わるだくみ

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「また見つけた。ほら、食いなよ」 「助かるホ」 キノガッサが見つけ出したオボンの実を受けとり、ガブリとかじった。 そのまろやかさのある魅惑の味と、蓄えられた自然のエネルギーが、ボロボロの肉体を癒していくのを実感させる。 島の中央、森林の奥深く。ここには自然からの恵みが多く実っている。 オボンの実もその恩恵の一つ……しかし、それを探し出すにはある程度の経験が必要とされるだろう。 野生の世界を生き抜いてきたキノガッサのような者でなければ、簡単には見つからないような場所にある。 しかしその貴重さに見合うだけの価値はあり、口にした者の体力を回復させる効能は、オレンの実を大きく上回る。 「ヒーホー! これだけ食えば殴り合いには困らないホ」 全快とは言えずとも、ジャックフロストにとっては十分なだけの力を補給出来た。 重くなっていた体も、先ほどと比べると格段に軽い。残っている疲労も、多少なものであればむしろ心地よい。 そう、全力を振り絞ったとは言え、彼はまだ目覚めてから一回しか喧嘩をしていないのだ。 何時間にも渡る激戦を連続でくぐり抜けてきた彼にとっては、こんなもの前菜に過ぎない。 エンジンのかかった肉体がうずき、思わずシャドーボクシングをするジャックフロスト。 燃え上がる雪だるまに対し、キノガッサはむしろ冷静な様子で尋ねた。 「それで、モリーをぶっ潰すには一体どこに行けばいいと思う?  いきなりこんな島に放り出されたせいで、どうすりゃいいのか見当がつかねぇ」 「知らんホ」 「だろうな。……まったく、主催者の居どころさえ掴めれば話は早いんだがな」 「それよりまず、呪いをどうにかするのを先決にするべきだホ。  呪いさえなければ、さっき洞窟で見つけた隠し部屋に入ることが出来るんだが……」 「ちょ、アンタ隠し部屋なんて見つけたのかよ!? 詳しく聞かせろ!」 ジャックフロストは語る。洞窟の奥深く、地下に隠されていた悪魔の結界が広がる空間のことを。 そこはターミナルルーム――転送装置。十中八九、自分たちはそれを介してここへ連れてこられたのであろう。 それさえ利用出来れば、おそらく自分たちは悠々と島から脱却出来るに違いない。 ジャックフロストの読みでは、モリーにかけられた死の呪いは「この会場の中」に限定されている。 それが正解だとすれば、一度脱出してしまえば呪殺される心配は無い。 ……しかし、ターミナルルームに近づくと呪いは発動する。 ゆえに呪いに対する策を講じなくては、結局脱出は叶わないということだ。 「つまり、その呪いの源を探し出して押さえ込む必要があるってわけか……。  とはいっても場所がわからないことには手の打ちようがないじゃねぇか。ムカつく話だぜホント」 「そんなのしらみつぶしで探せばいいホ。3日もありゃ多分見つかるホ」 「タイムリミットは3日か、ほとんど時間無いじゃねぇか……」 キノガッサは藍色に染また空を見上げた。 「まぁ、あんたがやるんなら出来るかもね」 「当たり前だホ」 普通に考えればいささか無茶な話である。 そこそこの規模があるこのフィールドをくまなく調べ上げ、どういった物かもわからない呪いの源を探し出すなど。 それも、たった3日間のうちに。……いや、モリーに意図を知られれば、その場でゲームオーバーになるかもしれない。 それでも何となく上手くいくんじゃないか、と――あくまでも予感だけれども、心からそう思えた。 一面に生い茂る背の高い草をかき分けて歩くモンスターが一体。 青と黒の毛並みに、二足歩行の狼のような姿。キノガッサは、彼がなんという生き物かを知っている。 はどうポケモンルカリオ。 素早く、力強く、勇ましいポケモンとして、相まみえたことが合った。 もちろん、その個体とはまた別の者であるが。 「おーい、そこの犬の兄ちゃん」 当然、ジャックフロストは接触を図る。 そこで始めて気がついたのか、ゆっくりと顔をこちらに向ける。 その目は虚ろで、心なしかやつれているように思えた。 「……何か用か?」 「オイラたちは島からの脱出策を探してる者だホ。何か情報があれば聞かせて欲しいホ」 「情報は無いことは無い。だが、君たちが求めるような、脱出に関するものとは違うだろうな……」 「な~んか覇気が無さすぎるホ。もしかして、連れがやられでもしたのかホ?」 