Fantastic Future

 ――――どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
 流動体の身体を小さく震わせて、わたしは一人考える。
 つい先日までは確かに幸せだった、その筈なのに。
 たくさんのポケモンの『タマゴ』を作るお手伝いをしてあげると、トレーナーさんは喜んでくれた。
 無邪気に笑って、これでまた強くなれると褒めてくれた。
 その顔を見たいがために何度も寂しい思いもした。
 自分はあの日溜まりの中でずっと暮らしていけるんだと思っていた。
 それが崩れてしまったのは――はたしてどうしてだろうか。
 トレーナーさんは言っていた。
 もっと良い個体が見つかったから、もうお前に使い道はないと。
 その時わたしは初めて気付いたのだ。
 あの人が見ていたのはわたしじゃなく、わたしと一緒に育て屋さんに預けられたポケモンでもない。
 ……全部、生まれる子供のことだった。
 強いポケモンが欲しい、それだけの為にわたしを飼っていたにすぎなかった。
 わたしは確かに、自分ではよく分からないけれど、メタモンとしては優秀な個体だったのかもしれない。
 でもそれも、もっと上の個体が見つければ無用になる。
 使えない殻潰しを傍に置いていたって、いいことなんて何一つないからだ。
 だからわたしは逃がされて、新しいメタモンがわたしの居た座を奪い取った。

 ――いや、そんな言い方はよくない。
 あの子もきっと、わたしと同じく使われるだけなのだから。
 偽物の幸せを素晴らしいものと誤解したまま、いつか裏切られる時まで生きていく。
 もしかすると優秀なあの子は、ずっと傍に居させて貰えるかもしれないけれど。

 ……ああ、なんて馬鹿な話だろう。
 どことも知れない洞窟に離されたにも関わらず、わたしはまだ求めている。
 あの人がまたあの優しい笑顔で自分を迎えに来てくれることを。
 そんな日が二度と来ないと分かっていても、希望を捨てきれない。
 ”わたし”であり、”ぼく”でもあるこの不透明な存在を、彼なら認めてくれると思った。
 ただ相手の猿真似をする以外に能の無いポケモン――
 所詮は強い子孫を生むための礎でしかないポケモン――

 普通の幸せなど、決して望むべくではないポケモン。
 何にもなれるけれど何にもなれない、それがわたしなのだ。

 「――……へんしん」

 一言。
 それだけで自分の姿は、桃色の頭髪が可憐な十歳くらいの少女のものに変容を遂げる。
 あの人は殆どの時間、わたしを育て屋さんに預けていた。
 そこでわたしや他のポケモンと遊んでくれたのが、この可愛い女の子だった。
 メタモンである自分や、凶暴なポケモンまで分け隔てなく接してくれた。
 ――もしも彼女のポケモンに生まれられたなら、今頃は幸せに生きられていたのかもしれない。
 そんな未練が、わたしをこの姿に変容させた。
 人間に変身したことで得られる利益は皆無だ。
 特にこの殺し合いで、そんな真似をする理由は何処にもないだろう。

 けれども、理屈では説明できない感情というものがある。
 何故だか、こうしなければいけない気がした。
 戦うことを放棄して、あの女の子のように優しく生きるためには、猿真似から始める必要があると思えた。
 「……やだよ」
 小さな声でぽつりとつぶやく。
 きっと誰の耳にも入らないその声は、もう一度はっきりと聞こえる声量で再び反復される。

 「いたいのとか、だれかをきずつけるのとか……そんなの、やだよ。そうまでして、いきていたくなんてないよ」

 甘いと言われるかもしれない。
 僅かな間とはいえあの洞窟で、『野性』を垣間見た自分には、それが甘い理屈であることが分かる。
 誰もが生きる為に必死だった。
 戦って、奪い合って、虐げて、裏切って、そうでもしないと生きられない世界を見てきた。
 それでもわたしは、それが嫌だ。
 何かの真似しか出来ないわたしでも、それだけははっきりと言うことができる。
 ―――『誰にも悲しんでほしくない』。
 ―――『誰かを助けたい』。
 ―――『誰かの笑顔を守りたい』。
 みんなで笑っていられるあの日溜まりのような世界の為になら、わたしは自分が死ぬことだって――
 「…………あ、それはちょっとこわいかな……」
 いざその光景を想像して、わたしは背筋に寒い物が走るのを感じた。
 洞窟に逃がされて生きる為に必死だった短い時間で、死ぬかもしれない危険を味わったこともあった。
 ゴルバットの群れに襲われた時は、命からがらズバットにへんしんすることで事なきを得た。
 洞窟の一部が地面タイプのポケモンの小競り合いで崩れてきたとき。
 間違って洞窟の深部に入ってしまって、大きなポケモンたちに遭遇してしまったとき。
 そんなときは決まって、死にたくないと思った。

