さよなら

翼があった。
どこまでも羽ばたけるような気がした。
だが、己の翼では足りなかった。

空ならばどこまでも飛べる、だが届かない。
本当に行きたい場所、パートナーの隣にはどうしても行けなかった。
どれほど翼をはためかせようとも、目に見えぬ人気という壁を超えることは出来なかった。

目の前の電気鼠はあっさりと壁の向こうへと行き、そして戻ってきた。
人気の壁は一方通行だ、向こう側からこちら側に来てしまえば二度と戻れない。

それでも、奴は戻ってきたのだ。

友と敵対する道を選んでまで俺が望んだものに一切の価値が無いとでもいうかのように、
奴はあっさりとそれを放り捨てて、俺と対峙した。

「――!! ――――!! 」

ピカチュウに対するエアドラモンの思いは、
嫉妬であり憎悪であり嫌悪であり劣等感であり絶望であり、そして羨望であった。

そうなりたくて、そうなれないから、エアドラモンは、ピカチュウが、憎くて、羨ましい。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

意識せず、エアドラモンは泣いていた。
なにもかもの感情が混ざり合って、どうしようもない。

「おまえは!おまえはああああああああああああああああああああ!!!」
「泣くなよ、うるさいな」

主にアニメによる影響で、ライチュウには鈍重なイメージがある。
それを裏付けるように、図鑑上ではライチュウの体重はピカチュウ時の5倍である。
だが、それは偏見である。
ピカチュウからライチュウの進化により、素早さ種族値は10増加する。

これがどういうことかわかるだろうか。

ピカチュウの速さはそれ以上に、体重の圧倒的増加。
速さの増加はパワーを生み出し、体重の増加は破壊力を生み出す、


「アイアンテール!!」
ホームランじみてふっとばされ、地面にたたきつけられたエアドラモンのグシャリという音が第二ラウンド開始のゴング代わりとなった。

「お前は、お前は…………」
虚ろな目でうわ言のようにお前を繰り返すのは、決してアイアンテールのダメージのせいではない。
反撃をしなければならない、目の前の人気者を殺さなければならない、
だが、もう目の前の電気鼠はもはや世界的人気者であったピカチュウではない、
その、ねぇ、あの、まぁ、人気が、ねぇ、いや、僕は好きですよ、僕は、のライチュウである。いや僕は好きですよ。抱き心地とかよさそうですし。
ライチュウになるということは、今の自分をエアドラモンを完全に否定するということである。
濁流のように押し寄せた感情を、エアドラモンは処理しきれない。
頭が鈍れば、体も鈍る。

「避けてくれ!エアドラモン!!」
ならば目の前に迫る電撃を避けることが出来たのは、鈍った頭に鋭く突き刺さる友の声のため。
当然であるが、ライチュウはアイアンテール後に追撃をしないということはない。
叩きつけられたエアドラモンにライチュウは電撃で追撃する。
それで戦闘は強制的に終了するはずだった。
ティラノモンは叫んだ、エアドラモンが反射的に攻撃を避ける。

「畜生……」
麻痺で体が動かないのでなければ、無理矢理にでもエアドラモンを抑えつけてでも止めたかった。
自分が殺されるかもしれない、ライチュウが殺されるかもしれない、
それでも、ティラノモンはエアドラモンを殺させたくない。
このままではアイツは、誰よりも愛されたかった目の前の親友が、誰からも唾棄される悪として終わってしまう。
もう、ライチュウは手加減をしないだろう。
だから叫んだ。
今、エアドラモンに声が届いた。
それでも、ティラノモンの言葉はエアドラモンに届かないのだろう。
涙が頬をつたい、地面に落ちる。

「動けよ!俺の体!!」
ただ、叫びだけがむなしく響き渡る。

「エアドラモン……」
伸ばした腕は何も掴めはしない。

「お前がライチュウを殺しても、嫌われて……それで終わりだ。
誰がお前のパートナーになるっていうんだよ!!」
「じゃあ、エアドラモンの俺を誰がパートナーにしてくれるっていうんだよ」

エアドラモンの体に再び、力が満ちる。
ライチュウとエアドラモンの視線が交差した。
エアドラモンはティラノモンを視界に入れない。
きっと、もう二度と。

それでも、ティラノモンは言いたかった。
「俺達二人でモリーを倒して、主役になるんだ、そしたら……そしたらきっと…………」
「もう、無理だ…………何もかも遅ぇんだよ」
今更、決心が鈍ったりはしない。
一匹殺して、後戻りは出来なくなった。
いや、例え戻れたとしても後戻りなんて出来ない。