あまり単刀直入に聞くべきでは無い事を、平然と尋ねた。 ルカリオは無表情で、力無く頷いた。 詳しく教えてくれと聞くと、そのまま彼は語りだした。 「私と共に行動していたボナコンは、私の作り上げた波動弾を飛行船へと放ったがために、人間によって殺された。  モリーの言っていた『呪い』が使われたんだ。呪いによって命を抜き取られ、ボナコンはまるで抜け殻のようになってしまった。  ……そして私は見た。飛行船の人間どもが我々の姿を見て嘲笑う姿を。命を張ったボナコンのことを、嘲笑するその顔を」 拳を強く握り締め、ぎりりと歯噛みをする。 静かでいて、怒りと憎しみが込められており、そしてどこか諦めの含まれた口調であった。 「あの飛行船は攻撃をそのまま反射する。それがわかっただけでもボナコンの死は無駄ではなかっただろう。  だが、それと同時に私にはもう奴らに対して打つ手が無いということも思い知らされた。  ミラーコートとは違う、飛行船は無傷のまま跳ね返すんだ。どれだけ攻撃しても、決して敵わない。  ボナコンの死を嘲笑ったあいつらに一矢報いてやることが出来ない。……あいつら全員を殺してやりたいのに」 荒々しく息を吐いた。 心の奥から、怒りが炎のようにこみ上げる。 だが、それをぶつけたい相手は空の彼方にいる。 しかも、攻撃反射と言う"超えることの出来ない壁"も存在している。 湧き上がる感情に思わず、叫び声を上げながら傍にあった樹木に拳を叩き込んでいた。 波導の込められたその一撃に、樹木は悲鳴のような音を立てながら破片を散らす。 太く、硬い樹木には、深々とクレーターが出来上がっていた。 「……殺してやりたい」 それは自分には結局、果たせそうに無い願い。 自分はあまりにも非力なのだ。 シャドームーン相手に成す術無く、クーフーリンを犠牲にしてしまった。 飛行船にいるクソッタレな人間たちの手によって、ボナコンを犠牲にしてしまった。 そして、この殺し合いに連れてこられる以前にも、たくさんの仲間が犠牲になっていった。 そう、非力だ。あまりにも非力なんだ。 衝動の込められた一撃では、樹木の一本すら殺せない。 そんな自分に、誰かを救うことなんて出来るわけがなかったのだ。 「喝ッ!!」 次の瞬間、頭が思い切り引っ張られて、重力がひっくり返るような錯覚に陥った。 今自分は、ジャックフロストにぶん殴られて、地面に倒れたのだと理解するのに、そこから約2秒を要した。 「な……何をする……!?」 「弱音を吐くなホ!!」 「別に何も言ってないだろう!」 「言わなくても見りゃわかるホ!! 自暴自棄になるやつには喝を入れるホ!」 「クッ……私は、自分を弁えているだけだ……!」 「あんたにだって出来るよ」 キノガッサはクレーターのついた樹木の前に立ち、瞳を閉じていた。 静寂の中、自然と調和するような呼吸の音が、草木を吹き抜ける夜風のような音が聞こえる。 すぅっと、彼女が右腕を構える。ゆっくりと瞳を開き、その拳を鋭く打ち付けた。 鼓膜に直接突き刺さるような、バキバキという強烈な音。 インパクトした箇所を境目として、樹木はゆっくりと傾き、やがて、ずん、と大地を揺らした。 「こうだよ。別に難しいことじゃない」 地面に伏したまま呆然と見上げるルカリオに、そう言った。 「なんか昔のあたしみたいだな。間違いなくその手には、十分な力があるはずだ。  でも、その拳の力を最大限に引き出すのには、一つだけ足りないものがある」 「力以外に足りないもの……?」 「心」 こころ……。と、ルカリオは呟く。 「勿論、怒りや憎しみによって生み出される力も、十分に強いもんさ。  でもその憎悪を全身からメラメラと煮えたぎらせて、闇雲に拳を振り回すようじゃ無駄遣いだ。  そんな焦点の定まらないような目じゃあ、ろくに見えやしないだろ」 そう言ってキノガッサは、先程より一回り大きな樹木の前に立つ。 「倒すべき相手を、目の前の敵/的をしっかりと見定めよ。  そしてその感情を、目標を、信念を、己の拳一点に集中せよ。  その意志に応じて、道は自ら切り開かれるだろう」 彼女は目前の樹木を見つめる。見定める。打ち砕くビジョンを描く。 一呼吸、その細く長い腕を前方へと突き出す。赤い拳が風よりも早い速度で表皮に接触する。 発される轟音、続いて崩壊。容易く木は打ち砕かれ、顔を出した夜空から月光が差し込んだ。 「師の教えだ」 ふと、ルカリオには彼女の姿がクーフーリンと重なって見えた。 彼もまた言っていた。