そんなものはない

王とは何かと問われれば、それは民衆の代表であり、纏め上げる、導くものと答えたい。
暴虐によって国を獲ろうとも、受け継いで王になろうとも、そうであってほしい。
これはあくまで、憧れるものの儚い願いに過ぎないが。


「……この、形容し難い生き物はあなたを襲ったのですね?」
「う、うん……お前ちょっとボコらせろって」
「ソーナンス?」

ぐしゃぐしゃになってもなお生を享受する生き物、キングスライム。
グレイシアはその蒼く美しい瞳を撓ませ、深いため息をつく。
この物体がなぜここまで瀕死に追い込まれているのか、なんとなくだが察することができた。
きっと不相応に戦いに挑んで返り討ちにでもあったのだろう。
グレイシアの予想は正解であったが、彼女の想定以上にこのキングスライムは色々やらかしている。

それを知ってか知らずか、彼女は冷気を帯びた吐息とともに一言。

「狸寝入りはおやめなさい、でないとあなたの弁明を聞くこともなく」
「う、うぐぐぐ、ボクに命令するなぁ!!」

殺気を感じて、ピクシーとソーナンスは構える。
キングスイムからも、グレイシアからも漂ったそれに止めに入るべきかとソーナンスは思案し、ピクシーは困惑する。
「そ、そこまでしなくたって、ほらイライラしてただけでいいやつかもしれないよ?」
「ソ、ソーナンス」
正直ピクシーもあまり期待していなかった。
襲い掛かられた相手だ、九分九厘ロクデナシだろう。
キングスライムの泥酔した中年男性のような眼を覗いてもこいつはダメな奴、とはっきり感じ取れる。
ワルモンまっしぐら、トレーニング放棄常習犯、そんな目つきだ。

でも、そんなやつでも、命のやり取りをすることは憚られる。

「もしも、あなたが危険なモンスターであれば生かしておくことはできません」
ピクシー達の意見に応えず、凛と言い放つグレイシアに迷いはない。
冷酷からくる発言ではない、手の届く範囲のものを守るためには、目の前にある危険は排除しておくべきなのだ。
徒に放置してもしも被害者が出たら、それはグレイシアが、殺すことを選ばなかったものが間接的に殺したも同じなのだから。

「ボクは危険なんかじゃない、王様だ!王様は偉いんだ!!」
生憎ダメージのため跳ね上がるには至らなかったがそれでも力強く。
「だからボクは、こんなクソッタレな場所でも好きなようにするんだよ!!」

「好きなように、とは?」
温度は極限まで無くなっていく。
「そりゃあ、まずボクにタメ口きいたり、命令するようなノータリンはブッ殺すし」
ツンドラに埋もれた草花のように。
「なんもしてなくてもむかついてたらブッ殺す」
空気が止まってしまうくらいの。
「だって王様だもの!ボク以外のものなんてぜーーんぶ」
絶対零度。
「もういいです、口を閉じてください」
「1ゴールドの価値もないからね!!」

当然さ!とのたまう口は、これ以上の騒音を垂れ流すことはなく塞がれた。
青いスライムの体よりも透き通った水色の氷膜がピッタリと口に張り付く。
「モ、モガーッ」

「ねえ、やっぱり、殺すの?」
氷の彫刻にするとか、冬眠させるとかじゃあダメなのかな。
「イノチって大事だよ、少なくとも、アタシは死にたくないし……」
死なせたくもない。
「メタモンだって止めるよ、多分……」
グレイシアの言いたいことはよく分かる、よく分かっても、それに共感することは、できない。
自分は弱いから、弱くなってしまったから。
「ソーナンス……」
ソーナンスは優しくピクシーの肩を抱く。
仕方ないよ、と励ましてくれているようだ。
彼だって諸手を上げて賛成しているわけじゃあないだろうに。
メタモンの名前を出して説得しようとした自分が嫌になって、喉から塩辛い塊がこみ上げる。

「ピクシー、あなたが手を汚す必要はありません、安心して」

「グレイシア、ごめん……ソーナンスも、本当、ごめんなさい」
グレイシアは怒りも、蔑みもせず、ふんわりと微笑んでくれた。




「誰か助けろ!!!!今ボクは恐ろしい三体のモンスターに襲われてるんだ!!!!!」


唐突に、耳障りで巨大な声が三体の耳をつんざいた。

「なっ、どうやって……!?」
咆哮を上げるキングスライムの喉からちろりと漏れ出る炎。
メラゾーマが唱えられずとも、キングスライムははげしいほのおを体得していたのだ。
普段はメラゾーマのほうがかっこいいからと使わずにいた技がまさかこんな場面で役に立つとは。
そして彼の目の前にあるのは、タブンネを殺して奪い取った拡声器。

