CALLING YOU

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死は全てに平等である。 人間、動物、魔物、そして――物言わぬ建造物にまで。 「…………」 廃村を抜け、ベヒーモスは古城――いや、遠目に見て古くなった城だと判断したが、実際はそんなものではなかった。 入ってすぐに、魂が抜けていると――そうベヒーモスは感じた。 修理すれば直せる空間というのは存在する。だがこの城はそうなりそうにない、廃棄された城だ。 主人を失い埃だけを積み上げた高価な家具、最早誰かもわからない肖像画、床に投げ出された古書物。 モリーさえも手を付けなかったのだ。 住む者どころか訪れる者も、この殺し合いが終わってしまえば二度と無いだろう。 城の墓だ――死体が棺桶も墓も兼ねている。ベヒーモスは鼻を鳴らした。 耳を澄ます、戦闘の音は聞こえない。 あの恐竜も追って来れはしないだろう、ベヒーモスはそう判断すると、寝室を探した。 古城の調査の前に、支給品の確認を行っておきたい。 支給品の確認を行う上で動く必要は然程無い、ならば硬い石造りの床よりもベッドの上で行いたい。 休息するつもりではないが、これからも休み続けることなく動く心積りである以上、 余計な疲労を貯めこまない場所が良い、そういう判断である。 寝室はあっさりと見つかった。 積もった埃が気になるが、構いはしない。 かつての王族が使っていたであろう巨大なベッドへと身を投げ出す。 すると僅かな弾力をもって、ベッドは危なげなくベヒーモスの巨体を受け止めた。 ベッドの上に投げ出した二つのふくろを、 ベヒーモスはその巨体からは想像できないほどに器用に開封する。 「……ほう」 思わず声が漏れた。 目に入れただけでわかる禍々しくも強大なる力。 一つは虫に似た生物――なのだろうか、時折蠢くがどうにも生きているようには思えなかった。 もう一つは瓶詰めにされた白くぶくぶくと肥えた肉の塊のような物、これも時折蠢くが、 これ単体が生きているわけではなく、切り取られた生命の一部なのだろう。 両方共、取り込めば強大な力を得られるのだろう。 だが―― 「危険だな」 両方が両方、取り込んでしまえば己の性質を変えるだろう。 いざという時に頼らなければならないことはあるかもしれないが、幻界で鍛えた己の身は伊達ではない。 実際、使う可能性は低いだろう。 両方をふくろに戻して、廃城探索に戻るか―― いや、ふくろに戻しては戦闘中に取り出すのが面倒くさい、ならばどう運ぶか、 そのような事を考えていた時である。 『……この声が聞こえますか?』 ベヒーモスは声を聞いた。 だが、この声は鼓膜を揺らしたわけではない。 『念話か』 発信源のわからない脳内に直接届く声。 ベヒーモスが然程動揺せずに受け止めたのは、やはり積み上げた経験故だろう。 瓶詰めの肉が震えている、これが媒体になっているのだろう。 送信が出来るならば、受信も出来るだろうと、返答を返す。 『はい、その通りです』 ベヒーモスはわかりきったことを相手に返答させて、その微小な時間を周辺探査に充てた。 相手のことが何一つとしてわからない、それは良い。 だが、相手の位置がわからないのは面倒だ。 念話に相手の意識を向け、超遠距離からの攻撃――それが十分に有り得る。 もちろん、それほどの距離があるのならば周辺探査等無意味であるが、 それでも僅かに感じ取れるものがある場合もある。 やらないよりはやったほうがマシ、それだけのことだ。 『お前は……誰だ』 瓶詰めの肉を口に咥え、片方は袋に入れ、ベヒーモスは寝室を出た。 誘導されているのではないかとも考えられたが、広い通路の方がまだ敵の攻撃を避けられる可能性が存在する。 窓の位置を――いや、壁ごと破壊する威力かもしれない。 ならば、自ら壁を破壊し、城を出るか――そう考えた時である。 