「モンスターだって何にでもなれる,挿絵アリver」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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南に山岳地帯、西に森林、北側には川が流れる、見事なまでに隔離された場所。
こんな辺鄙な場所で、何を祭ると言うのか、総じて祭られるような神様は人が訪れぬ程の秘境を愛する者なのか。
「俺にゃあ、理解でっきないね!っとォ!」
暗い色をしたぬいぐるみが、ほこらの屋根によじ登る。
ふわふわとした柔らかそうな体つき、しゃべるたんびにチャックが閉じたり開いたりするどこか不気味で、愛らしい?見た目。
彼はジュペッタ、捨てられたぬいぐるみに怨念のエネルギーが入り込み動き出した、と語られているポケモンである。
徘徊して自分を捨てた子供を探している恐ろしいポケモン!なんて世の中で語られているが、そんなことはない。
このジュペッタに関しては。
「ああー何にも見えねえ!誰もいねえ!殺しあいをしろだあ?
あんな頭のてっぺんがハゲて目立ちまくるよっくわっかんねえおっさんの言うこと聞いてぇ?はっ、やだやだ」
あいつったら、ご主人サマよりダセぇや。毒づいて、ひとしきり喚いて、こうべを垂れた。
「俺は、みんなに愛されるアイドルポケモンよ?よ?アイドルが殺しあいとか
殺すとか物騒なコトいっちゃあダメよ、呪うとか恨むとか祟るとかオブラートに包まねえと」
このセリフを世間の皆様が聞いたら、ホラー映画も真っ青なほど首を傾げて一回転させるだろう。
しかしこの言葉に偽りはない(アイドルポケモンというのは嘘だが)。
彼は、いわゆるコンテストポケモンとして育てられていたジュペッタなのだ。
「いつもどーりにご主人サマの布団で俺ぁグースカ寝てたはずだよなあ、夢かよ全く、はぁーさっさとご主人サマんとこ帰りてぇなあ
あんな暇さえあれば自転車乗り回して卵孵しまくってるご主人サマでも愛らしい俺に会えねえと寂しいだろ、うんうん」
そしてついでに、彼はびっくりするぐらいのナルシストに生まれついていた。
ため息をつくと、幸せと恨みのエネルギーが抜けていく。
このままでは埒があかないと、思考を変えてみることにした。
「そうだ、祠になんかあったりしねえかな、家に帰れるマシーンとか」
楽観的に過ぎる調子で屋根から飛び降り、祠を覗く。
石の扉を開いた先は、思っていたよりなかは広いかもしれない、キョロキョロと闇に慣れない目で様子を伺う。
「神サマ仏サマ、おじゃましまーす……っと?」
じいっと目を凝らすと、何かが震えている。
小さな小さな背中。光の乏しい世界できらきら輝く青白い盾。
「おおっ!誰かいたじゃねーか、ちーっす、俺アイドルポケモンのジュペッタ!」
「ひぃ!?やめて、僕は悪いプチヒーローじゃないよ!やめて!」
がばっと顔を上げたかと思うと、盾を構えて、というか隠れて涙混じりの声で叫んだ。
「はあん?どったのどったの……俺も悪いジュペッタなんかじゃねえよ、落ち着けって」
小刻みに軽快な音を鳴らしながら、プチヒーローと名乗ったそいつは盾からちょっぴり顔を出した。
緑色を基調とした、妖精のような顔をしている。
どうやら、軽快な音の正体は合わない歯の根がカチカチ騒いでいる音らしい。
「よ、よ、よかった……僕はプチヒーロー、プチット族の勇者……一応」
蚊の鳴くような尻すぼみの声。プチット族の……あたりからはこの場が静寂に包まれていなかったらまず聞こえない。
「勇者?何だか知らないが、すげえじゃないの!やったねえ俺ったら幸先がいい!
