君の思い出に

まるで時間が奪い去られてしまったかのように、
生きるということを忘れてしまったかのように、
声を上げることも、逃げようとすることも、出来なかった。
「ル、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
怪物が産声をあげた。
祝福するものはこの世界に誰一人としていない。
求めるが故に、彼は全てを捨ててしまった。
もう帰れない。
行き着く所まで行ってしまった。
さよなら――彼はそんな言葉を聞いたような気がした。
声の主は解らない。分からなくていい。わかるひつようがあるのか?
今、するべきことは唯一つ。
怪物の――クワガーモンの、スカルグレイモンの、モー・ショボーの腕が、掴めなかった者達の腕が伸びる。
怪物の中の■■が命ずる!■■■■■■が叫ぶ!
『二度と離さぬように!その腕に収めよ!』

迫る四本の絶望、メタモンはそれを大人しく受け入れることはしない。
大人しくその腕に抱かれれば、殺されることはないだろう。
だが、■■■■■■ははぐれメタルを殺し、モー・ショボーを死に至らしめた。
その理由は理解できない。
だからか?理解できないからこそ、■■■■■■は怪物になってしまったのか?
いや、そんなことを考えている暇はない。
目の前の怪物と戦わなければならない。
戦わなければ、この場所で出会った友達を殺されてしまう。
嫌だ――呪殺されたドラゴンの死が、
消え去ってしまったモー・ショボーの死が、メタモンを奮い立たせる。
「へんしん」
高く、翔べ――
四本の腕が地面へと突き刺さる。
そこにメタモンの姿はない。


「キャハハハハハ」
怪物は聞いた、聞こえるはずのない声を。
「二度も……」
怪物は見た、見るはずのない敵を。
「殺されてなんてあーげないっ!!」
誰かが、伝えなければいけない。
ドラゴンの死を、モー・ショボーの死を。
そうでなければ、彼らの友達は悲しむことすら出来なくなってしまう。

「へんしん」

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
怪物より伸びたモー・ショボーの腕は世界最硬の金属によって弾かれる。

私は殺されない――殺させない。

「伝えなきゃいけないんだ……コイキングさんのことを」
腕の乱舞は、世界最速には届かない。

不思議に思う。私は誰に変身しているんだろう。
気づけば、涙が溢れていた。
私は知らない。
私は知りたかった。
友達になりたかった。

はぐれメタルとメタモンは一言も言葉を交わすことは出来なかった。
まるで最初から存在しなかったかのように、はぐれメタルの死は消えた。
それでも、メタモンは覚えている。
知らなくても、忘れない。


「ありがとう」

目の前の怪物は未だ、自分のチカラに慣れていない。
ただ、腕を振るうことしか出来ていない。

「へんしん」

倒すならば、今しかない。

怪物は思考する。
目の前の少女が消えてしまった、何故だ。
少女は人間ではなかったから――単純な答えを怪物は否定する。
そうであってはならない、少女は人間でなければならない。
現実と理想が食い違うのならば、現実のほうを捻じ曲げなければならない。
そうでなければ怪物は怪物ではいられない。
少女は目の前の亡霊に隠された。
亡霊を再び殺せば、少女は戻る。
答えは単純。
ならば――


『掴み取れ!その力で!!』




変身したその巨体で、メタモンは怪物に対峙する。
「悪いが俺ァ……」
深く息を吸い込む。大丈夫だ、敗けるわけがない。

「テメェより強いぜ」
彼は私を守り切ったのだから。

「"はげしいほのお"――――ッ!!!!」
業火が怪物を嘗め尽くす

だが、いつだって現実は残酷だ。

【ヒートバイパー】
炎をも切り裂いて、怪物より放たれた熱線がメタモンの巨体に風穴を開ける。

思考とも言えないような感情の羅列がメタモンの脳内で渦巻く。
血を吐いた。
視界が霞む。
傷から全身に熱と、同時に寒気が広がっていくような不気味な感覚。
痛い、熱い、痛い、寒い、苦しい。
一撃、喰らっただけでこんなに苦しいなんて。
諦めたい。
楽になりたい。
皆、こんなに苦しかったのかな。
痛い。辛い。

