高く翔べ

──気に食わない目をしている。
エアドラモンに対してエンジェルが抱いた第一の印象はそれだった。
と言っても、第二の印象を抱くことはエンジェルは想定していない。

見敵必殺、霊魂無き畜生に対して天の使いは一切の躊躇をしない。
それは同情という点でもそうであるし、
また遥かに体格で勝るエアドラモンに対しての怯えという点でもそうである。
支給された銃を熟練の兵士の様な冷徹さでエアドラモンに対して向ける。

「鎖無き獣に──」

エアドラモンの本能がそれの危険性を確信した。
その攻撃にあらゆる神の慈悲はない、食らえば確実に死ぬ。
夕陽が海へと身を潜らせることを夜の知らせとするように、それは死という絶対の法則性によってもたさられる絶死の攻撃なのだろう。

さて、エアドラモンが決して知り得ることの無い情報であるが、
その攻撃の名はとある修羅の絶技より名を取って、こう呼ばれている。

「──天の裁きを」

至高の魔弾コピー、と。


天使エンジェルの持つ銃──メギドファイアより放たれた魔弾は、
天使エンジェルとエアドラモンの狭間にある何もかもに死を与えながら、
すなわち魔弾による余波は大地を砕きながら、草も花も消し炭としながら、真っ直ぐにエアドラモンへと向かう。

轟と音が立った。
着弾地点にはただ虚ろのみが残された。

天使エンジェルは天使という種族においては最も弱い、それは誇り高き天使としても認めなければならない所である。
つまり、支給されたメギドファイアの至高の一撃を以て相手を初手で仕留めることが最善だった。


ならば、この状況は最善とは程遠い。
至高の魔弾コピーを回避したエアドラモンがエンジェルに向けて、竜巻を放つ。
その名は、
「ゴッドトルネードッ!!」
天の使いに対して用いるには、余りにも皮肉の効いた名前だった。

天使エンジェルにとっては不幸であり、エアドラモンにとって幸運だったことは、

魔力に限りがある以上、至高の魔弾コピーをおいそれと試し撃つわけにはいかなかったこと、
断罪に相応しき最強の銃の存在が天使に対して慢心を生じさせたこと、
そして、神に近い存在と言われるエアドラモンがその名に違わぬ機動力の持ち主であったということだ。

神の名を冠した竜巻に、浮遊していたエンジェルは地面へと叩きつけられた。
地に堕ちたのは天使だ、その強者とは言えぬ体に傷をつけているのもまた天使だ、

最早、エンジェルに至高の魔弾コピーを撃つ魔力は残されていない。
命を握っているのはエアドラモンであり、握られているのはエンジェルだ。

「ふん……」
しかし、見下しているのは天使であり、見上げているのは神に近いと言われる龍だった。

「気に食わない目をしているな」
エアドラモンの目に映るのは嫉妬であり、憂鬱であり、憤怒であった。
「何がわかるんだよ…………」
そして、数えきれぬ程の負の感情の中、僅かに過ぎるのは羨望のそれであった。

「エンジェモン系列に俺のことがよぉ!!」

気に食わない目だと、改めてエンジェルは思う。
その目は堕天使のそれだ。
神を憎みながらも、かつてあった日々を忘れることの出来ぬ──愚か者のそれだ。
ならば、とエンジェルは答える。

「下らん」
どのような思いを目の前の畜生が抱こうとも、エンジェルは興味を抱かない。
いや、興味を抱くに値しないというのが正確なところだ。

「一人でやれ」
かつての姿に戻りたいという堕天使共も、神の手によりあるべき姿となった邪神共も、
共感する気はないが、理解は出来る。
だが、目の前の龍は──何を見ている?

