迷い生きる獣達

終ワリノ風景
何処マデモ何処マデモ荒涼トシタ大地
血、ソシテ死体
生クル者、何一ツトシテ無シ

己ヲ除ケバ

皆ハ逝ク、私ハ生ク

ナラバ、何処マデモ何処マデモ、行コウ

何時ノ日カ、逃レタ死ガ私ヲ迎エニ来ルソノ時マデ



太陽は考えうる最も頂点で黄金色の輝きを発していた。
白日の下に晒されたその島は、灼熱でもなく、極寒でもなく、丁度いい気温と言うべきだろう。
風は緩やかに草花を撫ぜつけていき、雲は様々な形を取りながらのんびりと世界の果てへと旅していた。
何をするにも都合が良かった、心地良い気温と緩やかな風に身を委ね木陰の下で夕陽が沈むまで睡眠をとることにも、
体を衝動のままに動かしてただただ遊ぶことにも費やすにも、
特に、殺し合いなどには絶好の日和だっただろう。

先程の傷は粗方癒え、いや癒えずとも動いていただろうが、レナモンは闘争相手を探していた。
目的は無い。
この場に於ける絶対的法である、殺し合いということさえも度外視して、
レナモンは目的なき闘争を行わなければならなかった。

決して目で見ることの出来ない傷を、癒すためではなく埋めるために、
戦う理由を失ったレナモンは、理由なき戦いを行わなければならなかった。

先程の戦いの熱も冷めぬ内に、次の相手は見つかった。
溶けきってドロドロになった動く金属と、それに乗って移動する巨大な金の魚。

珍妙な姿ではあったが、しかしそれを特別な存在と認識する法はレナモンの世界にはなかった。
哺乳類、爬虫類、魚類、両生類、鳥類──数多ある生物の括りは、全て、デジモンという巨大な括りの名の下に平等であった。
レナモンの住む世界に決して差別などはない、ただ力の差だけが存在する。

そして、レナモンとその庇護者は──敗北した。
それだけのことだ。

最早、守る相手はいない。
復讐がしたい、そういうわけでもない。

だが、それでも力が欲しいと、レナモンは願う。

決して過去を変えられると思っているわけでもない。
未来に何かを願うわけでもないし、現在を掴もうというわけでもない。

ただ、生という旅は、一人で歩むには辛すぎた。

背中越しに守る相手は、もう二度と求められないだろう。
共に歩く相手を求めることなど、決して出来ないだろう。

だから、対面する。

面と面を向かい合わせ、殺しあう。

意味は、
特に、
無い。

「私の体を見て、何か思うことはないか?」
「上に乗っているので見えません」
「成程」

コイキングとはぐれメタルは海に向かっていた。
もちろん、魚が陸にいてはならない等というルールはない。
しかし、水場の方が行動しやすいのならば、誰だってそうするだろうし、
実際、彼らも海へと向かっていた。

「コイキングさんは海に行ったら、どうするんですか?」
「移動しやすくなるだろうな」
「…………アッハイ」

正論といえば、正論であった。
しかし、返答に困った。

「とりあえず島を1周してみることにしよう、何かわかることがあるかもしれない。それに……」
「それに?」
「他の参加者と出会うことになるだろうな、良くも悪くも」
「……良くも悪くも、か」

コイキングさんと出会えたのはラッキーだったけど、
もしかしたら、他の誰かは殺し合いに乗っているかもしれない。

その時、僕は……

はぐれメタルの体が、ふるりと揺れた。

「問題はないよ、はぐれメタル君」
そんなはぐれメタルの心を見透かしたかのようなタイミングで、コイキングが言葉を放った。

「私は29レベルだ、見かけよりは強いのだよ」
29レベルという言葉の意味はわからなかったが、
少なくともその言葉が、はぐれメタルの緊張をほぐしたのは事実だった。

「何事もなんとかなるものだよ、はぐれメタル君。聞きたいかい?私がいかりの湖で赤いギャ」
「申し訳ないが、その話の続きは後にしてもらって良いだろうか?」
言葉を遮ったのは、レナモンだった。

