ごちそうさまでした

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1時間程前、スティングモンは巨大な一つ目の怪物──すえきすえぞーの死体を発見した。 否が応にも目を引く死体中央に開いた穴は、達人の絶技による一撃を思わせた。 ──クー・フーリンがやったのだろうか。 答えを求める気は無かったが、この華麗な傷口が先程出会った男による者だと想像することは難くなかった。 「さて……」 有機生命体であるモンスターを0と1に分解し、直接ロードすることは出来ない。 効率的ではないが、食事という形ですえきすえぞーの死体をスティングモンは取り込んだ。 「不味い」 味に関して贅沢は言うつもりはなかったが、思いがけず手の込んだ料理を喰らった舌は思いの外肥えていたようだ。 先程食べた肉料理の味をもう懐かしく感じてしまう。 調理者をロードしたのならば、自分でもあの料理を作れるのだろうか。 我ながら下らない冗談だ。 スティングモンはそう言って心の中で自嘲する。 「料理は何を食べるかではなく誰と食べるかだ」 ロザリーの作った料理はお世辞にも褒められたものではなかったが、温かかった。 世界中のどんな料理も、あの粗末な食卓で取った料理には叶いやしない。 そして、もう二度と食べられはしない。 もう、あの肉料理もこの死体も何も変わりはしない。 ロザリー以外の全ては平等に価値など無い。 それから1時間程歩き、スティングモンは石像のような死体と中央に一つ目を持ったヒトデのような死体を発見した。 やることは何も変わりはしない。 だが、石像に関しては食うこともロードも出来ないので後に回す。 ヒトデの方は幸いにも、性質が先程のクー・フーリンに似通っていたため問題なくロードすることが出来た。 「…………」 そして再び現れた苦痛。 爪の先から炎が入り込んで全身をのたうち回るかのような痛み。 燃えるように熱い、体の中が溶けているように感じられる、炎が獣の形を取って肉を食い破り、体外へと出んとする。 問題はない、想定していた痛みだ。 二度も同じ苦しみに悩んだりはしない。 深く息を吸い込み、吐く。 真正面を見据える。 痛みは消えない、だが無様な姿を見せてやる気はない。 目に緑の光が宿った。 進化にはまだ、足りない。 だが、地獄への道は問題なく進んでいる。 することもなく歩けば取り留めの無い考えがいくつも頭に浮かぶ。 少なくとも、新たな敵のいない今は思考に身を委ねる余裕程度はあった。 ──クー・フーリンの死に、逃した二匹は哀しむものだろうか。 本当に、心の底からどうでもいいことだとスティングモンは思っている。 だが、どうしようもないほどに暇だからとはいえ、そのようなことを考えてしまう。 もう、スティングモンが死のうとも誰も哀しむものはいない。 世界にたったふたりぼっちで、もうひとりぼっちになってしまった。 ロザリーは、己の死を哀しんでくれる私がいて、少しは救われたのだろうか。 いや、私を残して死ぬことが哀しかったのかもしれない。 でも、それは独りじゃない。 嬉しくても、悲しくても、きっと寂しいことじゃない。 私には誰もいない。 誰も要らない。 だとすれば、何なのだろうか。 この胸に穴が開いたような空虚な感覚は。 「ロザリーは言っていた、料理は何を食べるかではなく誰と食べるかが大切なんだと……」 気がつけば、己がロードした者に似せて独り言を呟いていた。 そうか、あの食事は久方振りに誰かと一緒に摂った食事だったのか。 「また、独りぼっちだな……私は」 もう、二度とあのような休息は訪れない。 もう、誰かと一緒に食事を摂ることはない。 「それでいい」 吐き捨てるように、呟く。 ロザリーにもう一度会えるなら、それでいい。 握り締めることの出来なかった手を握り締めることが出来るなら、それでいい。 もう一度、会いたい。 揺れた心は、鉄の意志で再び動きを止める。 「救われるべきは、私ではなく……君なんだ」 まもなく太陽が沈む。 そして月が昇る。 【E-4/山/一日目/夕方】 【ワームモン(スティングモン)@デジタルモンスターシリーズ】 [状態]:疲労(中)、データに異常 [装備]:なし [所持]:ふくろ(空)、メタルキングの槍 [思考・状況] 基本:地獄へ征くその日まで、殺し続ける [備考] オス。一人称は私。 クーフーリン、デカラビアをロードしました。 すえきすえぞーを食しました。 それにより強化され進化しかけましたが、イレギュラーな力を得ていたためデータが異常を起こしました。 全身の緑色の部分が銀色に変色しています。 瞳が緑色に変色しました。 |No.58:[[さよなら]]|[[投下順]]|No.60:[[意志の凱旋]]| |No.41:[[NEXT LEVEL]]|シャドームーン|No.70:[[僕たちは世界を変えることができない。]]|
