蛇足

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きっとこんな話は蛇足でしかないだろう。 物語の本筋には一切関係の無い幻想上の出来事なのだから。 矢のような速度で進んでいく時間を、無理に塞き止める必要も無い。 でも、先の話には修正点が一つだけあり、そのためには理由が無くてはいけない。 だからこそ、地下空間にメテオが着弾し、結界エネルギーが断たれるまでの時間へと、巻き戻る必要がある。  ◆ 光に包まれた世界は白としか認識出来ず、知覚の枠を越えた轟音は無音として扱われる。 それがベヒーモスの意識で行われた処理であった。 とはいえ、そんなのは本来ならば一瞬だけのもの。 ただそこに、メッセージのかたまりがなだれ込むように注がれただけ。 『ベヒーモス、私は心から感謝している。  私は、やっと生という苦しみから解き放たれた』 白の空間には、結界を担う者が立っていた。 例によって念話によるものだろう。 転移空間を張るだけではなく、メッセージすら届けられるというのは恐るべき事だ。 『フン、礼には及ぶまい。この程度、あくまでも利害の一致に過ぎない』 そして、ベヒーモスは返答した。 脳の電気信号では到底間に合わないような、刹那の中で。 『結界を担う者』の力によるものかもしれない、それとも別の現象かもしれない。 もちろんそんなことは、彼らにはそれほど重要な事ではなかったが。 『伝えたい事は以上か』 『……そうだな……。ならばもう一つ、消える前に伝えておこう』 『ああ』 その昔、どの生物よりも最も自由なポケモンがいた。 望むがままに宙を舞い、望む場所へテレポートが出来る。 賢い知能はどんな技も意のままに使いこなし、それでいて人間に縛られることは無かった。 束縛、服従なんて言葉は、彼には全くの無縁。 よほどのことが無ければ、人間たちと関わることもない。 古い文献にだけ記された情報でしか、人間はそのポケモンを知らない。 まるで蜃気楼のように、幻のように、都市伝説のように、本当に存在するかどうか誰も知らない。 だから人間はそれを"幻のポケモン"として語り継いでいた。 実態の無いものなんて、子供に読み聞かせる童話の一つでしかなかった。 ある時そのポケモンは、一本のまつ毛を落とした。 ただ、不運な事にそれを人間が発見してしまったのだ。 『存在する』証拠を掴まれた時、それは幻ではなくなる。 人間は血眼になってその自由なポケモンを探し求める。 自由なポケモンは、人間から逃げるために、その自由を少しだけ失った。 やがて人間は、そのポケモンの遺伝子を用いてクローンを――レプリカを作り上げた。 人間たちは「科学の力は凄い」と称え、「私にも分けてください」とそのレプリカを求めた。 苦心して生み出された幻のポケモンのレプリカ、人間たちはそれを何に使ったか。 案の定、戦いのための兵器として、またはコレクションとして、見世物として使った。 人間は、希少なポケモンを手に入れた満足感に浸っていた。 何よりも生み出されたレプリカは、とても強かった。 そしてレプリカは、喜ぶ人間たちに何も言わずにただ従事し続けた。 ただ、作られたポケモンが何を思い、何を考えていたのか。 人間はそんなことに興味を持たない。 希少なポケモンが手の内にある、その事実に酔いしれていたのだから。 『いでんしポケモン、ミュウツー。  元のポケモンにちなんで、それが私に与えられた名前だった』 『お前はその名をどう思う、誇らしく感じているのか?』 『いいや、そうは思わない。人間に付けられた名など、憎しみすら湧き上がるほどだ。  ……だが、それほどの嫌悪感を抱いていても、私はこの名を捨てようとは思わなかった。  命名された瞬間から、私は自身の事を《ミュウツー》として見なしていた。  そして消える前に、それを貴方に伝えたくなった』 彼には自分の感情が理解出来なかった。 人間に与えられた名に、これほどの思い入れがあることが、納得いかなかった。 『私は何故、伝えたのか。わからない……』 『我にはわかった』 『教えてほしい』 『お前は、羨んでいるのだ。まともな生を受けた者の事を。  そして、お前の遺伝子に刻まれている自由なポケモンの事を』 生まれる意味など無い、いずれは零になる事がわかりきっている。 だが、それでも、苦痛ではなく、憎しみではなく。 生きる快楽を、自由に空を舞う幸福を、世界を知る感動を。 ――それらを味わえる者たちの事を、心のどこかで羨ましく感じていた。 『自分自身の存在の証明を、誰かに示したいと思っていたのだ、ミュウツー』 ただエネルギーを作るための道具ではなく、生を受けた一体のポケモンだと。 その証明が、ミュウツーと言う名前によって与えられた。 『……そうか』 ミュウツーは無機質的に白い腕をぶらりと下げたまま俯いていた。 血色の悪そうな紫の尻尾をふわりと揺らす。 『そうだな。ミュウのような自由を知ってみたかったかもしれない。  例え全てが消えるとわかっていても、人間に縛られずに生きる世界も、見てみたかったかもしれない』 所詮は自分とは違う生物の生き方。 それがどんなものか知る由もない。 だから、彼の目に涙が流れることも無い。 『ありがとう』 ただ、それに気付けたことに感謝したかった。 このことを知る意味なんて、何一つ無い。無駄な事に過ぎない。 それでも、生み出される前から忘れていた感情が、ミュウツーの胸の内にあった。 『フン、こちらも世話になった。  ミュウツー……その名を覚えておこう』 ベヒーモスの言葉に、ミュウツーは小さく頷いた。  ◆ 互いに何も得ていない。 言ってしまえば、語る必要も無い茶番でしかないだろう。 しかし事実として、ベヒーモスの中で一つの名前が刻まれた。 だから、彼の思考欄を一カ所だけ、修正を入れなくてはいけない。 【B-3/廃城/二日目/深夜】 【ベヒーモス@ファイナルファンタジーシリーズ】 [状態]:ダメージ(大)、魔力消費(大) [装備]:なし [所持]:サタン@真・女神転生Ⅲ [思考・状況] 基本:幻獣王の元へ帰還  1:古城を探索する  2:倒すと後味が悪いのでエアドラモンには会いたくない  3:感謝している、"ミュウツー"よ ※主催者側から応急処置的に、ターミナルを防衛する人員が派遣されています。 ※モリーがどういった手段を用いて盛り上げるのかは、次の方にお任せします。 |No.78:[[君のとなり]]|[[投下順]]|No.80:[[心重なる距離にある]]| |No.72:[[CALLING YOU]]|ベヒーモス|No.91:[[決勝(1)]]|
きっとこんな話は蛇足でしかないだろう。 物語の本筋には一切関係の無い幻想上の出来事なのだから。 矢のような速度で進んでいく時間を、無理に塞き止める必要も無い。 でも、先の話には修正点が一つだけあり、そのためには理由が無くてはいけない。 だからこそ、地下空間にメテオが着弾し、結界エネルギーが断たれるまでの時間へと、巻き戻る必要がある。  ◆ 光に包まれた世界は白としか認識出来ず、知覚の枠を越えた轟音は無音として扱われる。 それがベヒーモスの意識で行われた処理であった。 とはいえ、そんなのは本来ならば一瞬だけのもの。 ただそこに、メッセージのかたまりがなだれ込むように注がれただけ。 『ベヒーモス、私は心から感謝している。  私は、やっと生という苦しみから解き放たれた』 白の空間には、結界を担う者が立っていた。 例によって念話によるものだろう。 転移空間を張るだけではなく、メッセージすら届けられるというのは恐るべき事だ。 『フン、礼には及ぶまい。この程度、あくまでも利害の一致に過ぎない』 そして、ベヒーモスは返答した。 脳の電気信号では到底間に合わないような、刹那の中で。 『結界を担う者』の力によるものかもしれない、それとも別の現象かもしれない。 もちろんそんなことは、彼らにはそれほど重要な事ではなかったが。 『伝えたい事は以上か』 『……そうだな……。ならばもう一つ、消える前に伝えておこう』 『ああ』 その昔、どの生物よりも最も自由なポケモンがいた。 望むがままに宙を舞い、望む場所へテレポートが出来る。 賢い知能はどんな技も意のままに使いこなし、それでいて人間に縛られることは無かった。 束縛、服従なんて言葉は、彼には全くの無縁。 よほどのことが無ければ、人間たちと関わることもない。 古い文献にだけ記された情報でしか、人間はそのポケモンを知らない。 まるで蜃気楼のように、幻のように、都市伝説のように、本当に存在するかどうか誰も知らない。 だから人間はそれを"幻のポケモン"として語り継いでいた。 実態の無いものなんて、子供に読み聞かせる童話の一つでしかなかった。 ある時そのポケモンは、一本のまつ毛を落とした。 ただ、不運な事にそれを人間が発見してしまったのだ。 『存在する』証拠を掴まれた時、それは幻ではなくなる。 