乱暴者であった自分が英雄に変われたのは、師のおかげだと。 羨ましく思った。自分も、心から尊敬する師に出会えれば、このような強さと価値観を持つことが出来ただろうか。 「勉強になるホ」 「え、てっきりあんたもわかってるもんだと……」 「オイラは闇雲に拳を振り回してたホ」 「……マジかよ、じゃあ全部台無しじゃねぇか……」 気の抜けた会話が交わされる中、ルカリオは痛みの残る頬をさすり、ゆっくりと立ち上がった。 息を深く吸い込み、精神統一を行う。 そうしてキノガッサと同じように、樹木へと拳を叩きつけた。 樹木を折るには至らない。 「あんたは拳にどんな意志を乗せる? どんな目標を掲げる? それともどんな夢を描くんだ?」 「私の……夢……?」 「そう、それを鮮明に思い描くんだ。そうすれば、あんたの波導だってそれに答えてくれる」 未来について、思いを馳せた事は無かった。 目の前にいる人間、逃げ惑う仲間たち、そういったものを見るので精一杯だったから。 そうして深い憎しみを抱き、無力な自分を嘆き、過去を悔み、現在を見据えていた。 『もしここを抜け出し、森に帰って仲間を助けたとして、その後はどうする?  人間と敵対して生きるのか、それとも人間達のいない場所でひっそり生きるのか?』 『それもいいだろう。だが、それではお前は何も変われない。  何のために戦うのか、何がしたいのか、それを知っておかなければ、お前は未来を生きることはできないだろう』 クーフーリンの助言。 きっと彼は私の本質を、ひと目で見抜いたのだろう。 ……私の夢……、……私の目標……。 私が夢見る世界はどんな姿をしている? 始めて自分の胸に、そう問いかけてみた。 回答はすぐに返ってきた。 目に映る光景は美しい平和な世界ではない。 真っ赤に染まる空の下で、真っ赤な液体に浸ったものを踏みつけにしている。 それは積み上げられた人間の死体。その上でとても愉快そうに笑う自分の姿があった。 我々が受けた苦しみを、人間たちに報復出来る未来を。 すべての人間がいなくなる世界を。 それが、自分が望む夢だ。 ……と。 ――異常だ。歪んでいる。こんなものは間違っている。 自分は本来、もっと美しいものを望んでいたのではないのか? 何度も問い掛け直す。しかし、返ってくる答えは変わらない。 仲間と共に平和な暮らしをする、そんな未来――違う。それでは気が収まらない。 復讐を果たしたい。そうでなくては死んでいった者たちが報われない。 ……これが私の答えだというのか……? 人間を殺したいと言う願いは、平穏な日々を送るための手段だったはずだ。 そうだ、それが本来の目的なんだ。自分が純粋な殺戮を望んでいるだなんて信じられない。 あぁ、それでも私はその光景を甘美な物だと感じている。人間を殺す快楽を味わいたいと願っている。 違う。正常じゃない。間違いだ。私が戦う理由は一体どこに……。 「いいよ、無理に急いで見つけるものじゃないさ」 「……あ……、あぁ、すまない……」 答えあぐねているルカリオを察し、キノガッサは声をかけた。 申し訳なく思い、頭を下げる。 ……流石にこんな夢を彼らに話せるわけがない。すぐさま脳内から振り払った。 「それで、飛行船ってのはどこにあるんだホ?」 「ここからでは木々に遮られて空があまり見えないが……おそらく時計回りに周回をしている。  山の裏側の方面に差し掛かっているかどうか、というところだろう」 「よし、引きずり下ろしてやるホ!」 「おいおい、随分と簡単に言うんだな……いったいどうやってそんなことするってのさ?  あっちがその気になれば、『呪い』でやられる可能性もあるし、何より空中の相手だぜ?」 「そんな作戦を考えついてから走ってたら間に合わないホ! 考えながらとりあえず行っておけばいいだろヒーホー」 「ほほう、一理あるね。いいよ、上等だ、あたしも付き合おうじゃねぇか! 大回りで進んでるんだったら、陸を直進すりゃ先回り出来るだろ」 「よろしい、ならば走るホ!」 そう言って二人は意気込んだ。 可能性を前にして体力を惜しむ必要など、どこにも無いのだから。 「私に協力してくれるのか……!」 「兄ちゃんの言う"殺す"ってのは、正直オイラは賛同しかねるホ。  だからってその感情を無理やり押しとどめるのはさらに許せないホ!  その怒りを拳に込めるホ、それを全力でぶち込んで、人間に思い知らせてやればいいホ!!」 「思い知らせる……」 「モリーに、いや、人類に対して喧嘩を吹っ掛けてやるんだホ!!」 