それでも、メタモンは立っている。
変身を崩さぬまま、怪物の目を見据えて。
「ッ……」
言葉を発そうとして、血を吐いた。
怪物の腕が迫る。
腕で固定して、熱線で確実にトドメを刺すつもりだ。
避けたい。駄目だ。呆気無くモー・ショボーの腕が肉体を貫通する。
血飛沫が舞う。肉片が飛ぶ。削れた命が消えていく。

伝えなくちゃ――そうメタモンは思う。
何を?何かを?
痛みが頭をぐちゃぐちゃに掻き回す。
それでも伝えなくちゃいけない。

「……忘れないで」
血が止まらない。
死ぬのかもしれない。
それでも言わなくちゃ。
きっと忘れてしまうから。

「モー・ショボーちゃん、ドラゴンさん、そして私はメタモン……名前を聞けなかった子もいる。
でも、皆……皆生きていたの…………だからアナタも……忘れないで…………」

【ヒートバイパー】








「■ア■■■ン」

熱線がメタモンを貫くことはなかった。

怪物の背後から狐葉楔が放たれる。
意識外からの攻撃故に、怪物に直撃する。
死にはしない、致命傷にもならない、それでも――ヒートバイパーの狙いが逸れる。
何故だ――狐葉楔を放った主であるレナモンですら、疑問に感じていた。
当てられたというのか、同情でもしたというのか、私が。
メタモンは致命傷を負っている、どう足掻こうとも死ぬ。
こんなもの延命にすらならぬ。
それでもレナモンは、メタモンを助けていた。
メタモンを庇うように、怪物に立ち向かっていた。
背後のメタモンは己の血で、全身を染め上げてしまっているというのに。

「……私も君の友になれるだろうか」
「ア゙……ッ゙」
もう、声も出ないのだろう。
ただ、枯れ果てた音を聞いただけだ。
それでも、レナモンは聞いた。
突然の状況に戸惑いつつも、はっきりと「はい」という声を。

