戦い──その行為自体に何一つとして思うことはない。
己にとって戦いとはただの狩り、食事にすぎない。
くだらない人文主義も嗜虐嗜好も持ちあわせてはいない、食事はただの食事だ。
獲物に対して何を思うことがあるか、何一つとして有りはしない。
生きることは喰らうこと、ならば何の遠慮も有りはしない。
だから、この様な場所に連れて来られたとしてもバトルレックスは──いや、彼は自分の種族名すら認識してはいなかった。
彼は言葉という概念は知っていた。
言葉が文明を造ることを知っていた。
だが、興味など有りはしなかった。
己が龍であること、そして生きること、彼の興味はそれ以外には無かった。
ただただ、殺し、喰らった。
それ以上を求めないことが己の生であると、
それを続けることで、幸不幸のくだらない思想と離れ、ただ生きることだけに集中できると考えていた。
ただ偶に、飢えても肥えてもいない時に、
彼は己が持つ斧について思いを馳せることがあった。
彼は生きることのその内でも、喰うことと寝ることだけに敢えて集中していた節があったが、
それでも己が持つ斧について、考えずにはいられなかった。
きっとただ生きるだけでは退屈なのだと、心の奥底では気づいてはいたのだろう。
龍族の高い知能は、気高い魂は、強靭なる肉体は、
名も無き龍が、ただの畜生であることを拒否していたのだろう。
彼は斧という言葉を知らなかったが、それが人間の爪や牙であることを知っていた。
か弱い人間は、武装しなければ狩りにいけないことを知っていた。
武器や防具を装備すれば、貧弱な人間ですら龍をも殺す。
人間は爪や牙を己の手で創りだした。
恐ろしいことだと、彼は考えない。
無駄な努力をと、嘲ることもしない。
ただ、人間からより強くなった斧を奪い取り、装備する度に、
より食事がしやすくなるな、とだけ考えた。
それ以上を考えるのは、生きることの邪魔になるだろう。
そう彼は思っていた。
飢えても肥えてもいない時に、再び彼は考える。
何故、己は斧を持っているのだろうか。
物心ついた時から、斧を持っていた。
母を抱きしめ、母乳を得ていた記憶は無いが、小さい己の全身で斧を抱きしめていた記憶はあった。
鎧をも斬り裂く爪、兜ごと頭蓋骨を噛み砕く牙、そして全てを炭と化す灼熱の息吹。
己に斧は不要なはずだった、それでも己は斧を持っていた。
ある日、人間ぶっているのか?とある魔物が問いかけてきた。
名前も姿も覚えていない、存在を確認した時点で喰らったからだ。
彼の生き方に反さなければ、
彼はその魔物に対して「捕食者を前に嘲りなど、お前のほうがよっぽど人間に毒されている」と言ってやっただろう。
だが、彼はそれを口にだすことは決してしなかったし、よぎったその思考をすぐに頭から消すことに努めた。
己の人生に言葉は不要であると、彼は彼の生のためにそう考えていた。
ただ──人間ぶっている、というその魔物の言葉だけは、どうにも心に突き刺さるものがあった。
爪、牙、での殺しは手段であるが、武器での殺しは目的だ。
人間を観察して、己はそれを知っていた。
生きるということは他者を殺し、喰らうこと。
だが、人間は殺すが、喰らわないこともある。
不可解だとは、不思議と考えなかった。
何故なのだろうか、ただ納得だけがあった。
ある満月の夜、己を殺しに来た青い戦士を返り討ちにし、
そして殺傷力の増した最新の斧を手にし、彼は数百年にも及ぶ生の中で初めての笑みを浮かべた。
殺すという意志のもと、武器は進化する。
否、武器を進化させるために人間は殺したがるのだ、きっと。
確信にも似た思いがあった。
そして何故、己は武器を持っていたのか、ようやく理解できた。
「人間を──」
◇◇◇
「──裁かなければならないのか?」
天使エンジェルはボソリと呟いた。
自分がこのような場所にいる理由が彼には理解できなかった、
いやもちろん表面的な理由、つまり悪趣味なショウのために連れて来られたということは理解できる。
だが、彼が思考を巡らさねばならないのはモリーという人間のためではない、
神聖なる四文字の神が、何故己をこの場に遣わせたか。
考えなければならないのはそれだ。
人間が神を欺いて、天の使いをこの様な遊戯に参加させることなど出来るはずがない、確信に近い祈りがあった。
「何故、神は我を…………」
彼に考えられる理由は2つ、
1つ目はこの様な愚かな遊戯を破壊し、人間を裁くため。
2つ目はこの愚かな遊戯にて全ての敵を滅ぼすこと。
だが、人間を裁くのならばこの遊戯の内部にいる必要はない。
天の軍勢と共に、直接人間共を裁けば良い。
では、2つ目か?