ジャックフロストは拳を突き上げ、走りだす。 キノガッサもそれに着いていく。南側の海沿いを目指して。 ……"殺す"ことに賛同しない……。 そこだけはジャックフロストの性格に甘さを感じた。 だが、慈悲だって一つの強さに間違いはない。だから否定はしない。 それに考え方が多少違えども、皆の目的は一致している。 ――あの飛行船を落としてやる、と。 ルカリオは、彼らの協力が得られることを非常に心強く思った。 考えるほどに荒唐無稽な行為、成功できる保証はどこにも無い。 しかし、この胸の奥に湧き上がる自信はなんだろうか。この二人と共に行けば、不可能ではないと確信出来た。 そうだ、ボナコンの無念を、仲間たちの無念を晴らせるかもしれないのだ。 思い知らせてやる。我々を散々利用してきた苦痛を、恨みを、人間どもに。 「私も行くぞ!!」 『しんそく』を発動し、疾風の如き速さで彼らのあとを追った。 胸が高鳴る、心が躍る。人間への誅伐に思いを馳せる。 【D-4/祠付近/一日目/夜】 【ルカリオ@ポケットモンスター】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(小) [装備]:なし [所持]:ふくろ [思考・状況] 基本:主催者・観戦者・殺し合いに乗った奴を殺す  0:ジャックフロスト、キノガッサを追う  1:飛行船を落とす。乗員は全て殺す  2:ボナコンが身を張って残してくれたものを、呪いの解除や飛行船対策に役立てる  3:クーフーリン、ボナコン、私は…… [備考] ※オス。仲間思いな性格。悪人達によって仲間が連れ去られ、人間に怒りを感じていた。一人称は「私」。 ※ボナコンの最後を見届けました。詳細はわからずとも、飛行船や呪いについて、幾らか情報を得たと思われます。 ※判明しているわざ構成ははどうだん、あくのはどう、しんそくです。 【ジャックフロスト@女神転生シリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、流血、覚悟 [装備]:GAKU-RAN(ガク-ラン)@デジモンシリーズ [所持]:ふくろ [思考・状況] 基本:東京に帰る  1:頑張る  2:喧嘩を売られたら殴る  3:殴って勝てなかったら蹴る [備考] オス。皆様も御存知の通り、数々の激戦を繰り広げた猛者。 一人称はオイラで、語尾はホ。 あと、ヒーホー。 精神異常無効、身体状態異常無効、テトラジャ、デクンダ、タルカジャ、気合、鉄拳制裁、万魔の一撃。 純粋に最高の状態で殴りあう事に特化したビルド。 いろんなシリーズのが混ざり合ってる? いやだってこいつ皆勤みたいなものだし、そりゃ色んなシリーズに呼び出されてるさ。 E-6でターミナルルームらしき部屋を発見しました。 目印としてオレンのみを起きました。 D-7洞窟がD-4まで開通しました。 そのことによる山部分などへの影響は不明です。 D-4の大地は荒れました。 【キノガッサ@ポケットモンスターシリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、流血、覚悟 [装備]:なし [所持]:ふくろ(不明支給品1) [思考・状況] 基本:殺し合いに抗う  1:心と拳を磨き続ける  2:飛行船を落とす策を考える  3:呪いを解除する方法を探す [備考] メス。かつては喧嘩っ早く、暴力で全てを解決し、自尊心を満たしていたが、師と仰ぐ人間との出会いにより、“心”を知った。 それでも荒々しい性格は健在で、あまり口はよろしくない。 一人称は「あたし」。 技はきあいパンチ、マッハパンチ、ローキック、きのこのほうし。 ジャックフロストからターミナルの情報、呪いに関する推測を聞きました。 ルカリオから飛行船に関する情報を聞きました。 |No.72:[[CALLING YOU]]|[[投下順]]|No.74:[[黄昏の影を踏む]]| |No.57:[[我ハココニ在リ]]|ルカリオ|No.75:[[Theme of Evil Lucario]]| |No.60:[[意志の凱旋]]|妖精ジャックフロスト|No.75:[[Theme of Evil Lucario]]| |No.60:[[意志の凱旋]]|キノガッサ|No.75:[[Theme of Evil Lucario]]|
