第一回生存者報告

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チャッキーが刃を振るうたび、肉製のブーメランを叩きつけるたび。スライムたちの体が容易く散っていく。 周囲には青い体液が弾け飛んで、赤く染まったチャッキーのボディがどろりとした青い液でコーティングされる。 その、面白いようにガンガン蹴散らされていく様、鮮やかな剣捌き、演舞の如し。 これぞ"無双"。爽快で痛快な光景。 その華麗な姿に人々は興奮し、熱狂するのである。 かたかたかたと乾いた笑い声を響かせながら、ダークヒーローは画面の外へと姿を消した。 「生中継でお送り致しました。チャッキーVSスライム軍団! 見事チャッキーの圧勝となりました」 「いやぁ、実に素晴らしい戦いでしたねぇ」 「情け、容赦が無いと言いますか。見ているこっちまで手に汗握るようなバトルでしたよ」 テレビモニターは戦いの映像から画面を切り替え、スタジオの様子を映す。 斜めに向き合うように並ぶ机に着いて、アナウンサーや芸能人、コメンテーターが先ほどの戦いについて口々に語っている。 ~~~~~ 「ケッ、悪趣味だな。アンタはあれを見て愉快な気持ちになるのか?」 「無論だとも。モンスターバトルはやはり心が踊る。魔物たちが最も輝ける姿だ。  その様子を見てたくさんの人々が感銘を受けるのであれば、わしも企画した甲斐があるというものだ」 「あれをモンスターバトルと一緒にするな。あんなのはただの殺戮だ」 「モンスターバトルの意味を定義したのも、それを大衆に広めたのもわしなのだぞ?  だから、わしがあれをモンスターバトルと言えば、そうなるんじゃないかね?」 「といっても、今のあんたは昔とはもはや別人に見えるぜ、モリーさんよ」 モンスターマスターの少年は目の前の男を鋭く睨みつける。 齢15歳のこの少年は、この『殺戮ショー』を許すことが出来なかった。 彼にとってモンスターとは、人間と共に生きる友であり、相棒であり、時にパートナーとなる存在である。 共に修行して、共に戦うことでマスターとモンスターの絆を深め合う……それが彼の知るモンスターバトルだ。 しかし、この催しは違う。島の中にモンスターを隔離し、娯楽のためだけにむやみに命を奪い合わせているだけ。 モンスターを賭博の道具として消費するなんて、どうしてそんな狂ったことが大々的に行えるのか? この世界はどうかしている。 そして彼は主催者のモリーを止めるために、ここまでたどり着いた。 ここは闘技場のビルの最上階。 巨大なモニターが設置されたこの部屋に、モリーと、少年と、少年が連れる魔物エンゼルスライムがいる。 モニターを見つめていたモリーは椅子をくるりと回転させ、少年と顔を合わせた。 「フン、勇敢なキッド、ユーが来ることは風のウワサから既に聞いていたぞ。  だがな、勇敢と無謀は取り違えてはいかん。ここはユーのような子供が遊びで入ってもいい場所ではないのだ。  今ならばまだ見逃してやろう。だが、このままわしの前に立ちふさがるのであれば容赦は無いぞ」 「上等だな。ガキだと思って舐めてかかったことを後悔するがいいさ」 「ほう、ではユーの魔物を見せてみるがいい。まさかそのエンゼルスライム一体だけではないだろう」 「ああ、もちろん」 少年は不敵な笑みを浮かべ、指をパチリと鳴らす。 激しい轟音、それと共に壁の一部が破壊される――巨大な斧による一撃。 夕日を背景にして、そこには黒い鎧に身を包んだゴールデンゴーレムが姿があった。 パァンと火薬の爆ぜる音、モリーの背後のモニターに小さな穴が開き、蜘蛛の巣のような亀裂が入る。 宙を華麗に舞いながら、ショットガンを構えた狡猾な悪魔……バズズが姿を現した。 