終焉の物語

ふわりと体が浮くような感覚。
重々しいモーターの音が、石壁に反射してこだまする。
やがてはガコン、という音と共にワイヤーロープが止まる。
扉が開く。そこは先程とは違った視界が広がっている。

運搬用のエレベーターの中からベヒーモスは颯爽と顔を出した。
彼がたどり着いたのは、廃城の地下空間。
それほど疑ってもいなかったが、話の通り、地下は確かに存在したのだ。
結界を担う者の言葉には偽りが無いことがハッキリとする。

『私の遺伝子が先ほどよりも強く感じられる……。どうやらすぐ近くまで来ているようだな』
『あぁ、散々苦労させてもらったぞ。この数時間もの間で城をくまなく回るのは骨が折れた』

あらすじを語ろう。王族の寝室で念話を交わした後、ベヒーモスはしらみ潰しに探索を行っていた。
真っ先に向かった地下牢は無駄骨に終わり、王の間、宝物庫などのめぼしい箇所をくまなく調べた。
そうして再度寝室に戻ったところで、壁の一部がダミーであることに気付いた。
結果、裏側には運搬用のエレベーターがこんにちは。灯台下暗しと言うか、何というか、とりあえず舌打ちを零した。

探索を開始した時には顔を覗かせたばかりだった月は、今では見上げるほどの高さへと昇り詰めていた。
薄明るい外を見てため息をつきながら、光の無い地下へと降り立った。

いや、光はあった。蛍光灯の灯りに照らされる、無機質な鉄壁に囲われた狭苦しい廊下である。
狭苦しい……とは言っても、あくまでベヒーモスの主観。人間の利用する廊下にしては広い方かも知れない。
とにかく、角の先を天井にコツコツとぶつけながら先へと進む。

『ここに来るまでの間に、モリーから何一つ警告が飛ばないとは……。
 いささか怪しくも思えてくる。罠か、それともこちらに手が回らない異常が起きたのか』
『安心するとよい。間違いなく、異常が起きているからだ。
 ……きっと貴方も心当たりがあるはずだ』
『先ほどの爆発か』
『その通り』

数時間前、フラッシュと共に凄まじい爆発音が鳴り響いた。
探索中だったベヒーモスはすぐさま外を見たが、会場の中心にそびえる山が既に崩壊していた。
「核爆弾でも使われたのか……?」と気になったものの、他所の戦いに首を突っ込むほどの余裕は無い。
そう考えて結局それ以上詮索せず、探索に戻った。

『あれは何が起きたんだ?』
『何が原因かは私にはわからない。だが、原因など些細な事だ。
 その爆発は、主催者の想定していた被害の何十倍もの規模のものだったのだ。
 そしてそれが幸運なことに、中枢にまで入り込む貴方にまで、主催者の目が向かない要因となっているのだ』
『フン、やはり気になるな。結界の破壊を上回るほどの危機的状況。説明してもらいたい』

『まずはこの結界の仕組みから話させてもらおう。
 この会場全体を覆っている結界――。
 それは《結界内にいる対象を選択して確実に呪い殺す》もの。
 まさに"確実に"行える仕様だ。対象の"魂"を消滅させる力を持つのだ。
 神あろうとアンデットであろうと、魂を失えば二度と動けない。
 ただし、対象がどこにいるのか、何をしているかまでは把握出来ない。
 そのために、会場中に監視カメラを取り付けてある』 

人間たちへの見世物目的だけでは無かったのか、とベヒーモスは感心する。
わざわざ危険を顧みずに、飛行船をここまで飛ばすのも、破壊された監視カメラの分を補うと考えれば合点がいく。

