描き出す未来図

いつからだろうか、その伝説が人に、ポケモンたちに、囁かれだしたのは。
曰く、それは黄金に輝く鎧を纏い、漆黒のマントを靡かせて、炎の剣を掲げし者。
人であるとも、ポケモンであるとも、人でもポケモンでもないとさえ囁かれし者。
彼の者は悪しきを挫き、弱きを助けし者。
人、その者を――勇者と呼ぶ。




「……っ、戻れえええっ、ガー太郎!」

青年が付き出したモンスターボールから放たれた光が傷だらけのガーディーを包み込む。
ガーディーはまだいける、やらせて欲しいとばかりに抵抗するも、そのままボールに吸い込まれていく。

(わりいな、ガー太郎。お前がよくても、俺っちが駄目なんだ。もうこれ以上、お前たちが傷つくのを見たくないんだ)

分かってる。これがその場しのぎにしかならないどころか、状況を悪化させるだけの選択なのは誰よりも青年自身が分かっている。
分かっていて尚、彼には立つことも叶わなくなった自分のポケモンを前に、こうするしかなかったのだ。
ここでポケモンたちに無理をさせられるような人間なら、こんな所に一人で乗り込んだりはしなかっただろう。
こんな、こんな――悪の秘密基地になど。

「おや、どうしました? 新しいポケモンを出さないのですか?
 我々が瀕死にしたあなたのポケモンは5匹。ポケモントレーナーなら後一匹持ってきているものですよねえ?」

白衣のスナッチャーの言う通りだ。
ポケモントレーナーが連れ歩けるポケモンは最大6匹まで。
本来、6匹以上捕まえているトレーナーなら、万一に備えてとりあえず6匹満員で連れ歩くだろう。
捕まえたばかりのポケモンでも主力のポケモンを回復するまでの壁にはなるし、何なら一撃で倒されること前提で盾にすることだってある。
そんなのは賢いポケモントレーナーにとっては常識だ。
別に非道でもなんでもない。勝つためにはあたりまえのことなのだ。

だが。
青年が手持ちに用意してきたポケモンは5匹。
5匹で戦うことの不利を承知で、敢えてその定石に背いていた。

「ああ、それとも。わたくし共にポケモンを盗られたせいで6匹目を用意できなかったとか?
 それはそれはご愁傷様! 果てさて君のポケモンはどの子かな~?
 こちらのチコリータですか? それともあちらのブラッキー?」
「ちげえよ、俺っちのポケモンは、ぺー介っつうんだよ!」

これもそれもそう、他所様のポケモンを商品として見せびらかすこのクソッタレなポケモンスナッチャーにポケモンを盗まれたから?
否。
盗まれたことは事実だがそれにしたって即席でも6匹目を用意してくればよかったのだ。
暇さえ惜しんでタマゴ孵化を繰り返していた青年なら、非理想個体のポケモンが山程余っていたはずだ。
第一、盗まれたのはコンテスト用のポケモンだ。
バトル用のポケモンは手付かずだった。
なのにフルメンバーで来なかったのは即ち、奪われたポケモンを取り返した時に、その場で抱きしめてやりたかった青年の我儘に過ぎない。
手にしたポケモンの7匹目は自動的にパソコンへと送られてしまう。
それを回避しようと、すぐに手持ちへと加えなおしてやりたいばかりに、青年は愚行を成したのだ。

ああ、そうだ。
愚かとしか言いようが無い。
たった一人で悪の組織に挑んで壊滅させられる。
そんなことができるのは未来のチャンピオンくらいだ。
そもそも青年はそのパンクでロックな風貌が指し示すよう、ここ最近はバトルを離れコンテストにのめり込んでいた。
空いた時間で片手間に卵の厳選こそしていたがポケモンバトルのブランクは相当だった。
せめてバトルに強い知り合いに協力してもらうとか、ジュンサーさんや国際警察に通報するなどすれば勝負にもなったろうが……。
孵化作業も放り出し、いなくなったポケモンを探してる中でコンテストを見に来る好事家たちから掴んだ闇取引の情報。
コンテスト上位に入る愛らしいポケモンたちを売り渡す日がまさに今日この時だと知ってしまった以上はすぐに動くしかなかったのだ。

その結果がこのザマだ。
大事なポケモンを取り戻せないどころか、このままでは他の手持ちまでスナッチャーやブローカーたちに捕まってしまう。

(すまねえ、ガー太郎、ナット君、ニョロ之、王ドラ、スッピンピン……。
 俺っちの無茶に付きあわせちまって。せめてお前たちだけでも!)

