human in the box

【生】

僕は怖くなって、森の中をただただ走っていた。
自分で踏んだ枝が折れるミシリという音ですら、僕は胸がキリキリとなっている。
立ち止まって、辺りを見回して、誰もいないことを確認したい、
でも、立ち止まったら、誰かに殺されてしまう。
走り続けないといけない、じゃないと僕は逃げられない。
枝がミシリと折れる度に、僕は小さい小さい悲鳴を漏らす。
ミシリミシリと、僕の心も軋んでいく。

森は僕の故郷だった。
お父さんがいて、お母さんがいて、兄弟がいて、とっても幸せだった。
この森はそうじゃない。
誰がいるかわからないことが、とても怖かった。

人間は僕のご主人様で、そして友達だった。
僕よりも小さい男の子を乗せて、僕は草原を駆け巡った。

彼は、モリーは違う。僕が見たことのない人間だ。
彼にとって僕達は者ではなく、物だ。
名前も知らない彼が命を奪われてしまったように、
僕の命だって、用が尽きたら奪ってしまうのだろう。

そして何よりも、こんなにも走るのが苦しいことが僕は嫌だった。
あのどこまでも自由な大地も、心地良い風が草によって奏でる耳に心地良いあのオーケストラも、
一歩一歩を進む度に、めまぐるしく変わるあの美しい花畑もここには無い。

ここは牢獄で、悲鳴が響き渡り、そして鈍い赤色で描かれた死の光景が視界一杯に拡がる。
戦争……そう、戦争だ。
男の子のお爺さんが語るお伽話の世界の物語、僕の周りにあるのはそれなんだ。

病気でも事故でもなく、隣にいる誰かが死神となる暗黒の夢。
怖い、本当に怖い。
だから、走って走って…………森を抜けだして、閉塞感のある木の牢獄を抜け出して、
周りいっぱいに拡がる草原の中で僕は安心したんだ。

見慣れた光景。
ああ、人間がいる。

草原を撫ぜる優しい風に、目の前の女の子の金髪がたなびく。
青いワンピースから伸びた透き通るような白い肌は、太陽の光に負けないぐらいに僕には眩しく映った。

ゆっくりと彼女は僕に近づく、
だから僕もゆっくりと彼女の元に歩いて行ったんだ。

人間がいることは僕にとって、本当に嬉しかったんだ。

「クエッ!!」

彼女を……人間を乗せていれば、
僕はきっと、死よりももっともっと早く走ることが出来るんだから。





そして僕は彼女の目を見て、見てしまった。

燃えたぎる炎の様な紅い瞳には、
氷の様に透き通った蒼い瞳には、
全てを射抜く雷のようなその金の瞳には、

生きた僕、いや世界自体が映っていない。
映っているのは虚無だ、死をも超えた闇だ。

輝きと共に、その瞳には暗黒が映っている。



「ねぇ……トリさん、鬼ごっこしようよ」
水蜜の様に甘い声が僕を遊びに誘う前に、僕は一目散に駆け出した。

「じゃあアリスが鬼ねー、い~ち……」

目の前にあったのは死だ。


愛すべきモンスター……モリーの言葉がぐるぐると頭を駆け巡る。
人間のように笑えるのならば、僕は狂ったように笑っていただろう。


「さぁ~ん……」


彼女がそんなものであってたまるか。


「ろぉ~く……」


ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

聞きなれぬ音に僕は振り返りたくなる、
でも振り返ったならば……僕はきっと後悔するだろう。

何よりも優先して、生きるために走り続けなければならない。

「きゅ~~う……」

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ






「じゅう!!」

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ




「じゃあ……行くよ!!」
彼女の声と共に、足元にカサリという感覚を感じた。
さっきまで、何もなかった草が枯れている。



死が近づいてきている。

【死】

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

「トリさんはどこにいったのかなー」
無邪気な笑みを浮かべて、逃げたチョコボを探す少女。
彼女を見て、誰が闘技場に放り込まれた怪物だと思うだろうか、いや誰も思いはしない。
誰もが彼女を見れば、モリーは怪物だらけの闘技場に少女を放り込む性的倒錯者と思うに違いない。
名簿を見た時点で、誘拐罪で官憲も動くってそれ一番言われているから。
大体、あのハゲとかヒゲとかまさしく変態の象徴だし、バニーを侍らかしているところとか性的異常者の象徴だよね、ステハゲは死んで、どうぞ。