「……ほう、随分と変わった装備を持たせているんだな」 「あぁ、アンタに備えて万全な武装をさせてもらっているぜ。この闘技場の宝箱から拝借させてもらったものさ。  覚悟しろよ、お前の企みはここで終わらせる……!」 「グレイトだ、キッド。ユーの魔物を一目見ただけで、ユーが魔物にどれほどの愛情を注いだのか伝わったぞ。  ならば、わしもそれに応えよう。わしが作り上げた『最強のモンスター』たちの力を見せてやろうではないか!」  ◆ 「……さて、番組の途中ですがここで現在までの生存モンスターについての情報が確定したようです」 「おお、ついに来ましたか。いくつか映像は見てきたけど、全体的にどのくらい生き残ってるのかまで把握しきれないからね」 「それではこちらをご覧下さい」 司会者がパネルをタッチすると、ズラリとモンスターたちの名前が並べられる。 「現在確認されているモンスターは……。 はぐれメタル、モルボル、ベヒーモス、オルトロス、セイレーン、メタモン、 ソーナンス、キノガッサ、ルカリオ、グレイシア、ジュペッタ、ジャックフロスト、 ギリメカラ、モーショボー、ハムライガー、ピクシー、ゲルキゾク、チャッキー、 アグモン、ガブモン、ワームモン、レナモン、エアドラモン  18時現在、以上の23体となっております」 「なんか全然見てなかったモンスターが2、3体いるね。セイレーンとかジャックフロストとか出てた?」 「ジャックフロストはさっきいましたよ。キノガッサと肉弾戦してましたね」 「ていうかこの生存モンスター見た感じ、凄いことになってますよね。  当初勝ち残るだろうなって思われてたモンスター、すえきすえぞーとかガブリアスとか、結構やられちゃってるんですよ」 「そうそう……それなんだけどさ、俺さ、ガブリアスを応援してたんだけどさぁ。  なんかやられたシーン放送されないまま倒されちゃってるんすよ。それどうなってんの」 「どうやらB-6とかC-6とかは、戦いによってカメラが破壊されてしまってるようで、まともな映像が撮れないそうです。  上空からの映像とか、遠距離からの映像を検証して、ようやくガブリアスらしき死体が発見されたみたいですよ」 「えぇーっ、なにそれ酷い。誰っすかガブリアスやったやつ」 「あの辺り一帯は全然戦況がわかりませんけど、調査次第では誰が倒したかもわかるらしいです」 「とりあえず、まだまだ先の展開は読めないってことですね。今後の戦いにも期待が持てますねぇ」  ◆ 「う、嘘だろ……おい、エルゼ、ゴラム、バズー……起きてくれよ」 少年は呆然と立ち尽くしたまま、無残に倒れ伏す仲間の姿に絶望の色を見せていた。 周囲を取り囲む奇怪な機械やデモノイドの群れ、そいつらに為す術もなく薙ぎ倒された。 ――全滅。 少年は、自分の目の前が黒に染まるのを感じた。 「ふざけんなよ……こんなのって無ぇだろ……。俺がここで止められなきゃ、あのモンスターたちはこのまま……」 「いいかキッド、世界はユーが思うよりも不条理だ。勇気と正論が勝つとは限らない。  より多くの支持を得た者が、より多くの優秀な兵を持った者こそが勝つのだ。  それが例え、どれほど『正しい行い』や『善』と掛け離れていてもだ」 「クソッ、最低な野郎だ、てめぇ……!」 その目に、込み上げる怒りを注ぎ込んで、睨みつける。 それを意に返す様子もなく、モリーは事務的な声で自分の魔物へと命じる。 「連れて行け」 すぐさま一体の人型造魔が少年を捕らえ、奥の部屋へと引っ張っていく。 これ以上この少年と話す事はもう無い。 ゆえに、彼の喚き散らす言葉ももはやモリーの耳には入らない。 どれだけ必死にもがこうと、戦う力を持たない人間には悪魔に抵抗することは出来ない。 これにて、彼の冒険はここで終わる。 『モリー様、この魔物の死体はどう致しますか?』 「処分はするな。