『私は……この殺し合いの結界を担う者です』 思わず、動きが止まった。 理由がわからない。 確かに動揺はしているが、それと同時に全身に緊張が走っている。 攻撃の隙を作るというのならば主催に反抗する者なりと言って、安心感を与えてから撃つべきではないか。 張り詰めた者よりも、緩んだ者の方が殺しやすいのではないのか。 これなら言わないほうがマシだ、いや相手も位置がわかっていないから何か新しい動きを与えるような言葉を、 あるいは、こちらの精神を摩耗させて弱らせる気か。 いや、だとしても結界担当等という必要があるか。 殺すと脳内に送り続ければいいだけではないか。 『なぜ、我に言葉を送った。お前は何を考えている』 ならば、問う。 考えているだけでは埒が明かない。会話に集中する。 攻撃が来る可能性は低いと見積もる、殺されたならば己が愚かだっただけのことだ。殺されてやる気も無いが。 ベヒーモスは意志を固めた。 『……私には、貴方が誰なのかわかりません。誰と出会い、誰を殺し、何を思い、何を願うのか……何一つとしてわかりません。 ただ、貴方が私の遺伝子を持っていて……そして、貴方が私の上にいたから念話に成功した。ただ、それだけのことです。』 つまり支給品の本来の持ち主、いや――支給品本体というべきか。 そして我が上にいるということは、声の主が廃城の地下にいるということか、 情報を確認しようとしたベヒーモスだが、相手側の声は続く。 『そして、私はこの殺し合いを破壊したいと思っています』 罠か。ベヒーモスの脳裏をその言葉が瞬時に過ぎった。 一匹殺しているが、殺し合いに積極性を見せているかといえば人間側にはそう思われていないだろう。 殺し合いに対する意思を確認し、無いようであれば――いや、何故だ。 己の発想を、ベヒーモスは速攻で覆した。 いや、そもそも殺し合いへの意思など、関係ない。 積極性が無いように見えるので、呪殺する。その脅しだけで十分ではないか。 では、この殺し合いを破壊する上で重要な情報を握っているか確認する? いや、この支給品が手元にあるのは、偶然にすぎない。 飛行船が飛んでいる、聞き取れはしなかったが、何かしらの音を発していた。 つまり、あの飛行船から参加者に呼びかけることが出来る。 念話なぞ用いる必要はない。 『我も同様だ』 ならば、虎穴に入ってみよう。 今のところ、この状況からの脱出に於いて有力な情報は掴めていない。 いつかは犯さなければならない危険ならば、その時は今だ。 『問うぞ、結界とは何だ、呪いはどうすれば解ける、そしてこの世界から幻界に戻る方法を教えろ』 幻界は人間界と隔絶されている。 ベヒーモスが幻界に戻るためには結界を破壊するだけでなく、次元を跳躍するような物が必要なのである。 最も、それはほとんどの参加者に言えることであるが。 『……この呪いがどういうものか、御存知ですか?』 『呪いに関しての知識はない、だが……』 死の宣告を受けた時のような、自分の体の中にある死の感覚が無い。 見せしめとして殺した獅子相手には、あからさまに杖を使っていた。 呪い自体ブラフということも考えられるが―― 『もしや、結界とは呪いのことか?』 『その通りです』 呪いをかけられた我らがこの島に入り込んだのではなく、 島に掛けられた呪いが我らを殺す――そういうことか。 『結界か――ならば、術式に何らかの要素を割りこませることで、結界自体を無効には出来ないか』 結界に対する知識は無いが、これほど大多数を相手にした問答無用の呪殺式である以上、非常に高度なシステムが必要だろう。 ならば、ほんの少しの蝕みが全てを瓦解させることすら可能では――そうベヒーモスは判断する。 『可能です、が私には方法が解りません』 『構わない、他参加者に可能な者がいるかもしれんが……腑に落ちん。