言葉も想いも拳に乗せて

熱い

冷たい

熱い

冷たい

沈んでいく。

燃えるからだが、深い闇へと沈んでいく。

ああ、これが死か。

そうキノガッサはぼんやりと思った。

身体に力が入らない。
鍛えた手足は一切動かず、ただただただただ沈んで行く。
こぽり、こぽりと。
光さえ届かない、死の世界へと沈んで行く。

まるで海の底のようだ。

ここは嫌だ、ここは冷たく、そして暗い。
何よりも息ができない。
苦しい、苦しい、息が、口の中がガキリ

「……ふぁが?」

声が漏れる。
聞き慣れた声が漏れる。
海の中で?
いや、そんなはずはない。
自分は水ポケモンじゃない。
水中の中で話せたりなんかしない。
ならばここは、水の中じゃないということで、待て待て、そもそも水の中は死の世界の喩えであって。
しかし事実、ここは暗くて、息苦しい。
水だとか闇だとか、そんな流体的なものではなくて、もっとこう物体的に口が塞がれている!

「あぐ、ふぁぎ、ふぃぎや!? ……ひゃい?」

気がつけば、光を奪われ、口を何かで塞がれている。
訳が分からないままに、だがどう考えても穏便ではないシチュエーションにキノガッサは悲鳴を上げる。
みっともないほどに手足をもばたつかせ、そこに至って気づく。
先程までまるで力のこもらなかった手足が、今は動かせるということに。
己を覆っていた火傷の跡が綺麗サッパリなくなっていることに。
それをなしたのが何か、答えは自らの口の中にあった。

「もごもご」

きのみだ。
オボンのみやチーゴのみと言った、火傷や怪我を治してくれる実がたらふくつめ込まれていたのだ。
今の自分の症状に的確なきのみが勝手に口に入るはずがない。
間違いなく、誰かが、自分を助けるために施してくれたものだ。
流石に詰め込みすぎで危うく窒息しかけたことには文句を言いたくもあるが、それは恩知らずにも程があるだろう。

「ぷはっ」

ようやく口の中のきのみを咀嚼しきり、一息ついたキノガッサは辺りを見渡す。
暗くはあるが、失明したわけでもなく、目隠しされているわけでもない。
単にどこか暗いところに押し込められているだけのようだ。
僅かながらに光が漏れこんでくる方向へと手を伸ばすと、どうやら当たりだったらしい。
扉は難なく開き、そのまま外へと転がり落ちた。

「これは……」

周囲を見渡し、現状を把握する。
自分が安置されていたのは祠だったらしい。
怪我人を休ませる場所には狭く窮屈で不似合いに思えるが、怪我人を隠す場所としてはうってつけだ。
周囲に恩人らしき者の姿が見当たらない以上、何か、キノガッサの治療を中断し隠さないといけないような事態が起きたのだろう。
そう、例えば、キノガッサが止め損なったあの人形が新たな犠牲者を求めて襲ってきたとか――

「……っ、なにをボケッとしてるんだ、あたしは!」

殺し合いの場にて見ず知らずであろう自分を助けてくれる程の優しい心をもった誰か。
その誰かに危機が迫っているかもしれないというのに、助けられた自分は何を呑気に寝ていたのか。
自分が祠に納められてからどれだけ時間が経ったのかは分からない。
もう手遅れかもしれないと理性は訴えるが、そんなのは知ったことか。
キノガッサは駈け出した。
駆けて駆けて駆けて、ただ誰かを探した。
顔も知らない誰かを探すことなどできようはずもないが、とにかく誰かを探した。
誰でもいい。
この付近にいるのなら、そいつは恩人か、或いは恩人について知っている可能性が高い。
もしもあの人形のように殺し合いに乗ったものなら今度こそこの手で、この拳で……

「この、拳で……? あたしは、どうしようってんだ。あたしに、できるのか?」

鎌首をもたげた弱気がキノガッサの心と足を捕らえる。
迷っている場合じゃないと頭では理解しているのに、速度がみるみる落ちていく。
心を磨いて生きてきた。
この心がある限り、師と共にあるのだと信じてこれた。
なのに、あのざまはなんだ。
異形の相手に恐怖し身をすくませ先手を取られ、止めようとするも返り討ちにあい、危険なモンスターを野放しにしてしまった。
太陽が沈みつつある以上、あれから数時間は経過している。
この数時間で、一体何匹のモンスターたちがあいつの餌食になったのだろうか。
全てはキノガッサが弱かったせいだ。
キノガッサの拳が、心が、弱かったせいだ。

「う、く、ああああ!」

追い打ちを掛けるように森が開け、一つの光景が姿を現す。
倒れた木々、砕けた大地、落ちた腕。
間違いない、ここで何かがあったのだ。
幸い死体は見当たらなかったが、それを喜べるほどキノガッサは楽天的ではなかった。
誰かが腕を失う程の戦いがあったというのに、のうのうと意識を失っていただけの自分の無力さに泣き崩れる。

