テレビのスイッチを切るように

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深くも浅くもない木々の合間を縫って、彼はその木の一本に背を預ける。 木漏れ日とまばらな影に覆われる純白の高貴は、眩い空を仰ぎ、瞳を閉じた。 警戒しながらの浅い眠りを迎え入れ、彼の心は記憶の整理を始める。 ここにきてからのことはまだ余りに短く、さして登場することはなかった。 見たこともない世界、見たこともない魔物の王、どこかで見たことがあるような……挙動不審なモンスター。 つっかえる情報の一端。 ゲルキゾクの頭が、心が違和感を覚えると同時に記憶は遡る。 「……エクササイズって儲かるのかしら」 茫洋と興行集団を眺めていた主がつぶやいた。 彼女はいつだって金を欲していた。 何故か、と一度だけ問うて見たことがある。 興味本位で尋ねた質問。 どうせ適当に業突張りな台詞を頂戴するのだろうと返事を待っていたが、彼女は、陽の光が宿らぬ瞳で。 『金がありゃあ、金で契約すりゃあ、誰もあたしを裏切らないでしょ』 そう、酸素より重たい声で放った。 すぐさま、金はあたしを裏切らない!!と言い直したが。 あれが彼女の真意なのか、そこにたどり着くまでに何があったのか、勿論ゲルキゾクは聞かなかった。 契約外だからだ、同情したり、信頼したり、そういう頭の温かい案件は。 「さあ」 だから冗談とも本気とも付かない疑問は軽く流す。 「あんたエクササイズってガラじゃないもんねェ、精々バランスボールよ」 珍しく、無駄話でけらけらと彼女は笑った。 「それで結構」 無機質な返事に気分を害するわけもなく。 大会で訪れた街は賑やかで、道端で芸や歌を披露するもの、モンスターの育成グッズを売るもの、円盤石を売るものと様々であった。 悲喜交交の表情をばらまく通行人たち、手をつないで歩く恋人たち、なぜか取っ組み合いで喧嘩してる者達。 人間を見るたび、彼女はやはり、あの陽の光のない瞳になる。 指で作った四角い世界でそれを閉じ込めて。 「こうして見ると、なあんかお伽話っつうか、演劇見てるみたいでサ」 他人ごとの情景を無理やり見せられてるみたいで嫌だな。 「見なければいいでしょう」 正論をくれてやる。 そうだな、と返される。 四角い囲いを外すと世界は解き放たれる。 「こうやってあたしがぶっ壊しても世界ってのは山ほどあると思うと」 いくら金があっても足りない。 「なあ、契約の話なんだけどな――」 声が遠い。 切れ切れで、ああもうはっきり仰ってくださいな。 焦れて前に進むが、どんどん意識が遠ざかる。 それは覚醒か契約違反か。 幸運にも、前者が訪れた。 軋む体は相変わらずだが、少しだけ意識が落ち着いている。 しかしこんなことでは、いつまでまっても契約を果たすには至れない。 溜息とも呼吸ともつかない深いそれを繰り返していると、世界を四角く縁取る監視役がこちらを見ていた。 ジーーー……と機械音を立てて、ゲルキゾクより無感情に棒立ちする物体。 主催と思わしき男とは別の、下っ端のような男がこれに向かって叫んでいたのを思い出す。 これは世界を切り取り、発信する装置なのだろうか。 また、ゲルキゾクの頭に何かが引っかかる。 見たことがないどころか、自分の世界にこんなものは存在しない。 そのときゲルキゾクは、違和感の正体を捕まえた。 「自分の……世界?」 その言い回しが、当座の答えであった。 日常を奪われ非日常に叩きこまれた比喩のつもりであったが、目の前の機械が物理的にもそうであると伝えてきている。 なれば、とゲルキゾクはさらに思案する。 見たことがないモンスターが居るのも道理だ。 彼らは、他のモンスターたちは別々の世界から招かれていて、こうして殺し合いをけしかけられていると。 いや、そんなことは最初から分かっている。前提条件などいまさらどうでもいい。 問題は、ここが何処かということ、そして、自分の世界に帰るための方法だ。 たとえすべてのモンスターを倒したとしても、彼女はこの世界にいないかもしれない。 もしも予想通り囚われていたとしても、帰る場所はこの世界には存在しない。 どちらを欠いても契約は果たせない、ゲルキゾクは息を深く吐き出す。 無意識に組んだ腕を見て、ふと思い立ち支給されたふくろの中身を取り出す。 