 死にたくなんてない。
 死んでなんかやるもんか、わたしも絶対に生きてやる。
 けれど誰だってそれは同じ。
 それなら、わたしだけの都合を通そうなんて――それはちょっと勝手なはなしだ。
 「わたしが、みんなをふわふわさせてあげる」
 ふわふわ――
 それは、今わたしが象っている女の子の口癖だった。
 あったかい幸せに満たされていると、まるで宙に浮くような感覚を感じることがある。
 それが幸せだということ。
 猿真似の第一段階だ。

 ――――その時、わたしは気付いていなかった。
 わたしの後ろから迫ってくる一匹の竜(ドラゴン)が、大きな咢を開けていることを。



  ◇


 「――――ガァァ!!??」
 ドラゴンは生き残る事しか考えていなかった。
 何故か。そんなものは簡単だ、他のモンスターより強い牙と火を持った自分こそ、食物連鎖の上位者だからである。
 食物連鎖――それは絶対のルールであり、何者にも覆せない絶対のルール。
 自分はこの牙で、たくさんのモンスターを喰らってきた。
 一度火を噴けば、冒険者など簡単にのしてしまえる。
 俺は強い。
 ドラゴンは心の底から微塵も疑ることなくそう信じていた。
 だから彼の取った最初の行動は、無防備に突っ立っている少女を手始めに食い千切ってやること。
 人間がどうして混じっているのかは分からないが、人間など殺すのは実に容易い。
 ウォーミングアップには丁度いい相手だろうと思い、わざわざ決闘の模式を取ることもなくその首を狙ったのだ。

 しかしドラゴンの矜持は、それを上回る冷気の奔流の前に成すすべなく飲み込まれた。



 「……まったく、最低の下劣です」
 凍てついた地面、冷気を浴びせられた箇所が猛烈な勢いで痺れを訴えてくる。
 ドラゴンは驚愕に満ちた表情で冷気が飛来した方角を見る――するとそこには、一匹のモンスターがいた。
 正確に言えばドラゴンの世界のモンスターではない。
 彼が狙った少女に変身しているメタモンの同族である。
 ツインテールのように靡く二本の房は、漂う冷気も相俟って何処か凛とした雰囲気を醸していた。
 「え、えーと……?」
 「ちょっと黙ってるといいです。危ないから、出てきちゃダメですよ――”メタモン”」
 突然の展開に困惑を隠せないメタモンを制して、氷のポケモンはドラゴンへ向き直る。
 その立ち振る舞いは気品に溢れ、恐怖を克服した覚悟の色がありありと見えていた。

 「………ハン、やってくれるじゃねえかよ」
 ドラゴンの憤怒に満ちた声が漏れる。
 メタモンはこれまで見てきたどんなポケモンよりも獰猛な声色に、思わず逃げ出しそうになった。
 それを堪えられたのは、助けてくれたポケモンの存在。
 彼女を置いて逃げるなんて、あの子は絶対にしないだろうから。
 「テメェが何なのかは知らねぇが、嫌いじゃあねえぜ、そういうのはよォ――――」
 ドラゴンは激怒しているが、必ずしもそれが憎悪に直結されているのではない。
 むしろ、彼は喜んでさえいた。このモンスター相手になら、久々に本気の戦いを愉しめるかもしれない。
 激戦の末に鬱憤を晴らせば、戦えてすっきりもできる、まさしく一石二鳥。
 撤退なんて下らない選択肢を選ぶ余地など欠片もない。
 尻尾をブン、と引き、ドラゴンは吼えた。
 「―――つーわけで、一丁死んでくれや、雌戌ッッ!!」
 ドラゴンの肉体がしなる。
 先程負ったダメージは少なくないが、行動不能に陥らせるものかと言われれば否だ。
 あの攻撃……”れいとうビーム”の一発では、ドラゴンを撃破するには足りない。

