天の邪鬼

「知らねえよ、連中に勝てるかどうかなんて。
俺はただな、神や悪魔『ごとき』が人間サマの生き方を決めちまうのが我慢ならねえだけだ。
勝つにしろ負けるにしろ、アイツラにゃせめて一泡吹かせてやる」


あの男は、そんなことを言っていた。


こんな場所に呼び出される前の最後の記憶は、試験管の中だった。
あのサマナーがワシを邪教の館にて合体材料に回し、今まさに儀式が始まろうとしている所だった。
先に断っておくが、合体材料にされることに対して特に怒りはない。良い気分がしないのは当然ではあるが、
ワシを元にして召喚されるのが我が主、魔王マーラ様であらせれるのなら断る理由などあるはずもない。
これも定めと思い意を決して所定の場所へ移動し、悪魔合体が始まるのを待つ。
まずは前方にある左右の仲魔が共に分解され、吸い込まれて行く。そして最後にワシの番が来る。

だがその時に異変が起こった。ワシもそれほど多く悪魔合体の現場を見てはいないが、
明らかに今までの合体とは異なる事態というのが読み取れた。
普段は泰然とした館の主が狼狽なのか興奮なのかは分からんがせわしなく器具を操作し始め、あの男も困惑した顔をしている。
周囲からは奇妙な発光が起こり、ワシの入っている容器が異常な振動を起こし不気味な音が響く。
これから何が起こるのかを見届けたくはあったが、ワシの意識があったのもそこまでであった。
心残りがあるとすれば、この体をマーラ様の依り代に捧げられなかった事である。

次に意識を取り戻した時には、ワシの四肢(と鼻)は鎖に繋がれており妙な格好をしたハゲでヒゲの人間が何やら喋っておった。
内容は特別におかしな事を言ってはいない。自分以外のモンスターを倒し、生き残れというものだ。
そんなこと魔界では一般常識であり、属性がCHAOS側ではないワシにとっても当たり前な話である。

問題は、それをあのニンゲンに押し付けられ、強いられている事なのだ。

これがこの世界のコトワリであるならば納得もしよう。
あるいは天界と魔界の最終戦争であるならば、喜んで先陣を任されよう。
我が主、マーラ様の戦車となりて、憎き魔神や破壊神へ向かって進軍もしよう。

だがこのニンゲンは、ワシらに殺し合いを強制させようとしている。
それが本当に必要ならば、わざわざこんな鎖で縛り付けたり、
魔物の一人を見せしめにして警告したりなどしなくても良いではないか。
いまワシらのいる世界が「そういう」コトワリでないから、策を弄して脅迫して無理やり戦わせようとしているのではないか。

と、ここまで考えてふと以前にあのサマナーに問いかけた内容を思い出す。
なぜお前は戦っているのだと。戦うにしても、どうしてメシア教徒とガイア教徒の両陣営を敵に回すのだと。
どちらかの陣営と協力しておけばお前の戦いもそれほど苦労はしないのでないかと。そもそも勝算はあるのかと。
その時のアヤツの顔と答えを思い出し、このような状況におかれてようやくその理由が多少分かった気もする。

◆ ◆ ◆

「フム、するとおヌシはこの殺し合いで勝ち残ることを諦めたのか?」
「う、うん……元々ボクは他のモンスターの回復役としてパーティーに参加していることが多いから
攻撃力はあまりないし……それに、今みたいにオジさんにボクの攻撃が効かない以上、ボクが生き残るなんて無理だよ……」

場所はE-6、森の中。
ギリメカラが最初に飛ばされた場所から適当に移動していると、いきなり何者かからの不意打ちを受けた。
襲撃者は風による木々のざわめきに紛れて、木の上からギリメカラ目掛けて落下。
しかも彼の者の装備武器はどくばり、一撃必殺の武器。
通常ならば確実に奇襲成功、トラトラトラ!になる筈である。

だがしかしあまりにも相手が悪すぎた。このギリメカラという魔物、非常に特殊な能力を持っている。
その特性は物理反射。読んで字のごとく、敵の物理攻撃をそのまま相手に100%の威力で反射するのだ。
つまりこの不意打ちに対してもいかんなく能力は発揮され、アンブッシュは失敗し、
哀れにもギリメカラの単眼で睨みつけられただけであえなく戦意喪失してしまったのだ。
襲撃者の名前はホイミスライム。幸か不幸か、どくばりの反射攻撃は急所を突かなかった様である。

一方ギリメカラにしても、この襲撃者をいきなり殺すことはなかった。
普段から持っている曲剣はどうやら没収されたらしく、多少心もとない。
無論この程度の魔物なら無手でも倒せるだろうが、他の魔物はそうも行きそうにない。
なにより、こんなスライムのような魔物は見たことがないのだ。
どう見ても悪霊や外道ではなく、どちらかと言うと妖魔・妖精の類に見える。
ならばまずはTALK、対話から始めるべきであろう。このスライムが一体何者なのか、
何処から来たのか、何をしていたのかなどを聞き出す。
その後、冒頭の会話へと繋がるのだ。