「くそ、くそ、くそっ! あたしは弱い、あたしは無力だ!」

こんなものだったのか。
強くなったと思っていた。
師と鍛えた心と身体を誇っていた。
それは幻想だったのか。
慢心していただけなのか。
悔しさから拳を地面に何度も何度も打ち付けるも、誰も何も答えてくれない。
いつも彼女を導いてくれた師は、ここにはいない。
彼から教わった心が折れかけている以上、心のなかにさえいない。
彼女は独りだった。
独りぼっちだっ「火イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ崩オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「!?」

突然響いた裂帛の叫びと続く轟音にキノガッサは身構える。
すると森のそばの岩盤が崩れ、何かが姿を表わす。
手足の生えた雪だるま、といったところか。
キノガッサが見たことも聞いたこともない姿をしたそいつは、ぱんぱんと学ランについた土石を払うと、うーんと背伸びをする。

「ヒーホー! やっぱシャバは最高だぜ!」

キノガッサは知る由もないが、彼女が聞きつけた轟音は彼のトラフーリ(物理)によるものである。
ターミナルの発見でやる気を取り戻したジャックフロストは洞窟探索を続行。
しかし何の成果も得られませんでしたー!となった上に、あろうことか入り口を見失ってしまったのだ。
ならば出口だと更に探索し続けたものの、延々と見つからず、ええいままよと洞窟を拡張し続けここまで辿り着いだのである!

「てめえは……」
「驚かせてすまねえホ! オイラは妖精ジャックフロスト、あのハゲどもをぶん殴る男だホ!」
「あ、ああ、あたしはキノガッサってんだ。よろしくな……。
 一応聞くけどあんた、あたしを助けてくれた奴、じゃないよな?」
「ないホ。見ての通り、今ここに来たばかりホ」
「だよな……。くそ」

警戒し訝しがるキノガッサに対し、真っ先に謝り自分が何をしたいのかを宣言するジャックフロスト。
脳筋な彼ではあるが、最後には拳に訴えるとはいえ交渉だって得意なサマナーと旅をしてきたのだ。
会話の一つや二つ手慣れたものである。
しかし、対するキノガッサの反応はよろしくない。
心ここにあらずという感じだ。
顔に残る涙の跡や、戦闘の痕跡からも、ここで何かがあったのだろう。
それが何かとはジャックフロストは問わない。
彼は言葉で聞くくらいなら拳で聞く漢だ。
だからこそ気になることもある。

「姐ちゃん、あんたその手」
「この傷か? 心配させちまってわり。これはまあ自分でやっちまった奴だからさ」

キノガッサがかなり鍛えられているのは一目瞭然だった。
その彼女なら自分同様、洞窟の壁を粉砕したところで拳を痛めるはずがない。
だが、彼女の拳は見るに耐えないほど傷ついていた。
泥で汚れていることや自分でやったという言葉、そして彼女の目に残る涙の跡。
ジャックフロストは全てを察しった。
察した上で、女に手を上げた。

「あぐっ!? 何するんだ、てめえ!」

無様に吹っ飛び転がるキノガッサ。
ジャックフロストはそれを見下ろしながらも悪びれもしないで答える。

「何をするか? 決まってるホ、勘違い野郎に活を入れてやったんだホ」
「勘違い、だあ?」
「そうだホ。拳は、自分を痛めつけるために握るんじゃないホ」
「じゃあどうしろってんだよ!? 無力なあたしは、弱いままだったあたしは、いっそ昔に戻って喧嘩に明け暮れろとでも言うのかよ!?」
「オイラにとっては日常だホ」
「てめええ!」

起き上がり体勢を立て直したキノガッサはとっさにキノコのほうしを撒き散らす。
師にならともかく、かつての自分のようにお山の大将を気取っている奴に好き放題言われたくはなかった。
しかし、ここで拳ではなく、安易な状態異常に頼ったのは彼女の心が折れかけている現れだろう。
そんな弱気な一撃では、あのアスラおうとも殴り合い不動心をラーニングしたこのジャックフロストを眠らせるには程遠い!
ならばとローキックを放つも、GAKU-RANに無効化される!
数多の激戦をくぐり抜けても心の折られることのなかったジャックフロストを主と認め、主に触れる価値の無い攻撃をシャットアウトしてるのだ!

「鉄拳制裁、その腐った性根を叩きなおしてやるホー!  イヤーッ!」
「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」
ゴウランガ! なんたるアイスカラテの冴えか! 連撃がキノガッサを打ち据えていく。

だがどうしたことか。
打たれ、殴られているはずのキノガッサを見よ。
失意にくれていたはずの彼女の顔に、怒気とは異なる、明らかなエナジーが満ち溢れ出している。これはいったい!?
「こ、この拳は!?」
「そうだホ、分かるか姐ちゃん、分かるよな、アンタなら!」

分かる。伝わってくる。拳を通して目の前の妖精の意思が。
昔の自分のように気に入らないものをねじ伏せるのではなく、自尊心を満足させるためでもない、純粋に、殴り“合う”のが好きなこいつの意思が!