 「っ」
 ポケモンは振るわれた尻尾を跳躍することで避けたが、予想以上にその威力が高そうなことに気付く。
 彼女の知るドラゴンタイプのポケモンに当てはめるなら、その技は『ドラゴンテール』というところだろうか。
 しかし単純な威力で言えば、ポケモンのどの種類よりも強烈かもしれない。
 これで更に早い速度があったなら、本当に手が付けられなかったろう。
 「ちょこまかとウゼェぞ、オラ、反撃して来いよォ!!」
 ポケモンは考える。
 自分は体力にそこまで優れているわけではない。
 喰らえる限界数は精々二発……三度目を貰えば、間違いなく厳しいことになる。
 強い。このドラゴンは、野性的な強さと、それだけでは説明できないような強さを秘めている。
 「……あなた、最初から野性だったんじゃありませんね」
 「ホォ、よく見抜いたもんだ。褒めてやるよ……俺ァ、元は闘技場で働いてたんだ」
 対話に応じながらもドラゴンの攻める手は弛むことが無い。
 容赦も躊躇もほんのわずかにさえ存在しない、殺すための戦いを理解している動きだ。
 対するポケモンは、ここまで露骨な殺し合いをした経験には乏しかった。 
 戦場の理屈を知っているという点でなら、ドラゴンの方が数段勝っているだろう。
 「尤も、負けちまって大損させて、追放されたけどな。
  ヘッ、腹いせに俺の専属だった野郎には、一発キツイのをくれてやったよ」
 この尾で人間がやられたなら、死なずとも全治にかなりの時間は掛かりそうだ。
 ポケモンは僅かにそこで動きを止める。
 動揺した様子が明らかに窺えるが、それはまるで何かに気付いたかのようなそれだった。

 「ああ、そういやテメェは氷の魔物みてぇだな」
 ドラゴンの口元が獰猛に引き裂かれる。
 注視すれば、そこから僅かな湯気が出ていることに気付けたかもしれない。
 ドラゴンは闘技場で使われていた頃、沢山の経験を積んできた。
 そうでなくとも常識だろう、氷を溶かすには強い熱を浴びせてやればいいことくらい。
 「安心しろや、キッチリ全部焼き尽くしてやるよ」
 ドラゴンの口に火炎が集まる。
 ポケモンは止まっていた動きを、それを見てはっとなったように再び動かした。
 しかし遅い。反応がもう少し早ければ良かったものの、これではあまりに遅すぎる。
 会心の笑みを浮かべるドラゴンは、火炎を迷うことなく放出した。
 「”はげしいほのお”――――ッ!!!!」
 その威力を見て、ポケモンは過去に見た炎タイプの技能『かえんほうしゃ』を思い出した。
 それよりも威力は上だろうか、とにかく相手の目論んでいるだろう通り、氷タイプの自分がこれを喰らえば恐らく一撃必殺だ。
 負ける。……いいや、まだだ。避けることが出来なくたって、やりようはある。


 ”――――いいかい”


 頭の中に、愛したトレーナー(ひと)の声が響く。
 彼は言っていた。ポケモンバトルとは、単なる力比べでは勝てないと。
 あの時確か自分は、道具『パワフルハーブ』を持ったポケモンに勝てないでいた。
 氷タイプの自分が、一撃でも『きあいパンチ』を受けるとそれだけで瀕死にされてしまうのだ。
 一時期はそれで自信を喪失しかけたこともある。


 ”誇りを喪わないのは大切だ。けれど、誇りを貫くことと、死力を尽くさないことは違うんだ”


 そんなとき彼は、当時真剣勝負に固執していた自分に言った。


 ”勝ちたいなら、死力を尽くすコト。それこそが最大の誇りになって、相手の誇りも踏み躙らないからね”


 ――そうだ。
 こういう局面の為に、私は。


 「―――― ”まもる” っ!!」


 この、絶対防御を習得していたんじゃないか。



 「なッ……にィィッ!? アストロン、だと……!!」
 ドラゴンの知る限り、それはアストロンという呪文に酷似していた。
 あれもまた、此方がどんな攻撃をしようと防いでしまうものだった。
 それを、あろうことかこの魔物も習得していたのだ。
 炎は障壁に阻まれ、彼女へダメージを通すことを許さない。
 だが、怯んでいては恰好の的になる。
 ドラゴンは気付けば走っていた。表情は歓喜に満ちている。
 コレは、俺を満足させてくれる。
 コレに勝てたなら、俺は乗り越えられる。
 あの忌まわしい『思い出』を踏み越えて、最強の竜になれるんだ。

 「……ハハ」

 笑いが零れる。
 どうして、笑顔を見せずにいられるだろう。
 自分をここまで追い詰めた輩など、闘技場で自分を負かしたあの一体以来だ。
 あれから経験を積んだ。何度も何度も戦って、何度も何度も敵を倒した。
 俺は強くなった。今の俺なら勝てる。いや、勝たなくてはならない。
 飢えて、飢えて飢えて飢えて飢えて――そうしてここまで生きてきた。
 それを、誰かに否定などさせてやるものか。

