It's Time to Play

――おしてみよう ポチッとな!



その異変はまず、地響きから始まった。
足下が急にせり上り、次の瞬間に体は宙に投げ出されていた。
そのまま視界がグルグルと回転、瞬く間に光景が切り替わっていく。

鳴動はすぐに止んだ。
気がつけばチャッキーは砂の上に転がっていた。
かたりかたり、と木の擦れ合う音を立てながら身を起こす。

フィールドの状況は一変していた。
先ほどまで自分がいた森や山は全て取り払われ、高い石壁で囲まれたグラウンドが広がっていた。
空は先ほどと変わらず、星々の煌めく漆黒が広がっているものの、地の方は妙に明るい。
というのも巨大な照明がいくつも取り付けられ、グラウンド全体を満遍なく照らしているからだ。
ジオラマのようなコートのような、そんな人工的な空間があった。

真っ先に目に付いたのは、会場の中心にたたずむ巨大な戦車――モリー曰く最強のモンスター。
スラリンガルと呼ばれたあの中に、モリーがいるのだろう。
ただ、その形状は、先刻チャッキーが切り刻み尽くした青色の魔物を模していた。
チャッキーは苛立つ。
またあの青色の相手をしなくてはいけないのか、とうんざりする。

かたり、かたり……。

と、そのときだ。
彼の体の軋む音に被さるように、わぁっと歓声が響いてきた。

「……!!」
「~~ッ!!」

チャッキーが見上げた壁の上から、人間たちの声が聞こえてくる。
よほど騒がしいのだろう。山よりも高いその位置から、うっすらとだが声が届く。



あはっ



チャッキーは目を輝かせて笑った。無邪気に笑った。
ふくろからブイモンの骨を取り出し、壁の上へと思い切り放り投げる。
それは大きな放物線を描き、骨はその高さを飛び越える。

ぐしゃり
それが着弾すると、歓声は一時的に鎮まり、――そして悲鳴へと変わった。

それっ、と軽快なかけ声と共に、次々に投げ込んだ。
ぐしゃ ぐしゃ ぐしゃり 
ここからでは聞こえる悲鳴は微かなものだ……しかし、それは確かなもの。
耳をつんざくような甲高い、恐怖を端的に表した「悲鳴」という音色。
尖った骨はくるくると回転しながら宙を舞う。
当たれば傷を負う……いや、人間の柔らかな肉体なんて軽々と貫けるだけの殺傷力はあるだろう。

あは、あはは、あはははっ

気がつけば、ふくろの中は空になっていた。
……そろそろ上の光景を見てみたい。
チャッキーは、自身の頭を真上へと思い切り投げた。

さぁ、一体どんな光景になってるのかな。
けたけた けたけた けたけた けたけた けた
きっと鮮やかな赤に染められた、愉快な光景に違いない。
けたけた けたけた けたけた けたけた けた
無数の凶器に体を刺され、"死"を突きつけられる獲物たちの姿……ああ、楽しみだ。



かたり。

……だが、期待していた阿鼻叫喚図をその目で確かめることは出来なかった。
チャッキーの頭部は少なくとも、肉片よりも大きく、そして重い。
モンスター特有の腕力、投擲技能を用いても、壁の高さには及ばなかった。

落ちてきた頭を受け止め、元通りに填め直す。
……つまらない。面白くない。せっかくの楽しめると思ったのに。
ブイモンの肉塊さえ残っていれば、それを足場に上に行けたのに。
どうすれば上に行けるんだろうか。
沢山の獲物たちがひしめく遊び場がすぐそこにあるのに。

口をかちかちと鳴らし、しぶしぶと歩き始める。
きっと、先にモリーを殺さなくてはいけないんだろうな。
モリー……俺をこんな楽しいパーティに招待してくれた男。
いいさ、ならそのお礼に死をくれてやるだけだ。