ならば青年にできるのは命をかけてでも仲間たちを逃がすくらいだ。
そのためなら敵に背を向けるというトレーナーとして恥じる行為も厭わない。
ここまで使っていた自転車は度重なる敵の迎撃で既に原型を留めていないが打つ手はある。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああ!」
「むう!?」

ボタン一押しで靴底のスケートが展開する。
ポケモンコンテストでポケモンたちだけでなく、自分たちも跳んだり踊ったりできないかと取り寄せたおニューのローラースケートだ。
こんなことに使う羽目になろうとは思ってもいなかったが出し惜しみするわけにはいかない。
まだあまり出回っていないアイテムだからだろう。
ランニングシューズだと思い高をくくっていたのだろう白衣からはぐんぐん遠ざかり、青年は入ってきた出口へと近づいていく。
これならば或いは……。
僅かながらに逃げ延びる可能性が見えたその刹那、

「ええい、他の者たちは何をしているのです! 基地を壊したくはなかったのですが、仕方ありません。
 サザンドラ! りゅうせいぐんです!」

影が、落ちる。
どこから?
後ろからではない。
上からだ。
屋内だろうが容赦なく降り注ぐ流星群に打ち据えられ、青年が地面を転がる。
600族のタイプ一致技を生身で受けたのだ。
マサラタウンに生まれたわけでもなく、武闘家ならざるポケモンコーディネーターの身で耐えられるはずがなかった。

「あ、ぐっ、ガっ、は、ひ」」

スケートは砕け散り、全身の骨が何本も持って行かれた。
それでも尚這いずり出口を目指そうとするも、遅々として進まず、撒いたはずの白衣が姿を現す。

「頑張りましたがここまでです。また何かされても堪ったものではないですからねぇ―。
 とどめをさしてあげなさい、サザンドラ! もう一度りゅうせいぐんです!」

特攻が下がっていようが、再びの流星群は青年にとって処刑宣告だった。
今一度落ちる影に、青年は目の前が真っ暗になっていく。

(ち、っき、しょおお……。死ぬのならぺー介と舞台の上で死にたかった……)

これが走馬灯という奴か。
ボールに入れず、一緒に布団で寝たりもしていた相棒のことばかり最後の最後に思い出してしまう。
青年は涙した。
楽しかったあの日々に。
救えなかった相棒に。
巻き込んでしまった仲間たちに。
無力な自分自身に。

そして

「流星群か。こんなもの、アイツのメテオに比べればただの石ころだ」

最後の時はいつまで経ってもやってこなかった。

「……え?」

誰とも知れぬ声に恐る恐る目を開ければ、破片さえ残さず粉砕された流星群の姿。
それを成したであろう存在は、青年に背を向け庇うかのように立っていた。

(学ラン……? スクールボーイか……? なんでこんな所に。
 俺っちと一緒で盗られたポケモンを取り返しに来たのか?)

這いつくばったままの青年には、背を向ける乱入者の顔は見えない。
ただ、小柄な身長と身を包む服装から学生と判断したまでだ。
けれど事実は違ったらしい。

「ル、ルカリオだと!? けったいな服装をしているがいやそうか、コンテスト用のポケモンか!
 さっき人の言葉を話したのも芸ということですね!
 なるほど、それが君の6体目ということですか!」

ルカリオ。
言われてみれば学ランから垣間見える頭部は青い。
何故か頭頂部には金の王冠が輝いているが今はどうでもいい。
重要なのはこの乱入者は、青年のポケモンではないということだ。
やはり他のトレーナーが助けに寄越してくれたのだろうか?