しかし、人間の手に負えない怪物を殺すのならばともかく、
人間が捕獲できる程度の怪物をわざわざ天より下りて、殺す必要があるのだろうか。
それに天の使いをこのような見世物にする必要もない、
いや必要があったとしても、それは許されることではない。
いや、存在するはずのない。
すなわち畜生に神の存在を説け、という選択肢かもしれない。
愚かな行動を取ってはならない、と天使は考える。
「ああ…………しかし、それこそが愚かな事だ。
神の考えが我のような者に理解できるはずがない、我の取る行動……それこそが神の思惑なのだろう」
そして天使は気づく、つまりはそういうことであると。
「……ならば、我は畜生共を殺そう。鎖無き家畜をふさわしい場所に送ることを我は誓おう。
全知全能の神よ、照覧あれ。我が雷が全てを裁きましょう」
決意は決まった。
神に己を委ねてしまえば、行動の如何に楽なことか。
だが、誰がそれを責められるというのだ。
彼は本来ならば、怪物として闘技場に呼ばれるような存在ではない。
人間を監視し、過ちがあればそれを正し、そして天国へと先導する、文字通りの天使だ。
だが、それを怪物として呼んだのはお前だ。
天使を血まみれの道化としてお前たちは扱おうというのだ。
天の雷を以て裁かれよ人間、最後に裁かれるべきはお前達だ。
「我はお前たちを信じたかった」
これだけは神の意思ではなく、きっと自分の祈りなのだろう。
天使の祈りは風に溶けて、消えていく。
「お前たちは素晴らしいものであると──」
◇◇◇
「愛したかったのだ」
殺意という己が永遠に抱かぬであろう感情、そのための進化。
武器とはそれだ、殺意によって振るわれる生の象徴でありながら、己の全く知らぬ生のそれ。
永遠に欠く、いや元々存在しないであろう心の一部分を武器で補いたかった。
武器の進化は不思議と己の心の奥底を震わせていた。胸が熱くなった。
きっと子がいれば同じ感情を抱くのだろう。
人間になりたいわけではない、確信をもって言える。
獣のままでいい、畜生のままでいい、確信をもって言える。
だが、ただほんの少しだけ、人間の殺すための殺しに憧れたのだ。
獣よりも余程、獣らしい法を以てしても縛りきれぬ、人間の混沌とした闇を、
己の身に抱きたかったのだ。
きっと、それは生を楽しむという行為なのだろう。
己が遠ざけていた、食と眠以外のそれなのだろう。
ふくろには斧が、神をも殺さんとした人間の創りだした最強の斧が眠っている。
人間の殺意の果てが眠っている。
「ありがとう」
彼は己の生の中で最後となるであろう言葉を発した。
くだらないショウのために、己は呼ばれた。
本当に本当にくだらない、人間らしいショウのために。
そして己は、殺意の果てを見せてもらった。
ありがとう、人間よ。
心の底から、ありがとうとただ伝えたかった。
人間の邪悪さ、存分に堪能させてもらった。
ならば、礼をせねばなるまい。
装備されたゴッドアックスが、目にも留まらぬ速さで振るわれる。
怪物として呼んだのだろう、己を。
ならば、見せてやろう怪物を。
全てを斬り裂く爪、全てを噛み砕く牙、全てを溶かす灼熱。
そして己の持つもう一つの爪であり、牙であり、息である斧技を。
己は獣だ。
喰らい、寝る。
それを繰り返し、何時しか果てる。
それまでは生きる、時間の概念すら認識せん愚かなる獣だ。
我は捕食者の王、龍である。
腸まで喰らい尽くしてくれるぞ、獲物共よ。
◇◇◇
これは怪物の物語、
人間に憧れた龍が怪物になった物語。
人間に失望した天使が怪物になった物語。
今は未だ、交わることはない。
だが、いつか交わる時が来るだろう。
此処は、
クロスオーバー モンスター
交差する 怪物達の 闘技場 なのだから。
【E-3/森林/一日目/昼】
【バトルレックス@ドラゴンクエストシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:ゴッドアックス@DQ9
[所持]:ふくろ(中身なし)
[思考・状況]
基本:生きる
1:腹が膨れるまで喰らう
2:膨れれば寝る
[備考]
オス。獣。
【D-2/草原/一日目/昼】
【天使エンジェル@女神転生シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:不明
[所持]:ふくろ
[思考・状況]
基本:全員裁く
[備考]
両性具有、一人称我。
最終更新:2017年08月31日 20:12