担うと言ったが、お前が張った結界ではないのか』 『私が結界を担っている……つまり、結界維持のために必要なエネルギーを供給しているというのは事実ですが、 この地の結界は私が張ったものではありません』 『……エネルギー供給を止めることは?』 『出来ません、機械に強制的にエネルギーを吸い上げられている状態です。 装置の破壊、あるいは私の死をもってしても……予備の私が作動するでしょう』 『予備……?』 『私は……とあるポケモンの戦闘機能強化クローンであり、 また弐号である彼もまた、大本が同じである以上私と呼べるでしょう』 『つまり、お前ともう一人の装置を破壊するか命を止めれば……』 『結界は強制的に停止します、あるいは……結界を演算するマザーコンピューターを破壊、ないしは殺害すれば、結果は同じでしょう』 『殺害?』 『マザーコンピューターに、生物が使われている可能性はゼロではありません』 『つまり、結界式への介入か、エネルギー供給の停止、あるいは根本の破壊で、呪殺の心配はなくなるということか』 『もっとも、その場合には人間側から……刺客が差し向けられるでしょうが』 『うむ……』 『最後に元の世界へと帰還する方法ですが……ターミナルという転送装置は御存知ですか?』 『知らんな』 『また別種の結界に覆われているので、発見すればすぐにわかるはずです。 それを利用し、座標調節を行うことさえ出来れば……貴方も元の世界に戻れますが…………』 『問題点があるのか?』 『この殺し合いが実行している最中は、緊急脱出用としての片道分……しかも、この世界を移動する程度のエネルギーしか存在しません』 『補給方法は?』 『優勝者が決まれば、予備の私がターミナルへのエネルギーを注ぎ込みます。 あるいは、貴方がデジモンならば吸収した者のリロード、悪魔ならばマグネタイトないしはマガツヒの補給を注ぎ込めば……まぁ、三体分程でしょうか』 『私はデジモンと呼ばれる存在でも悪魔と呼ばれる存在でも無い』 『悪魔ないしデジモンは、捕食よりも効率よい吸収及び、限りなく純粋なエネルギーとしての排出が出来ます。 電撃でも使えればあるいはですが、世界を超えたいのならば……まぁ、3つの生命を丸ごとエネルギーに変換するぐらいでないと。 参加者を悪魔に変質させる支給品が存在すると聞きました、探してみるといいでしょう』 『3匹か……』 『貴方一人で脱出するのならば、殺害も視野に入れておくことですね』 『選択肢の一つとして加えておこう、最後に一つ……』 『何でしょう?』 『何故、この殺し合いを破壊したいと願う』 『…………』 久方ぶりに生じた沈黙である。 休むこと無く話し続けた者とはいえ、この返答には時間が必要だったのだろう。 『……憎悪』 絞り出すようにポツリポツリと言葉が続いていく。 『生まれたいとは思わなかった……死ねば全てが終わる、ならばいつか零になるもののために私は生を肯定出来ない…… ましてや私は人工生命体……生きる間の慰めすらもない………… 死ぬことも出来ない……私は生まれた瞬間に自殺しようとしたが…………埋め込まれた機械が強制的に私の動きを止める…… 私はこの殺し合いのために作られたようだが……繰り返した自殺は自分が死ぬ最大の機会を…………遠ざけた………… 結果、私はただ結界を維持し続けるための存在にまで成り下がった……』 先ほどまでの口調とは打って変わっている。 こちらが素なのだろうか、生の苦しみ故に仮面を被らざるをえなくなったのだろうか。 『この殺し合いが破壊されなければ、私は結界のための道具として二度目三度目の殺し合いにも生命を維持され続けるだろう。 それは私にとって延々と続く苦痛に他ならない……』 『…………』 『偶に私は他愛もない想像をする。人間がある日突然、わけのわからない怪物に襲われて何も出来ず、何も残さずに死んでいくんだ。 私が生の中で得た感情は絶望と憎悪だけだが……その想像をすると、ほんの少しだけ楽しくなる。 