「また見つけた。ほら、食いなよ」 「助かるホ」 キノガッサが見つけ出したオボンの実を受けとり、ガブリとかじった。 そのまろやかさのある魅惑の味と、蓄えられた自然のエネルギーが、ボロボロの肉体を癒していくのを実感させる。 島の中央、森林の奥深く。ここには自然からの恵みが多く実っている。 オボンの実もその恩恵の一つ……しかし、それを探し出すにはある程度の経験が必要とされるだろう。 野生の世界を生き抜いてきたキノガッサのような者でなければ、簡単には見つからないような場所にある。 しかしその貴重さに見合うだけの価値はあり、口にした者の体力を回復させる効能は、オレンの実を大きく上回る。 「ヒーホー! これだけ食えば殴り合いには困らないホ」 全快とは言えずとも、ジャックフロストにとっては十分なだけの力を補給出来た。 重くなっていた体も、先ほどと比べると格段に軽い。残っている疲労も、多少なものであればむしろ心地よい。 そう、全力を振り絞ったとは言え、彼はまだ目覚めてから一回しか喧嘩をしていないのだ。 何時間にも渡る激戦を連続でくぐり抜けてきた彼にとっては、こんなもの前菜に過ぎない。 エンジンのかかった肉体がうずき、思わずシャドーボクシングをするジャックフロスト。 燃え上がる雪だるまに対し、キノガッサはむしろ冷静な様子で尋ねた。 「それで、モリーをぶっ潰すには一体どこに行けばいいと思う?  いきなりこんな島に放り出されたせいで、どうすりゃいいのか見当がつかねぇ」 「知らんホ」 「だろうな。……まったく、主催者の居どころさえ掴めれば話は早いんだがな」 「それよりまず、呪いをどうにかするのを先決にするべきだホ。  呪いさえなければ、さっき洞窟で見つけた隠し部屋に入ることが出来るんだが……」 「ちょ、アンタ隠し部屋なんて見つけたのかよ!? 詳しく聞かせろ!」 ジャックフロストは語る。洞窟の奥深く、地下に隠されていた悪魔の結界が広がる空間のことを。 そこはターミナルルーム――転送装置。十中八九、自分たちはそれを介してここへ連れてこられたのであろう。 それさえ利用出来れば、おそらく自分たちは悠々と島から脱却出来るに違いない。 ジャックフロストの読みでは、モリーにかけられた死の呪いは「この会場の中」に限定されている。 それが正解だとすれば、一度脱出してしまえば呪殺される心配は無い。 ……しかし、ターミナルルームに近づくと呪いは発動する。 ゆえに呪いに対する策を講じなくては、結局脱出は叶わないということだ。 「つまり、その呪いの源を探し出して押さえ込む必要があるってわけか……。  とはいっても場所がわからないことには手の打ちようがないじゃねぇか。ムカつく話だぜホント」 「そんなのしらみつぶしで探せばいいホ。3日もありゃ多分見つかるホ」 「タイムリミットは3日か、ほとんど時間無いじゃねぇか……」 キノガッサは藍色に染また空を見上げた。 「まぁ、あんたがやるんなら出来るかもね」 「当たり前だホ」 普通に考えればいささか無茶な話である。 そこそこの規模があるこのフィールドをくまなく調べ上げ、どういった物かもわからない呪いの源を探し出すなど。 それも、たった3日間のうちに。……いや、モリーに意図を知られれば、その場でゲームオーバーになるかもしれない。 それでも何となく上手くいくんじゃないか、と――あくまでも予感だけれども、心からそう思えた。 一面に生い茂る背の高い草をかき分けて歩くモンスターが一体。 青と黒の毛並みに、二足歩行の狼のような姿。キノガッサは、彼がなんという生き物かを知っている。 はどうポケモンルカリオ。 素早く、力強く、勇ましいポケモンとして、相まみえたことが合った。 もちろん、その個体とはまた別の者であるが。 「おーい、そこの犬の兄ちゃん」 当然、ジャックフロストは接触を図る。 そこで始めて気がついたのか、ゆっくりと顔をこちらに向ける。 その目は虚ろで、心なしかやつれているように思えた。 「……何か用か?」 「オイラたちは島からの脱出策を探してる者だホ。何か情報があれば聞かせて欲しいホ」 「情報は無いことは無い。だが、君たちが求めるような、脱出に関するものとは違うだろうな……」 「な~んか覇気が無さすぎるホ。もしかして、連れがやられでもしたのかホ?」 あまり単刀直入に聞くべきでは無い事を、平然と尋ねた。 ルカリオは無表情で、力無く頷いた。 詳しく教えてくれと聞くと、そのまま彼は語りだした。 「私と共に行動していたボナコンは、私の作り上げた波動弾を飛行船へと放ったがために、人間によって殺された。  