一緒になんとか五体満足で家に帰る方法を考えようじゃねえの!」
にっこり、チャックの両端があがる。いい笑顔なのだが若干恐ろしい。
「帰る……帰りたく、ない……」
笑顔で差し出された手を見て、プチヒーローはうつむき、目に涙を溜めた。
「帰りたくない?なんだよ……んじゃあここでガタガタ震えて、殺したり殺されたりしたいってのかよ、頭だいじょーぶか?」
半分しか見えないプチヒーローの顔の前でひらひらと握手しそこねた腕を回す。それにすら、びくっと怯えるプチヒーロー。
その反応にまるで自分が悪者のように感じて、ジュペッタはほんのりと自分の口の悪さを反省する。
「……ワケアリ、ってやつ?よかったら話してくんねえかな」
暫し沈黙が落ちて、ゆっくりとプチヒーローが口を開く。
「僕は、さっき言ったとおり、プチット族の勇者として生まれた……みんな、最初は勇者が生まれた!って大喜びで
……けど僕はどうしようもない泣き虫で、臆病者だった……だから、他のプチット族のみんなから期待外れだって毎日怒られてて……」
ぼろぼろと、話ながら涙がこぼれていく。
「一人前のプチヒーローになれるために試練を用意してやるって言われてたけど
それがこれなのかな、い、いやだよ、僕は……僕は……」
完全に盾に隠れて蹲ってしまった。
話を聞いたジュペッタは、居心地が悪そうにあーだのうーだの唸ってあちらこちらに目線をやる。
深いため息。プチヒーローの肩が跳ねる。
いつもいつも、散々怒鳴られたあとに、この音が聞こえて、みんないなくなった。
コンコン。
次いで耳に転がったノックの音。盾を退けてほしいのだろうか。
先ほどと同じように顔を出すと、ジュペッタがにっこり、笑っていた。
両手を広げて、そのどちらにも影の塊がボールの形をとって揺らめいた。
攻撃されるのか、と青ざめたが、影のボールはジュペッタの頭上に放り投げられ、ジャグリングでもするように回りだした。
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「すごい……」
影のボールは二つから三つ、三つから四つに増えた。
不意に、ジュペッタのチャックでできた口がジーッと開いて青白い炎がほの暗い祠のなかに舞う。
青白い炎は影のボールとぶつかり、さらにあざやかなボールに変わった。
気付けばプチヒーローは泣くのをやめて、それに見入っていた。
ぽーんと、いっぺんにボールは天井すれすれまで飛び上がり、ジュペッタに急降下してくる。
かぱあっと開いたジュペッタの口がそれを全て受け止め飲み込んだとき、プチヒーローは拍手をしていた。
「あんがとさん、あとさっきはごめんな、きついこと言っちまって」
「う、ううん、いいんだ、慣れてるから……それよりジュペッタはすごいんだね!とっても綺麗だったよ!」
盾からすっかり体を出したプチヒーローは笑顔でジュペッタを褒め称えた。
ジュペッタもふふんと満足そうに。
「俺はアイドルポケモンだからなぁ!これぐらい朝飯前よ!」
ひとしきりほくほくと頷いて、ジュペッタは改めてプチヒーローに手を差し出した。
「やっぱり一緒に帰ろうぜ、お前んとこの連中ががなってきたら、こんな危ないとこから
帰ってきたんだぜ!って自慢してやりゃあいいし、もしそれでまだなんか言ってくるようなら
俺んとこのご主人サマにお前のことを頼んでみるさ」
惚けた様子で、プチヒーローはジュペッタの手と顔を交互に見つめる。
「僕は……役に立てない、と思う、けど」
おずおずと、緑色の小さな手が伸びる。
「一緒にいってもいい、かな?」
「おうよ!」
がっしりと握手がかわされる。
それはすこし痛かったけど、プチヒーローが初めて感じた暖かい痛みだった。
【D-4/祠/一日目/昼】
【ジュペッタ@ポケットモンスター】
[状態]:健康
[装備]:なし
[所持]:ふくろ(不明支給品1)
[思考・状況]
基本:殺しあいとかアイドルのやることじゃねえ!無事に家に帰るぞ!
1プチヒーローと一緒にいく
【備考】
オス。自称アイドルポケモン。ここにつれられてくる前はコンテストポケモンとして育てられていた。一人称は「俺」
【プチヒーロー@ドラゴンクエスト】
[状態]:健康
[装備]:水鏡の盾@ドラゴンクエスト
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:殺し合いはしたくない、家には……
1:ジュペッタと一緒に行く
【備考】
オス。泣き虫でこわがり。プチット族に期待されていたプチット族の勇者。一人称は「僕」
《支給品紹介》
【水鏡の盾@ドラゴンクエスト】
青白い盾。読み方は「みかがみのたて」で、ドラゴンクエストシリーズ内では勇者の装備の次に強いことが多い盾。
|No.04:[[海物語]]|[[投下順]]|No.06:[[さみしさの共振]]|
||ジュペッタ|No.36:[[可能性の魔物]]|
||プチヒーロー|No.36:[[可能性の魔物]]|