1時間程前、スティングモンは巨大な一つ目の怪物──すえきすえぞーの死体を発見した。 否が応にも目を引く死体中央に開いた穴は、達人の絶技による一撃を思わせた。 ──クー・フーリンがやったのだろうか。 答えを求める気は無かったが、この華麗な傷口が先程出会った男による者だと想像することは難くなかった。 「さて……」 有機生命体であるモンスターを0と1に分解し、直接ロードすることは出来ない。 効率的ではないが、食事という形ですえきすえぞーの死体をスティングモンは取り込んだ。 「不味い」 味に関して贅沢は言うつもりはなかったが、思いがけず手の込んだ料理を喰らった舌は思いの外肥えていたようだ。 先程食べた肉料理の味をもう懐かしく感じてしまう。 調理者をロードしたのならば、自分でもあの料理を作れるのだろうか。 我ながら下らない冗談だ。 スティングモンはそう言って心の中で自嘲する。 「料理は何を食べるかではなく誰と食べるかだ」 ロザリーの作った料理はお世辞にも褒められたものではなかったが、温かかった。 世界中のどんな料理も、あの粗末な食卓で取った料理には叶いやしない。 そして、もう二度と食べられはしない。 もう、あの肉料理もこの死体も何も変わりはしない。 ロザリー以外の全ては平等に価値など無い。 それから1時間程歩き、スティングモンは石像のような死体と中央に一つ目を持ったヒトデのような死体を発見した。 やることは何も変わりはしない。 だが、石像に関しては食うこともロードも出来ないので後に回す。 ヒトデの方は幸いにも、性質が先程のクー・フーリンに似通っていたため問題なくロードすることが出来た。 「…………」 そして再び現れた苦痛。 爪の先から炎が入り込んで全身をのたうち回るかのような痛み。 燃えるように熱い、体の中が溶けているように感じられる、炎が獣の形を取って肉を食い破り、体外へと出んとする。 問題はない、想定していた痛みだ。 二度も同じ苦しみに悩んだりはしない。 深く息を吸い込み、吐く。 真正面を見据える。 痛みは消えない、だが無様な姿を見せてやる気はない。 目に緑の光が宿った。 進化にはまだ、足りない。 だが、地獄への道は問題なく進んでいる。 することもなく歩けば取り留めの無い考えがいくつも頭に浮かぶ。 少なくとも、新たな敵のいない今は思考に身を委ねる余裕程度はあった。 ──クー・フーリンの死に、逃した二匹は哀しむものだろうか。 本当に、心の底からどうでもいいことだとスティングモンは思っている。 だが、どうしようもないほどに暇だからとはいえ、そのようなことを考えてしまう。 もう、スティングモンが死のうとも誰も哀しむものはいない。 世界にたったふたりぼっちで、もうひとりぼっちになってしまった。 ロザリーは、己の死を哀しんでくれる私がいて、少しは救われたのだろうか。 いや、私を残して死ぬことが哀しかったのかもしれない。 でも、それは独りじゃない。 嬉しくても、悲しくても、きっと寂しいことじゃない。 私には誰もいない。 誰も要らない。 だとすれば、何なのだろうか。 この胸に穴が開いたような空虚な感覚は。 「ロザリーは言っていた、料理は何を食べるかではなく誰と食べるかが大切なんだと……」 気がつけば、己がロードした者に似せて独り言を呟いていた。 そうか、あの食事は久方振りに誰かと一緒に摂った食事だったのか。 「また、独りぼっちだな……私は」 もう、二度とあのような休息は訪れない。 もう、誰かと一緒に食事を摂ることはない。 「それでいい」 吐き捨てるように、呟く。 ロザリーにもう一度会えるなら、それでいい。 握り締めることの出来なかった手を握り締めることが出来るなら、それでいい。 もう一度、会いたい。 揺れた心は、鉄の意志で再び動きを止める。 「救われるべきは、私ではなく……君なんだ」 まもなく太陽が沈む。 そして月が昇る。 【E-4/山/一日目/夕方】 【ワームモン(スティングモン)@デジタルモンスターシリーズ】 [状態]:疲労(中)、データに異常 [装備]:なし [所持]:ふくろ(空)、メタルキングの槍 [思考・状況] 基本:地獄へ征くその日まで、殺し続ける [備考] オス。一人称は私。 クーフーリン、デカラビアをロードしました。 すえきすえぞーを食しました。 それにより強化され進化しかけましたが、イレギュラーな力を得ていたためデータが異常を起こしました。 全身の緑色の部分が銀色に変色しています。 瞳が緑色に変色しました。 |No.58:[[さよなら]]|[[時系列順]]|No.60:[[意志の凱旋]]| |No.58:[[さよなら]]|[[投下順]]|No.60:[[意志の凱旋]]| |No.41:[[NEXT LEVEL]]|シャドームーン|No.70:[[僕たちは世界を変えることができない。]]|

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