モリーの言っていた『呪い』が使われたんだ。呪いによって命を抜き取られ、ボナコンはまるで抜け殻のようになってしまった。  ……そして私は見た。飛行船の人間どもが我々の姿を見て嘲笑う姿を。命を張ったボナコンのことを、嘲笑するその顔を」 拳を強く握り締め、ぎりりと歯噛みをする。 静かでいて、怒りと憎しみが込められており、そしてどこか諦めの含まれた口調であった。 「あの飛行船は攻撃をそのまま反射する。それがわかっただけでもボナコンの死は無駄ではなかっただろう。  だが、それと同時に私にはもう奴らに対して打つ手が無いということも思い知らされた。  ミラーコートとは違う、飛行船は無傷のまま跳ね返すんだ。どれだけ攻撃しても、決して敵わない。  ボナコンの死を嘲笑ったあいつらに一矢報いてやることが出来ない。……あいつら全員を殺してやりたいのに」 荒々しく息を吐いた。 心の奥から、怒りが炎のようにこみ上げる。 だが、それをぶつけたい相手は空の彼方にいる。 しかも、攻撃反射と言う"超えることの出来ない壁"も存在している。 湧き上がる感情に思わず、叫び声を上げながら傍にあった樹木に拳を叩き込んでいた。 波導の込められたその一撃に、樹木は悲鳴のような音を立てながら破片を散らす。 太く、硬い樹木には、深々とクレーターが出来上がっていた。 「……殺してやりたい」 それは自分には結局、果たせそうに無い願い。 自分はあまりにも非力なのだ。 シャドームーン相手に成す術無く、クーフーリンを犠牲にしてしまった。 飛行船にいるクソッタレな人間たちの手によって、ボナコンを犠牲にしてしまった。 そして、この殺し合いに連れてこられる以前にも、たくさんの仲間が犠牲になっていった。 そう、非力だ。あまりにも非力なんだ。 衝動の込められた一撃では、樹木の一本すら殺せない。 そんな自分に、誰かを救うことなんて出来るわけがなかったのだ。 「喝ッ!!」 次の瞬間、頭が思い切り引っ張られて、重力がひっくり返るような錯覚に陥った。 今自分は、ジャックフロストにぶん殴られて、地面に倒れたのだと理解するのに、そこから約2秒を要した。 「な……何をする……!?」 「弱音を吐くなホ!!」 「別に何も言ってないだろう!」 「言わなくても見りゃわかるホ!! 自暴自棄になるやつには喝を入れるホ!」 「クッ……私は、自分を弁えているだけだ……!」 「あんたにだって出来るよ」 キノガッサはクレーターのついた樹木の前に立ち、瞳を閉じていた。 静寂の中、自然と調和するような呼吸の音が、草木を吹き抜ける夜風のような音が聞こえる。 すぅっと、彼女が右腕を構える。ゆっくりと瞳を開き、その拳を鋭く打ち付けた。 鼓膜に直接突き刺さるような、バキバキという強烈な音。 インパクトした箇所を境目として、樹木はゆっくりと傾き、やがて、ずん、と大地を揺らした。 「こうだよ。別に難しいことじゃない」 地面に伏したまま呆然と見上げるルカリオに、そう言った。 「なんか昔のあたしみたいだな。間違いなくその手には、十分な力があるはずだ。  でも、その拳の力を最大限に引き出すのには、一つだけ足りないものがある」 「力以外に足りないもの……?」 「心」 こころ……。と、ルカリオは呟く。 「勿論、怒りや憎しみによって生み出される力も、十分に強いもんさ。  でもその憎悪を全身からメラメラと煮えたぎらせて、闇雲に拳を振り回すようじゃ無駄遣いだ。  そんな焦点の定まらないような目じゃあ、ろくに見えやしないだろ」 そう言ってキノガッサは、先程より一回り大きな樹木の前に立つ。 「倒すべき相手を、目の前の敵/的をしっかりと見定めよ。  そしてその感情を、目標を、信念を、己の拳一点に集中せよ。  その意志に応じて、道は自ら切り開かれるだろう」 彼女は目前の樹木を見つめる。見定める。打ち砕くビジョンを描く。 一呼吸、その細く長い腕を前方へと突き出す。赤い拳が風よりも早い速度で表皮に接触する。 発される轟音、続いて崩壊。容易く木は打ち砕かれ、顔を出した夜空から月光が差し込んだ。 「師の教えだ」 ふと、ルカリオには彼女の姿がクーフーリンと重なって見えた。 彼もまた言っていた。乱暴者であった自分が英雄に変われたのは、師のおかげだと。 羨ましく思った。自分も、心から尊敬する師に出会えれば、このような強さと価値観を持つことが出来ただろうか。 