『続けてくれ』

『先ほども話したが、ターミナル周辺にはそれとは別種の結界が用いられている。
 対象を個別で選ぶのではなく、《結界内にいる者をすべて呪い殺す》仕組みだ。
 この仕組みならば、侵入される可能性の低いターミナルに見張りを置かずとも、自動的に処理することが出来る』
『ピンポイントで禁止区域を設けているというわけか』
『そうだ。この別種の……ピンポイントの結界は重要地点を保護するのに用いられているわけだ。
 故に、結界エネルギー全般を担う私の周囲にも張られている』
『良し、引き返すぞ』
『待て。このピンポイントの結界を生成する装置の本体は、ターミナルルーム内に設置されている。
 そして、先ほどの核爆発と思わしきもの、あの影響でターミナルルーム周囲のほとんどの装置にエネルギーが届かなくなった』
『爆発によって回線が切断されたのか?』
『いや、おそらく本体が一気に消し飛ばされたのだろう』
『要はピンポイントの結界がもう無いということだな』
『それもあるが、先ほど私は"ほとんど"の装置と言った。
 ターミナルルームが大きな被害を受けた中で、奇跡的に可動し続けている機械がある。

 ……ターミナルの本体だ』
『ほう』

奇跡的で、果てしなく幸運な話だ。
ターミナルが結界に保護されることなく、剥き出しの状態で置かれている……。
それはつまり、カメラに気を付ければ、主催者に気付かれることなく脱出が出来るということだ。

『ほぼ殺し合いは破綻したようなものだな。
 確かにそれならば、主催者も我々にまで手が回らない』
『その通り、破綻している。だが、私がいる限り手動による結界は残っている。
 モリーが脱走を危惧して全参加者の呪殺を実行するとも限らない。
 故に貴方には早急に、私と、私の予備の破壊をしていただきたい。
 ……策は既に練ってある。あとは貴方自身の了承が欲しい』

結界を担う者は、心なしか嬉々としているように思えた。
いよいよ死ねる事、そして憎き人間たちに一矢報いることが出来る事。
気持ちが高ぶるのも無理はない。人工生命体として理不尽な生を受けた彼が、逆襲を果たせるのだから。

『策か……まぁ、流石に我が体を張って、両方の結界を探しに行くというわけでは無いようだな』
『当たり前だ。……一つ詫びを入れたい、先ほどの時点で貴方の頭の中を少しだけ覗かせてもらった。
 だからこそ、貴方にだけ、貴方にしか成し得る事が出来ない策を考え付くことが出来た』
『構わん、我は何をすればいい?』


……。

――結界を担う者は策を語った。
人間の想定を上回る、いや、ベヒーモスすらも考えつかなかった手段を。


『これならばほぼ確実に、……一瞬ですべてを終わらせることが出来る。
 どうか了承してもらえないだろうか』
『……いいだろう。その程度のリスクなどものの内ではない。乗った』 
『心から感謝する。私たちを信用し、身を委ねて欲しい』


 ◆


無機質な廊下の先には、禍々しい内臓の中のような空間。
大型の機械が稼働するファンの音だけが騒がしく響く。
その中央には水槽のようなガラス容器、液体に包まれて胎児の如く眠る魔物が一体。

『これが初の対面……となるな』
『あぁ、無様なものだろう?
 これが強制的に生かされている様子だ』

首、腕、腹部、様々な部分に管が繋がれている。
肌は実に血色が悪く、血管が浮き出ている。
見る者を不気味に思わせるグロテスクな様子をしていた。

『フン、我はなんとも思わんな』
『それは何よりだ』

ベヒーモスは持ち歩いていたふくろを下ろし、部屋へ一歩踏み込む。
その時である。


《BEEEEEEEEEEEEP! BEEEEEEEEEEEEP!》


騒がしくブザーが鳴り響き、何体もの武装ロボットが出現し、ベヒーモスを取り囲んだ。

《15秒以内にパスワードを口頭で入力してください》
《入力が確認されない場合、または間違っていた場合、これ以上の侵入が確認された場合は攻撃を開始致します》

右腕には巨大なウォーハンマー、左腕には命を狩り取る形状のつるぎ、下半身は侵入者の心臓を狙うボウガン。
それらの武装に加え、鈍く輝く強固なメタリックボディ、ありったけの科学力を注ぎ込まれた最強の殺人兵器。