「モンスターの名前はピクシーとグレイシアとソーナンス!!!誰か!!!はやく!!!!ピゲっ」
グレイシアのとっしんにより落ちる拡声器。
キングスライムはダメージを受けながらも不敵に笑う。
「王様に手を出したことに後悔するがいいさ……これでお前らは警戒されるし、今からくる助けにボッコボコにされる」

増援はかならず来る、だってボクは王様だから。
バカの一つ覚えのようなキングスライムの言葉にグレイシアは心底うんざりした。
同時に、来るかもしれない敵襲に集中力を高める。

「この現状を見て誰がお前らを信用してくれるかなあ?ボロボロのボクに三体の恐ろしい魔物」
勝ち誇った様子で、息も絶え絶えなキングスライム。
「精々、バッカみたいに言い訳しながら死んじまえよ!ギャハハハ!!」




「ほうほう、恐ろしいモンスターが……三体、か」

ぞわぞわ、背筋を這いずりまわる音を共にして、一匹のモンスターが現れた。
頭上に王冠を頂き、緑の触手を何本もうねらせ堂々と歩く魔物。
何処にあるともしれない瞳でグレイシア達を順繰りに見回し。

「ワシには、一体の愚かな魔物が喚いてるようにしか見えぬがのう?」
「ソーナンス!!!」

キングスライムの行った作戦は概ね成功していたはずだった。
それが頓挫した理由は、増援が近すぎたことと、己の失言のせいであろう。
ついでの不運で言えば、今の増援以外におそらくキングスライムの声は届いていない。
「ち、ちが、本当にボクはこいつらに……!」
「黙れ、下郎。このモルボルキング、今の貴様の言、しかと聞いておったぞ」
「げ、下郎だって……!?」

ずい、と触手がつきつけられる。
キングスライムの象徴とも言える王冠を取り上げ、モルボルキングは遥か彼方に投げ捨てた。
「貴様に王を名乗る資格はない、下郎でも勿体無いくらいよ」
モルボルキングは憤慨して飛び散りそうなほどに煮えたっているキングだったスライムから目をそらし、グレイシアに向き直る。
「有難うございます、モルボルキング。おかげで助かりました」
「何、礼には及ばんよ。偶然通りすがったようなものだからな」
見かけによらず紳士的で、よい魔物だ。
グレイシアは警戒を緩める、勿論、何かあったらすぐに動ける程度には注意して。
「さてこいつをどうするかよの、問題は」

滾る怒りがはじけて飛んでバブルキングの従兄弟になりかけているスライム。
あまりの屈辱にふざけた罵詈雑言すら出せないようだ。

「王だったものよ、民草から嫌われた王の末路を教えてやろう」
ピクシーも、グレイシアも、ソーナンスも止めること無く、モルボルキングの動きを見守る。
断罪の触手の下に居たのは、生きていてはいけないもの。
「その高貴足り得た生まれを尊重し……無様な死を与えぬために」
一太刀のもとに生を両断してやろう。


「ま、待った!!!!」
ピタリ、直前で触手は留まる。
「なんだ、まだ己の醜態を晒し続けるつもりか?それとも、王らしく辞世の句でも読むのか?」
呆れ返ったモルボルキングの言葉に歯ぎしりしながら、なおもスライムは嗤う。
とっておきの切り札が、キングスライムの手には合った。
切りたくはなかったし、上辺だけでも誰かに施すと約束するなど、生き死にがかからなければまずやりたくはなかった。

「ボクは、ザオリクが使える」

「……ザオリク?」
知らないのかよ、無知なやつだな、とスライムは吐き捨てる。
「死んだものを生き返らせる呪文さ……なかなか使える奴は居ない、ボクは王様だから、生まれた時から使えるけどね」
「レイズのようなものか……」
モルボルキングは唸る。
死を覆す魔法、それはこの無為な殺し合いそのものを壊せるかもしれない手段だ。
「ありえません、妄言ですよ」
グレイシアは頭を振る。
彼女の世界にそのような神秘の魔法は存在しなかったからだ。
もしも、もしもそんな夢の様な魔法があるのなら。
あり得ない希望をすぐさまもみ消して否定する。否定せねばならない。
「でも、ヒノトリは何度でも生まれ変わってくるっていうし、もしかしたら」
ピクシーは希望に触れてしまった。
死がなくなれば、恐怖も痛みもない、変わること無く、殺すこと無く。
「ソーナンス……」
ソーナンスはあってほしいと強く願った。
どんなモンスターにも命があり、生きるべくして生まれてきたのだから。

「どうするんだよ、ボクをこのまま殺していいの?」
いいわけないよね、お前らは馬鹿だから。
スライムは、声に出さず続ける。
自分たちのイノチに価値があって、かけがえの無いもので、大事にされてしかるべきだって、本当に思っているんだから。

ザオリクは確かに、失われた命を取り戻す。
しかしそれは、運命に選ばれたもの、今この場で死ぬべきではないものだけだ。
故に老衰したもの、ここで死ぬべきものなどは生き返らせることができない。

つまり、だ。

(価値の無いお前らなんかが、生き返るワケないじゃーん!!)

