上手くズルく生きて楽しいのさ

「でね、ブリーダーさんはボクにこう言ってくれたんだ────」
「…………あら」

別に情報交換をしようというわけでもない。
彼に話させることで少しでも気を和らげさせることが出来ればいい、
そう思って、わたしはハムライガー君に喋らせていた。

取り留めの無い話だった、
彼がブリーダーさんと過ごす、本当に何のことはない日常。
だからこそ、わたしは胸を痛めていた。
知っているのだから、日常を奪われるというのがどういうことか。

生きるということは旅だ、一寸先も見えない暗黒の中を松明も無くもがき続ける旅だ。
共に歩んでくれる誰かがいたから、わたしはおっかなびっくり進むことが出来た。
進む先の目印は無かったけれど、日常という灯火がいつか帰る場所をはっきりと浮かび上がらせていた。

今はもう無い。

共に歩んでくれる誰かも、家族の待つ温かな灯も失ってしまった。
ただ、業火が私の道を照らしていた。

憎悪の業火がわたしの最終目的地をくっきりと浮かび上がらせていた。
だから、憎悪の松明にわたしは感情をくべていく。

二度と帰ることは出来ないが、進むことは出来る。

だから、帰りたいと願うハムライガー君は日常に返さなければならない。



一緒に帰りたいな、とほんの少しだけ思った。






絶対に帰れないことなんて、わかっているから。



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  殺す。

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「それで、これからどうするの?」
ある程度話し疲れて落ち着いたのか、ハムライガーが尋ねた。

「そうね……」
トンベリは考えあぐねていた。
もちろん、目の前のハムライガーを何よりも守らなければならない。
だが、そのために全て殺すかといえばそれはもちろん否、だ。

その選択肢だけは、己の生き方の全てを否定するそれだけは決して選べない。

だが、襲い来る敵から彼を守り続けるだけでは、
時間制限の末、何の抵抗も出来ずに殺されてしまうだろう。

呪いがあるのだから、脱出することも出来ない。

……いっそ、運に賭けてみるか?
最終日まで生き残って、殺処分で彼だけが生き残るように天に身を預ける。
わたしは決して手を下さない、悪いのは全てニンゲン。

くだらない……心の底からくだらない考えだと、トンベリは自嘲する。
奪われたくないから、奪いたくないから、だから捧げるなんて……だったら、決まっている。

「仲魔を……探しましょう」
「仲魔?」

「この死ぬ呪いを解くことが出来るような仲魔を」
「…………いるのかなぁ?」

「きっといるわ」
「そっかぁ」

優しく話を聞いてくれた時と何一つとして変わらない、トンベリの声。
その声に、ハムライガーは安心感を覚えていた。
大きく己を取り巻く状況が変わったからこそ、変わらないトンベリの声が嬉しかった。

そう変わらなかった、何一つとして保証が無くても。

呪いを解けるモンスターなんて、いるかどうか……いや、きっといないだろう。
トンベリにはそれがわかっていた、それでも敢えてハムライガーに希望を持たせた。
いや、むしろこの言葉は悪趣味にもこの光景を見ているもののためのためだったのだろう。

きっと、ニンゲンはこの光景を見て、
呪いを解けるモンスターなどいるはずがない、とゲラゲラ笑うことだろう。

無駄に仲魔を作り、そうして迫るタイムリミットの内に殺しあうことを望んでいるのだろう。

だが、トンベリが本当に探したいものは、穴だ。
永遠に続くと思われた日常が壊されたように、世界に永遠も完璧も存在しない。
探すべきはこの島あるいは、物、モンスターにあるかもしれない予想外だ。
この悪趣味な催しの堤を崩す、蟻の穴だ。

その道は地獄へと続く、苦しみで舗装されたものだろう。
それでも、トンベリは探さなければならない。

戦うと決めたのだから、ニンゲンと。
数十億のニンゲンに対し、恨みを背負ってたった一人で戦うと決めたのだから。

「た、助けてくれ!」

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  殺す。

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迂闊なことをしたと思う、何で俺はあのスライムにきっちりトドメを刺さなかったのか。
そりゃアイツなんて放っといたらとっととくたばっちまうだろう、
だが、生きて生き延びやがって、それで俺の噂でも流しやがったら…………畜生。

手間掛けさせんじゃねーーーーーよ!!