どれだけ喜ばしいことだろうか、私は安らかに死に、人間達がゴミのように死んでくれるのならば……だから、私はこの殺し合いを破壊したいんだ』 『……そうか』 口を挟むことなど、ベヒーモスには出来なかった。 殺し合いに巻き込まれたとはいえ、生の喜びを享受していた己には想像できない存在である。 『私は廃城の遥か下にいる……それ以外のことはなにもわからない。 出来れば殺してくれれば、喜ばしいことだ。 それと、貴方の持つ私の遺伝子は……取り込めば、暴走する。私の意思ではどうにもならない。 時間が経てば理性を取り戻すだろうから、緊急時に使えば良い』 『心得ておこう』 そろそろ潮時だろう、そう思いベヒーモスは廃城探索を開始することにした。 もう、世界はとっくに夜の幕に覆われている。 最初は支給品を確認するつもりだけだったというのに、少々時間を取りすぎてしまっただろうか。 だが、脱出への手がかりは掴んだ。 予想以上の成果を上げたと言っていい。 「……我は、生きて帰るぞ」 【B-3/廃城/一日目/夜】 【ベヒーモス@ファイナルファンタジーシリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、魔力消費(中) [装備]:なし [所持]:はかいのいでんし、サタン [思考・状況] 基本:幻獣王の元へ帰還  1:古城を探索する  2:倒すと後味が悪いのでエアドラモンには会いたくない 《支給品紹介》 【サタン@真・女神転生Ⅲ】 マガタマの一種、闇の力を持つ。 原作ではジャックフロストをじゃあくフロストに変えた。 呪殺無効/破魔弱点 【はかいのいでんし@ポケットモンスター金銀クリスタル】 原作ではもたせることによって、攻撃力を2段階上昇させる代わりに混乱を付与させる効果があった。 要はセルフいばる。 |No.71:[[その心まで何マイル?]]|[[投下順]]|No73:[[わるだくみ]]| |No.65:[[救いの手]]|ベヒーモス|No.79:[[終焉の物語]]|
死は全てに平等である。 人間、動物、魔物、そして――物言わぬ建造物にまで。 「…………」 廃村を抜け、ベヒーモスは古城――いや、遠目に見て古くなった城だと判断したが、実際はそんなものではなかった。 入ってすぐに、魂が抜けていると――そうベヒーモスは感じた。 修理すれば直せる空間というのは存在する。だがこの城はそうなりそうにない、廃棄された城だ。 主人を失い埃だけを積み上げた高価な家具、最早誰かもわからない肖像画、床に投げ出された古書物。 モリーさえも手を付けなかったのだ。 住む者どころか訪れる者も、この殺し合いが終わってしまえば二度と無いだろう。 城の墓だ――死体が棺桶も墓も兼ねている。ベヒーモスは鼻を鳴らした。 耳を澄ます、戦闘の音は聞こえない。 あの恐竜も追って来れはしないだろう、ベヒーモスはそう判断すると、寝室を探した。 古城の調査の前に、支給品の確認を行っておきたい。 支給品の確認を行う上で動く必要は然程無い、ならば硬い石造りの床よりもベッドの上で行いたい。 休息するつもりではないが、これからも休み続けることなく動く心積りである以上、 余計な疲労を貯めこまない場所が良い、そういう判断である。 寝室はあっさりと見つかった。 積もった埃が気になるが、構いはしない。 かつての王族が使っていたであろう巨大なベッドへと身を投げ出す。 すると僅かな弾力をもって、ベッドは危なげなくベヒーモスの巨体を受け止めた。 ベッドの上に投げ出した二つのふくろを、 ベヒーモスはその巨体からは想像できないほどに器用に開封する。 「……ほう」 思わず声が漏れた。 目に入れただけでわかる禍々しくも強大なる力。 一つは虫に似た生物――なのだろうか、時折蠢くがどうにも生きているようには思えなかった。 もう一つは瓶詰めにされた白くぶくぶくと肥えた肉の塊のような物、これも時折蠢くが、 これ単体が生きているわけではなく、切り取られた生命の一部なのだろう。 