「勉強になるホ」 「え、てっきりあんたもわかってるもんだと……」 「オイラは闇雲に拳を振り回してたホ」 「……マジかよ、じゃあ全部台無しじゃねぇか……」 気の抜けた会話が交わされる中、ルカリオは痛みの残る頬をさすり、ゆっくりと立ち上がった。 息を深く吸い込み、精神統一を行う。 そうしてキノガッサと同じように、樹木へと拳を叩きつけた。 樹木を折るには至らない。 「あんたは拳にどんな意志を乗せる? どんな目標を掲げる? それともどんな夢を描くんだ?」 「私の……夢……?」 「そう、それを鮮明に思い描くんだ。そうすれば、あんたの波導だってそれに答えてくれる」 未来について、思いを馳せた事は無かった。 目の前にいる人間、逃げ惑う仲間たち、そういったものを見るので精一杯だったから。 そうして深い憎しみを抱き、無力な自分を嘆き、過去を悔み、現在を見据えていた。 『もしここを抜け出し、森に帰って仲間を助けたとして、その後はどうする?  人間と敵対して生きるのか、それとも人間達のいない場所でひっそり生きるのか?』 『それもいいだろう。だが、それではお前は何も変われない。  何のために戦うのか、何がしたいのか、それを知っておかなければ、お前は未来を生きることはできないだろう』 クーフーリンの助言。 きっと彼は私の本質を、ひと目で見抜いたのだろう。 ……私の夢……、……私の目標……。 私が夢見る世界はどんな姿をしている? 始めて自分の胸に、そう問いかけてみた。 回答はすぐに返ってきた。 目に映る光景は美しい平和な世界ではない。 真っ赤に染まる空の下で、真っ赤な液体に浸ったものを踏みつけにしている。 それは積み上げられた人間の死体。その上でとても愉快そうに笑う自分の姿があった。 我々が受けた苦しみを、人間たちに報復出来る未来を。 すべての人間がいなくなる世界を。 それが、自分が望む夢だ。 ……と。 ――異常だ。歪んでいる。こんなものは間違っている。 自分は本来、もっと美しいものを望んでいたのではないのか? 何度も問い掛け直す。しかし、返ってくる答えは変わらない。 仲間と共に平和な暮らしをする、そんな未来――違う。それでは気が収まらない。 復讐を果たしたい。そうでなくては死んでいった者たちが報われない。 ……これが私の答えだというのか……? 人間を殺したいと言う願いは、平穏な日々を送るための手段だったはずだ。 そうだ、それが本来の目的なんだ。自分が純粋な殺戮を望んでいるだなんて信じられない。 あぁ、それでも私はその光景を甘美な物だと感じている。人間を殺す快楽を味わいたいと願っている。 違う。正常じゃない。間違いだ。私が戦う理由は一体どこに……。 「いいよ、無理に急いで見つけるものじゃないさ」 「……あ……、あぁ、すまない……」 答えあぐねているルカリオを察し、キノガッサは声をかけた。 申し訳なく思い、頭を下げる。 ……流石にこんな夢を彼らに話せるわけがない。すぐさま脳内から振り払った。 「それで、飛行船ってのはどこにあるんだホ?」 「ここからでは木々に遮られて空があまり見えないが……おそらく時計回りに周回をしている。  山の裏側の方面に差し掛かっているかどうか、というところだろう」 「よし、引きずり下ろしてやるホ!」 「おいおい、随分と簡単に言うんだな……いったいどうやってそんなことするってのさ?  あっちがその気になれば、『呪い』でやられる可能性もあるし、何より空中の相手だぜ?」 「そんな作戦を考えついてから走ってたら間に合わないホ! 考えながらとりあえず行っておけばいいだろヒーホー」 「ほほう、一理あるね。いいよ、上等だ、あたしも付き合おうじゃねぇか! 大回りで進んでるんだったら、陸を直進すりゃ先回り出来るだろ」 「よろしい、ならば走るホ!」 そう言って二人は意気込んだ。 可能性を前にして体力を惜しむ必要など、どこにも無いのだから。 「私に協力してくれるのか……!」 「兄ちゃんの言う"殺す"ってのは、正直オイラは賛同しかねるホ。  だからってその感情を無理やり押しとどめるのはさらに許せないホ!  その怒りを拳に込めるホ、それを全力でぶち込んで、人間に思い知らせてやればいいホ!!」 「思い知らせる……」 「モリーに、いや、人類に対して喧嘩を吹っ掛けてやるんだホ!!」 ジャックフロストは拳を突き上げ、走りだす。 キノガッサもそれに着いていく。南側の海沿いを目指して。 ……"殺す"ことに賛同しない……。 