「よかろう、おヌシの奇襲は不問にしてやる。その代わりにワシの条件を一つ呑んでもらうぞ」
「もう好きにすればイイよ……どうせボクなんて生き残れるはずもないしさ……」
「まぁそうヤケになるな。コトは簡単な話だ、ワシに付いて来て補佐をせい。あのハゲに一泡吹かせる為にな」
「はいはい、どうぞ……ってええええっ!?」

半ば惰性で返事をしていたホイミスライムが一気に目を剥き、大声を上げる。
あれだけのデモンストレーションを見せられてなお、
あのニンゲンに立ち向かう魔物がいるとは彼は思っていなかったようだ。
事実、思わなかったからこそこのホイミスライムはギリメカラを襲ったというのに。

「お、オジさんアイツに歯向かうの!?どうしてさ!」
「フン、逆におヌシに問うぞ。なぜニンゲン『ごとき』に我々悪魔や神のあり方を決められなければならんのじゃ。
それほどにワシらを殺しあわせたいならば、まずはあのハゲが自分の力を持ってして全員を屈服させれば良かろう。
それならばワシのような考えも持たずに皆必死になって殺しあうだろうが」

ギリメカラは思い出す。アヤツも、要は気に入らなかったのだと。誰かに、何かを強制されることが好かなかったのだと。
たったそれだけのことで天界と魔界の最高実力者を大向こうに回して張りあうなど、およそ常人の発想ではない。
あるいはあれほどの実力があるニンゲンだからこそ、そんな思考を持てるのかもしれない。
そしてギリメカラも、どうやらあの男に多少感化されたようだ。

「すごいや!じゃあオジさんには何か良い作戦があるんだね!」
「は?何を言っているのだ、そんなものはない」
「そうかー、オジさんはすご…………ってええええっ!?無いの!?」
「小僧、そう喚くな。ワシのこの立派な耳でおヌシの返事が聞こえない訳がなかろう」
「だってそれだけ自信がありそうなら何か良い考えがあると思うじゃないか!」

そう、彼には作戦や考えなどはない。しかし。

「よく聞け、小僧。どれだけ力を持っていようともあのハゲはニンゲンだ。
悪魔や神でもないニンゲンのやる事に完璧という事はあり得ない。
たとえ王(キング)や英雄(ヒーロー)や救世主(メシア)であろうとも、例外は無いのだ」

ニンゲンが神や悪魔に立ち向かう事例を見てきた悪魔が、ニンゲンに立ち向かう事の何が不自然だというのか。

「でもさ……そう簡単には行かないんじゃないのかな……あのヒゲの人も色々考えてるだろうし……」
「それはそうであろう。ここまで大掛かりな事をしでかしているのだからな。だがな、必ず何処かに何らかの綻びはあるはずだ。
その確率が100分の1だろうが256分の1だろうが65536分の1だろうが知ったことか。
ワシはワシの悪魔としての矜持を持ってあのハゲには従わん」

それにな、とギリメカラはホイミスライムの方を見て目を細める。

「小僧、おヌシに拒否権は無いぞ。ワシがこれだけ説得してもまだ嫌がるなら、
その柔っこい体を押しつぶしてマグネタイトの足しにするだけだ」
「えぇ………」

ホイミスライムから不服とも諦めとも取れる溜息が漏れるが、ギリメカラは気にしない。悪魔だからだ。

「おお、納得してくれたか。やはり誠心誠意、言葉を尽くせば悪魔は分かり合えるものだのう。
よし、契約の証にコレをやろう。ワシには小さすぎるが、おヌシの体格とその触手を使えば装備できるだろう」

そうしてギリメカラがふくろから白いきぐるみを出した所で、
ふと何かを思い出したように手を止め、ホイミスライムに向き直る。

「そうそう、こうして穏便に仲魔が増えたのだから恒例の行事をやっておかんとな」




我ガ名ハ 邪鬼 ギリメカラ コンゴトモヨロシク




【E-6/森林/一日目/昼】

【邪鬼ギリメカラ@女神転生シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身なし)
[思考・状況]
基本:この殺し合いに反抗する
 1:みてろよあのハゲ

[備考]
オス。真・女神転生2の仕様。


【ホイミスライム@ドラゴンクエストシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:モーグリスーツ@FFシリーズ
[所持]:どくばり@ドラゴンクエストシリーズ
[思考・状況]
基本:とりあえずギリメカラに付いて行く
 1:今はこのオジさんに付いて行くしか無いよなあ

[備考]
オス。若い。



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最終更新:2017年08月31日 20:16