美しい透明な球体が、ころんとその白い腕に落ちた。 途端、触れた場所から柔らかな光が漏れでて、傷が癒されていった。 原理は分からないが癒しの力を持つ玉を握り締めると、じわじわと体に飲み込まれていく。 確実に、体中に染み渡っていく力。 重たいからだが徐々に軽くなる感覚に安堵し、これからのことを考える。 元の世界……と今は仮定する、自分の世界に帰還する方法。 それに一番早くたどり着く方法と、今自分がやるべきことは見事に合致している。 ただ、まだ足りない。 全てのモンスターを打ち倒し、主の契約を。 そこまで考えてゲルキゾクは自嘲気味に笑う。 確認さえ取れればいいのに、なぜ自分は帰ることを、あの女のもとに戻ることを第一義に置いているのか、と。 「確実性を持ってして、契約は果たすべし、ということです」 ひとりごちて、立ち上がる。 結論は出た。 情報を集め、そしてモンスターを殺めて回る。 最悪全滅さえ成功させられれば、荒っぽいが道はひらけるだろう。 手始めにと体をならすべく周囲の探索を始める。 木々に囲まれた場所だ、ろくなものはないだろう。 案の定、と決めつけかけたその時、少しだけ開けた、まるで木々達がそこにいるのを拒んだような場所を発見する。 「これは……」 彼にしては珍しく、揺れた声音。 割れて、砕けた円盤石の残骸がそこには散らばっていた。 弔われることもなく、廃棄されたモンスターが閉じ込められていたそれらは、そのまま遺影を思わせて。 彼の世界でも、円盤石の欠片は存在した。 各種の欠片はモンスターを合成させる際の隠し材料になり、わずかにモンスターに影響を与える。 眼の前にあるのは……はっきり言ってしまうと、石ころと大差ない物体だ。 その墓標の更に奥、王座に君臨する、銀色に鈍く輝く石版。 「神々の石版……しかし、なぜここに?」 古に封印されたモンスターの伝説が彫り込まれた石版。 こう言うと非常に価値がある石版のように聞こえるが、実際は端金にもならないような遺物である。 「悪徳の限りを尽くした伝説のドラゴン、ムー……」 なぜこの石版に価値がないのか、それは明確な情報が何一つ記されていないからだ。 二度の世界の滅び、空白の歴史、古代三神……詳細はすべて、ゲルキゾクが居た世界のもっと先の未来で語られている。 ゲルキゾクに分かることは、これがムーの戦いについて記されたもの、ということだけだ。 散らばる円盤石の骸、それを見下ろす石版、何かの暗示があるのか、ないのか。 「ふ……まさか、我々の屍の上に何かを築きあげようと?」 一つの想定に、薄い笑みを浮かべる。 「だとすれば、本当にくだらない」 するするとゲルキゾクはその場を離れる。 この陳腐な賭け事よりも、あの女が、主が求める金儲けよりも益のない想像。 そんなものが存在するとは、可笑しくてたまらない。 金のためにこの催しを開いたと思うほうが何倍も賢明に見える。 それとも、信心深い参加者を焚きつけるためのフェイクか? モンスターを畜生と、道具と見る人間が我々にそんな期待を? もうこれ以上笑わせないでほしい。 日はまだ、地平には遠い。 幾ばくもせぬうちに元通りになるだろう確信のある身体を持って、彼は進んでいく。 一刻も早く、契約を果たすべく。 【F-7/森/一日目/午後】 【ゲル(ゲルキゾク)@モンスターファームシリーズ】 [状態]:回復中 [装備]:なし [所持]:ふくろ(中身無し) [思考・状況] 基本:自身のブリーダーの安否確認のため全員を殺しモリーと面会する   1:情報を集めつつ殺す [備考] オス。金にがめついブリーダーに『道具』として飼われていた。冷徹だが冷血ではない。種族はゲルキゾク(ゲル×ガリ)丁寧な口調で一人称は「私」 《支給品紹介》 【宝玉@女神転生シリーズ】  対象のHPを全回復させるアイテム。このロワでは急激に回復するのではなく徐々に回復する仕様に。 |No.54:[[言葉も想いも拳に乗せて]]|[[投下順]]|No.56:[[色鮮やかな結末若しくはマンイーターちゃんのパーフェクト誘惑教室]]| |No.31:[[バトロワ中にエクササイズやったら死ぬ]]|ゲルキゾク|No.69:[[黒く蝕み心を染めん]]|