「……そうだな、生かしておいてやろう」
「モルボルキング……!」
グレイシアは、否定する。
死んだものは、逆立ちしたって生き返らないと。
だからこそ、命には価値や意味や大切さがあるのだと。
「だが、実証してもらわなくてはのう」
モルボルキングは、ただの切り口である、とグレイシアを説き伏せる。
秘密裏に蘇生を行えれば、全滅を装い死体を回収に来た人間どもに反逆ができるかもしれない。
もしくは最後の一匹を意図的に作り出し反逆を……とにもかくにも、重要なピースになり得る力だと。

「それまで、貴様は……そうさな、捕虜のようなものだ」
執行猶予をもらったスライムが口を開くより速くモルボルキングの触手がそのスライム状の体をがんじがらめにする。
ボンレスハムのごとくはみ出した物体を適当に放り、引きずる。

「ピ、ピギー……覚えてろよ……」
納得がいかないグレイシア。
少し安心しているピクシー。
ただ見守るソーナンス。

「お嬢さん方はどうするかね」
「私たちはもう少し……ここで頭を冷やしておきます」

スライムを見ないようにして、行動を共にしないことをグレイシアは告げる。
「よろしければ、メタモンという……ピンク色の粘土のような魔物を見つけたら、助けてあげてください」
アリスのこと、ケルベロスのこと、知っている脅威や、危機に脅かされている仲魔のことをしっかりと伝えて。
「あいわかった、しかし惜しいのう、貴様達にその気があれば、是非ともワシの臣下に迎え入れたいものよ」
尊大な台詞であったが、キングスライムの言うような不快な傲慢さは見受けられなかった。

「次にお会いすることがあれば、考えておきますよ」
「あ、アタシも!」
「ソーーナンス!!」
冗談めかして続いた言葉を、善き哉、と受け止めてモルボルキングはこの場から去っていく。
去り際、彼は振り向き。
「ゲルキゾク、という魔物に気をつけろ。あれは一筋縄じゃあいかん頑固者だ」

どちらに居るのかだけ触手で指し示し、今度こそ王に憧れるモルボルは地平に飲まれて消えていった。
後に残った三体は、キングスライムが叫んだ余波を考え少しだけ移動する。


交わす言葉は少なく、沈黙が落ちていく。
三体はそれぞれ考える。
食い違う、命の価値を。

【D-7/森/一日目/午後】

【グレイシア@ポケットモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身は不明)
[思考・状況]
基本:誇りに懸けて、必ず主催者を倒す
 1:アリスから離れる
 2:メタモン…
 3:そんな魔法は、あってはいけない

【ピクシー@モンスターファーム】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:どうすればいいか分かんない、でも死にたくない。
 1:皆と一緒に行動する
 2:メタモンが気がかり
 3:死なんてなくなればいいのに

【ソーナンス@ポケットモンスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:ソーナンス!
 1:ピクシーのそばにいてあげたい。
 2:ソーナンス…
 3:ソォーナンス……

【キングスライム@ドラゴンクエスト】
[状態]:肉体損傷(大)魔力消費(中)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:主催者を粛正する
 1:モリーをたおすために下僕を集める
 2:王様であるボクに無礼は許さない

備考:モルボルの触手にがんじがらめにされて引きずられています。王冠がどこかにぶん投げられました。
   拡声器はグレイシア達の居たところに落ちています。

【モルボル@ファイナルファンタジー】
[状態]:健康
[装備]:スライムのかんむり@ドラゴンクエスト
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いの中でも王になることを目指す。忠臣がほしい。
 1:ゲルキゾクのような忠臣が欲しい
 2:蘇生の術か……


No.50:escape 時系列順 No.55:テレビのスイッチを切るように
No.51:駆け抜けてBlue 投下順 No.53:ようやく戦ったね(ニッコリ
No.46:命の価値は? グレイシア No.74:黄昏の影を踏む
No.46:命の価値は? ピクシー No.74:黄昏の影を踏む
No.46:命の価値は? ソーナンス No.74:黄昏の影を踏む
No.46:命の価値は? キングスライム No.64:不定形の王道
No.31:バトロワ中にエクササイズやったら死ぬ モルボル No.64:不定形の王道

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最終更新:2017年08月31日 20:48