           キラーマジンガ × 8

宙を音もなく、高速で移動し、完全包囲。
逃げ場も、逃げる隙も、何一つ与えたりはしない。


《5秒経過。カウントダウンを開始致します》

3体のキラーマジンガがすぐそばに接近する。

《7 パスワード未入力》

剣の切っ先が、首元へと向けられる。

《6》

《5 パスワード未入力》

《4……》


「そのまま動くでないぞ、ベヒーモス」

カウントダウンの声が止み、代わりにモリーの声が聞こえてきた。
音の出所は、キラーマジンガのうち一体の口元。

「ここは侵入されては不都合な場所……それはユーも既に気付いているだろう」
「フン、我はただ廃城を探索していただけなんだがな。
 まさかここが重要拠点だったとは、参ったな」
「まぁいい。別に現時点でおぬしを殺処分しようと言うわけではない。
 こちらは出来る限りキチンとした戦いを求めているからな……。
 そこで一つ、おぬしに頼みたい事があるのだ。もちろん任意で構わない」
「任意……信用出来ない言葉だな。何だ?」

ふと、先ほど置いたふくろの紐が、小さく解かれているのを横目に見た。
ベヒーモスがこっそりと手を伸ばし、中をまさぐれる距離ではない。
すぐに視線をキラーマジンガへと戻した。

「単刀直入に言う。特別大サービスだ。
 このゲーム……キミに優勝させてやろうではないか!」
「……八百長か」
「はは、細かいことを言うな。既に十分素晴らしい戦いは繰り広げられた。
 その代償として、これ以上まともに続行させるのが難しくなってしまったがな。
 観客たちに納得の行く終わり方をするには、ジョーカーがいてくれた方が助かるのだ。
 こちらから手回しもしよう。おぬしは最大限安全に生き残ることが出来るのだ、悪くないだろう」
「悪くないな」
「よろしい! まずは廃城の外へ出て待機したまえ。とびっきりの強化アイテムを送ろう。
 その後は山の中心へと向かい、やってくるモンスターたちを片っ端から倒してくれ!
 残るモンスターは10体。一気に勝利の階段を駆け上がるのだ!
 その先には大いなる栄光と、甘美な生活が待っているぞ!」


「断る」


「…………………。
 ……わからず屋なボーイだ。自分が置かれている立場を理解してないようだな」
「先ほど、任意と言わなかったか?」
「関係無い! 逆らうならばここで静かに眠っててもらうぞ!」

モリーとベヒーモスが対話する、その裏で。
ふわり、と小さなソレが殺人機械の中に沈んでいった。



【はかいのいでんしによってキラーマジンガAのこうげきがぐーんとあがった。】
【キラーマジンガAはこんらんした!】


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


「な……何だッ!?」

当然の異音に、モリーが驚愕の声を上げる。
8体のキラーマジンガのうち、一体が唐突に狂いだす。
まるで駒のように回転しながら、剣と金槌を振り回す。


ぐしゃっ

キラーマジンガの強烈な剣撃が、ベヒーモスの腕を貫いた。

「なッ……!?」




破壊の遺伝子は強力なパワーを授け、代償として自らを制御出来なくなる。
異常を起こしたシステムが、訳も分からず攻撃を行う。
そしてそれが、"肉体的損害を受ける"というスイッチとなった。





  ――〔メテオカウンター〕――





超巨大隕石が大気圏を突き抜け、小さな無人島の、寂れた城に着弾!

……隕石はそこでとどまらない。

例え地下であろうとも、『メテオカウンターは必ず成功する』と言うルールで約束されている。

地表に叩きつけられてもなお勢いは衰えず、大地を溶かし、地下空間にいるキラーマジンガへ激突……!