「良かった……じゃあ、当然のことだな…………友を守るというのは」
「ニ゙……ッ゙」

「逃げて」そう言おうとしたのだろう。
ならば、こう返すのだ。
いつものように――

「大丈夫だ、すぐに終わる」
そう言って、レナモンは守ってきたのだ。

「ああ――アイツはコイキングという名前だったんだな」

「…………」
背後で命の灯が消えた。

それでも繋がったものがある。

振り返らない、だけど――

「君を忘れない」

【メタモン@ポケットモンスターシリーズ 死亡】

メタモンの死に、怪物は何も思わない。
レナモンの登場に、怪物は何も思わない。
ただ、未だ少女が現れないので、怪物は原因をレナモンに修正する。

「私はコイキングやメタモンになりたかった……」
一歩一歩、怪物へと距離を詰めていく。
左腕が左前足に変わる。

「だから……私は"お前"だ、私はお前になってしまったんだ……■ア■■■ン」
右腕が右前足に変わる。

「だけど、流石に"お前"になる気はない……」
左足が左後ろ足に変わる。

「私は思い出してしまったからな」
右足が右後ろ足に変わる。

                ゲンカイ
「見せてみろよ、力の 果て を」

ただ、静かに進化は完了した。




「ル、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「 雄 鳴 雄 鳴 ッ!!」

叫びが、震わせる。
空気を、大地を、海を、空間を、世界を、何もかも、何もかも。

戦いが始まった。



一直線に怪物の下へと駆け抜ける。
もう、キュウビモンは振り返ったりしない。

「鬼火玉!」
叫びとともに九尾の先に灯された蒼い炎が怪物へと放たれる。

「壱!」「弐!」「参!」「肆!」「伍!」「陸!」「漆!」「捌!」「玖!」
九連の炎が怪物の胴に衝突する。
衝撃、熱、そして炎上。

「ォォォォオオオオオオオオオム!!!!!」
だが倒れない、崩れない。
当然のことだ、この程度で止まるほどに完全体は甘い存在ではない。

ましてや、多すぎる代価を支払ったのだ。
相応の強さを手に入れていなければならない。

【ヒートバイパー】

熱線が地面を撫ぜる。
キュウビモンの鬼火とは比較にならない程の熱量が大地を侵す。
爆炎が上がり、消滅といっても差し支えないほどに大地が抉れる。

幾度もの戦闘経験が、キュウビモンの回避行動を成功させた。
宙返りの形を取った、熱線回避はまるで曲芸のようである。

「その程度か?」
怪物の眼を見据え、キュウビモンが放つは侮蔑の言葉。浮かべるは嘲りの笑み。
限りなく薄れている怪物の理性でも理解できる。
それを厭うからこそ、■ア■■■ンは怪物に成り果てたのだ。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
曲芸師の様に避けるキュウビモンを仕留めるために怪物が選んだのは、手数を増やすことだった。
貫手突きという。
通常の突きよりも威力を一点に集中させたその技は――
現在生存中の参加者の中でも最高位の恵体より放たれるその技は――
三種の腕それぞれが意思を持っているかのように放たれるその技は――

「チッ!」
降り注ぐ槍の雨、そんな馬鹿げた戯言を再現したかのように。
鋭く、ただ鋭く、地に穴を穿ち、擦ったキュウビモンに切り傷をつけ、降り注ぎ続けた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

進む。戻る。進む。戻る。進む。戻る。
それを繰り返す。
貫手の雨はキュウビモンを回避行動に集中させ、怪物への追撃を許可させない。
いや、それだけならばまだいい。
かすり傷とはいえ、キュウビモンの傷は増えていく。
キュウビモンの息が少しずつ荒くなる。

完全体と成熟期のスタミナ差など、言うまでもない。
怪物はこの乱打を繰り返すだけで、詰むことができる。

「…………!?」
キュウビモンと怪物の視線が合う。
笑いの原点を獣が牙を剥く行為に置くのならば――正しく、怪物は笑った。
雨が止んだ。

雨跡は熱線の軌道をなぞるかのようだった。

【ヒートバイパー】

雨後の静寂の中、熱線は放たれた。
つまるところ、キュウビモンは誘導されていたのである。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

守れなかった者の記憶が過ぎる。
戦いの記憶が過ぎる。
今日の記憶が過ぎる。

思い出した全ては目の前にある熱線ごと死に飲み込まれて、消える。

「狐炎龍!!」
守るためには抗うしかない。
体の回転と共にキュウビモンの全身が紫の炎に覆われた。
全身を炎の鎧で包み込んだ回転しながらの突進、この必殺技を用いて熱線の威力を殺す。
出来ねば、死ぬ。

「ル、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「 雄 鳴 雄 鳴 ッ!!」


果てしなく白色の硬い床が続き、上を見上げればどこまで続くかわからないほど高くにやはり白色の天井があった。
壁はないが、どことなく閉塞感が有り、死後の世界というよりは牢獄のように思えた。
コイキングは相変わらずの黄金色の輝きで、暴龍と化したことが嘘であるかのようにレナモンの前で平然と佇んでいる。

「元気そうだな」
「死んだ魚の眼をした私に言うことかい?」

変わらない――何一つとして、目の前の魚は変わってはいなかった。
そのことがレナモンにとってはとても嬉しく感じられる。

「結局、私は……駄目だったな」
レナモンの口をついて出たのは、自嘲の言葉だった。

「……死人のために、戦えるメタモンが羨ましかった。
いや、死んでなおも遺るものを私は……見つけられなかった」
メタモンと言葉という言葉を交わすことは出来なかった、レナモンにとってそれは今となっても哀しい。