「あ、あんたは一体……」
「人間か。お前がポケモンの敵でないというのならそこでじっとしていろ。すぐに終わらせる」

こちらの問いかけに僅かながらに振り返り、むべもなく答えた顔は確かにルカリオのそれだ。
人間の言葉を扱うのには驚きだが、声というのもつまりは音の波。
波導使いのルカリオがテレパシーのように人語を伝達できても不思議ではない。
噂では古の波導使いの弟子だったルカリオも人語を話せたというし。
それよりも今、気になるのはルカリオの言葉の内容だ。

(すぐに終わらせるって、まさか一匹でか……? む、無茶だ!
 あのスナッチャーは違法取引で儲けた金に任せて強力なポケモンを揃えてやがる!
 俺っちのポケモンたちだって歯が立たなかったんだ、一匹で勝てるはずがない!)

スナッチャーも同じことを考えたのだろう。
馬鹿にするように鼻を鳴らしてポケモンを入れ替える。

「言うじゃないですか。弱体化していたサザンドラの攻撃を止めたくらいで調子に乗るんじゃありませんよ。
 ルカリオごとき、このポケモンの敵じゃないんですよ、ねえ!」

三つ首の竜の代わりに現れたのはファイアロー!
言わずと知れた環境上位のポケモンであり、タイプはほのお・ひこう!
最悪だ。
かくとう・はがねのルカリオに勝ち目はない。

「さあ、やってしまいなさい、ファイアロー! フレアドライブ!」
「クアアアアオッ!」

主の命を受けたファイアローが炎を纏いルカリオへと強襲する。
青年とのバトルでのブレイブバードの威力から察するに持ち物は命の珠。
上乗せされた火力と相性補正でルカリオはよほど耐久構築でもない限り確定一発だ。
万事休すか!?
鳴り響く激突音に肝を冷やす青年。
その心配は思いもよらぬ手段で覆されることとなる。

「ヌルい! あの銀月の魔の踏み込みはもっと鋭かったぞ!」
「な、何ですかそれは、炎の、剣!?」

ルカリオはブレイブバードを両手に掲げた、いや、違う、天高く掲げた足――本来、足がある場所に接続した剣で受け止めていた。
袖を通していたのではなく、羽織っていただけの学ランはマントのようにはためき、その内を露わにする。
表出したルカリオの身体には、両腕がなかった。右足もなかった。左足だけがあった。
欠けた足を補うように炎の剣が接続され、義足となっていた。

(ああ、なるほど、そういうことか。
 炎の剣ならタイプは炎・鋼でフレアドライブも等倍……いや、まさかあれ、貰い火か? 剣が炎を吸収している?)

思いもよらない光景に、却って冷静になってしまった青年の前で、異形のルカリオは反撃に打って出る。

「ギガスラッシュ!」

ファイアローの突撃との鍔迫り合いを押し切り、炎を失った敵に対して、今度は足の剣に雷を帯びせ踵落としの容量で切り裂いたのだ。
かみなりパンチならぬ、かみなりキックに近い、かみなりソード。
無論効果は抜群であり、哀れファイアローは地に落ちる。

「いくら鋼タイプだからとはいえルカリオが剣を使うだと!? ギルガルドでもあるまいに!」
「どうした、次のポケモンは出さないのか?」
「……っ、調子にのるなと言いましたよねええええええええ!」

ルカリオの挑発にスナッチャーは戻したばかりのサザンドラを再び繰り出す。
サザンドラだけではない。
ギルガルドが、ウォッシュロトムが、エーフィーが姿を現す。
炎の剣という謎の持ち物を装備した正体不明のルカリオ相手には常のタイプ相性は通用しないと判断したからだろう。

「両腕のない身でこれだけの数が捌けますか!? お前たち、あのポケモンを殺しなさい!」

まずはエーフィーから超常の力が放出され動きを奪おうとするも、ルカリオから発せられた邪悪なる波導がこれを打ち消す。

「死亡遊戯!」

悪鬼を身に宿したルカリオはそのまま攻撃に転じ、その場で左足を軸に、剣の足で回転斬りを放つ。
剣より生じた無数の飛ぶ斬撃は、そのままスナッチャーのポケモンを全滅させんとするも王の盾に防がれる。

「今だ、やれええ!」

そうしてギルガルドの後ろに隠れていたウォッシュロトムが、サザンドラが飛び出す。
ルカリオの足は大技を放ったばかりだ。
すぐには体勢を立て直せまい。手も足も出せないルカリオは、されど、経験から残る攻撃手段を知っている!