戦車の方へと足を進める。

かたかた、かたり。
かた、かたり。

歩くたびに、打楽器のような、一定のリズムが刻まれる。

かたかた、かたり。
かた……。

リズムが止まる。

……。




「竜の死体か」

足を止めた彼の前にあるのは、幾度と無く目にしてきた参加者の亡骸。
亡骸自体には何も感情は浮かんでこない。
生者を死に至らしめるのが楽しいのであり、既に事切れたものなどどうでもいい。

「随分と手が込んでいるな……」

ただ、彼が興味を引いたのはその亡骸の殺され方があまりに悲惨だったからだ。
その巨大な竜の屍は、バラバラに解体されていた。
一部の部位は肉をすべて剥がれ、骨のみとなっている。
そして、血がほとんど流れていなかった。血をすべて抜かれていた。

ギリギリまで生かしたまま行なったのか、もしくは死んでからこれだけ遊んだのか。
なんにせよ、ここまで好き放題弄くり回したならば、手に掛けた者もさぞや満足だろう。
自分ももっと心が満たされるような殺し方をしたいな、と、そう思った。


――なお、これは数時間前に料理の材料として使われた、バトルレックスの亡骸である。
  あくまでも調理のために切られたのであり、チャッキーが考えるような意図によって解体されたわけではないのだが、彼は知る由もない。


「あ、そうか」

そうだ、ここから補給すればいいんじゃないか。
壁の上へ上がるための肉塊を、人間を殺戮するための武器を。

先刻の戦いにおいて彼は放り投げた肉片を足場にするという芸当を見せた。
そう、道具さえあれば、彼は壁の上へと登り詰める事が可能なのだ。

バトルレックスの屍へ寄り、グラディウスの刃を通す。
鱗の間に刃を滑り込ませ、ぶちりぶちりと剥いでいく。
皮に切れ目を入れ、力任せにベリベリと引っ張る。
露出される薄い脂肪と筋肉、それをナイフで切り取ると白い骨が見えた。

竜の骨は貴重だと呼ばれる所以は、その頑丈さと質の良さにある。
そう、例えばそのまま棍棒として使うだけでも十分な性能を持っているのだ。

聖なる短剣グラディウスを用いれば、そんな頑強な骨も切断出来た。
ガリガリと削り落とし、手頃なサイズへと調節しておく。
続いて顎の筋肉を剥離させ、牙も抜き取っていく。
岩をも砕く強固な牙を握ると、チャッキーはうっとりと眺めた。

「なかなかだな……」

まだ血生臭さの残る、新たな武器を軽くお手玉してみる。
やはりいい素材だ、使い心地が良い。
理想とすれば、自分の獲物から作り上げたかったところだが。
……やむを得ない、今だけは我慢しよう。

ぐるり、と頭だけを回して観客席を見回した。
先ほどは全く見えなかったが、ここなら見える。
実に壮観だ。なんてたくさんの人間達がいるんだろう。
あれらを全て血に染めたら、きっともっと素晴らしい光景になるだろうな……!


けたけたけたけたけたけたけたけた……

もはやモリーとスラリンガルの事など眼中に無い。
俺の殺人衝動が満たされるプレイランドが、あの壁の上にあるのだ。
さぁ、欲求を満たそう。

――遊びの時間だ。

けたけたけたけたけたけたけた……



【E-4/平地/二日目/黎明】

【チャッキー@モンスターファームシリーズ】
[状態]:頭部左端欠損、興奮
[装備]:グラディウス@ファイナルファンタジーシリーズ
[所持]:ふくろ(バトルレックスの遺体)
[思考・状況]
基本:いつもどおりに殺戮する
 1:観客席へ上り、思う存分殺しまわる
 2:モリーや他の魔物は後回し


No.88:ハルモニア 時系列順 No.89:ブルーディスティニー
No.86:交差して超える世界 投下順 No.88:ハルモニア
No.82:殺戮人形は祭りの時を待ち望む チャッキー No.91:決勝(1)