激しい閃光、そして轟音に包まれた。






 ◆



『我は何をすればいい?』

ベヒーモスは結界を担う者の策を尋ねた。

『何もしなくてもいい』
『……ハッ? 何もしなくていい、だと……?』

予想しなかった言葉に、疑問を抱くのは無理はない。
モリーに呪いを発動させる機会を与えぬうちに、結界を担う装置二つを壊す策。
それが『何もしない事』とは思うまい。

『正確に言えば、貴方は二回だけ攻撃を受ければいい』
『メテオカウンターか』

壊す方法自体は実に単純明快。
強力な魔法で建物もろとも吹き飛ばせばいい。
問題はそれを発動させる方法。

『私の周囲には防衛用の戦闘用機械が配置されている。
 それらの機械に私の遺伝子を埋め込めば、システムは暴走する。
 貴方のすぐそばにいるとすれば、確実に貴方に対しても害をなすだろう』
『しかし、どうやって埋め込むというのだ?』
『近くであれば貴方との念話がこなせるように、私のすぐ近くであればサイコキネシスを行うことが可能だ。
 とはいっても、念力よりも遥かに微弱なもの……小さな物を少し持ち上げる程度の力しか出せない。
 だがそれで十分だ。貴方はふくろの紐を解いて、モリーの視線より少し離れた位置に置いておけばいい。
 そうすれば私が《はかいのいでんし》を取り出し、機械兵に埋め込むことが出来る』
『なるほどな』
『モリーの注意は必然的に貴方へと向く、ゆえに機械兵が不慮の動作を行うことへの対応が遅れざるを得ない。
 つまり、実行中に悟られる可能性はゼロではないが、まず考えられないだろう』

無論、そのままモリーが反応を起こさずに機械に直接攻撃されるなら、それでも良い。

『それで、予備の方はどのように処理するんだ?』

本題はここからである。
モリーに阻止される隙を与えずに、予備の結界を破壊する方法。

『貴方が視認出来ない程の遠距離に、メテオを落とすことは可能か?』
『……と言われてもな。狙って遠距離へ撃ち込む事は出来ない。
 あくまでもメテオカウンターは、ほとんど自動的に攻撃者へ反撃を行う魔法だ』
『それでいい。むしろ、その条件こそがこの策のカギとなっている』
『説明を頼む』

『簡単な事だ。結界の予備装置がある位置から、貴方に攻撃を与えればいい』
『その方法は?』
『1発目のメテオカウンターで私を縛る機械が破壊された瞬間――そして私の生命に及ぶまでの間。
 そこで私が貴方のすぐそばと、予備の目の前を繋げた転移空間(テレポート)を張ればいい』
『そんな器用な事が出来るのか』
『出来るからこそ提案しているのだ。
 ……本来の私は、その辺の野生などとは遥かにケタ違いの能力を持っている。
 1秒にも満たない時間であろうと、準備さえしていれば反応するには十分だ』
『よほどの自信があるのだな』
『ある』

そこからは、転移空間を通じて予備が攻撃を放ち、ベヒーモスに当てるだけ。
それで予備の結界エネルギーも破壊され、この殺し合いを打ち破れる。
短時間で、モリーの想定の範疇を超えた方法で、両方の結界を消し去ることが出来る。

『ただ、策を実行中にモリーが呪殺を行う可能性はゼロではない。
 さらに言った通り、貴方に2度も攻撃を受けてもらう必要がある。だが……』

多かれ少なかれ、大きなダメージは免れないのだから。
だからこそ、ベヒーモスによる了承は必要だった。

『これならばほぼ確実に、……一瞬ですべてを終わらせることが出来る。
 どうか了承してもらえないだろうか』
『……いいだろう。その程度のリスクなどものの内ではない。乗った』 
『心から感謝する。私たちを信用し、身を委ねて欲しい』