大体、アイツに何でわざわざトドメなんて刺さねーといけねーんだよ!
俺が!この俺が!!殺しだぁ!?ゼッテー嫌に決まってんだろ!!
そもそも逃がす程度の慈悲を与えてやったんだから、アイツはへりくだって感謝するべきだろ!

うぜぇ!!うぜぇ!!うっぜぇ!!!

アイツがうぜぇのが全部悪いんじゃねぇか!!
殴ってたの見られたら勘違いされるじゃねぇかよ、うざってぇ!!

俺が殴ったのもアイツが悪いし、
俺に変な噂流されたら、アイツの責任だし、
あー!!うっぜぇ!!超うっぜぇ!!!

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  殺す。

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「スライムって奴が、おっ、俺を殺そうと!!」
ハムは大げさに取り乱して、トンベリ達に救いを求めてみせた。
二人いるということは理性的な会話が出来るということだろう、
その片割れが子どものハムライガーというのならばなおさらいい。
つまりこの状況で子どもを保護する程度に目の前の緑色はお優しいということだ。

「あっ、あいつは……やばい…………」
「……何があったの?」

一切の動揺を伺わせない無感情な声にハムも少々戸惑うものがあったが、
しかし、話を聴かせることが出来た時点で、彼の策は成功していた。

つまり、先回りしてスライムの悪評を流し、
なおかつ、己を哀れな被害者の立場として売り込むことで強者の保護下に入ること。

しかし、それをするためにはハムの体は綺麗すぎた。
この殺し合いの場で殺人者相手に怪我一つなく切り抜け、そして被害者を騙るなど余りにも不自然ではないか。


だから、傷つける。


己の拳でやったものとわからないように、そこら辺の石を持って己の臀部を思いっきり打ち据える。
臀部ならば、打ち誤っても後遺症になる確率は低い。
それに、実際の奴の身長と比べたならば、ここは攻撃位置としておかしくはない。

当然痛みはあったが、命を買うには安い代償だ。

そしてハムは簡単なシナリオを考える。

スライムは親しげな顔で俺に近づいてきた。
完全に油断した俺は背後から不意打ちを受けた、しかしカウンターを食らわせた。
無我夢中でやったので、冷静になって逃げた。
トドメを刺すなんてとてもじゃないが出来なかった。
怖い怖い怖い怖い。

事実を織り交ぜある程度正当性のある物語。
いや、スライム視点から見れば全て真実か。

かくして、台本は決まり二人の観客を相手にハムは舞台の幕を開ける。

「とにかくやばいんだ、殺される!!あいつに殺されちまう!!」

ここで重要なのはひたすらに慌てることだった。

大抵の場合、感情は理性よりも先行する。

哀れな弱者という自分のイメージを相手に対し埋め込めば、
これから先騙る物語の粗を誤魔化し、
更に自分に対する悪印象が入った際に、そのような者ではないと思い込ませることが、ある程度出来る。

だからこそ、彼は具体的な言葉を述べず、
ただ、ひたすらに慌て続ける。

「とにかく一旦落ち着いて……」
相手に世話を焼かせる言葉を引き出させる、自分の手綱を相手に握らせる。
ハムの思惑通りに事は進もうとしていた。


そしてそれは、
彼にとっても思惑通りの状況であ444444444444444444444444444444444444。
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「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

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順調さが、ハムに油断を生じさせていた。
ハムという来訪者への対処がトンベリ達に隙を生じさせていた。

その空白をスライムは待ち続けていた。
そして彼は待ち続けた反撃の機会を逃す魔物ではなかった。

口に咥えた刃と共に、茂みより跳ぶ。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
狙いはハムの首、敵の首、仇の首。

「…………ッ!!」
だが、完全なる殺害の機会は皮肉にも、スライムと同じ復讐者によって邪魔されることとなった。
殺気を感じたトンベリは咄嗟にハムを突き飛ばし、コンバットナイフを氷の刃で受け止める。

「うっ……うわぁ!!スッ!スライムだァ!!殺される!!」
この局面で最も冷静に動いたのはハムだった。
スライムが何かを口にする前に、先手を取って目の前の敵が散々口にしてやったスライムであることをアピールする。