次の戦いの時に使用する」 『かしこまりました』 機械的な女性の声で応答し、キラーマシン2は手始めにバズズの死体から運び始めた。  ◆ 不意にピリリリリ、というなんとも電子的な着信音が鳴った。 相手はモリーの弟子のミリー、飛行船の乗員を任せている者であった。 「どうかしたのか」 「モリー様ぁ、遊覧用の飛行船なんですけど、お客さまにサービスしようとし過ぎた結果、かなり運行がゆっくりになっちゃいました。  ホントは二時間経った時点で帰ろうと思ったんですけど、お客様たちの強いご希望があったので最後まで回ることにしました」 「それは構わないが、あまり長時間魔物どもに刺激を与えるのは危険だぞ」 「大丈夫ですよ、急ぎ目に行きますから。それに、こんな万全の防御が施されてる飛行船が落ちるわけないですよぉ」 「イレギュラーの存在もあるからな。最大限に注意を払うのだ」 「わかりましたぁ」 ミリーの報告を受けて、不安がこみ上げてきた。 別に彼女のノリの軽い口調のせいではない。いつもの事だ。 しかし、彼女が飛行船の安全性に慢心している所が気がかりだった。 『万全の防御』は決して『完璧な安全』では無いのだから。 不安要素としてモリーの脳内に真っ先に浮かんだのは、イレギュラーの存在であった。 六時間と少し前の時、魔物たちを島へ送り届けた後のことだった。 本来であればレオモンを抜いた49体の魔物がその島で戦いを行うはずだった。 だが、島の様子を映し出すカメラに、青いドレスをまとった少女の姿があったのだ。 モリーはそれを見て、どこかの子供が忍び込んでいたのだと思い、大いに焦った。 しかし、少女がカメラの方を振り向いた瞬間、映像が途切れた。何かしらの魔法で破壊されたのだ。 振り向き様に一瞬だけ見えたその瞳、モリーは一目でその少女が人外の者であると判別した。 空虚のような瞳、見るものに死を彷彿させる雰囲気、そして直感でわかる恐怖。 決して下位の者ではない、最上位に値するであろうものであった。 故に彼女を連れ戻すことは困難であろう。部下を派遣しても返り討ちに遭うリスクが高い。 そこでモリーは急遽、その悪魔を51体目の参加者として追加したのだ。 青いドレスに金色の髪の女性、その特徴に最も当てはまる魔物『セイレーン』という仮名をつけて、名簿に登録した。 『魔人アリス』――数多くの魔物を知り尽くしたモリーも、その少女の名を聞いたことは無かった。 戦いが開始されると、彼女のセイレーンの非では無いほど高いものだとわかった。 参加者のうちでも上位に入るであろう強さの魔物を複数相手にして、悠々と勝ち残っているのだから。 ヘタをすればこの戦いにおけるバランスブレイカーにもなりかねない、得体の知れない存在。 そして何より、彼女に関する情報がほとんど無い事が、モリーの心にざわめきを起こしていた。 「今のところセイレーンに動きは見られないからな……流石に、休息を取っているに違いあるまい。  その間にどうにか北側のルートを抜けてくれれば、飛行船も面倒事には巻き込まれずに済むはずだ」 希望的観測とも取れる判断だが、おそらく大きな問題は無いだろう、彼はそう考えた。 一部の人はこれを『フラグ』と呼ぶのだが、あいにく彼はそのことも知らなかった。 【*-*/闘技場本部/一日目/夕方】 ※生存者の放送内容ですが、プチヒーローの姿がジュペッタなため、ジュペッタが生存していると思われています。  また、魔人アリスはセイレーン@ファイナルファンタジーシリーズとして登録されているようです。 ※飛行船は『夜中』の時間帯までには撤収する予定となっております。 |No.66:[[~チカラ~]]|[[投下順]]|No.68:[[君の思い出に]]| |No.00:[[オープニング]]|モリー|No.81:[[闘技場完成]]|