両方共、取り込めば強大な力を得られるのだろう。 だが―― 「危険だな」 両方が両方、取り込んでしまえば己の性質を変えるだろう。 いざという時に頼らなければならないことはあるかもしれないが、幻界で鍛えた己の身は伊達ではない。 実際、使う可能性は低いだろう。 両方をふくろに戻して、廃城探索に戻るか―― いや、ふくろに戻しては戦闘中に取り出すのが面倒くさい、ならばどう運ぶか、 そのような事を考えていた時である。 『……この声が聞こえますか?』 ベヒーモスは声を聞いた。 だが、この声は鼓膜を揺らしたわけではない。 『念話か』 発信源のわからない脳内に直接届く声。 ベヒーモスが然程動揺せずに受け止めたのは、やはり積み上げた経験故だろう。 瓶詰めの肉が震えている、これが媒体になっているのだろう。 送信が出来るならば、受信も出来るだろうと、返答を返す。 『はい、その通りです』 ベヒーモスはわかりきったことを相手に返答させて、その微小な時間を周辺探査に充てた。 相手のことが何一つとしてわからない、それは良い。 だが、相手の位置がわからないのは面倒だ。 念話に相手の意識を向け、超遠距離からの攻撃――それが十分に有り得る。 もちろん、それほどの距離があるのならば周辺探査等無意味であるが、 それでも僅かに感じ取れるものがある場合もある。 やらないよりはやったほうがマシ、それだけのことだ。 『お前は……誰だ』 瓶詰めの肉を口に咥え、片方は袋に入れ、ベヒーモスは寝室を出た。 誘導されているのではないかとも考えられたが、広い通路の方がまだ敵の攻撃を避けられる可能性が存在する。 窓の位置を――いや、壁ごと破壊する威力かもしれない。 ならば、自ら壁を破壊し、城を出るか――そう考えた時である。 『私は……この殺し合いの結界を担う者です』 思わず、動きが止まった。 理由がわからない。 確かに動揺はしているが、それと同時に全身に緊張が走っている。 攻撃の隙を作るというのならば主催に反抗する者なりと言って、安心感を与えてから撃つべきではないか。 張り詰めた者よりも、緩んだ者の方が殺しやすいのではないのか。 これなら言わないほうがマシだ、いや相手も位置がわかっていないから何か新しい動きを与えるような言葉を、 あるいは、こちらの精神を摩耗させて弱らせる気か。 いや、だとしても結界担当等という必要があるか。 殺すと脳内に送り続ければいいだけではないか。 『なぜ、我に言葉を送った。お前は何を考えている』 ならば、問う。 考えているだけでは埒が明かない。会話に集中する。 攻撃が来る可能性は低いと見積もる、殺されたならば己が愚かだっただけのことだ。殺されてやる気も無いが。 ベヒーモスは意志を固めた。 『……私には、貴方が誰なのかわかりません。誰と出会い、誰を殺し、何を思い、何を願うのか……何一つとしてわかりません。 ただ、貴方が私の遺伝子を持っていて……そして、貴方が私の上にいたから念話に成功した。ただ、それだけのことです。』 つまり支給品の本来の持ち主、いや――支給品本体というべきか。 そして我が上にいるということは、声の主が廃城の地下にいるということか、 情報を確認しようとしたベヒーモスだが、相手側の声は続く。 『そして、私はこの殺し合いを破壊したいと思っています』 罠か。ベヒーモスの脳裏をその言葉が瞬時に過ぎった。 一匹殺しているが、殺し合いに積極性を見せているかといえば人間側にはそう思われていないだろう。 殺し合いに対する意思を確認し、無いようであれば――いや、何故だ。 己の発想を、ベヒーモスは速攻で覆した。 いや、そもそも殺し合いへの意思など、関係ない。 積極性が無いように見えるので、呪殺する。その脅しだけで十分ではないか。 では、この殺し合いを破壊する上で重要な情報を握っているか確認する? いや、この支給品が手元にあるのは、偶然にすぎない。 