 「ハハハハハハァァ――――ッ!! 最高だぞ、てめぇぇぇぇえぇえぇえええええええ――――――――!!!!」

 ドラゴンの哄笑を聞きながら、氷のポケモンはただ悲しそうに瞳(め)を細める。
 気付いてしまった。事情こそ違えど、自分とこの獰猛な火竜は同じなのだ。


 ――ポケモン・グレイシアは、ポケモンリーグを制覇したとあるトレーナーの相棒だった。
 タマゴの頃から彼の、無精髭の似合う少しくたびれた男の愛情を受けて育った。
 勝負に勝てば褒めてくれたし、負けたら慰めてくれた。
 喧嘩をしたこともあった、逆に二人で悪戯をして、二人して彼の娘さんに怒られたこともあった。
 楽しかった。とても、とても楽しくて尊い日々だった。
 ポケモンリーグの最終戦で、自分は彼のエースとして、一対一の勝負をした。
 互いに激戦で手持ちは一匹ずつとなり、相手の繰り出した最後の一匹は――”マルチスケイル”と恐れられたカイリュー。
 激戦だった。けれど最後は、自分の繰り出した一撃がカイリューの急所を捉え、幕引きとなった。
 ……それから間もなくだった。

 今でもはっきりと覚えている。 
 巻き付くような猛毒の煙が、業火に満ちている。
 自分はポケモンリーグでの消耗で動けず、業火にまかれるだけだった。
 ――”彼”は自分を助け出した。
 その代わり人間である彼はガスを大量に吸って、最期まで微笑みながら、炎の中に消えていった。
 それから後の事は、よく覚えていない。
 気付けば氷に満ちた雪原にいた。
 喪失感に支配されたままで、ずっとずっと――暮らしてきた。


 自分には愛があった。
 でもドラゴンには、愛はなかった。
 しかし彼もまた、過去の呪縛を振り払えずにいる。
 だから乗り越えようとしているのだ。
 踏み潰して、支配して、喰らうことで、強くなろうとしているのだ。


 「終わりにしましょう」


 グレイシアの眼前で、冷気が発生する。
 迫るドラゴン。しかし怯むなんてことはしない。
 幕引きは一撃で。あの時のように鋭く速く、正確に。



 「 ―――――――― ” ふぶき ” ――――――――」



 グレイシアの最強の技が、ドラゴンを呑み込んだ。




    ◇


 「……どうやら、勝ったみたいですね」
 グレイシアは冷気の余波を浴びながら、横たわるドラゴンを見て呟く。
 しかし、死んではいない。負っているダメージは大きいが、戦闘不能でもない。
 彼はふぶきの一撃が吹き抜ける寸前に、火炎を吐いていた。
 それはグレイシアのふぶきを打ち破るには至らなかったが、自身への被害を少し和らげていた。
 「――殺せ」
 ドラゴンは哂ってそう促す。
 敗北は野生の世界において紛れもない死を意味する。
 それに彼にとって、もう生きる理由はなくなった。
 あれほど心地よく負けられたなら、一体何を悔いればいいのか。
 不思議と心地よい爽快感が、ドラゴンの心を満たしていた。
 さながらそよ風のように、穏やかな気持ちにさせてくれる。
 「………分かりました」
 グレイシアにはそれが出来る。
 至近距離から無抵抗の相手を殺すなど、とても気が乗るものではないが、これはそういうルールだ。
 グレイシアは殺し合いに乗る気などない。
 己の誇りに懸けて、打破してやる気でいる。
 だが不殺を誓うことは出来ないだろうと、覚悟をしていた。
 これはポケモンバトルじゃない。生死を賭けた殺し合いで、ルールなど存在しない。
 そこでどうしようもない外道を生かしたりしては、いずれ自分の首を絞めることになる。
 ――こんな形となるのは想像もしていなかったが、彼の願いを踏みにじるなど出来るものか。
 「テメェに負けられて、満足だ」
 「えぇ――あなたは強かったです、掛け値なしに」
 スポーツマンのように互いを称賛し合うと、再びグレイシアの元に冷気が集約する。
 今度はこの間合いだ、殺害することも不可能ではあるまい。

 「…………まってっ!」

 そこに、割って入る者がいなければ。

 「あなたは……」
 グレイシアは彼女の正体を一目でメタモンだろうと看破した。
 人間の姿を模しているところを見るに、きっと彼女も自分たちと同じなのだと直感で分かった。
 恐らくは、自分の周りにいた人を模した変身をしたというところか。
 「……退いてください。分からないんですか、あなたの行為は、彼の誇りを侮辱して――」
 「――しんじゃったら、ほこりもなにもないよっ!」