深くも浅くもない木々の合間を縫って、彼はその木の一本に背を預ける。 木漏れ日とまばらな影に覆われる純白の高貴は、眩い空を仰ぎ、瞳を閉じた。 警戒しながらの浅い眠りを迎え入れ、彼の心は記憶の整理を始める。 ここにきてからのことはまだ余りに短く、さして登場することはなかった。 見たこともない世界、見たこともない魔物の王、どこかで見たことがあるような……挙動不審なモンスター。 つっかえる情報の一端。 ゲルキゾクの頭が、心が違和感を覚えると同時に記憶は遡る。 「……エクササイズって儲かるのかしら」 茫洋と興行集団を眺めていた主がつぶやいた。 彼女はいつだって金を欲していた。 何故か、と一度だけ問うて見たことがある。 興味本位で尋ねた質問。 どうせ適当に業突張りな台詞を頂戴するのだろうと返事を待っていたが、彼女は、陽の光が宿らぬ瞳で。 『金がありゃあ、金で契約すりゃあ、誰もあたしを裏切らないでしょ』 そう、酸素より重たい声で放った。 すぐさま、金はあたしを裏切らない!!と言い直したが。 あれが彼女の真意なのか、そこにたどり着くまでに何があったのか、勿論ゲルキゾクは聞かなかった。 契約外だからだ、同情したり、信頼したり、そういう頭の温かい案件は。 「さあ」 だから冗談とも本気とも付かない疑問は軽く流す。 「あんたエクササイズってガラじゃないもんねェ、精々バランスボールよ」 珍しく、無駄話でけらけらと彼女は笑った。 「それで結構」 無機質な返事に気分を害するわけもなく。 大会で訪れた街は賑やかで、道端で芸や歌を披露するもの、モンスターの育成グッズを売るもの、円盤石を売るものと様々であった。 悲喜交交の表情をばらまく通行人たち、手をつないで歩く恋人たち、なぜか取っ組み合いで喧嘩してる者達。 人間を見るたび、彼女はやはり、あの陽の光のない瞳になる。 指で作った四角い世界でそれを閉じ込めて。 「こうして見ると、なあんかお伽話っつうか、演劇見てるみたいでサ」 他人ごとの情景を無理やり見せられてるみたいで嫌だな。 「見なければいいでしょう」 正論をくれてやる。 そうだな、と返される。 四角い囲いを外すと世界は解き放たれる。 「こうやってあたしがぶっ壊しても世界ってのは山ほどあると思うと」 いくら金があっても足りない。 「なあ、契約の話なんだけどな――」 声が遠い。 切れ切れで、ああもうはっきり仰ってくださいな。 焦れて前に進むが、どんどん意識が遠ざかる。 それは覚醒か契約違反か。 幸運にも、前者が訪れた。 軋む体は相変わらずだが、少しだけ意識が落ち着いている。 しかしこんなことでは、いつまでまっても契約を果たすには至れない。 溜息とも呼吸ともつかない深いそれを繰り返していると、世界を四角く縁取る監視役がこちらを見ていた。 ジーーー……と機械音を立てて、ゲルキゾクより無感情に棒立ちする物体。 主催と思わしき男とは別の、下っ端のような男がこれに向かって叫んでいたのを思い出す。 これは世界を切り取り、発信する装置なのだろうか。 また、ゲルキゾクの頭に何かが引っかかる。 見たことがないどころか、自分の世界にこんなものは存在しない。 そのときゲルキゾクは、違和感の正体を捕まえた。 「自分の……世界?」 その言い回しが、当座の答えであった。 日常を奪われ非日常に叩きこまれた比喩のつもりであったが、目の前の機械が物理的にもそうであると伝えてきている。 なれば、とゲルキゾクはさらに思案する。 見たことがないモンスターが居るのも道理だ。 彼らは、他のモンスターたちは別々の世界から招かれていて、こうして殺し合いをけしかけられていると。 いや、そんなことは最初から分かっている。前提条件などいまさらどうでもいい。 問題は、ここが何処かということ、そして、自分の世界に帰るための方法だ。 たとえすべてのモンスターを倒したとしても、彼女はこの世界にいないかもしれない。 もしも予想通り囚われていたとしても、帰る場所はこの世界には存在しない。 どちらを欠いても契約は果たせない、ゲルキゾクは息を深く吐き出す。 無意識に組んだ腕を見て、ふと思い立ち支給されたふくろの中身を取り出す。 美しい透明な球体が、ころんとその白い腕に落ちた。 途端、触れた場所から柔らかな光が漏れでて、傷が癒されていった。 原理は分からないが癒しの力を持つ玉を握り締めると、じわじわと体に飲み込まれていく。 