモンスター達」
「君は……何?」
「私は悪魔【アリス】 私は悪魔【えいえんのしょうじょ】 私は悪魔【にんげん】 私は悪魔【デモノイド】
私は悪魔【しき】 私は悪魔【まじん】 私は悪魔【まおう】 私は悪魔【てんし】 私は悪魔【きゅうさいしゃ】
私は悪魔【スケープゴート】 私は……あなたの悪魔【おともだち】」
少女はやわらかな微笑みを浮かべていた、モンスターである彼にも理解できる美しさだった。
見ているだけで、凍りついてしまいそうな美しさだった。
「……言っている意味がわからないよ」
「そう……じゃあ、すこしお話しましょ」
何時、現れたのだろうか。
彼女は背もたれのないチェアに腰掛け、ティーテーブルの上の紅茶を飲んでいる。
向かいのチェアにハムライガーも飛び乗った。
ティーテーブルの上のシフォンケーキをアリスはカットすると、ハムライガーに差し出した。
ケーキを見て、哀切の表情を浮かべるも、ハムライガーは勧められたケーキを一口に食べる。
マッド・ティーパーティーの始まりだ。
「知ってる?私はモリーに呼ばれた参加者じゃないのよ?」
「えっ、と……そうだったんだ」
そもそも、ハムライガーはアリスが闘技場の参加者であることを知らなかった。
だが、不思議なことに、アリスが闘技場に参加していることを知っていた。
記憶が混じっている――ピクシーの記憶、チャッキーの記憶、アリスの記憶、悪魔合体の影響下にある故か、ハムライガーはそれを知っている。
「モリーは祈ったわ、自分と戦えるぐらいに強いモンスターが出てきますように。
そして、モンスターは……例えば、あなたのお友達のトンベリは人間を憎んでいた。人間に見られているのに、殺せない。
人間を殺したくてしょうがない……エアドラモンはパートナーが欲しかった……悪魔たちは人間無くしてはいられない……
金の子牛と同じように……目に見えぬ神ではなく、形をもった神が……つまりは、この闘技場のモンスターは人間を求めていた。
私は悪魔……だから、その願いに応え、召喚された」
「僕達が君を呼んだの?」
「それが悪魔の本質……呼ばれれば来る、呼ばれなくても来る。全ては、召喚者の願いを叶えるために。だから、私は……あなたになるために来たのよ、わかるでしょ?」
「じゃあ、悪いんだけど……それには応えられない」
「どうして?」
「僕はもう救われたから」
「そう……」
音もなく、アリスは紅茶を飲み干すと、チェアから降りて、思いっきり伸びをした。
「なんで、悪魔が誰かを救いたがっているのか知ってる?」
「……知らない」
そして、その背の羽根を――堕ちたる天使の六翼を広げた。
「結局、悪魔自身が一番救われたいの」
ハムライガーがチェアから降り、アリスを見た。
「私はアリス――起源【オリジン】が無い故に無限の可能性を内包する者、それ故に、モンスターを救う者として召喚された悪魔。
そうあれかしと誰かが祈るから、アリスとして振る舞う悪魔。アリスのミーム。求めるものは信仰【おともだち】、私はあなたを殺し、アリスになる」
ハムライガーはアリスの元へゆっくりと歩き、その横に座った。
アリスはハムライガーをその羽根で吹き飛ばした。
しかし、何度も何度も、ハムライガーはアリスの横に座った。
「誰かが、言ってあげればよかったんだ」
「生きていても、一緒に歩いていけるって」
「大丈夫、僕は君を受け入れる」
「ピクシーも」
「チャッキーも」
「一緒に帰ろう」
「僕はやり直す勇気をもらったから」
「きっと、一緒に進んでいける」
「君のとなりで」
◇
モリーの持っていたスイッチを押すと、闘技場は元の島の姿を取り戻し、観客席の観客は全員、闘技場の変形に巻き込まれて死にました。世の中にはそういうこともあるのです。
そして、戻ってきたハムライガーを加え、片足と両腕を失ったルカリオをキュウビモンの背に乗せて、ゆっくりとスマートフォンが指す方向へと歩いて行きました。
移動している間、お互いに見たものや聞いたことについて話し合いました。
先程会ったばかりですが、たくさん話しました。
自分が会ったモンスターたちのことを忘れないように、覚えていてもらえるように、たくさん話しました。
そして、目的地に着きました。
そこにあったものはターミナル――転送装置です。
きっと、この装置を起動させれば、元の世界に戻ることが出来るでしょう。
ターミナルが起動する少し前、ハムライガーは言いました。
ピクシーのような言い方で、ほんの少し困ったような笑い方をして、
「また、会えたね」
少しだけ泣いて、
ハムライガーの中にピクシーが少し残っていることを話し、
それから、取り留めのないような話をして、彼らは元の世界に戻って行きました。
それからしばらく経って、どこかの世界のどこかの森に手紙が届きました。
手紙にはたった一文だけ、拙い文字でこう書いてありました。
『勇者プチヒーローに救われました』
プチファイターはそれを読んで、悔しそうに、そして嬉しそうに、言いました。
「やっぱり、勇者だったんじゃねぇかよ」
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2017-11-18T23:58:37+09:00
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