「拳は、自分を傷つけるためのものじゃないホ。心を響かせ合うためにあるんだホ!」

それが喧嘩。
己を拳に乗せて殴り合えばどんな雄弁な交渉よりも互いに分かり合うことができる。
その結果死んでしまっても死なせてしまってもそこに恨みっこはなしだ。
そんな彼だからこそ、あの世紀末の東京でさえ、敵味方人魔問わず友とし強敵としたのだ!

それはここでだって変わらない。
あのヒゲのハゲは、後悔させる。泣いて謝るまでぶん殴る。
ぶん殴ってぶん殴ってぶん殴って。
でも別に殺したいわけじゃないから泣いて謝った時は許してやってもいい。
こりずにまた同じ催しをやろうものならその時はその時だ。
何度だってぶん殴る。

「心……」

注ぎ込まれた折れない心。
その意志に奮起され、キノガッサは再び拳を握り締める。
きっとあの人間もそうだったのだ。
言葉は通じねども拳が通じたからこそ、キノガッサの問に答えてくれたのだ。
その弟子である自分がこんな所で何を燻っている。

『共に――“心”を磨こうぞ』

足りなければ、磨けばいい。
弱いのなら、もっともっと、強くなればいい。
まずは、その再びの一歩として。
心を響かせ“合う”ことを望むこの妖精に。
一方的に殴らせるなどという不本意なことをさせてしまって礼をくれてやる。
師と二人分の心を載せたこの拳で!

「そうだな、あたしとしたことが耄碌していた……」
「ヒホ!?」

れいとうパンチの弾幕をマッハパンチの一撃ですり抜け綺麗にカウンターを決める。
今度吹き飛ばされたのはジャックフロストの方だった。
いってええホっと身を起こしながらも嬉しそうに笑うジャックフロストを前に、キノガッサは気合を貯める。

「すー……はー……」

これより放つは彼女にとっての至高の一撃。
全ての気合と心を載せて放つこの技を、師とは違い未熟な彼女は溜め無しで放つことはできない。
だが、拳を交え心を交えた今、キノガッサはジャックフロストを信じている。
この相手は、貯めの邪魔などという無粋な真似はしまいと。
そんなことをするくらいなら自分もまた、気合をためるだろうと。

「ヒー……ホー……」

その通りだった。
もとよりこの身はいかに最強の一撃を放つかに特化したスキル構成。
タルカジャを始め、鬱陶しい即死・状態異常対策こそ習得してはいるが、デバフなどもっての外ホ。
ブフ? 氷結系? んなの忘れたホ。氷結状態にしちまったりしたら萎えるホ。
物理反射だろうがベルゼバブから刻んだ万能物理な万魔の一撃で殴りゃあいいホ、JK。

だから、そう。
今は心置きなく語り合おう。
心を拳に載せて一時の楽しい喧嘩と洒落込もう。



「これがあたしたちのきあいパンチだああああ!!」



「受けて立つホ、鉄拳制裁、ヒーホエンド!!」



決着? 勝敗?
さあ、それを知りたかったら君も彼と彼女と拳で語り合うことだね。

【D-4南西/森林/一日目/夕方】
【ジャックフロスト@女神転生シリーズ】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:GAKU-RAN(ガク-ラン)@デジモンシリーズ
[所持]:オレンのみが詰まったふくろ
[思考・状況]
基本:東京に帰る
 1:頑張る
 2:喧嘩を売られたら殴る
 3:殴って勝てなかったら蹴る

[備考]
オス。皆様も御存知の通り、数々の激戦を繰り広げた猛者。
一人称はオイラで、語尾はホ。
あと、ヒーホー。
精神異常無効、身体状態異常無効、テトラジャ、デクンダ、タルカジャ、気合、鉄拳制裁、万魔の一撃。
純粋に最高の状態で殴りあう事に特化したビルド。
いろんなシリーズのが混ざり合ってる?
いやだってこいつ皆勤みたいなものだし、そりゃ色んなシリーズに呼び出されてるさ。

E-6でターミナルルームらしき部屋を発見しました。
目印としてオレンのみを起きました。

D-7洞窟がD-4まで開通しました。
そのことによる山部分などへの影響は不明です。

【キノガッサ@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:殺し合いに抗う
 1:心と拳を磨き続ける

[備考]
メス。かつては喧嘩っ早く、暴力で全てを解決し、自尊心を満たしていたが、師と仰ぐ人間との出会いにより、“心”を知った。
それでも荒々しい性格は健在で、あまり口はよろしくない。
一人称は「あたし」。
技はきあいパンチ、マッハパンチ、ローキック、きのこほうし。



No.53:ようやく戦ったね(ニッコリ 投下順 No.55:テレビのスイッチを切るように
No.43:絡繰考察 妖精ジャックフロスト No.60:意志の凱旋
No.36:可能性の魔物 キノガッサ No.60:意志の凱旋