「来いよ、ライチュウ……俺をバカにしやがって!!!!」
「お前が勝手に来たんだよ、何もかも置いて」

さて、人間が怖れを抱くほどの偉大な力を見せる天然現象のうち、最も身近に起こり最も代表的なものといえば、強風と雷鳴である。
風神雷神図を読者の方も一度はご覧になったことがあるだろう。
ならば、この光景に既視感を覚えるはずだ。

ここで戦うは、

 エアドラモン         ライチュウ
   風神     であり     雷神   である。


風が吹き荒れる。

「────ッ!!」
暴風域の中では何も聞こえない。
泣き言も恨み事も、何もかも風が運び去ってしまった。
誰もが立ちえない暴風の中、ライチュウだけは立っていた。

先程の攻撃は、飛行によって避けられた。
支配領域たる空すらも、既にエアドラモンを見放していた。

それでいい。
エアドラモンをやめるのだから、空はくれてやる。
なんだって、持っていけ。

積み重ねた物なぞ、全てくれてやる。
だから、未来をよこせ。

「────!!」
必殺技の名前は、風が掻き消した。
もはや、風の矢ではない。
マヒ針を媒介として風を纏わせた、乱舞する風の槍だ。
貫けない物は無い。

「バルバルバルバル!!」

ライチュウの唸りと共に周囲に展開された圧倒的電気熱量が、風の槍を蒸発させる。
風すらも斬り裂くのが雷であり、その雷を操るのがライチュウである。

この電磁結界によって発生した電気エネルギーは、一部分が運動エネルギーへと変化し、
ライチュウにロケットずつき相当の射出エネルギーを与える。

そしての電磁浮遊効果により、ライチュウは舞い上がる。

この必殺技の名前を!
コリンク系を空気にするために存在するこの必殺技を!
最後の切り札と呼ばれるこの必殺技を!
誰と知らず、こう呼んだ!!

「ボルテッカー!!!!!!」

ライチュウを中心とした球状の電磁結界、
動く要塞とも言うべきボルテッカーの突撃に、風ははじめから吹いていなかったかのように消滅する。
誰も、妨げることは出来ない。

その勢いのまま、ボルテッカーはエアドラモンへと向かう。

「だが、それがどうした!!」
風が止んだだのならば、また呼べばいい。
まだ、風は止んでいない。

「それで死ぬぐらいなら、俺は夢なんか見なかったんだよ!!」
暴風域が、エアドラモンを中心に再び展開される。
それは神造台風と言うに相応しいものだろう。

「────ッ!!」
風が吹き荒れる。

ボルテッカーと台風が対消滅を果たす。

「見下してるつもりか?わざわざライチュウなんかに進化してよぉ!!」
「ピカチュウなんて、あげられるなら熨斗つけて進呈したいくらいだよ」

「そっちこそ、勝手に羨ましがって……僕の気持ちもしらないくせにさ!」
「テメェこそ……そうだろうが!!」

無風地帯は一時の会話を生んだ。

「グルオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
だが、真の戦いはここからだ。

電磁浮遊状態にあるライチュウを、エアドラモンは噛み砕きに行く。
接近した、エアドラモンの顎にライチュウがアッパーを打ち込む。
エアドラモンは浮いた。

だが、そのアッパーすら回転力に変えてエアドラモンの尻尾がライチュウを吹き飛ばす。

地面に叩きつけられ、吐血したライチュウを、エアドラモンのマヒ針が更に追撃する。
ライチュウはそのままバック転で回避。

だが、マヒ針すらエアドラモンの陽動だった。
本目的はエアドラモンの巨体による突撃及び、

「ゴッドトルネードッ!!」
至近距離からの竜巻。

「でんこうせっ……」
だが、神速の脚ならばライチュウの攻撃を避けられないことはない。

「でんこう…………」
思い出せない。

ライチュウはピカチュウではない。
技は4つまでだ。


吹き飛ばされたライチュウが血反吐を吐きながら、宙を舞う。

「まだだーッ!」
宙を舞うライチュウの体に、エアドラモンの巨体が再び衝突する。
跳ね上げられたライチュウの体は再び浮き上がり、そしてエアドラモンが再びその体を浮き上げる。

