先見えぬ王道

「…………」
別れを告げることは出来なかった。
スライムは目の前で消え失せた、ただ何も無くなった空間を見てモルボルは大きく嘆息をもらす。

また、目の前で死が起こった。
今度は、名も知らぬ魔物の時とは違う。
命令を下すことが出来た。その結果、スライムは死んだ。そして己もまた、死んでいた。
しかし、蘇生した。
生命の川とも言うべき、幾千万ものスライムは皆死に、自分だけは生きてしまった。
王とは何なのだろうか、いたずらに命を浪費する存在であるのか。

頭上で輝く王冠が、モルボルには滑稽に思えてしまう。
「何が……王だ」

王冠を投げ捨ててしまいたかった。
何も出来ぬ裸の王など、いない方がマシというもの。
己の王位ごと、命をも捨ててしまいたい。楽になりたい。

うねる触手が王冠をとらえる。

「…………わかっている」
しかし触手が王冠を外すことはなかった。

「これが王の重みだ」

名も聞けぬままに、踊る魔物は死んだ。
自分が王である故ではない、しかし己のために彼女は死んだ。

自称王であるスライムは、己の過ちによって死んだ。
果たして、自分に過失があったかどうかはわからない。
だが、結果論として奴も己も死に、全滅に追い込まれたというのならば、それは王の責任だろう。

そして善良なる一スライムは、己の本体を殺されながらも、それでもなお、理想を己に託し、死んだ。

民がいて、国が興る。
土地があって、国が生じる。
しかし、国という存在のために必ずしも王は必要ではない。

そして、モルボルは裸の王だ。
国土も無く、民もおらず、ただ王とだけ名乗っている。
王を名乗る狂人と変わらない位置にあると言ってもいい。


それでも、モルボルは王になった。


彼は先王に王冠を託されたのだから。


「重いな……だが、構わん」
もう、後悔をしない。
千の死体を積み上げてでも、万の死体を積み上げてでも、それでもモルボルは進むだろう。
託された物の重みは、足を止めることを決して許さない。

進む、伴も持たず唯一匹の王として。




「……さて、どうしたものか」
最早、時間が経ちすぎてしまっている。
流石に先程会った三匹にチャッキーの危険性を伝えようにも、合流は難しい。
かといって、チャッキーを追おうにも一匹でかかってはただ死にに向かうようなもの。
感情としては託された思いのままにチャッキーに復讐戦を挑みたいところであるが、それは唯のロマンチシズムなのだろう。
確実に勝てる状態になるまでは、チャッキーを深追いすることもまたよろしくはない。
ひとまず、北に向かおうと思った。
まだ、一度も訪れてはいない。
何が待ち受けているともわからぬが、探索のし甲斐はあるだろう。

橋を渡り、森を抜け、そして。
「なんだこれは…………」
モルボルが発見した物、それは最早死体の体をなしてはいない。
ただ広がるままになった肉の絨毯、そんなものだ。
異常性でいえば、先に会ったチャッキーもそうだろう。
だが、性質が違う。
チャッキーは凶気であったが、この状態の下手人は狂気の存在なのだろう。

死体の饐えた臭いが鼻を刺激する。
だが、己もモルボル――臭い息を武器にする存在である。
臭いに対する嫌悪感も、この光景に対する悍ましさもなく、ただ被害者に対する哀れみのみ。

「許せ、何もかもすべてが終わってからだ」
埋葬をしている時間は無い。
動かなければならない、もう二度と誰も己の不徳のために殺したくはない。

「その上、追い剥ぎのような真似、許されぬだろう……だが、我が未来の民に、少しでも力を集めたい」
そう言って、放置されたせいなるまもりをふくろに収める。
その性質をモルボルは知らない、だがこの場にある以上はなにか力あるアクセサリーなのだろう。



せいなるまもりを収め、再び進む。
そこで、モルボルは進む先に戦いを見た。
最早、モルボルの移動速度ではどう足掻いても間に合いようがない。

そして、いざ間に合った時。
モルボルの力では介入することは不可能であることを悟った。

その戦いは、まるで神話の光景のように思えた。
一二枚羽の天使と破壊神の壮絶な死闘。
最早、王という存在が阿呆らしくなるほどの神の領域とも呼べる世界。

だが、それでもモルボルは目を離せなかった。
下を向いて諦めることはしなかった。
敵が神であろうと、自分が王であるならば――決して諦めることは許されぬ。

二人の破壊神が去り、ただ破壊の傷跡のみが残る大地。

最早、生存者はいないだろう。
それでも、残された死の姿を目に焼き付けなければならないだろう。
それが王の義務だ。

辺りを散策する。不自然なほどに、死体は無かった。まるで完全に消滅してしまったかのように。
ただ、支給品だけが雑然と散り乱れ、そして袋から漏れたある支給品にモルボルは気づく。
それは、この世界にあってはならないものであると――王としての自分ではなく、モンスターとしての自分の本能がそう感じた。
それは門だ。ここに無き世界を、この世界と繋ぐ極小さく、そして何者も通れる門だ。

『ボーイ達……まずは、ご苦労と言っておこう』
空から、モリーの声が響く。
何かが始まろうとしている、だがこちらの事態も放ってはおけぬ。

破壊できるだろうか。
いや、その門自体は非常に脆い、目に見えてそうわかる。
だが、召喚される存在が――そして、その機能がそれを許すだろうか。

「サンダガ!!」
天より降り注ぐ雷撃の魔法――サンダガ
完全に門を射抜いたはずだった。

だが、

   SUMMON READY, OK?

   ―― GO

「なッ!!」
「…………」
門に当たるはずの雷撃は、そのタイミングで門より召喚された悪魔が盾となり門を破壊することはなかった。

『では、この会場も最終決戦に相応しいバトルフィールドへと模様替えさせてもらおう!!』
最早、モリーの声は耳に入らない。

会場の性質が変わる。
蟻地獄めいた世界に身体が呑まれていく。
だが、モルボルは抗わなければならない。
あれだけは破壊しなければならない。

「サンダガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

「…………」
門なる存在――暴走COMPはただ、召喚を繰り返し己の身を電撃から守り続けている。

『 求ムルハ 死ノ贄 四ノ贄 始ノ贄 止ノ贄 』

COMPより放たれた電子音声、それを最後に耳にし、
やがて、重力に逆らえきれず、モルボルは底へと落ちていった。



【C-5/森林/二日目/深夜】

【モルボル@ファイナルファンタジー】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:スライムのかんむり@ドラゴンクエスト
[所持]:せいなるまもり
[思考・状況]
基本:殺し合いの中でも王になることを目指す。忠臣がほしい。
 1:ゲルキゾクのような忠臣が欲しい
 2:あのCOMPは危険なので、破壊しなければならない
 3:蘇生の術か……
 4:スライム……

※モー・ショボーの支給品、COMP@デビルサバイバー が暴走を開始しました、何かを求めています。

No.82:殺戮人形は祭りの時を待ち望む 投下順 No.84:勇者の誓い
No.64:不定形の王道 モルボル No.89:ブルーディスティニー