本当に逃がしますか? →はい

火炎が、鮮やかに燃え盛る。
雷撃が、身体の芯まで痺れさせる。
光線が、華麗に的を撃ち貫く。
爆発が、ド派手な音を立てる。
沸き立つ場内。満員御礼。沢山のニンゲンの視線を浴びつつ、アタシは舞う。
でっかい技を放つと挙がる一見さんの驚きの声。気持ちいい。
反撃を避けるたびに挙がるファンの皆の喜びの叫び。心地いい。
試合が終わる一秒前まで、その戦い(ステージ)はアタシの独壇場だった。

「それでも、負けちゃったのよ」

「ソーナンス?」

「終わる寸前に調子乗って観客席に手ぇ振ってさ、その結果がKO負けよ」

「ソーナンス」

対戦相手が最後の一瞬に見せた悪あがき。
たったそれだけでも、か弱いアタシをノックダウンするには十分で。
今までに体験したことがない痛みと衝撃。
言うことを聞かずに崩れ落ちる身体。
意識を失う直前に聞こえた、お客さんの嘆きの声。
あの日から一度だって、悪夢としてうなされないことはない。

「でもまあ、アタシが悪いのよね」

体力のなさ、耐久力のなさをマスターのせいにする気はない。
攻撃を見極め、回避する力を重点的に鍛えられてきたことは理解している。
乙女の柔肌を気遣ってくれたのか、ただ単に種族特性を活かそうと考えたのかは分からないけれど。
彼の回避訓練は完璧だった。事実、アタシはその試合までは一度さえ相手の攻撃を受けたことがなかった。
また、マスターは素晴らしいブリーダーであると同時に優れた戦略家でもあったようで。
対戦相手を分析した彼の的確な指示を受けていると、誰にだって勝てる気がした。
だから、悪いのはどう考えたってアタシだ。
慢心し、油断し、付け上がり、彼の指示も効かず余裕ぶっこいたアタシに落ち度がある。
だから今の状態もしょうがないのかな、なんて思っちゃって。

「アタシはそのあと、病院に担ぎ込まれてさ」

「ソーナンス」

「ホントーに大変だった。リハビリはきついし薬はまずいし注射なんて今だって大キライ」

「ソーナンス?」

「うん。知らない方がきっとシアワセだよ」

そう。知らない方がシアワセなことって、あるんだよ。

……アタシだって知りたくなかった。でも、そうとしか考えられなかった。
自慢じゃないけどアタシってけっこー頭良いからさ。気付いちゃった。
きびしーリハビリを終えてさ、彼の元にまさしく飛んで帰ったら家の前でブラックアウト。気付いたら檻の中。
最初は驚いたけど、少し考えたらすぐに分かることだもん。

「アタシは……捨てられたんだね。売られたって言ってもいいのかな」

「…………」

彼はきっと、言うことをきかずに無様を晒した私に愛想を尽かしたのだろう。
今までのおねだりも、いたずらも、わがままも、私が勝ち続けていたからこそ許されてた。
逆に言えば、負けて、挙句の果てに何か月も病院生活を送るようなモンスターなんていらないんだ。
入院中に捨てられなかったのは世間体ってやつのためかな。それとも少しでもアタシを万全な状態で「ここ」に叩き込みたかったのかな。
これは、罰みたいなものなのかな。
今まで溺愛されてきて、そんな立場に胡坐をかいて敗北したアタシへの、彼からの罰。
「せめて沢山のニンゲンを喜ばせて死ね」っていう、彼からの遠回しな死刑宣告。
でも。

「死にたく、ないなあ」

「ソーナンス」

不思議と彼への、ニンゲンへの怒りは湧いてこなかった。
ニンゲンがいないとそもそも私は円盤石から生まれることも出来なかったわけだし……彼が私を愛してくれていたのは嘘じゃないと思うから。
ただ、彼ともう会えないって思うと悲しくて、辛くて、胸が痛くて。ごめんなさいって謝ることが出来ないのが申し訳なくて。
彼からの罰なんだって思ってはいても、だからって死ぬという選択肢を選べそうになくて。
頭の中が、ごちゃごちゃだ。

