サボってんじゃねえよ

「……案外静かだな、僕の周辺が際立ってるのかもしれないけれど」

森の草木に身を潜めたまま、文字通り植物の如く身動きを取らずに待機していたサボテンダー。
あれから四時間以上は経過しただろうか。
現在までの間、彼は誰とも接触していなかった。
遠くからうっすらと爆発音がしたり、どこからか悲鳴が聞こえたりしたものの、姿は目に入らない。
それはそれで、彼にとっては好都合である。
自分が無駄なリスクを侵すことなく、参加者が減っている証拠なのだから。

特に退屈さを苦としない彼は、そのまま他の参加者が通るのを待ち続ける……。
……ふと、彼の視界に妙なものが写っているのに気が付いた。
水平線の彼方に見える一つの影を、サボテンダーの空虚な目が捉える。
うみねこか何かか? いや、うみねこにしては少々にデカイような……。
そのうちにそのシルエットは見る見る大きくなり、想像以上に巨大な物体なのだと気づいた。

(あれは一体なんだ? 空を飛ぶ鯨か何かか……?)

楕円を横にした形状の巨大な浮遊物。
これまでずっと砂漠で過ごしてきた彼は、あのような物をこれまで見たことが無かった。
故に、あれが何なのかわからない。ひとまず彼は様子を見続けることにした。


 ◆


それは一台の飛行船である。

モンスター同士の熾烈な争いをモニター越しではなく直接で見たい……。
そんな考えを抱く者たちは少なからず存在する。
この飛行船は、そういった貪欲な富豪の方々に向けて作られたツアーバスのようなものである。

飛行船の中で、人々は酒を飲み交わしながら言葉を交わす。
同じ賭け事を愉しむ者同士であるがゆえに、会話にはそれなりに華が咲く。
その楽しみ方も人それぞれである。

「ワシが注目しているピクシーはまだ生きているかね?」
「まだ生きてるみたいですよ」
「おっ、そうか。ピクシーには10万ゴールドも注ぎ込んだんだからなぁ。是非とも勝ち上がって欲しいもんだ。はははは……」

この老齢の富豪の楽しみ方は、金持ちの間では割と一般的なやり方であると言えよう。
自分が気に入ったモンスターに大金を賭けることで、その応援にも熱が込もる。
やはり何事も、自分の好みを選んだ方が楽しい。ギスギスするような『勝負の勝ち負け』よりも重視したいところ。
勝ち負けよりも『娯楽への投資』が優先される。大金はあくまで娯楽へのスパイス……そういう思考である。

モニターを指差しているのは、母親と共に搭乗してきた少年。

「ねぇママ、ルカリオなんで芋虫運んでるの?」
「さぁどうかしらね。きっと仲良しなんじゃないかしら」
「えー、嫌だよ。そんな弱そうな虫なんて殺しちゃえばいいのに。
 つまんないなぁ。波動弾使ってよー。ルカリオー」

この少年の場合は賭博目的ではなく、モンスターの勇姿を見るために来ている。
つまり純粋に観戦だけを目当てにしている者。この催しは賭博をしない者にもエンターテインメントとなり得るのだ。

「俺は……ッ! 大穴であるピカチュウに賭けた……!
 見ろ……あの回避率、あれじゃあ埒が明かねぇ…… だが、これでいい……!
 ああやってかわし続けている限り、敗北することなど無いからだ……ッ!
 コイツは勝てるさ……、俺はコイツの勝利を信じている……俺の直感を信じるんだ……!」

飛行船に乗り込めるだけの富豪でありつつも、このように勝つことに拘る者。
ハイリスクなギャンブルを行い、あわよくば莫大な金を手にする……その流れに酔いしれるのも楽しみ方の一つ。

また、この催しのシステムを利用することで金を稼ごうとする者もいる。

「やぁやぁ、あなたはどこに賭けましたかな?」
「私はすえきすえぞーに賭けてたんだがなぁ……開始早々殺られてしまってね。
 まぁ、せっかく飛行船に乗れることだし、あとはのんびり酒でも飲みながら観戦していようかと」
「それは残念ですな……。しかし、実は今ここにワームモンのかけふだが大量にあるんですよね。
 どうですか? これも何かの縁、良ければ貴方だけにお売り致しましょう。
 きっと応援するモンスターが生きていたほうが、酒も美味しく感じられることでしょう」
「ふむ、そうだなぁ……。それじゃあ、100枚ほど買おうかなぁ」
「15万ゴールドでいかがですか?」
「そりゃキミ、ちょっと高すぎないかね?」
「何を言いますか。ワームモンは今、相当注目されています。当初予測されていたよりも強かったんですからねぇ。
 きっともう少し時間が経てば、もっと高額でも買おうと思う人はたくさん出てくるんじゃないでしょうか。
 優勝すれば一気に元が取れるでしょうし、不満になったならばまた誰かに売ればいいのです。
 何よりも、もうしばらくは熱を込めて観戦を楽しむことが出来ますよ。あなたにとって悪い話ではないはずです」
「ムム……そうだな。では頂こうか」