チャッキーが刃を振るうたび、肉製のブーメランを叩きつけるたび。スライムたちの体が容易く散っていく。 周囲には青い体液が弾け飛んで、赤く染まったチャッキーのボディがどろりとした青い液でコーティングされる。 その、面白いようにガンガン蹴散らされていく様、鮮やかな剣捌き、演舞の如し。 これぞ"無双"。爽快で痛快な光景。 その華麗な姿に人々は興奮し、熱狂するのである。 かたかたかたと乾いた笑い声を響かせながら、ダークヒーローは画面の外へと姿を消した。 「生中継でお送り致しました。チャッキーVSスライム軍団! 見事チャッキーの圧勝となりました」 「いやぁ、実に素晴らしい戦いでしたねぇ」 「情け、容赦が無いと言いますか。見ているこっちまで手に汗握るようなバトルでしたよ」 テレビモニターは戦いの映像から画面を切り替え、スタジオの様子を映す。 斜めに向き合うように並ぶ机に着いて、アナウンサーや芸能人、コメンテーターが先ほどの戦いについて口々に語っている。 ~~~~~ 「ケッ、悪趣味だな。アンタはあれを見て愉快な気持ちになるのか?」 「無論だとも。モンスターバトルはやはり心が踊る。魔物たちが最も輝ける姿だ。  その様子を見てたくさんの人々が感銘を受けるのであれば、わしも企画した甲斐があるというものだ」 「あれをモンスターバトルと一緒にするな。あんなのはただの殺戮だ」 「モンスターバトルの意味を定義したのも、それを大衆に広めたのもわしなのだぞ?  だから、わしがあれをモンスターバトルと言えば、そうなるんじゃないかね?」 「といっても、今のあんたは昔とはもはや別人に見えるぜ、モリーさんよ」 モンスターマスターの少年は目の前の男を鋭く睨みつける。 齢15歳のこの少年は、この『殺戮ショー』を許すことが出来なかった。 彼にとってモンスターとは、人間と共に生きる友であり、相棒であり、時にパートナーとなる存在である。 共に修行して、共に戦うことでマスターとモンスターの絆を深め合う……それが彼の知るモンスターバトルだ。 しかし、この催しは違う。島の中にモンスターを隔離し、娯楽のためだけにむやみに命を奪い合わせているだけ。 モンスターを賭博の道具として消費するなんて、どうしてそんな狂ったことが大々的に行えるのか? この世界はどうかしている。 そして彼は主催者のモリーを止めるために、ここまでたどり着いた。 ここは闘技場のビルの最上階。 巨大なモニターが設置されたこの部屋に、モリーと、少年と、少年が連れる魔物エンゼルスライムがいる。 モニターを見つめていたモリーは椅子をくるりと回転させ、少年と顔を合わせた。 「フン、勇敢なキッド、ユーが来ることは風のウワサから既に聞いていたぞ。  だがな、勇敢と無謀は取り違えてはいかん。ここはユーのような子供が遊びで入ってもいい場所ではないのだ。  今ならばまだ見逃してやろう。だが、このままわしの前に立ちふさがるのであれば容赦は無いぞ」 「上等だな。ガキだと思って舐めてかかったことを後悔するがいいさ」 「ほう、ではユーの魔物を見せてみるがいい。まさかそのエンゼルスライム一体だけではないだろう」 「ああ、もちろん」 少年は不敵な笑みを浮かべ、指をパチリと鳴らす。 激しい轟音、それと共に壁の一部が破壊される――巨大な斧による一撃。 夕日を背景にして、そこには黒い鎧に身を包んだゴールデンゴーレムが姿があった。 パァンと火薬の爆ぜる音、モリーの背後のモニターに小さな穴が開き、蜘蛛の巣のような亀裂が入る。 宙を華麗に舞いながら、ショットガンを構えた狡猾な悪魔……バズズが姿を現した。 「……ほう、随分と変わった装備を持たせているんだな」 「あぁ、アンタに備えて万全な武装をさせてもらっているぜ。この闘技場の宝箱から拝借させてもらったものさ。  覚悟しろよ、お前の企みはここで終わらせる……!」 