果たして、この二匹と戦うことで望むものは得られるのか。
その様な疑問を抱かせる程度には、レナモンから見れば彼らは弱者だった。

だが、レナモンはその様な疑問を吹っ切って進む。

思えば、真に望むもの等、永遠に手に入らないのだ。
力さえ、力さえも──その代用品に過ぎない。

ならば関係ない、私は進むしか無い。

「話の続きは、0と1に分解された虚無の果てで行なってくれ」

「話がしたい」
レナモンの宣戦布告に対し、コイキングはどこまでも落ち着いていた。
はぐれメタルの上に乗った、その黄金の体はどことなく玉座に座った王の風格すら醸し出していただろう。

体当たりの勢いで、はぐれメタルから飛び降りたコイキングは、堂々とレナモンの前に立つ。

「コイキングさん!?」
逃げはしないのか?さも当然であるかのようにレナモンの前に立つコイキングに、
はぐれメタルの心中はその疑問で満たされた。

何と声を掛ければいい?
何かしなければならないのでは?
とにかくコイキングの態度に対して、はぐれメタルは行動しあぐねていた。

「はぐれメタル君は逃げなさい、ここからは大人の話し合いの時間だ」
「でも!」

やはり、そんなはぐれメタルの心を見通すかのように、コイキングの冷静な声が飛んだ。
だが、その言葉にはぐれメタルも素直に応とは言えなかった。

「僕の速さなら──」
そこから先の言葉は続けることが出来なかった。

逃げられない。

コイキングを乗せれば、はぐれメタル特有の超速を発揮することは出来ない。

ならば、残るか?

いや、残ったとしても──コイキングはきっと死んでしまうだろう。
このメタルの体は、あらゆる攻撃に強い。
だが、コイキングは──駄目だ。

自分を囮にして、コイキングを逃しても──

跳ねて移動するしか無い魚は、文字通り、まな板の上の鯉だ。

それでも……

それでも!!

「駄目です!!駄目なんです!!」
どうしようもないとわかっている、それでも叫んだ。
付き合いなど、このはぐれメタル生の内で誰よりも短いだろう。

しかし、見捨てることは嫌だった。
理屈ではなく、心が叫ばせていた。

叫んでも、何も変わらない。

それでも、気持ちを伝えずにはいられなかった。

「大丈夫だよ、はぐれメタル君」
そんなはぐれメタルに、
やれやれ、とため息を吐き。
平静と、コイキングは言ってのけた。

「私は目の前の狐によく効く呪文を知っているのさ、何せ…………目の前の狐は、私と同じ目をしているのだから」

「だから行きなさい、はぐれメタル君。
行って、生って、言ってくれ、私という強いコイキングがいた事を」

「駄目……なんですね」
「ああ」

はぐれメタルは後ろを振り向きはしなかった。
ただ何時もと同じように、全速力で逃げた。

「はぐれメタル君、君に出会えて本当に良かった」

視界はぼやけていた。

「…………追わないでくれて、感謝する」
逃げるはぐれメタルを、レナモンはただ見送った。
どこか重ねてしまったのだろうか、昔の自分と。


「…………」
何を言葉に出すか、レナモンは考えあぐねていた。
動く鉄を逃したのもそうだが、
それよりも気になったのは目の前の金魚が言った言葉だ。
ハッタリだと決めつけてしまえばいい、
言葉ではなく、武で応じて、そして戦う自分に戻ればいい。

だが、
「…………君も、きっと失ったのだろう」
コイキングの言葉を、レナモンは無視できないでいた。

「初めに言っておくが、私は弱い。自慢ではないが、君の攻撃を一撃で死ぬだろう」
本当に自慢の出来ないことだが、
レナモンはその言葉に対し、特別嗤うことはしなかった。

「だから、君が私を殺すまで……君は私の言葉に付き合ってくれ」
「…………ああ」

「私の朝は一杯のコーヒーから始まる。私の午後はアフタヌーンティーにて始まる。
そして夜は、パジャマになるに決ま」
「本筋から話せ」
「お気に召さなかったか?」
「召さん」

「そうか…………」
「…………」

レナモンはこの時点でコイキングを殺そうか真剣に悩んだ。

「私には親がいた、兄弟がいた、友人がいて、恋人がいた」
「過去形か」
「ああ、悲劇の呆れるような普遍性という物だ」
「つまりは」
「全員死んだ、私だけはこうして生きているがね」
「…………」