このように、あらかじめかけふだを大量に購入し、それを誰かに売ることによって儲けを出す者。
モンスター格闘場では基本的に、試合が始まる前にのみかけふだを購入する事が出来る。
それはこの闘技場においても同じである。しかし、この催しの場合は普段の通常のものと比べて試合時間が長い。
ゆえに、かけふだを売買する猶予が存在するわけである。
多少値段を高くしても需要は存在する……これによって元手を超える額を稼ぐことが出来るわけなのである。
無論、ここまで破格の値段による商談が成立するのは、富裕層が集まる飛行船内だからこそであろう。
この男のように、利益よりも効用を求める者には、かけふだが再購入出来るのはなかなかに魅力的な話なのだ。




乗客が会話を楽しむ中、乗務員室から一人の女性ガイドが現れ、マイクのスイッチを入れた。
小さくハウリング音が鳴り、ひと呼吸置いてから解説が入る。

「この飛行船は高度約100mの高さで会場の周囲をぐるりと周回致します。
 その際に平地や荒野、山脈や宙を舞うモンスターたちを様子を観戦する事が出来ます。
 皆様に双眼鏡を御支給致しますので、どうぞご自由にモンスターたちの戦いをお楽しみください。
 また、森林や物陰などにいるモンスターの様子につきましては、モニターの方で状況をご確認頂けます」

モニター……飛行船内部には数十という個数のモニターがズラリと並べられている。
そこに映るのは森林や山道、平原、湖や川底、廃村の内部など、様々な場所に設置された隠しカメラの映像。
映像の中にはモンスターの姿を追っているものもあるため、基本的にはだいたいの様子を伺うことが出来るのだ。

「ちょっ待てよ! 直接見れると思ってきたのに、双眼鏡かよ!
 もっと間近まで近寄ること出来ないのか?」
「申し訳ありませんが、これ以上の接近をしてしまうと、モンスターたちに過度の刺激を与えてしまう恐れがあります。
 そのため、島の上空も避け、海岸線に沿って海上を周回する予定となっております。
 本飛行船はモンスターによる攻撃を反射する仕様が施されているものの、不慮の自体が起きないとも限りません。
 お客様方の安全を確保するためにも、ご理解頂けるようお願いいたします」
「ちっ……」

深々と頭を下げるガイド、乗客はしぶしぶと引き下がる。
確かに、迂闊に近寄ってうっかり飛行船を破壊されでもしたら溜まったものではない。
しかし、わざわざ高額な金を支払って乗ったわけであり、これには不満を抱かざるを得ない。

双眼鏡が全員に行き渡り、乗客たちは皆レンズを覗き込む。

「おう、なんか見えるか?」
「そうだな、ヤシの木が見えるぞ!」
「あのさぁ……」

富豪たちの間で他愛の無い会話が盛り上がる。
現在の飛行船は島の最南の辺り、近くには森林ばかりが目立つため、モンスターの姿は視認出来ない。
そこから時計回りに一周ぐるりと回る予定になっている。
荒野や平原などであれば、何かしらのモンスターの姿が確認出来ると思うが……。

「……ですが、乗客の皆様のためにサービスしませんとね……」

ガイドの女は小さく呟く。
彼女はこの催しの主催者、モリーからとある指令を受けていた。

『殺し合いに消極的なモンスターに忠告を送り、戦いを加速化させろ』と。

モンスターの中にも戦闘を好まない物や、死の恐怖に怯えて逃げ隠れを行う物がいる。
彼らの思考は理解出来る。しかし、だからと言って彼らに時間を無為に過ごされてはこちらとしては不都合だ。
戦いを長引かせて、観客を退屈させてはいけない。
我々が半ば強制的にでも、戦いに消極的なモンスターを舞台に引っ張り上げる必要があるのだ。