頭だ。まだルカリオには頭が残っている!
空中で身体を一回転させてからのサザンドラの突撃をカウンターの頭突きで撃墜。
味方ごと貫けと命じられ発射されたウォッシュロトムのハイドロポンプも、ルカリオの身体から放たれた波導弾に相殺される。

(すげえ、捌ききった!)

青年が安堵しかけるも、まだだ、まだ敵の攻撃は終わっていなかった。
サザンドラが使った技の名はとんぼ返り。つまりそれは、入れ替わりに第二陣がやってくることを意味する!

「これで終わりです!」

モンスターボールより射出された巨体の持ち主はマンムー。
倍ほどの身長差もあるルカリオを、マンムーはその巨体と馬鹿力で押し潰さんとする。
手もなく、足も頭も波導も出しきったルカリオに、これを凌ぐ手がないのは目に見えて明らかだった。
なのにどうしてだろう。
このルカリオなら、さっきまで同様なんとかしてくれるのではないか。
青年はいつしかそう信じてた。
故に、目を伏せることのなかった青年は次の瞬間、瞳に焼き付けることになる。

――奇跡を。

輝く両の義手でのしかかってくる重さ291キロのマンムーを軽々と持ち上げたルカリオを!
黄金の鎧を身に纏い、炎の剣を携え、学ランをマントのごとくなびかせる波導の勇者の姿を!

「そ、その姿は一体……! まさか、メガシンカ!?」
「違うな、アーマー進化だァァァッ!!」

言うやいなやルカリオはマンムーをブレードフォルムに切り替えて打って出ようとしていたギルガルドに投げつける。
そして空いた両腕で撃ち込むは必殺の波導弾!

「全画面攻撃で一気に決めさせてもらう! 活ッ!殺ッ!豪ォ……波導弾!!!!」

これまで受けた攻撃の全てを波導として取り込んだ極大の波導弾はスナッチャーのポケモンたちを一撃で打ちのめし気絶させた。

「貴様で最後だ」
「ば、馬鹿な……。たった一体のポケモンにわたくしのポケモンが……全滅?
 いや待て、全滅だと? わたくしで最後、だと? ま、まさかこれだけの騒ぎで尚部下たちがやってこないのは……」
「貴様がそこの人間に手こずっている間に私が全て倒し、ポケモンたちも解放したまでだ」
「この施設の人間とポケモンをたった一人で、だと!?
 そんなこと伝説のポケモンでもなければなせるはずがない!
 いや、そもそも君はポケモンなのか!? 悪魔だ、そうだ、その力、その威容、悪魔に違いない! 
 う、うわあああああああああああああああああああ!」
「……黙れ、愚かな人間め」

どすり、と。
取り乱すスナッチャーの腹部にルカリオの拳が突き刺さり、声を失う。

「こ、殺したのか……?」
「……この人間たちに復讐する権利は私のものではない。お前たちの好きにしろ」

疑問に答え、もうやることは終わった、興味はないとばかりにルカリオは鎧を消し立ち去ろうとする。

「待ってくれ!」

青年はその背を引き止めた。

「……何だ?」

胡乱げに見つめてくるルカリオ。
どこか敵意さえ感じるその視線に竦み上がりかけるも青年は立ち上がり、背筋を伸ばし、頭を下げた。
自分よりずっと小さく、細い体に、ありったけの感謝を込めて。

「ありがとう、あんたのおかげで助かった!」
「別に……お前のためにしたわけではない。私はただ私の仲間たちが売り買いされると聞き助けに来ただけだ」

照れてる、というわけではない。どうやら本当にそうらしい。
ポケモンコーディネーターとして、コンテストの観客たちの喜怒哀楽を読むに長けた青年はすぐにそう理解した。
理解した上で、頭を下げ、感謝の言葉を続け、一番聞きたかったことを口にする。