確実に、体中に染み渡っていく力。 重たいからだが徐々に軽くなる感覚に安堵し、これからのことを考える。 元の世界……と今は仮定する、自分の世界に帰還する方法。 それに一番早くたどり着く方法と、今自分がやるべきことは見事に合致している。 ただ、まだ足りない。 全てのモンスターを打ち倒し、主の契約を。 そこまで考えてゲルキゾクは自嘲気味に笑う。 確認さえ取れればいいのに、なぜ自分は帰ることを、あの女のもとに戻ることを第一義に置いているのか、と。 「確実性を持ってして、契約は果たすべし、ということです」 ひとりごちて、立ち上がる。 結論は出た。 情報を集め、そしてモンスターを殺めて回る。 最悪全滅さえ成功させられれば、荒っぽいが道はひらけるだろう。 手始めにと体をならすべく周囲の探索を始める。 木々に囲まれた場所だ、ろくなものはないだろう。 案の定、と決めつけかけたその時、少しだけ開けた、まるで木々達がそこにいるのを拒んだような場所を発見する。 「これは……」 彼にしては珍しく、揺れた声音。 割れて、砕けた円盤石の残骸がそこには散らばっていた。 弔われることもなく、廃棄されたモンスターが閉じ込められていたそれらは、そのまま遺影を思わせて。 彼の世界でも、円盤石の欠片は存在した。 各種の欠片はモンスターを合成させる際の隠し材料になり、わずかにモンスターに影響を与える。 眼の前にあるのは……はっきり言ってしまうと、石ころと大差ない物体だ。 その墓標の更に奥、王座に君臨する、銀色に鈍く輝く石版。 「神々の石版……しかし、なぜここに?」 古に封印されたモンスターの伝説が彫り込まれた石版。 こう言うと非常に価値がある石版のように聞こえるが、実際は端金にもならないような遺物である。 「悪徳の限りを尽くした伝説のドラゴン、ムー……」 なぜこの石版に価値がないのか、それは明確な情報が何一つ記されていないからだ。 二度の世界の滅び、空白の歴史、古代三神……詳細はすべて、ゲルキゾクが居た世界のもっと先の未来で語られている。 ゲルキゾクに分かることは、これがムーの戦いについて記されたもの、ということだけだ。 散らばる円盤石の骸、それを見下ろす石版、何かの暗示があるのか、ないのか。 「ふ……まさか、我々の屍の上に何かを築きあげようと?」 一つの想定に、薄い笑みを浮かべる。 「だとすれば、本当にくだらない」 するするとゲルキゾクはその場を離れる。 この陳腐な賭け事よりも、あの女が、主が求める金儲けよりも益のない想像。 そんなものが存在するとは、可笑しくてたまらない。 金のためにこの催しを開いたと思うほうが何倍も賢明に見える。 それとも、信心深い参加者を焚きつけるためのフェイクか? モンスターを畜生と、道具と見る人間が我々にそんな期待を? もうこれ以上笑わせないでほしい。 日はまだ、地平には遠い。 幾ばくもせぬうちに元通りになるだろう確信のある身体を持って、彼は進んでいく。 一刻も早く、契約を果たすべく。 【F-7/森/一日目/午後】 【ゲル(ゲルキゾク)@モンスターファームシリーズ】 [状態]:回復中 [装備]:なし [所持]:ふくろ(中身無し) [思考・状況] 基本:自身のブリーダーの安否確認のため全員を殺しモリーと面会する   1:情報を集めつつ殺す [備考] オス。金にがめついブリーダーに『道具』として飼われていた。冷徹だが冷血ではない。種族はゲルキゾク(ゲル×ガリ)丁寧な口調で一人称は「私」 《支給品紹介》 【宝玉@女神転生シリーズ】  対象のHPを全回復させるアイテム。このロワでは急激に回復するのではなく徐々に回復する仕様に。 |No.52:[[そんなものはない]]|[[時系列順]]|No.56:[[色鮮やかな結末若しくはマンイーターちゃんのパーフェクト誘惑教室]]| |No.54:[[言葉も想いも拳に乗せて]]|[[投下順]]|No.56:[[色鮮やかな結末若しくはマンイーターちゃんのパーフェクト誘惑教室]]| |No.31:[[バトロワ中にエクササイズやったら死ぬ]]|ゲルキゾク|No.69:[[黒く蝕み心を染めん]]|

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