「見ろーッ!ティラノモン!!もう俺は風を操るだけのエアドラモンでは無い!!」
「ゲェーッ!まるでライチュウの体が階段を登らせられておるようじゃーッ!」

                     フェイバリット
「           初披露なる 必殺技   ────ッ!!」

ライチュウの体をその牙に収めたエアドラモンが、回転しながらライチュウを大地へと叩きつける。

「スピニングバスターーーーーーーッ!!!」
「ガハッ…………」
ライチュウの体が、その場に崩れ落ちた。
最早、勝者が誰なのかなど尋ねる必要もない。
執念が、エアドラモンに勝利をもたらしたのだ。


「どうだ……ティラノモン、俺は……俺は勝ったんだ…………
「なんだよその必殺技は!?」

「ずっと、考えていたんだ……パートナーと冒険するには、格好いい必殺技が必要だからな」
その時、ティラノモンは察した。
これがエアドラモンに出来る数少ない現実への抵抗であるということを。
新たなる進化系統は生まれず、ただ自分の技を磨き続けることで人間に愛されようとしたことを。
エアドラモンはこの場に堕ちる前から、決して諦めてなどいなかったのだ。
この妄執にも似た努力……哀れエアドラモン!

「バカ野郎!!」
麻痺の効力が切れたその時、ティラノモンはエアドラモンにアッパーをぶちかます。
全体重を乗せたティラノモンの拳に巨体は軽やかに宙を舞い、エアドラモンは二、三回程回転した後に頭から大地へと落ちる。

「ティ……」
エアドラモンが起き上がろうとした刹那、ティラノモンの追撃!ウエスタンラリアットだ!
エアドラモン!再び吹き飛ぶ!!

「とうとう殺る気になったってこ……」
「違う……だろ……」
ボロ雑巾の様に痛めつけられてなおも、ライチュウは生きていた。
絞りだすように、一語一語ライチュウはエアドラモンに発していく。

「それでも……アイツは、お前を殺さずに止めようとしてるんだ……」
「な……ブホァ!!」
エアドラモンの下腹部に、ティラノモンの蹴りが食い込む!

「とてもそうには見え……」
ティラノモン!エアドラモンの尻尾を掴んで……
「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
回転!回転!回転!回転!回転させていく~~~~~~~~~~~~~!!!

エアドラモンの体が重力から解き放たれた!
ティラノモン必殺の……ジャイアントスイング!!
だが、もうエアドラモンは地に伏したりはしない。
風を使って衝撃を緩和、そして再び空へと舞い戻る。

ティラノモンがエアドラモンを見上げている。
エアドラモンがティラノモンを見下している。

「ティラノモン……」
「エアドラモン……」

「まだ……俺を止めるつもりか」
「ああ」

「もう、遅いって言ったよな」
「ああ」

「だけど……それは、お前の決めることじゃない。
ましてや僕の決めることじゃない。
そんなこと、誰だって決められないんだ!!
だから、エアドラモン…………
お前が何回拒絶したって、俺は手を差し伸べてやる!!」
ティラノモンの目が、エアドラモンを射抜いた。

「見下してるんじゃ……ねぇ…………」
「…………エアドラモン」

「見上げてんじゃねぇ!!!」


「畜生……」
見るな、と言いたかった。
声が出せなかった。

どいつもこいつも、俺のことを見下していた。
新しい進化ルートに辿り着けそうだっていうのに、目を合わせることすら出来なかった。

「俺が……」
間違っている、そんなことはわかっている。
だが、間違えでもしなければならなかった。
真っ直ぐに歩める道なんて、最初からありはしなかった。

「悪かったよ、ティラノモン」
地面に頭を擦り付け、エアドラモンが見せるのは謝罪の意。

「……ティラノモン」
「どうかしてたんだ、俺……」

その時、ティラノモンの体をスピニングニードルが射抜いた。

「もう、躊躇なんかしない」

アンブッシュ!いかなる生物も油断するドゲザ姿勢からのスピニングニードルだ!