「グレイトだ、キッド。ユーの魔物を一目見ただけで、ユーが魔物にどれほどの愛情を注いだのか伝わったぞ。  ならば、わしもそれに応えよう。わしが作り上げた『最強のモンスター』たちの力を見せてやろうではないか!」  ◆ 「……さて、番組の途中ですがここで現在までの生存モンスターについての情報が確定したようです」 「おお、ついに来ましたか。いくつか映像は見てきたけど、全体的にどのくらい生き残ってるのかまで把握しきれないからね」 「それではこちらをご覧下さい」 司会者がパネルをタッチすると、ズラリとモンスターたちの名前が並べられる。 「現在確認されているモンスターは……。 はぐれメタル、モルボル、ベヒーモス、オルトロス、セイレーン、メタモン、 ソーナンス、キノガッサ、ルカリオ、グレイシア、ジュペッタ、ジャックフロスト、 ギリメカラ、モーショボー、ハムライガー、ピクシー、ゲルキゾク、チャッキー、 アグモン、ガブモン、ワームモン、レナモン、エアドラモン  18時現在、以上の23体となっております」 「なんか全然見てなかったモンスターが2、3体いるね。セイレーンとかジャックフロストとか出てた?」 「ジャックフロストはさっきいましたよ。キノガッサと肉弾戦してましたね」 「ていうかこの生存モンスター見た感じ、凄いことになってますよね。  当初勝ち残るだろうなって思われてたモンスター、すえきすえぞーとかガブリアスとか、結構やられちゃってるんですよ」 「そうそう……それなんだけどさ、俺さ、ガブリアスを応援してたんだけどさぁ。  なんかやられたシーン放送されないまま倒されちゃってるんすよ。それどうなってんの」 「どうやらB-6とかC-6とかは、戦いによってカメラが破壊されてしまってるようで、まともな映像が撮れないそうです。  上空からの映像とか、遠距離からの映像を検証して、ようやくガブリアスらしき死体が発見されたみたいですよ」 「えぇーっ、なにそれ酷い。誰っすかガブリアスやったやつ」 「あの辺り一帯は全然戦況がわかりませんけど、調査次第では誰が倒したかもわかるらしいです」 「とりあえず、まだまだ先の展開は読めないってことですね。今後の戦いにも期待が持てますねぇ」  ◆ 「う、嘘だろ……おい、エルゼ、ゴラム、バズー……起きてくれよ」 少年は呆然と立ち尽くしたまま、無残に倒れ伏す仲間の姿に絶望の色を見せていた。 周囲を取り囲む奇怪な機械やデモノイドの群れ、そいつらに為す術もなく薙ぎ倒された。 ――全滅。 少年は、自分の目の前が黒に染まるのを感じた。 「ふざけんなよ……こんなのって無ぇだろ……。俺がここで止められなきゃ、あのモンスターたちはこのまま……」 「いいかキッド、世界はユーが思うよりも不条理だ。勇気と正論が勝つとは限らない。  より多くの支持を得た者が、より多くの優秀な兵を持った者こそが勝つのだ。  それが例え、どれほど『正しい行い』や『善』と掛け離れていてもだ」 「クソッ、最低な野郎だ、てめぇ……!」 その目に、込み上げる怒りを注ぎ込んで、睨みつける。 それを意に返す様子もなく、モリーは事務的な声で自分の魔物へと命じる。 「連れて行け」 すぐさま一体の人型造魔が少年を捕らえ、奥の部屋へと引っ張っていく。 これ以上この少年と話す事はもう無い。 ゆえに、彼の喚き散らす言葉ももはやモリーの耳には入らない。 どれだけ必死にもがこうと、戦う力を持たない人間には悪魔に抵抗することは出来ない。 これにて、彼の冒険はここで終わる。 『モリー様、この魔物の死体はどう致しますか?』 「処分はするな。次の戦いの時に使用する」 『かしこまりました』 機械的な女性の声で応答し、キラーマシン2は手始めにバズズの死体から運び始めた。  ◆ 不意にピリリリリ、というなんとも電子的な着信音が鳴った。 