そうして、対面の場面へと繋がる。
現時点において、策は成功していた。
キラーマジンガの肉体の中へ、遺伝子が埋め込まれ、メテオカウンターが発動。
ここから、策の第二段階が行われる。


 ◆
 ◆



「……これはどうだ……よし、まだ動くようだ……!」

位置取りがたまたま幸いしたのか、惨状を耐えきったキラーマジンガが瓦礫を除けて飛び出す。
モリーは視界カメラから、周囲の状況を確認する。
そこはもう、地下空間では無かった。
大地が根こそぎ抉られたことによって、真上には夜空が広がっていた。
そして目の前には、漂う砂煙の中、積み重なる瓦礫の上。
爆風を受けてもなお形を残している玉座、その傍らにベヒーモスが毅然と佇んでいた。

「……おのれ、よくもやってくれたな、ベヒーモス……!
 重要な装置を破壊したからには、どうなるかわかっているだろうな……」
「我々を呪殺するための結界のエネルギーだろう?」
「やはり知っておったか……。だが、あいにくだな! この装置は一つだけでは無いのだ!
 実はもう一台、予備が存在している! ははは、残念だったな。おぬしはここで殺処分させてもらう!」

「……何故殺処分されなくてはいけないのか?」

「なんだと!? 今更何を言う!」

「何も能動的に装置を破壊したわけではない。
 我の『攻撃を受けるとメテオカウンターする』という性質はそちらも事前に知っている。
 機械兵を用いてメテオカウンターを撃たせるかという決定権はモリーサイドにある。
 その上で貴様自身の意思で攻撃をしているのだから、すなわち責任はモリーサイドにある。
 なぜ我が責められなければならないのか。
 何故我が殺処分されなければならないのか。
 むしろお前こそが我に謝罪すべきではないのだろうか」
「ええい騒がしい! 攻撃させた覚えは無い! おぬしが何かしたのだろう!?」
「さーあな。我は何も知らんな~」

ベヒーモスはいかにも演技してるかのような口調で、すっとぼける。
これまでの真面目な態度からのこの変化は、切羽詰ったモリーの神経を逆撫でした。
そして最期に付け足すように、ベヒーモスは言い放った。


「ならばこれは事故であり、ただの正当防衛だ」


「通るかあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


残念ながら、この意見は通らなかった。

と、その時ベヒーモスの横から――モリーから見て、玉座の裏側から。
形成されていた転移空間を通じてビー玉ほどの大きさの球体が飛び出してきた。
これは予備によって放たれた『シャドーボール』。
ベヒーモスの腕に命中し、1ダメージ程度の小さな傷を与えた。

「そろそろ予備のエネルギーの起動も完了したことだろう。
 ベヒーモス、お別れの時間だ。わしに歯向かったことを後悔しながら死ぬがいい」

人間によってエネルギーを搾取され続けたその攻撃は、蚊の一刺しほどに弱い。

「あぁ、その前に……」
「どうした、遺言でも残したいのか?」

しかし、どれほど低威力であろうと、攻撃は攻撃だ。


空間を超えて届いたシャドーボールは、メテオカウンターのトリガーとなる――!


「ちょっと上を見てみろ」
「ん?」

キラーマジンガの首が上を向く。
満天の星々が煌めく夜空に、キラリと流れ星が光る。

……無論、流れ星ではない。これは隕石だ。
その光は尾を残しながら、瞬く間に大きさを増して行く。
それを確認した時にはもう遅い、着弾までには秒単位も要さなかった。
閃光が走り、夜の世界一帯をまるで夕日のように真っ赤に染め上げる!