忠告するタイミングは自分の判断に委ねられている。
そこで、この飛行船が通りがかるタイミングにて行うことに決めた。
運がよければそのまま飛び出し、乗客たちに肉眼で姿を披露してもらえる可能性があるからだ。
さて、この付近に一体、開始早々から身を隠し続けているモンスターがいる。
まずこの子から、軽く呼びかけを行ってみようではないか……。


 ◆


サボテンダーはついに木の上によじ登って、生い茂る葉っぱの隙間から様子を伺い始めた。
宙に浮かぶ巨体はゆるやかな速度で接近し、島に上陸する直前で方向を転換させた。
結局、アレは一体なんなんだろうか。魔物ではなく、人間の作り出した機械というものだろうか。
機械だったらもっとゴツゴツとしている気がするのだが……。考えても判断は下せないな。
ただ、彼の中では既に『自分からアレにちょっかいを出すべきではない』ということは決まっていた。
何かしら危険な物かもしれない。だが、あれだけ目立っているんだ、きっと誰かが沈めてくれるだろう。
自分はここで留まって、元々の目的を遂行するのが最も生き残れる安全策なのだから。

―――ザザッ……

小さなノイズの音。
すぐ近くから聞こえた。

あまりにも不自然な物音に思わずビクッと体が飛び跳ねる。
状況がよく把握出来ない状態で、ノイズ音に続いて人間の声が聞こえてきた。

『忠告する。Dー6に潜伏中のサボテンダー、積極的な戦闘を行いなさい。
 このまま無為に潜伏し続けた場合は、強制的な脱落も視野に入れる』
「は……!?」

まさか、主催者!? 僕が、無為な潜伏……!?
何故僕は忠告を受けているんだ。
僕の戦法は否定されるものだったのか。

『なお、あなたの東側に他のモンスターが三体存在する。参考にして頂きたい。以上』

ブツリッ、と音声が切れた。

改めて蘇ってきた死に対する恐怖に苛まれながらも、サボテンダーは木から降りて音の出ていた箇所を探る。
そして気付いた。樹木の隙間から、人間の作った機械が"瞳"を覗かせている事に。
それがカメラ、スピーカーという名前だとは知らずとも、それが自分たちの姿を監視し、自分たちに呼びかけを行う物であると予測が付いた。

「クソッ……」

思わず悪態を漏らす。
主催者がお気に召すような『積極的な戦闘』をしなければ僕は殺処分されるのか?
なんだよそれ? それは流石に、あんまりじゃないのか?
ふつふつとこみ上げる苛立ちが、恐怖と入り混じり、彼の心を沸騰させる。
理不尽だ、あまりにも理不尽。
それでも逆らえない。その場で殺されるとわかってて反抗するのか、それとも殺されるリスクを覚悟の上おとなしく従うのか。

「……やるしかない……」

選択の余地など、自分には残されていない。サボテンダーは忠告通り、東の方へと走り出す。
方角に関しては太陽の位置で大まかには掴むことが出来た。
ただ、三体の敵がどんな相手なのか……直接戦闘したところで勝目があるのか……?

……いや、直接戦闘の必要までは無い、闇討ちでも問題ないはずだ。
こちらがいち早く敵を察知し、遠距離から攻撃を仕掛けて仕留める。
そして一体でも仕留めたと見たらすぐさま逃走をする。
殺しを行っている分、『積極的な戦闘』として見てもらえなくもないだろう……。

サボテンダーは戦略を練りつつ、足を進めた。
この先に何が待ち受けるのか、彼はまだ知る由もない。


【G-4/森/一日目/夕方】

【サボテンダー@ファイナルファンタジー】
[状態]:健康、この状況への恐怖(生き残れそうな自信で少しだけ抑え込めている)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:逃げ隠れしつつ、生き残る。死にたくはない。
 1:東にいるであろうモンスターを襲撃する
 2:可能な限り直接対決は避ける。他のモンスター同士で潰し合ってほしい。
 3:その中で弱そうな奴、傷を負ってる奴は仕留める。
 4:危ない橋は極力渡りたくない。基本は逃げ腰。
 5:あいつ(主催)には絶対に逆らえない……

【備考】
オス。割と狡賢いが根は臆病。


※夕方の時間帯において、観戦用の飛行船が島の周囲を飛びます。
 戦いに消極的だと判断される参加者に対して、その近くを飛ぶ際に忠告を行います。



No.43:絡繰考察 投下順 No.45:そんなことよりきのみが食べたい
No.03:チキン・ラン サボテンダー No.53:ようやく戦ったね(ニッコリ