相手はモリーの弟子のミリー、飛行船の乗員を任せている者であった。 「どうかしたのか」 「モリー様ぁ、遊覧用の飛行船なんですけど、お客さまにサービスしようとし過ぎた結果、かなり運行がゆっくりになっちゃいました。  ホントは二時間経った時点で帰ろうと思ったんですけど、お客様たちの強いご希望があったので最後まで回ることにしました」 「それは構わないが、あまり長時間魔物どもに刺激を与えるのは危険だぞ」 「大丈夫ですよ、急ぎ目に行きますから。それに、こんな万全の防御が施されてる飛行船が落ちるわけないですよぉ」 「イレギュラーの存在もあるからな。最大限に注意を払うのだ」 「わかりましたぁ」 ミリーの報告を受けて、不安がこみ上げてきた。 別に彼女のノリの軽い口調のせいではない。いつもの事だ。 しかし、彼女が飛行船の安全性に慢心している所が気がかりだった。 『万全の防御』は決して『完璧な安全』では無いのだから。 不安要素としてモリーの脳内に真っ先に浮かんだのは、イレギュラーの存在であった。 六時間と少し前の時、魔物たちを島へ送り届けた後のことだった。 本来であればレオモンを抜いた49体の魔物がその島で戦いを行うはずだった。 だが、島の様子を映し出すカメラに、青いドレスをまとった少女の姿があったのだ。 モリーはそれを見て、どこかの子供が忍び込んでいたのだと思い、大いに焦った。 しかし、少女がカメラの方を振り向いた瞬間、映像が途切れた。何かしらの魔法で破壊されたのだ。 振り向き様に一瞬だけ見えたその瞳、モリーは一目でその少女が人外の者であると判別した。 空虚のような瞳、見るものに死を彷彿させる雰囲気、そして直感でわかる恐怖。 決して下位の者ではない、最上位に値するであろうものであった。 故に彼女を連れ戻すことは困難であろう。部下を派遣しても返り討ちに遭うリスクが高い。 そこでモリーは急遽、その悪魔を51体目の参加者として追加したのだ。 青いドレスに金色の髪の女性、その特徴に最も当てはまる魔物『セイレーン』という仮名をつけて、名簿に登録した。 『魔人アリス』――数多くの魔物を知り尽くしたモリーも、その少女の名を聞いたことは無かった。 戦いが開始されると、彼女のセイレーンの非では無いほど高いものだとわかった。 参加者のうちでも上位に入るであろう強さの魔物を複数相手にして、悠々と勝ち残っているのだから。 ヘタをすればこの戦いにおけるバランスブレイカーにもなりかねない、得体の知れない存在。 そして何より、彼女に関する情報がほとんど無い事が、モリーの心にざわめきを起こしていた。 「今のところセイレーンに動きは見られないからな……流石に、休息を取っているに違いあるまい。  その間にどうにか北側のルートを抜けてくれれば、飛行船も面倒事には巻き込まれずに済むはずだ」 希望的観測とも取れる判断だが、おそらく大きな問題は無いだろう、彼はそう考えた。 一部の人はこれを『フラグ』と呼ぶのだが、あいにく彼はそのことも知らなかった。 【*-*/闘技場本部/一日目/夕方】 ※生存者の放送内容ですが、プチヒーローの姿がジュペッタなため、ジュペッタが生存していると思われています。  また、魔人アリスはセイレーン@ファイナルファンタジーシリーズとして登録されているようです。 ※飛行船は『夜中』の時間帯までには撤収する予定となっております。 |No.66:[[救いの手]]|[[時系列順]]|No.66:[[~チカラ~]]| |No.66:[[~チカラ~]]|[[投下順]]|No.68:[[君の思い出に]]| |No.00:[[オープニング]]|モリー|No.81:[[闘技場完成]]|

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