そこだけはジャックフロストの性格に甘さを感じた。 だが、慈悲だって一つの強さに間違いはない。だから否定はしない。 それに考え方が多少違えども、皆の目的は一致している。 ――あの飛行船を落としてやる、と。 ルカリオは、彼らの協力が得られることを非常に心強く思った。 考えるほどに荒唐無稽な行為、成功できる保証はどこにも無い。 しかし、この胸の奥に湧き上がる自信はなんだろうか。この二人と共に行けば、不可能ではないと確信出来た。 そうだ、ボナコンの無念を、仲間たちの無念を晴らせるかもしれないのだ。 思い知らせてやる。我々を散々利用してきた苦痛を、恨みを、人間どもに。 「私も行くぞ!!」 『しんそく』を発動し、疾風の如き速さで彼らのあとを追った。 胸が高鳴る、心が躍る。人間への誅伐に思いを馳せる。 【D-4/祠付近/一日目/夜】 【ルカリオ@ポケットモンスター】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(小) [装備]:なし [所持]:ふくろ [思考・状況] 基本:主催者・観戦者・殺し合いに乗った奴を殺す  0:ジャックフロスト、キノガッサを追う  1:飛行船を落とす。乗員は全て殺す  2:ボナコンが身を張って残してくれたものを、呪いの解除や飛行船対策に役立てる  3:クーフーリン、ボナコン、私は…… [備考] ※オス。仲間思いな性格。悪人達によって仲間が連れ去られ、人間に怒りを感じていた。一人称は「私」。 ※ボナコンの最後を見届けました。詳細はわからずとも、飛行船や呪いについて、幾らか情報を得たと思われます。 ※判明しているわざ構成ははどうだん、あくのはどう、しんそくです。 【ジャックフロスト@女神転生シリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、流血、覚悟 [装備]:GAKU-RAN(ガク-ラン)@デジモンシリーズ [所持]:ふくろ [思考・状況] 基本:東京に帰る  1:頑張る  2:喧嘩を売られたら殴る  3:殴って勝てなかったら蹴る [備考] オス。皆様も御存知の通り、数々の激戦を繰り広げた猛者。 一人称はオイラで、語尾はホ。 あと、ヒーホー。 精神異常無効、身体状態異常無効、テトラジャ、デクンダ、タルカジャ、気合、鉄拳制裁、万魔の一撃。 純粋に最高の状態で殴りあう事に特化したビルド。 いろんなシリーズのが混ざり合ってる? いやだってこいつ皆勤みたいなものだし、そりゃ色んなシリーズに呼び出されてるさ。 E-6でターミナルルームらしき部屋を発見しました。 目印としてオレンのみを起きました。 D-7洞窟がD-4まで開通しました。 そのことによる山部分などへの影響は不明です。 D-4の大地は荒れました。 【キノガッサ@ポケットモンスターシリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、流血、覚悟 [装備]:なし [所持]:ふくろ(不明支給品1) [思考・状況] 基本:殺し合いに抗う  1:心と拳を磨き続ける  2:飛行船を落とす策を考える  3:呪いを解除する方法を探す [備考] メス。かつては喧嘩っ早く、暴力で全てを解決し、自尊心を満たしていたが、師と仰ぐ人間との出会いにより、“心”を知った。 それでも荒々しい性格は健在で、あまり口はよろしくない。 一人称は「あたし」。 技はきあいパンチ、マッハパンチ、ローキック、きのこのほうし。 ジャックフロストからターミナルの情報、呪いに関する推測を聞きました。 ルカリオから飛行船に関する情報を聞きました。 |No.72:[[CALLING YOU]]|[[時系列順]]|No.70:[[僕たちは世界を変えることができない。]]| |No.72:[[CALLING YOU]]|[[投下順]]|No.74:[[黄昏の影を踏む]]| |No.57:[[我ハココニ在リ]]|ルカリオ|No.75:[[Theme of Evil Lucario]]| |No.60:[[意志の凱旋]]|妖精ジャックフロスト|No.75:[[Theme of Evil Lucario]]| |No.60:[[意志の凱旋]]|キノガッサ|No.75:[[Theme of Evil Lucario]]|

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