「どんなに惨めを晒しても、勝って勝って、勝ち続けて、俺はパートナーを手に入れる。
誰にも相手にされないぐらいなら、世界中の人間に嫌われてでも、
誰か一人の目に焼きつくような強烈なインパクトを植えつけてやる」

風は止まない。

ゴッドトルネードによって吹き飛ばされたティラノモンが、
遠距離から、スピニングニードルを受け続ける。

「それでいいのかよ!!」
「いいわけないだろ!!だけど、それしかねぇんだ!!もう俺には……それしかねぇんだよ…………」

「やめろよ……自分でもわかってるんだろ、エアドラモン……」
「見るな、俺をそんな目で見るんじゃない…………」

何本もの風の槍を受けようとも倒れないティラノモンに、
血に塗れようとその瞳の輝きを濁らせないティラノモンに、
エアドラモンの精神は限界を迎えていた。

「やめろよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
先程までの攻撃には遠慮があった。
ティラノモンの死を願いながらも、実際に殺せる威力で撃とうとはしていなかった。
どこか奇跡を信じるように、エアドラモンは攻撃していた。

だが、このがむしゃらな攻撃はティラノモンを殺す。

スピニングニードル──
ライチュウがティラノモンの巨体を突き飛ばし、風の槍を身に受けた。

圧倒的な優位にありながら、エアドラモンは逃げ去った。
涙を流して、空へと飛び去っていった。

「────!!」
エアドラモンの嘆きは、風に吹かれて、消えた。


ハハッ、なにやってんだか……
消えゆく意識の中、ライチュウは独りごちる。
多分この会場の中で、誰よりも帰りたかったはずだった。
なのに、結果として、誰ともわからない奴を守って、こうして死のうとしている。

「────!!」
ティラノモンの叫びは、ライチュウには聞こえない。
風は止んだのに。

涙が、体に当たって生温い。
「────」
泣かなくてもいいよ、と言わなければならないが、声を出すのも億劫だった。

やれやれ、なんでわざわざ助けようと思ったんだろうか。
ああ、わかっているさ。
いつだって、仲間を護るのは僕の──

でも、駄目だ。

こんなところで安らかに死んでたまるか。

帰らなきゃ……

「ぼくは…………」
力を振り絞るかのように、ライチュウが立ち上がった。
よろよろと覚束ない足取りで、一歩、一歩、と進む。

「に…………」

目線は定まらない。
視界もぼやけている。
それでも、ライチュウの目にはハッキリといつか帰るところが映っていた。

「え…………」

──おかえりなさい
森が広がっている。
仲間たちがいつもと変わらない笑顔で待っていた。

──ただいま
お腹が空いてしまった。
きのみが食べ…………

「…………」

ピカチュウが故郷に戻ることは無かった。

【ピカチュウ@ポケットモンスターシリーズ 死亡】

【C-3/砂漠/一日目/夕方】
【エアドラモン@デジタルモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、エネルギー消費(大)、狂乱
[装備]:なし
[所持]:なし
[思考・状況]
基本:メガドラモンとかで良いから進化するために他の参加者を倒す
 1:────
[備考]
デジモンに性別はない。が、オス寄り。
長い不遇生活でやや後ろ向きかつ、理屈っぽい性格。
アグモンともども、少なくとも参加者のうちでシリアスなレナモンとは別の世界観出身の可能性が高い(断言はしない)。
天使エンジェルをロードした影響で、マヒ針とディアを修得したようです。
他の影響は不明

【ティラノモン(元アグモン)@デジタルモンスターシリーズ】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、全身に微細な切り傷
[装備]:なし
[所持]:
[思考・状況]
基本:主役に相応しくなるため、対主催として真っ当に戦う。
 1:エアドラモン……
 2:仲間を集めてモリーに立ち向かう。

[備考]
デジモンに性別はない。が、オス寄り。参加者のエアドラモンとは旧知の仲。
参戦時点では消耗してアグモンに退化していたが、どうやら何度進化してもティラノモン系列にしかなれないハズレ的存在だったらしい。
ティラノモン状態が基本のため、コンディションを整えればティラノモン系統のいずれかの完全体には進化可能(どの完全体への進化経験があるかは不明だが、少なくとも完全体になった経験はある模様)。
逆に消耗するとアグモンへ退化することもある。
長い不遇生活でやや卑屈だが、本質的にはお調子者な性格。



No.57:我ハココニ在リ 投下順 No.59:ごちそうさまでした
No.45:そんなことよりきのみが食べたい エアドラモン No.66:~チカラ~
No.45:そんなことよりきのみが食べたい ティラノモン No.65:救いの手
No.45:そんなことよりきのみが食べたい ピカチュウ 死亡