 メタモンはこの中できっと一番弱いだろうことを自負している。
 猿真似以外に取り柄のない自分が、二人のように気高く戦えるとは思えない。
 そしてメタモンもまた、不殺こそが正義だなどとは思っていなかった。
 メタモンなりに割り切っていたのだ。
 考えたくないが、誰かを殺すことでしか喜べないような輩がいたなら、それは仕方のない事だと思う。
 ……けれど、メタモンには認められなかった。
 いくらそれが名誉あるものであろうと、”誇りを守る”なんて理由で命が失われることが、認められなかった。
 「あなたは、なにも解っていない」
 「わかんなくてもいいよ。わたしは、わたしのやりたいようにやる……だれかのまねなんて、まっぴらだもん」
 グレイシアは深く溜め息をついた。
 無理だ。このメタモンは本当に、自分の命に代えてもここを通すまい。
 どんな説得を試みても、グレイシアにはメタモンを納得させられるヴィジョンが浮かばなかった。
 「……だそうですよ」
 ドラゴンは信じられない、という目でメタモンを見ていた。
 彼の常識では、誰かを守ることがまず考えられないことだったのだ。
 野生の世界でそんなことをしようものなら、待っているのは死だけである。
 ――あまりにも幼稚な考え。けれども、幼稚で真っ直ぐなその意志は、決して揺らぐことが無い。
 幼児にためになる講義をしても、理解が出来ないように。

 「どうしろってんだよ、俺に」
 苦笑するドラゴン。
 グレイシアもそれは同じだった。
 これでは八方塞がりだ。
 かといってメタモンとドラゴンを置いて去るのも不安だ、言うまでもなくメタモンがである。
 「まあ……そうですね。それじゃあその命、このゲームが終わるまでお預けにしておきましょうか。
  全部終わったその時には、私があなたを殺しましょう。
  もちろん、あなたがそれを拒めば、話は別ですけど」
 グレイシアの声色は何処か意地が悪い。
 まるでドラゴンが、生きることを選ぶのを確信しているかのようなものだ。
 「そうだ、ふたりともっ」
 メタモンは事態が落ち着いたことを何となく把握したのか、二人から顔が見える位置まで歩いていく。
 そして子供らしい笑顔で、なんとも場違いなことをのたまった。
 「よかったら、わたしのおともだちになってください」
 どうしましょうかねえ、とグレイシアはまたも意地悪気に笑う。
 ドラゴンは「俺ァ子守りの経験なんざねぇな」と、馬鹿にしたように笑う。
 それに唇を尖らせてメタモンは反論しながらも、自分に支給された”すごいキズぐすり”を迷わずドラゴンへ使用していた。


【B-6/草原/一日目/昼】

【メタモン@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:健康、少女の姿に変身中
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身なし)
[思考・状況]
基本:みんなを笑顔にして、幸せにする
 1:殺すことは仕方ないこともあるかもしれないけれど、そうでなかったら反論する
 2:”ともだち”をつくる

[備考]
性別不明、しかし思考などは女性寄り。
一人称は「わたし」、性格は幼い。
少女の姿に変身中。身長は130センチほどで、桃色のショートヘアー。
トレーナーに、強いポケモンを作るためだけに利用されていた。


【グレイシア@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身は不明)
[思考・状況]
基本:誇りに懸けて、必ず主催者を倒す
 1:メタモンと一緒にいる。

[備考]
性別はメス。一人称は「私」、性格は真面目で、口調はですます調。
その昔ポケモンリーグという大きなポケモンバトルを制覇している一匹で、トレーナーとの死別が原因で一人生きることを決めた。
判明している技は『れいとうビーム』『まもる』『ふぶき』、他にもあると思われる。


【ドラゴン@ドラゴンクエストシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身不明)
[思考・状況]
基本:ゲームが終わるまでは生きてみる
 1:メタモン、グレイシアに当分の事はゆだねる

[備考]
性別はオス、粗暴で喧嘩好き。一人称は「俺」。
昔闘技場にて働いていたことがあるが、敗北が原因で追放され、それからは孤高に生きてきた。


《支給品説明》
【すごいキズぐすり@ポケットモンスターシリーズ】
メタモンに支給。
HPを大きく回復するキズぐすりで、基本的にストーリー中盤から終盤でお世話になる。


No.06:さみしさの共振 投下順 No.08:怪物騙
メタモン No.28:歪みの国のアリス
グレイシア No.28:歪みの国のアリス
ドラゴン No.28:歪みの国のアリス