“天から降り注ぐ鉄槌がすべてを滅ぼす”



大砲でも使われたかのようなわかりやすい轟音が響き渡る。
巻き起こった衝撃波が強風となり、ベヒーモスのたてがみを大きくなびかせる。



「あ、あの場所は……」

わかりやすいほどに唖然としていた――もはや理解が追いつかなかった。
元廃城よりも遥かに遠く、島の端の端に寂しげにそびえ立っていた灯台。

その地下に設置されていた、結界のエネルギー源の予備へとメテオが炸裂したことに。



会場に展開する呪殺の結界が。
モンスターたちを縛る鎖が、消滅した。


――この瞬間、魔物たちは殺し合いから解き放たれたのだった。



 ◆



「クッ、許さんぞォベヒーモスゥ!!」

モリーは手元のガラクタを何度も押す。
だが、ベヒーモスの魂を狩り取る事は出来ない。
ルールが消え去った。ゆえにモンスターたちはモリーの手の内にはいない。
同じ土俵に立った生物同士に過ぎないのだ。

モリーは感情のままにスイッチを叩き潰す。
そして、感情のままにマイクに怒号を飛ばす。

「何故だ!? 一体何をした!? 何故あの場所にメテオを撃ち込めた!?
 まさかルカリオと接触した時にでも聞き出したのか!?
 おい、説明するのだベヒーモス!!!」

騒がしく喚きたてるキラーマジンガを、ベヒーモスは前足で思い切り押さえつける。
千切れた配線がバチバチとスパークが起きるが、その程度では動じない。

「言っただろう、小賢しき人間よ。ただ、我を攻撃した者へ反撃をかましただけだと」
「あんな遠距離から攻撃を加えた者がいるだと……!?
 いや、それ以前にこの距離からの攻撃にカウンターが可能だとは……」
「フン、舐めるな。人間のカウンターのように拳や蹴りなどではない。
 "メテオ"カウンターだ。宇宙により放たれる一撃だ」

地平線が、水平線が広がる光景、それは我々にとっては途方も無く広い世界に違いない。
だがそんな光景など、非常に小さな惑星の一部分でしか無い。
いつの時代でも、満天の空がそれを物語っている。

「ゆえに、この程度の"至近距離"で、届かぬことなどあるものか!」

会場の5エリア分の距離など、所詮はそんなものだ。
世界など小さなもの。それを支配する人間などは、決して大きな存在ではない。

「幻獣王の眷属は宇宙をも支配する。貴様達とはスケールが違うのだ!」

矮小な人間風情が、我々魔物を簡単に抑えられると思うな、と。
モリーの語った"栄光"も、"甘美な生活"も、精霊王の眷属である誇りの前ではゴミのようにちっぽけなものだ。
だから、貴様ら人間に従う道理など無い。

前足に体重をかける。
ベキリと音を立ててキラーマジンガは潰された。




(お待ちください幻獣王様。帰還にはもうすぐでしょう)

メテオによって焼け溶け、見るも無残となった玉座をチラリと見返す。
そして、ベヒーモスはターミナルへと向かった。



 ◆



「ミリー! 応答しろ!」

応答無し。ミリーのいる飛行船は今宇宙にいる。
流石に大気圏を超えてまで、携帯の電波は届かない。
二重の意味で圏外である。

「ぐ、やはりダメか……」
「モリーちゃん、どうしたの?
 熱くなり過ぎじゃない? 働き過ぎてるのよ」
「マリー、そんなのんきな事言ってる場合かぁーっ!!」

八つ当たりを受けた女性は、緑と黒のワンピースを着たバニーガールのマリーである。
モリーの弟子の一人であり、モリーの若い頃を知ってる程度には付き合いが長い。

「今会場どうなっているのか、事情は勿論知っているだろうな?」
「当たり前でしょ、私はさっきまでテレビに出て実況やってたのよ」
「ならば承知の通り緊急事態だ! ムリーとメリーはどうした!?」
「あの二人は昼勤よ、今は部屋で寝てるわ」
「バカモンがぁーっ!」

モリーは机に拳をたたきつける。

「こら、気が立ってるからってバカとか言わないの! 仕事なのよ!
 それに、モリーちゃんみたいにずっと起きてられるわけじゃないんだから」
「む、むぅ……。とにかく対策を講じねばならんのだ!」