飛行船が飛んでいる、聞き取れはしなかったが、何かしらの音を発していた。 つまり、あの飛行船から参加者に呼びかけることが出来る。 念話なぞ用いる必要はない。 『我も同様だ』 ならば、虎穴に入ってみよう。 今のところ、この状況からの脱出に於いて有力な情報は掴めていない。 いつかは犯さなければならない危険ならば、その時は今だ。 『問うぞ、結界とは何だ、呪いはどうすれば解ける、そしてこの世界から幻界に戻る方法を教えろ』 幻界は人間界と隔絶されている。 ベヒーモスが幻界に戻るためには結界を破壊するだけでなく、次元を跳躍するような物が必要なのである。 最も、それはほとんどの参加者に言えることであるが。 『……この呪いがどういうものか、御存知ですか?』 『呪いに関しての知識はない、だが……』 死の宣告を受けた時のような、自分の体の中にある死の感覚が無い。 見せしめとして殺した獅子相手には、あからさまに杖を使っていた。 呪い自体ブラフということも考えられるが―― 『もしや、結界とは呪いのことか?』 『その通りです』 呪いをかけられた我らがこの島に入り込んだのではなく、 島に掛けられた呪いが我らを殺す――そういうことか。 『結界か――ならば、術式に何らかの要素を割りこませることで、結界自体を無効には出来ないか』 結界に対する知識は無いが、これほど大多数を相手にした問答無用の呪殺式である以上、非常に高度なシステムが必要だろう。 ならば、ほんの少しの蝕みが全てを瓦解させることすら可能では――そうベヒーモスは判断する。 『可能です、が私には方法が解りません』 『構わない、他参加者に可能な者がいるかもしれんが……腑に落ちん。担うと言ったが、お前が張った結界ではないのか』 『私が結界を担っている……つまり、結界維持のために必要なエネルギーを供給しているというのは事実ですが、 この地の結界は私が張ったものではありません』 『……エネルギー供給を止めることは?』 『出来ません、機械に強制的にエネルギーを吸い上げられている状態です。 装置の破壊、あるいは私の死をもってしても……予備の私が作動するでしょう』 『予備……?』 『私は……とあるポケモンの戦闘機能強化クローンであり、 また弐号である彼もまた、大本が同じである以上私と呼べるでしょう』 『つまり、お前ともう一人の装置を破壊するか命を止めれば……』 『結界は強制的に停止します、あるいは……結界を演算するマザーコンピューターを破壊、ないしは殺害すれば、結果は同じでしょう』 『殺害?』 『マザーコンピューターに、生物が使われている可能性はゼロではありません』 『つまり、結界式への介入か、エネルギー供給の停止、あるいは根本の破壊で、呪殺の心配はなくなるということか』 『もっとも、その場合には人間側から……刺客が差し向けられるでしょうが』 『うむ……』 『最後に元の世界へと帰還する方法ですが……ターミナルという転送装置は御存知ですか?』 『知らんな』 『また別種の結界に覆われているので、発見すればすぐにわかるはずです。 それを利用し、座標調節を行うことさえ出来れば……貴方も元の世界に戻れますが…………』 『問題点があるのか?』 『この殺し合いが実行している最中は、緊急脱出用としての片道分……しかも、この世界を移動する程度のエネルギーしか存在しません』 『補給方法は?』 『優勝者が決まれば、予備の私がターミナルへのエネルギーを注ぎ込みます。 あるいは、貴方がデジモンならば吸収した者のリロード、悪魔ならばマグネタイトないしはマガツヒの補給を注ぎ込めば……まぁ、三体分程でしょうか』 『私はデジモンと呼ばれる存在でも悪魔と呼ばれる存在でも無い』 『悪魔ないしデジモンは、捕食よりも効率よい吸収及び、限りなく純粋なエネルギーとしての排出が出来ます。 電撃でも使えればあるいはですが、世界を超えたいのならば……まぁ、3つの生命を丸ごとエネルギーに変換するぐらいでないと。 