「そうか……。なら厚かましいかもだが聞かせてくれ! その仲間に、ポケモンたちに……俺っちのペー介は、ジュペッタはいたか!?」

果たしてここに、いなくなった自分のジュペッタは囚われていたのかと。
ペー介――彼がコンテスト用に育て抜いた自慢のアイドル。
布団で寝ていたはずなのに朝になったらいなくなっていたポケモン。
ペー介が逃げたとは青年には考えられなかった。自分とぺー介の間には確かに絆があった。
そう確信できるだけの時間を共に過ごしてきた。
だから探した。探して、探して、一縷の望みを賭けて、こんな無謀とも言える潜入すらやってのけたのだ。

「ジュペッタ……。いや、捕まって商品にされていたポケモンの中にジュペッタはいなかった。
 だが……聞かせて欲しい。そのジュペッタがいなくなったのはいつの話だ?」

現実は非情だった。
ぺー介はここにいなかった。
そのことに青年は項垂れ膝を尽きそうになるも、命の恩人の問いかけに応じないでいるほど恥知らずではない。
それに、気のせいだろうか。
ルカリオから感じていた敵意が和らぎ、真摯にこちらと向い合ってくれているように思えるのは。
青年は答えた。
ジュペッタがいなくなったと日にちと、消えたと思われる時間帯を。

「そうか……。その日時ならやはり……」

得心がいったとルカリオが頷き、口を開く。

「……残念だが、ペー介は、お前のジュペッタはもうこの世にいない」

告げられたのは最悪の真実だった。
今度こそ崩れ落ち、泣きじゃくる青年にルカリオは続ける。

「私も詳しくは知らない。
 だが、俺を救ってくれた勇者が言っていた。
 『ジュペッタは……僕の友だちは、人間のご主人様が大好きだった』、と」

そんな、青年にとっては当たり前のことを。

「知ってる、よ。俺っちは、あいつのご主人様で、あいつは俺っちのアイドルなんだぞ!?」
「……なら、誇れ。お前のパートナーは勇者に勇気を与えるほどのアイドルだった。
 勇者がお前を愛するお前のジュペッタを信じたからこそ、俺も勇者を信じ、お前を……人間だからと殺さない」
「なんだよ、勇者、勇者って……。あんたは勇者じゃないのかよ」

この目に焼き付いた勇姿を、勇者と言わずに何というのか。
嗚咽しながら訴えかける青年に、ルカリオは静かに首を横に振る。

「俺はよくて見習いだ。勇者の代理をしているに過ぎない。そして今、お前のおかげで俺は一つ勇者に借りを返せた」
「……それなら、それならよう。あんたは、どうすんだ。
 勇者の代理を果たし終えて、その後あんたはどうなんだ……」

止めどなくあふれる涙は、相棒を失ったことへか、それともこの細くてちっぽけで今にも消えそうな勇者の未来を嘆いてか。
延々と泣き続ける青年に、そうだな、と呟いて。
どこか昔を懐かしむように目を閉じ、少しだけ考えて。
ルカリオは。小さな勇者は答えを口にした。
青年に。自分自身に。いつかの、誰かに。

「生きるさ。生きて生きて生きて。帰れる場所を探して。そして。そう、だな。

 伝説にでも、なるとするさ。

 この世界で生きるグレイシアにだけじゃない。
 天国や地獄にいるボナコンたちや、異界で生きるハムライガーやレナモンにも伝わるような。
 アイツらの死を、俺たちの生を伝え続けるそんな伝説に」

そう言ってルカリオは一度だけ小さく笑って。
止めていた歩みを再開し、基地の入口へと辿り着き、扉を開け、陽の光の中へと消えていった。




これはある勇者の活躍の一ページ。
勇者に助けられたポケモンコーディネーターがポケモンコンテストライブで観せた劇の一幕。
今はまだ知る者は少ないだろう。
だけど勇者が今を生き、死して尚伝説として生き続けるというのなら。
いつしか誰しもが知ることになる。

彼が背負った罪を。彼が奪った命を。彼を救った者たちを。彼と共に戦った仲間たちを。彼が送った生を。彼が帰り着いた場所を。



【ルカリオ@ポケットモンスターシリーズ   そして伝説へ…】

No.94:だけど、生きていく 時系列順 No.96:手をつなごう
No.94:だけど、生きていく 投下順 No.96:手をつなごう
No.92:延長戦 ルカリオ No.96:手をつなごう

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最終更新:2017年11月19日 00:00