どうにかしてこの事態に収集を付けなくてはならない。

まず、ターミナル周辺が破壊された時に、人員の多くを向かわせてしまっている、
ベルゼブモンの行方を探らせるのと、ターミナルの防衛要員の派遣。
防衛要員と言っても、ジャックフロストを見る限り突破される恐れが大きいが……。
そしてそこへ畳みかけるように、ミリーのいる飛行船がメギドラダイン砲で宇宙へ。
乗客の親族からのクレーム処理と、飛行船の回収にまたしても人員がさかれている。

いくらなんでも人員が足りない。結界に代わるものが無い。
結界も無しにデスゲームを運営出来るわけがない。いささか詰んできた。
短時間で異常事態が起こり過ぎている。

「マリー、何か策は無いか? どうにかゲームを持ち直すために……」
「そうねぇ……。でもモリーちゃん、こうなったらもう修復する必要は無いんじゃないの?」
「何を言う! このままでは観客に対して申し訳が……」

「ううん。観客の皆様は、凄く楽しんでいらっしゃるわよ」

「何ッ!?」
「この流れを見てきて、これまで通り正常に戦いが運営されると思ってる人は流石にいないと思う」
「そ、そうなのか……」

こんなグダグダになっても、観客に見捨てられずにいることにモリーは驚いた。
だいたい、このゲーム自体は賭博である。納得の行く形で終えねば、苦情が殺到し、闘技場の信用を落としてしまう。
だからこそモリーは奮闘していた。最大限まともに戦いが続くように。

「あ、じゃあこうしちゃいましょう。
 《結界が破壊されたために正常なゲームの運営は不可能と判断。
 現時点において生存しているモンスター全員を勝者として扱い、配当を支払う》
 ……これならもう、異論は来ないはずよ」
「払えるのか? 11体分の配当を」
「そうねぇ、賭け札が集中していたのは……」

マリーはメモ帳を取り出して、ペンを走らせる。

「はぐれメタル、サボテンダー、ベヒーモス、ギルガメッシュ、ガブリアス、ギリメカラ、すえきすえぞー、ピクシー、エアドラモンかしら……。
 それで今生き残ってる11体分の配当に支払ったとすると……。
 ほらやっぱり。上位9体分で売れた金額だけで、ギリギリ足りるわね」

計算によって導き出された総額をモリーに見せる。
破壊された装置の代金を含めれば大きな赤字には変わらない。

「どう、モリーちゃん。ここで清算しちゃって、後は好きにやっちゃうのが得策だと思わない?」

だが、ここで赤字が出ても大きな問題ではない。
今やモンスター闘技場は人々の注目の的、話題の中心となっているのだ。
つまり、スポンサーとかがなんとかしてくれる!

「盛り上げちゃいましょう? ね」

マリーはニッコリとほほ笑んだ。

「あぁ、そうだな……!」

モリーは決断する。
一切の出し惜しみ無く、本気を見せてやろう、と。


「いいだろう、これよりモンスター闘技場・最終決戦を開始する!」


【B-3/廃城/二日目/深夜】

【ベヒーモス@ファイナルファンタジーシリーズ】
[状態]:ダメージ(大)、魔力消費(大)
[装備]:なし
[所持]:サタン@真・女神転生Ⅲ
[思考・状況]
基本:幻獣王の元へ帰還
 1:古城を探索する
 2:倒すと後味が悪いのでエアドラモンには会いたくない
 3:感謝している、結界を担う者よ


※主催者側から応急処置的に、ターミナルを防衛する人員が派遣されています。
※モリーがどういった手段を用いて盛り上げるのかは、次の方にお任せします。


No.78:君のとなり 投下順 蛇足
No.72:CALLING YOU ベヒーモス 蛇足
No.67:第一回生存者報告 モリー No.81:闘技場完成