「つまらないことだ、我が故郷の湖は人間の実験場となり…………小さい弟は、その紅い身のまま暴龍になった」
「お前は……どうした?」

「……私は逃げ出した」
「情けないな」

「君だってそうだろう?」
「…………」

返す言葉は、無かった。

「私は逃げて逃げて、探していた」
「何を?」
「知識を」
「それで何を得た?」
「何も」

「情けないな」
「君だってそうだろう?」

「私は……力を得た」
「力を得て、何を得た?」

「守るべき者を守れるはずだった力を」
「守るべき相手もいないのにか」

「…………」

違う、そうじゃない。
私が力を求める理由は──
出そうとした言葉は、ただ心の奥底に沈んでいった。

「私は探した、知恵を得て……守るべき相手を」
「私は違う……守るべき相手を失い、力を探した。
力さえあれば守れた……お前はそう思わなかったのか?」

「理性を無くした弟は、守るべきものを心から無くして……そして力だけを得た。
私は見つけなければならなかった、守るべきものを、そして守るための力は……その後だ」
「……違う」

否定されている、レナモンはそう感じた。

「私は…………」

だが、言葉に出来なかった。

「わかっている、私は逃げたんだ。何もかもから逃げて…………そして、今が精算の時だ」

コイキングの金色の体が、その体色とは更に毛色の違う光に包まれていた。

「君に見せたいものがある」

シルエット状になった、コイキングの体がゆっくりと巨大化していく。

「果てだ」

鯉は龍へと変貌していく。

「力の果てだ」

コイキング は ギャラドス に 進化した

「はぐれメタル君を下にした時、何故か経験値の入る感覚があった。
だから…………きっと、出来ると思ったんだ。進化を」

「狐君」
「レナモンだ」

「レナモン君、私はもう逃げない…………だが、戦いもしない」
「どういうことだ?」

「なに、少々暴れるだけさ」

ギャラドスは白目を剥き、レナモンを無視して、
ただひたすらに暴れだした。

レナモンはキュウビモンに進化し、ただ暴れ続けるギャラドスに攻撃を加えていく。

ギャラドスは何も意に介さない。

ひとしきり、暴れると、次は己の体に攻撃を加えていく。

「見せたいものとは…………これかッ!!」
キュウビモンの叫びにも、ギャラドスは意に介さない。
ただただ、己の身を傷つけていく。

「力の果てなど、このような物だとッ!!私に見せつけるために!!」

ギャラドスは意に介さない。

「だとしたらッ!!下らないッ!!本当に下らない!!」

ギャラドスは意に介さない。

「私は──」
「私は思うんだ」

穏やかな声が響き渡った。

「このような体で暴れるよりも、はぐれメタル君に運ばれていた時の方が楽しかったと」

その言葉だけを言い遺し、
ギャラドスは、天を仰いで、逝った。

鯉の滝登りの先の、どこまでも抜けるような青空を見て。

【コイキング@ポケットモンスター 死亡】

「今まで歩いた道を否定して!そしてまた探せと!お前はそう言うのか!!」
龍の巨体からの返答は無かった。

「おい……応えろッ…………逃げるなよ!!」
龍の名を呼ぼうとして、その名を知らないことに気づき、
レナモンはただ、声にならない叫びを上げた。



「畜生…………私に、どうしろと言うんだ」



【B-4/草原/一日目/午後】

【レナモン@デジタルモンスターシリーズ】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(空)
[思考・状況]
基本:戦い抜き、もっと力を手に入れる
1:どうすればいい?
2:強き者を打ち倒す
3:ガブリアスはさらに力を手に入れてから倒す

[備考]
メス。
多くの勢力が戦いを続ける激戦区の森で、幼年期クラスのデジモン達を守って生活していたが、
大規模な戦闘に巻き込まれた際、彼らを守りきれなかったことをきっかけに力を求めるようになった。
自力での進化が可能であり、キュウビモンに進化可能であることまで判明している。

【はぐれメタル@ドラゴンクエストシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品×1)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗りたくない
1:コイキングさん……

[備考]
オス。慎重で、臆病。劇的な出来事を待ち望んでいる。一人称は「僕」


No.29:眠ったままで 投下順 No.31:バトロワ中にエクササイズやったら死ぬ
No.25:フィッシュゴールド/ハグレシルバー はぐれメタル No.50:escape
No.25:フィッシュゴールド/ハグレシルバー コイキング 死亡
No.17:力の証 レナモン No.66:~チカラ~