存在否定の言葉を浴びせられたエアドラモンがエンジェルへとトドメを刺すのに、躊躇はしない。
エアドラモンの羽ばたきより生じた鋭利な真空刃がエンジェルを襲う。
これこそエアドラモンの秘技である『スピニングニードル』であり、その攻撃はあっさりとメギドファイアの銃撃により相打たれた。

既に至高の魔弾コピーは放てはしないが、
メギドファイアの威力はマシンガン系統に於いて最強である。
そして見よ、エンジェルの体は神の竜巻を身に受けたその時よりも明らかに癒えている。

天使エンジェルがその身が地に堕ちたのを良しとしたのは、決してエアドラモンに対する言葉攻めのためではない。
治癒魔法ディアによる、己の回復のためである。

天使は再び空へと舞い上がり、神たるエアドラモンと同じ高さで視線を交わす。

「……自害しろ」
「…………は?」

エンジェルの言葉に対して、エアドラモンは当然の反応を返す。
──は?何を言っているのかわからないのですが、貴方は頭がイカれているのではないでしょうか。もしそうでしたら、貴方が死ぬべきだと思いますよ。
ここまで言葉を返すのが当然ではない反応である。

「貴様の命に価値はない、ならば今が幕引きの時だ」
傲慢ではなく、それは天使にとっての慈悲だ。
殺し損ねた蚊にトドメを刺すような、そういった類の慈悲なのだ。

「自殺は大罪であるが、畜生に罪の概念は無い。死ぬが良い」
口を開こうとしたエアドラモンに対し、
エンジェルは更に言葉の刃を以てエアドラモンを斬りつける。

「問おう、貴様に生きる価値はあるのか?」

口を開く必要はない。
黙って戦闘を再開すれば良いと、エアドラモンの理性が告げている。

そうすれば良いのではない、そうしなければならない。

「俺に価値は…………」

それでもエアドラモンは口を開いてしまった。

──エアドラモン…………いや、知らねーわ
──02でぶっ殺されるぐらいには嫌われてたんじゃねーの?
──神に近い存在ってそれさぁ、三大天使の前でも同じ事言えるのかよ
──成熟期で神に近い存在とか、お前それ成長期のルーチェモンの前でも同じ事言えるのかよ
──お前って、レオグンみてーなもんだよな、生贄が必要なのに攻撃力2000もいかない通常モンスターみたいな

マグマのように湧きだした思い出が、エアドラモンの心を責め立てる。
エアドラモンの価値など、誰にも認められたことはなかった。
ティラノモンと恵まれないデジモン同士で傷を舐め合うこと、それが世間に対して出来る唯一の抵抗だった。

「価値は……」
無いと、認めてしまえば楽になれる。
目の前の天使に悔い改めて、そして死ねば楽になれる。

誰が俺の生を望む?
唯一望んでくれる奴との友情は、自分自身で捨て去ってしまった。

強くなったところで、本当にパートナーなんて出来るのか?
押し寄せた冷静が、急激にエアドラモンの熱を冷ましていく。

「あるか無いか、ただの一言で済む問題に……どこまで時間をかける気だ?」
見透かされている。
目の前の天使は、何もかもに気づいていて、その上で選択させている、エアドラモンはそう感じた。

進化した所でどうする。
強くなったところでどうする。

俺は……
俺は…………


――俺は、おまえに見下されたくないんだよっ!!

ああ、わかっている。
答えなんて最初から決まっていた。


泣きたくなるほど悔しいから、戦うことを決めたんだ。

不遇な俺を、認めさせてやる!

「あるっ!!」
もう、エアドラモンが天使を見る目に羨望も嫉妬も憎悪も無い。
ただ、その曇りなき目に映るのは敵だ。己の勝率へと変わる、ただの敵だ。

「誰がその価値を認めた?」
「俺が!俺だけが!」
「自己肯定か……下らんな!」

「そして……人間がっ!人間が俺を認めてくれる……認めさせてやる!」

「人間…………」
第二ラウンドのゴングの代わりとなったのは、その言葉だった。

「我を……天の使いで鎖で縛りし、万物の霊長気取りの猿めッ!!」
メギドファイアは淀みない弾幕を形成していく、それはエンジェルの怒りの現れか。

「ああっ!気に食わない奴らだ!!未だに俺の進化系は作られないのに、ティラノモンはとうとう究極体まで完成した!!」
ならばと弾幕の面の攻撃に対抗するは、やはり面の攻撃であるゴッドトルネードである。