人間は血眼になってその自由なポケモンを探し求める。 自由なポケモンは、人間から逃げるために、その自由を少しだけ失った。 やがて人間は、そのポケモンの遺伝子を用いてクローンを――レプリカを作り上げた。 人間たちは「科学の力は凄い」と称え、「私にも分けてください」とそのレプリカを求めた。 苦心して生み出された幻のポケモンのレプリカ、人間たちはそれを何に使ったか。 案の定、戦いのための兵器として、またはコレクションとして、見世物として使った。 人間は、希少なポケモンを手に入れた満足感に浸っていた。 何よりも生み出されたレプリカは、とても強かった。 そしてレプリカは、喜ぶ人間たちに何も言わずにただ従事し続けた。 ただ、作られたポケモンが何を思い、何を考えていたのか。 人間はそんなことに興味を持たない。 希少なポケモンが手の内にある、その事実に酔いしれていたのだから。 『いでんしポケモン、ミュウツー。  元のポケモンにちなんで、それが私に与えられた名前だった』 『お前はその名をどう思う、誇らしく感じているのか?』 『いいや、そうは思わない。人間に付けられた名など、憎しみすら湧き上がるほどだ。  ……だが、それほどの嫌悪感を抱いていても、私はこの名を捨てようとは思わなかった。  命名された瞬間から、私は自身の事を《ミュウツー》として見なしていた。  そして消える前に、それを貴方に伝えたくなった』 彼には自分の感情が理解出来なかった。 人間に与えられた名に、これほどの思い入れがあることが、納得いかなかった。 『私は何故、伝えたのか。わからない……』 『我にはわかった』 『教えてほしい』 『お前は、羨んでいるのだ。まともな生を受けた者の事を。  そして、お前の遺伝子に刻まれている自由なポケモンの事を』 生まれる意味など無い、いずれは零になる事がわかりきっている。 だが、それでも、苦痛ではなく、憎しみではなく。 生きる快楽を、自由に空を舞う幸福を、世界を知る感動を。 ――それらを味わえる者たちの事を、心のどこかで羨ましく感じていた。 『自分自身の存在の証明を、誰かに示したいと思っていたのだ、ミュウツー』 ただエネルギーを作るための道具ではなく、生を受けた一体のポケモンだと。 その証明が、ミュウツーと言う名前によって与えられた。 『……そうか』 ミュウツーは無機質的に白い腕をぶらりと下げたまま俯いていた。 血色の悪そうな紫の尻尾をふわりと揺らす。 『そうだな。ミュウのような自由を知ってみたかったかもしれない。  例え全てが消えるとわかっていても、人間に縛られずに生きる世界も、見てみたかったかもしれない』 所詮は自分とは違う生物の生き方。 それがどんなものか知る由もない。 だから、彼の目に涙が流れることも無い。 『ありがとう』 ただ、それに気付けたことに感謝したかった。 このことを知る意味なんて、何一つ無い。無駄な事に過ぎない。 それでも、生み出される前から忘れていた感情が、ミュウツーの胸の内にあった。 『フン、こちらも世話になった。  ミュウツー……その名を覚えておこう』 ベヒーモスの言葉に、ミュウツーは小さく頷いた。  ◆ 互いに何も得ていない。 言ってしまえば、語る必要も無い茶番でしかないだろう。 しかし事実として、ベヒーモスの中で一つの名前が刻まれた。 だから、彼の思考欄を一カ所だけ、修正を入れなくてはいけない。 【B-3/廃城/二日目/深夜】 【ベヒーモス@ファイナルファンタジーシリーズ】 [状態]:ダメージ(大)、魔力消費(大) [装備]:なし [所持]:サタン@真・女神転生Ⅲ [思考・状況] 基本:幻獣王の元へ帰還  1:古城を探索する  2:倒すと後味が悪いのでエアドラモンには会いたくない  3:感謝している、"ミュウツー"よ ※主催者側から応急処置的に、ターミナルを防衛する人員が派遣されています。 ※モリーがどういった手段を用いて盛り上げるのかは、次の方にお任せします。 |No.79:[[終焉の物語]]|[[時系列順]]|No.82:[[殺戮人形は祭りの時を待ち望む]]| |No.79:[[終焉の物語]]|[[投下順]]|No.80:[[心重なる距離にある]]| |No.72:[[CALLING YOU]]|ベヒーモス|No.91:[[決勝(1)]]|

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