「もう、どうしていいかわかんないよぉ……」

思わず土の上にへたりこんでしまう。
どうせ殺し合って最後の一人になっても彼の元へ帰れるわけでもない。
だからといってここから脱出するのも、あのオッサンの話を聞く限りは土台無理な話だって思う。
当然、死ぬのは嫌だ。痛いのは嫌だ。いっそ何も感じないまま冬眠できたらいいのに。
何も感じない、永遠の冷たさの中に閉じこもっていられたらいいのに。

ふっと頭上に影が差す。私の目の前まで近づいてきたのは、さっきから相槌を打ってくれてた水色のモンスターだった。
はじめはおっかなびっくり、慣れてきたのか途中からはすいすいと私の頭を撫でてくれる。
無言で。だけど優しい表情のままで。

「慰めてくれてんの?」

「ソーナンス!」

そういってヘラヘラと笑うこいつの顔を見ると、少しほっとする。
たまたま出会って、こっちの身の上話を一方的に聞かされて、そんなジコチューなアタシを気遣ってくれて。
ヨイモンってこういうヤツのことなんだろうなって漠然と思う。

「ごめん、もう少しだけこのままでも、良いかな」

「ソーナンス」

よりかかる、あたたかい。少しだけ、シアワセな気分になる。
これからどう動くか、全然決まらないけど。
この、何もない時間が。トレーニングも修行も大会も何も考えずに済む空っぽの時間が。
永遠に続けばいいのに、なんて馬鹿なことを、少しだけ考えた。



【C-6/森/一日目/昼】

【ピクシー@モンスターファーム】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:どうすればいいか分かんない、でも死にたくない。
 1:今だけは、このままで。

[備考]
メス。数か月前まではブリーダーに飼われていた。



彼の存在意義は、攻撃を受けることだった。

こうげきをカウンターで返し。
とくしゅをミラーコートで返し。
受けたダメージを、二倍にして返す。
死に際には相手をみちずれにして。
状況によっては相手の攻撃をアンコールする。

それらの前提条件として、彼はありとあらゆる攻撃を受け続けた。

彼は本当は、戦いが何よりも嫌いだった。
自分が痛ければ、相手はその二倍痛いのだ。それはとっても、かわいそうだ。
だから彼はバトルのたびに相手の身を案じ、身を削る思いで攻撃を返し続けた。
捨てられたのは、そんな性格がバレてしまったからかもしれない。
ただ単純に、弱いと思われたからかもしれない。
もしかしたら、カネのために売り払われたのかもしれない。
いずれにせよ、主人のモンスターボールの中にいたはずの彼は、いつの間にか檻の中に閉じ込められていた。

はっきりと分かることは一つ。
卵から孵り、時にバトルに参加し時に飴をもらいレベルを上げ、進化し。
その後も自分と共にあり続けてくれた主。
彼との繋がりが、なくなってしまったのだということ。
もっと正確に、言ってしまえば。
自分は、もう主に必要とされなくなったのだということ。

彼女に親身になったのは、そんな空虚さを埋めるためだった。
戦い。殺し合い。バトル。
この地のルールで彼が出来ることと言ったら、死ぬまで悪意を二倍にして返すだけ。死んでから相手を道ずれにすることだけ。
そんな相手を殺す力、殺し返す力だけに長けている自分でも。
空も飛べず、穴も掘れず、岩を動かす怪力もなければ、木を伐れる居合切りの技術も持ち合わせていない自分でも。
誰かに必要とされていると、勘違いでも良いから感じたかった。
彼が望むものは、争いではなく繋がりだった。
彼が欲しいものは、勝利ではなく温もりだった。

「アンタ、良いヤツね」

「ソーナンス!」

「自分で言うもんじゃないっての、まったく」

「ソーナンス!」

「……あったかい」

「ソーナンス!」

ただ。
傲慢だろうと、偽善だろうと。
彼女のそばにいてあげたいと。
彼女にも温かくなってほしいと。
感じた気持ちは、嘘ではなかった。


【ソーナンス@ポケットモンスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:ソーナンス!
 1:ピクシーのそばにいてあげたい。

【備考】
オス。連れてこられる以前はポケモントレーナーに育てられていた。


No.01:邪知暴虐の王 投下順 No.03:チキン・ラン
ピクシー No.28:歪みの国のアリス
ソーナンス No.28:歪みの国のアリス