だが、天使の怒りの銃撃たるや、竜巻を貫いてエアドラモンを撃ち貫かんとする。
戦場は空、ならばとエアドラモンは弾幕を潜り下からのスピニングニードルを食らわせる。

「貴様はそんな猿どもに認めさせてやるという……目に見えた破滅を進まんとするか!!」
風の刃はメギドファイアの銃弾と相撃つ、必殺技と相撃つメギドファイアの威力たるややはり最強の名に相応しい。

「ああ、そうだ!!チャンスが今、ここにある!!勝率を上げて、進化して、強さを魅せつけて……俺はパートナーを見つけてやる!!」
だが、スピニングニードルの射出はそのままにエアドラモンはその全身でエンジェルの元へと突撃する。

「家畜に成りたがる畜生か!!滑稽を通り越して哀れだな!!」
スピニングニードルで相殺しきれないメギドファイアの火が、エアドラモンの体を撃ち抜く。

「エアドラモンがどれほど前から哀れだと思ってやがる!!舐めんな!!」
苦痛のうめき声が漏れる、血液の代わりにデータが宙に消える、
だが、エアドラモンは倒れない。地に堕ちない。
既にエアドラモンは地に堕ちていた、そしてこれから這い上がろうというのに、銃撃の一つや二つで堕ちるはずがない!

「人間はッ!!」
より高く、より高く、接近するエアドラモンに対してエンジェルはその天使の羽根で更に舞い上がる。
天の国へ帰らんとするかのように、更に高く!

「人間はッ!!」
より高く、エアドラモンは飛ぶ。
天使をも超えて遥か高く、そうで無ければ地に堕ちた分はチャラにならない!

「私を裏切った……」
「俺に機会を与えた……」



竜の牙が天使を打ち砕いた。

「人間のことが好きだった」
リロードの中、デジタルデビルは物語る。

「神の存在すら忘れられようとした世界で、私が見守っていたあの子は天使に祈ってくれた……」
風さえも、その物語の邪魔はしなかった。

「……信じたかった、人間のこと」
地面に落ちた水滴は、雨ではなかった。


「……天使でも、裏切られたら、悔しいし…………」
ぽたり、ぽたり、とまた水滴が落ちていき、
「……悲しいよ」
新たな水滴が地面に落ちなくなったその時、天使エンジェルはその姿を消した。

【天使 エンジェル@女神転生シリーズ 死亡】


エンジェルのリロードが完了し、エアドラモンは再び大地へと戻った。
「……裏切り、か」
その言葉で真っ先に浮かんだのはティラノモンだったが、そこから先のことをエアドラモンは考えない。

「俺は……間違っている、でも……俺は人間に呼ばれたんだ!だったら…………」

それから先の言葉もエアドラモンは考えない。

何も考えない。

【D-2/C-3との間/一日目/日中】

【エアドラモン@デジタルモンスターシリーズ】
[状態]:疲労(大)、迷い、ダメージ(大)
[装備]:なし
[所持]:なし
[思考・状況]
基本:メガドラモンとかで良いから進化するために他の参加者を倒す
 1:他の参加者を見つけて戦う
 2:でもヤバそうな奴は避ける
 3:ティラノモンは次に会えば倒す
[備考]
デジモンに性別はない。が、オス寄り。
長い不遇生活でやや後ろ向きかつ、理屈っぽい性格。
アグモンともども、少なくとも参加者のうちでシリアスなレナモンとは別の世界観出身の可能性が高い(断言はしない)。
天使エンジェルをリロードしました
メギドファイアはどこかに落ちました。


No.36:可能性の魔物 投下順 No.38:キミが死んで、僕が生まれた
No.08:怪物騙 天使エンジェル 死亡
No.27:ティラノモンさん究極体おめでとうございます エアドラモン No.45:そんなことよりきのみが食べたい