「……コイキング、あのはぐれメタルも……メタモンも、お前の名前を呼んでいたな。
良かったと思った。私はお前の名前を聞くことはなかったけれど、お前の名前を呼ぶ者がいて、私はお前の名前を知れて……良かったと思った。
メタモンが忘れないでと言った時、私も……忘れたくないと思った。
私は……忘れない、忘れたくない、メタモンのこともお前のことも、あの子たちのことも……だから、戦おうと思った……負けてしまったがな」

「レナモン君……君は、負けてなんかいないよ」
「慰めはやめてくれ」

本当さ――そう言って、コイキングは笑った。

レナモンは声を聞いた。
聞こえるはずのない声を。
失ったはずの、守りたかった者の声を。

「おねえちゃん……」

クラモンがいる。ココモンがいる。ジャリモンがいる。
ズルモンがいる。ゼリモンがいる。チコモンがいる。
ウパモンがいる。カプリモンがいる。ギギモンがいる。
キャロモンがいる。キュピモンがいる。キョキョモンがいる。

「がんばって!!」

「こんなにも君を応援してくれている者がいるじゃないか、これで敗けるなんて……悪い冗談だ」



「ああ……そうだ、それは悪い冗談だ」
気づけば、走りだしていた。

一歩踏み出す度に、子どもたちが力をくれる。
出口へと近づく度に、進化のイメージがレナモンの脳内を駆け巡る。

「お願いします」
メタモンの声がする。

「任せろ」





「レナモン――超 進 化 ッ!!」


【C-5/草原/一日目/夜】

【???(レナモン)@デジタルモンスターシリーズ】
[状態]:健康 ※ダメージなどは進化時に全快済
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(空)
[思考・状況]
基本:君を忘れない
1:キメラモンを倒す
[備考]
メス。
多くの勢力が戦いを続ける激戦区の森で、幼年期クラスのデジモン達を守って生活していたが、
大規模な戦闘に巻き込まれた際、彼らを守りきれなかったことをきっかけに力を求めるようになった。
自力での進化が可能であり、キュウビモンに進化可能であることまで判明している。
無意識的にメタモンをロードしました

※エアドラモンとはぐれメタルたちの戦いの顛末を全て見聞きしていました。
※超進化を果たしました、何になるかはお任せいたします

【キメラモン(エアドラモン)@デジタルモンスターシリーズ】
[状態]:狂乱、暗黒進化 、ダメージ(極小)
[装備]:なし
[所持]:なし
[思考・状況]
基本:誰よりも強く――
 1:敵を倒す
[備考]
デジモンに性別はない。が、オス寄り。
長い不遇生活でやや後ろ向きかつ、理屈っぽい性格。
アグモンともども、少なくとも参加者のうちでシリアスなレナモンとは別の世界観出身の可能性が高い(断言はしない)。
数多のロードと莫大な経験値、デビモンならぬムーの残滓によりキメラモンへの進化ルートが開通しました。
キメラモンを構成するパーツのうち、幾つかにロードしたモンスターたちの面影が見られます。
現在、グレイモン部分にムー、エンジェモン部分にエンジェル、デビモン部分にモーショボー、メタルグレイモン部分にはぐれメタル、ガルルモン部分にピカチュウ。
ただし、逆に屍や虫、恐竜に対応するデジモンは取り込んでいないため、あくまでも完全体としてのキメラモン止まりです。
ライチュウの技の一つであるかみなりを使用可能になりました

※敵を全て倒せば少女(メタモン)が現れると思い込んでいます


No.66:[~チカラ~ 投下順 No71:その心まで何マイル?
No.66:~チカラ~ レナモン No70:僕たちは世界を変えることができない。
No.66:~チカラ~ エアドラモン No70:僕たちは世界を変えることができない。
No.66:~チカラ~ メタモン 死亡

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2017年08月31日 21:01