「ハムッッッ!!!!よくもぼ「うわあああああああああああああああああ!!」
そして、スライムの声を塗りつぶしてハムは悲鳴を挙げる。
スライムの反論が許されぬ内に、トンベリは再度スライムに斬りかかる。
この場に於いて、ハムは完全に哀れな被害者になることに成功していた。

「…………」
スライムに斬りかかるトンベリの目は何の感情も無く、ただ、虚無が映っていた。
燃え上がるマグマの様なスライムの殺意に対し、
トンベリの殺意は、どこまでも冷酷で……そして、誰にも見せることの出来ない心の奥底で何よりも熱かった。

そんなトンベリの様子に、ハムライガーは何も言葉が出なかった。
優しかったトンベリさんが、あそこまで冷酷に──

「…………っ」
視線に気づいてしまったトンベリの攻撃の手が緩まった。
わかっていたのだ、戦う以上いつかこうなるということは。
だが、それでも──

「……恐れてくれてもいいから、だから……守らせて」
「……トンベリさん!」
何も、変わってはいなかった。
殺し合いの最中だというのに、ハムライガーはそれが嬉しかった。

「ふざけるなよ!!」

さて、三体一と圧倒的不利になるとわかっていてもスライムは彼らを襲わなければならなかった。
圧倒的な隙を見せたということもあるが、何よりも──

「なんで僕がそこにいない!! なんで君がそこにいる!!」

自分を切り捨てたハムが再び仲間を作ろうとしているのが許せなかった。
守られているハムライガーが、憎かった。

「…………」
だが、感情と実力は無関係だった。
氷の刃がコンバットナイフを弾き飛ばし、そして──

「 バ  カ  じ ゃ ね ぇ の ?」
死の直前の風景、ハムの口がゆっくりと動くのを見た。


──スライムが連戦連勝するだろうか?マダンテ?ねえよ。

──「なんてね!かっこいい事思っても僕は所詮スライム……勇者の登竜門なんだよ……」

「結局……僕はただのスライムだったんだね…………」

氷の刃があっさりと、スライムの体を両断した。

【スライム@ドラゴンクエストシリーズ 死亡】

死を目の当たりにしたハムライガーは何も言えなかった。

黙るべき状況であることを知っていたハムは敢えて黙っていた。

「…………これでもう大丈夫」
ハムライガーに何か優しい言葉を掛けてあげたかった。
だけれども、

己の言葉は驚くほどに無感情だった。


【F-5/森/一日目/日中】

【ライガー(ハムライガー)@モンスターファームシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:ブリーダーさんに逢いたい。殺し合いはしたくない。
 1:…………トンベリさん

[備考]
オス。ブリーダーに育てられている。種族はハムライガー(ライガー×ハム)。一人称は「ボク」

【トンベリ@ファイナルファンタジーシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:こおりのやいば@ドラゴンクエストシリーズ
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:ニンゲンを殺す。殺し合いに乗る気はないが、ニンゲンを肯定するモンスターは殺す
 1:ライガー(ハムライガー)の幸福を守り、共にありたい
 2:殺し合いの穴を探す

【備考】
メス。目の前でニンゲンに仲間を皆殺しにされた経験があるため、ニンゲンを激しく憎んでおり、感情表出ができなくなっている。一人称は「わたし」
“ブリーダー”をモンスターの名称だと思っており、人間であるとは思っていない。

【ハム@モンスターファーム】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身未確認)
[思考・状況]
基本:帰りたい
 1:やったぜ。
 2:とりあえずトンベリ達に付いて行く
 3:殺すとかありえねー

[備考]
オス。野生で人間に対しては特に何も思っていません。
表は良い人振るが内心は黒い。自分より格下は力でねじ伏せ下僕にする。
格上には媚を売り自分の安全を確保する。基本自分からは行動せずリーダー格に付いて行く。


No.19:きらがぶじゃれじゃれん!! 投下順 No.21:絆のカタチ
No.06:さみしさの共振 ハムライガー No.48:無色透明の
No.06:さみしさの共振 トンベリ No.48:無色透明の
No.16:価値観 スライム 死亡
No.16:価値観 ハム No.48:無色透明の