参加者を悪魔に変質させる支給品が存在すると聞きました、探してみるといいでしょう』 『3匹か……』 『貴方一人で脱出するのならば、殺害も視野に入れておくことですね』 『選択肢の一つとして加えておこう、最後に一つ……』 『何でしょう?』 『何故、この殺し合いを破壊したいと願う』 『…………』 久方ぶりに生じた沈黙である。 休むこと無く話し続けた者とはいえ、この返答には時間が必要だったのだろう。 『……憎悪』 絞り出すようにポツリポツリと言葉が続いていく。 『生まれたいとは思わなかった……死ねば全てが終わる、ならばいつか零になるもののために私は生を肯定出来ない…… ましてや私は人工生命体……生きる間の慰めすらもない………… 死ぬことも出来ない……私は生まれた瞬間に自殺しようとしたが…………埋め込まれた機械が強制的に私の動きを止める…… 私はこの殺し合いのために作られたようだが……繰り返した自殺は自分が死ぬ最大の機会を…………遠ざけた………… 結果、私はただ結界を維持し続けるための存在にまで成り下がった……』 先ほどまでの口調とは打って変わっている。 こちらが素なのだろうか、生の苦しみ故に仮面を被らざるをえなくなったのだろうか。 『この殺し合いが破壊されなければ、私は結界のための道具として二度目三度目の殺し合いにも生命を維持され続けるだろう。 それは私にとって延々と続く苦痛に他ならない……』 『…………』 『偶に私は他愛もない想像をする。人間がある日突然、わけのわからない怪物に襲われて何も出来ず、何も残さずに死んでいくんだ。 私が生の中で得た感情は絶望と憎悪だけだが……その想像をすると、ほんの少しだけ楽しくなる。 どれだけ喜ばしいことだろうか、私は安らかに死に、人間達がゴミのように死んでくれるのならば……だから、私はこの殺し合いを破壊したいんだ』 『……そうか』 口を挟むことなど、ベヒーモスには出来なかった。 殺し合いに巻き込まれたとはいえ、生の喜びを享受していた己には想像できない存在である。 『私は廃城の遥か下にいる……それ以外のことはなにもわからない。 出来れば殺してくれれば、喜ばしいことだ。 それと、貴方の持つ私の遺伝子は……取り込めば、暴走する。私の意思ではどうにもならない。 時間が経てば理性を取り戻すだろうから、緊急時に使えば良い』 『心得ておこう』 そろそろ潮時だろう、そう思いベヒーモスは廃城探索を開始することにした。 もう、世界はとっくに夜の幕に覆われている。 最初は支給品を確認するつもりだけだったというのに、少々時間を取りすぎてしまっただろうか。 だが、脱出への手がかりは掴んだ。 予想以上の成果を上げたと言っていい。 「……我は、生きて帰るぞ」 【B-3/廃城/一日目/夜】 【ベヒーモス@ファイナルファンタジーシリーズ】 [状態]:ダメージ(中)、魔力消費(中) [装備]:なし [所持]:はかいのいでんし、サタン [思考・状況] 基本:幻獣王の元へ帰還  1:古城を探索する  2:倒すと後味が悪いのでエアドラモンには会いたくない 《支給品紹介》 【サタン@真・女神転生Ⅲ】 マガタマの一種、闇の力を持つ。 原作ではジャックフロストをじゃあくフロストに変えた。 呪殺無効/破魔弱点 【はかいのいでんし@ポケットモンスター金銀クリスタル】 原作ではもたせることによって、攻撃力を2段階上昇させる代わりに混乱を付与させる効果があった。 要はセルフいばる。 |No.71:[[その心まで何マイル?]]|[[時系列順]]|No73:[[わるだくみ]]| |No.71:[[その心まで何マイル?]]|[[投下順]]|No73:[[わるだくみ]]| |No.65:[[救いの手]]|ベヒーモス|No.79:[[終焉の物語]]|

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