閑話休題。

では何故、彼女に対しモリーは怪物と呼んだか、誰よりも人間らしい彼女を怪物と呼んだか。

簡単なことだ、神話の時代から続く人間の根源のそれだ。
死んだことのある人間はいる、だが死ねばどうなるか知っている人間はいない。
生きる限り決して知ることの出来ない究極の未知、それが死。

人間は古くから、未知に対し悪魔や神という種を与えてきた。
洪水から八岐の大蛇という怪物が生まれたように、
人間は永遠の未知たる彼女に、怪物という種を与えたのだ。



だが、怪物という安寧の既知であることを拒むのならば、真の名前を教えよう。

死んだままに動き、死を友とし、悪魔の愛を受けたあらゆる世界に在る少女。
彼女の名はアリス。
敢えて言うのならば、彼女もまた人間。
魔人アリスである。






【B-7/草原/一日目/昼】

【チョコボ@ファイナルファンタジーシリーズ】
[状態]:健康、恐怖
[装備]:不明
[所持]:ふくろ
[思考・状況]
基本:逃


    げ
         ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ


















「トリさん み ぃ つ け た」

【生/死】

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
チェーンソーが唸りを上げて、チョコボの脚を切り刻む。

「ク"ク"ク"ク"ク"ク"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"エ"ッッッ!!!!!!!!!!!」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」

笑いながら魔人アリスは切り刻む。
アリスはチョコボに対して何の恨みも無い、この殺し合いに優勝するつもりすら無い。
ただ、楽しいから切り刻んでいる。

「捕まったトリさんはーーーひょうほんの刑だー!!」

チョコボの脳裏を過るのは、
一番楽しかったこ痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛

いや、あまりの激痛に思考すらも、塗り潰される。
思い出に現在の苦痛を忘れることも許されずに、ただチェーンソーが唸りを上げ続ける。

彼は気づいていただろうか、切り刻まれる以前からあった生命力の低下に。

エナジードレイン、生命力と魔力を相手から奪い取り自分の物とする魔法。
彼は遭遇の時点で、死なない程度に調節してそれを掛けられていた。

10秒の猶予をもらったチョコボの脚でも逃げられなかったのは、そのためである。

最も、全てを苦痛で塗り潰された彼にそんなことを言ってもしょうがない。
ただ、夢幻の住人からは逃げられなかった、それだけだ。

ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ
ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ

「あしをきったらーくしざしだー」

地べたに這い蹲ったチョコボの羽根に、魔人の腕力で振るわれた樹の枝が2本ずつ突き刺さる。

「グエ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙ッ゙!!!!」

地面に突き刺さった状態では、暴れることすら出来ない。
ただただ、涙を浮かべ、思い出に逃げることも出来ず、苦痛だけを味わい続ける。

アリスへと抱いていた恐怖、痛みへの憎悪。
感情は全て、苦痛の中に消えていく。


「……あきちゃった」
バタバタとわめくチョコボをしばらく眺めていたアリスは突然に行為の中止を宣言した。
樹の枝を抜き、チョコボの目を見据え、天使のほほえみを浮かべる。

「グェ……?」
痛みは未だ続く、だがアリスが動きを止めるのを見て……
彼は抱いてしまった、助かるのではないかという思いを。

脚は切られている、羽根の力だけで体全身をズルズルと引き摺って、アリスから逃げようとする。

アリスは……一歩も動かなかった。



「トリさんは……」

水蜜の声は

「い~らないっ!」

死刑を告げた。



ジハードがチョコボを飲み込み、そして死んだ。

【チョコボ@ファイナルファンタジーシリーズ 死亡】




【死死】

「アリスの友だちはねーみんな、死んでるの」
チョコボの亡骸、いや最高威力の万能攻撃は亡骸が残ることすら許さなかった。
ただ抉られた大地の前で、アリスは独り言をただ呟く。

「でもねー、友だちにはねーどうぶつはいらないんだーやっぱりにんげんのほうがいいのー」

「だから、いらない」

氷のような身勝手な言葉。
だが、それこそが……それこそが、彼女という怪物が他の怪物と一線を画する証左。

本能にない欲望。
その身勝手さ。


嗚呼、人間のそれだ。


「あのねー……」


だから彼女という怪物はここにいる。


「アリス、友だちが欲しいの……だから…………」


君達もよく知る人間という怪物が一番恐ろしいのだから。





「 死 ん で く れ る ?」

【B-7/草原/一日目/昼】

【アリス@女神転生シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:チェーンソー
[所持]:ふくろ(空)
[思考・状況]
基本:遊ぶ

[備考]
チョコボのふくろはジハードで消えました。



No.10: 投下順 No.12:ハートとカタチは重ならない
チョコボ 死亡
魔人アリス No.28:歪みの国のアリス