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▽
もう、そこにプチヒーローはいなかった。
「「届け──」」
でも、完全でも無敵でもないけど、そこには勇者がいた。
「「 ──絆 の雷」」
この場に味方は誰一人としていない。
でも、独りじゃない。
「「 ダブルディン 」」
▼
海に沈み込まんとする太陽を背に向けて、ギルガメッシュは立つ。
風に乗って流れてくる乾いた血の臭気が、戦いの予感を告げていた。
「ようやくだ」
ヒノカグツチを構えたギルガメッシュの頬が上がった。
笑うという行為が獣が牙を剥くことに由来するのであれば、ギルガメッシュの笑みも獲物を見つけた獣の歓喜なのだろう。
夕焼けを切り裂いて、こちらへと向かう二つの弾丸を見るその目のなんと爛々たることか。
空は赤々と燃えていた。それは世界が夜闇に沈むことに対する夕陽の最後の抵抗なのだろう。
けれど夜闇は、どこまでもどこまでも決して太陽を逃さない。
『逃がさない』
先程の戦いから離脱した二匹の視線がギルガメッシュと合ったその時、ギルガメッシュの視線が何よりも雄弁にそのメッセージを伝えてきた。
飛行が終わり、二匹が地面へと──ギルガメッシュの真正面へと降り立つ。
「ギルガメッシュ……お前達を殺す者の名前だ」
一方的な死刑宣告は強者の自負であり、圧倒的な真実であった。
「名前は要らん、愉しませてくれたのならばその姿だけは覚えておいてやる」
濁流のような殺気が、二匹を圧殺せんばかりに放たれた。
全身を氷で包まれたかのように、寒い。
二匹は震えていた。
逃げられない。
プチヒーローの手がジュペッタの手に触れた。
ジュペッタはその手をぎゅっと握り返す。
震えは収まらない。
「無駄なことはやめとけよ、降参するんなら心優しい俺は許してやらないこともないぜ?」
「…………そ、そうだよ」
けれど、二人で震えていれば、
どっちが震えているかなんてわからない。
アイドルはこんな時でも虚勢を演じられる。
アイドルはどんな時でも勇気を与えられる。
だから、勇者も奮い立てる。
「許しなど要るものか」
そして道化の滑稽な演技に、王も嗤う。
「だが、いい度胸だ」
戦いが始まる。
風を切って、鎖が大地を穿った。
ギルガメッシュの技術と力があるからこそ出来る、本来の使用方を逸脱したその攻撃はまさしく鋼鉄の鞭と呼ばれるに値するだろう。
鋼鉄の連打はまるで嵐のような暴風を伴って、二匹を襲う。
食らえば、死ぬ。
「だが、当たらなければどうということはない!」
ジュペッタの叫びと共に、何の脈絡もなく鎖が空中で静止した。
サイコキネシスの真価は、相手が武器を持った時に最大限に発揮される。
鎖が主たるギルガメッシュに反逆し、拘束具と化した。
鉄の冷えた感触が、ギチギチとギルガメッシュを縛り付け、食い込んでいく。
「だから言ったろ!降参すれば許してやるって」
呆気ない勝利、ジュペッタはそのことに逆に不安を覚える。
──いや、これまじで大丈夫だよな?とっとと降参してくれよ!頼むから!!
不安が拘束をより強固なものにする。
苦痛で音を上げてくれるように、より強く、より痛く。
縛られながらも不敵な笑みを崩さないギルガメッシュと懇願するかのようにより強く締め上げるジュペッタ。
奇妙な状況の終わりは、やはりギチという音を立てて始まった。
「それで終わりか」
腕ごと巻き込んで鎖に縛り付けられているギルガメッシュは、退屈気にそう言った。
「まだだ!ここから俺のスーパーデンジャラスハイセンスグロテスクモダンアタ……」
ジュペッタの言葉終わりを待つまでもなく、鎖が散弾のように弾け飛んだ。
ギルガメッシュの力ならば、サイコキネシスすら凌駕して無理やり壊せんこともない。
突然の奇襲をプチヒーローは水鏡の盾で防ぎ、
ジュペッタは向かい来る鎖を、逆にサイコキネシスで撃ち返した。
「見せてみるが良い、そのスーパー何とかとやらを」
撃ち返された鎖は音を立てて溶け落ちた。
ギルガメッシュの手に握られたヒノカグツチが、轟音と共に刀身に炎を纏う。
それは炎の剣であり剣の形をした炎だった。
「 冥 府 で な !!」
ヘイストを駆けたギルガメッシュの体が、一っ飛びにジュペッタとの距離を詰める。
「サイコキネ……」
発動前に止められてしまえば、どんな力も意味は無い。
本質を見破ったギルガメッシュの拳がジュペッタの体を紙のように宙に放る。
ギルガメッシュは跳んだ。
「……プチヒーロー」
吹き飛ばされたジュペッタの諦めと苦笑交じりの顔がプチヒーローを見た。
「ダメだ!そんなの!」
ギルガメッシュにトドメを刺されて、ジュペッタはこのままでは死ぬ。
──死なせない!死なせてたまるもんか!
空にいる相手だろうと、いや空にいる相手だからこそ勇者の呪文は当たる。
「きたれ!勇者の雷……ライディン!」
ジュペッタが、口元に微笑を浮かべて言った。
「まぁ、大丈夫……なんとかなるって、色々とさ」
この一瞬が永遠のものだったら、どれほど良かっただろうか。
ギルガメッシュの天からの一撃がジュペッタを貫いた。
雷はギルガメッシュを穿つことはなかった。
&color(red){【ジュペッタ@ポケットモンスター 死亡】}
「ベホマ……」
プチヒーローの必死の祈りも、抜け殻となったぬいぐるみには最早届かない。
「ベホマ……ッ」
命に手が届かない。
「…………うぅ」
何もかもが遅すぎた。
そこにあるのは、もはやジュペッタではなかった。
「当たらなかったんじゃない……当てなかったな」
無感動にジュペッタの死体を見下すと、ギルガメッシュは苛立ちを隠しもせずにプチヒーローに向き直った。
「僕は……僕は……」
──当てたかった。
何としてでも、プチヒーローはライディンをギルガメッシュに当ててジュペッタを救いたかった。
それでもプチヒーローに明確な意思を持って誰かを傷つけることは出来なかった。
だから、涙が溢れた目を閉じた。
何も見ぬままに、終わることを祈った。
そうして放った雷は、当然のように外れた。
「雑種以下の豚が」
泣き崩れるプチヒーローに、ギルガメッシュは侮蔑を隠そうともしない。
「鼠でも叶わぬと知りながらも懸命に足掻くものを」
「…………」
「貴様は豚だ。飼いならされ、抵抗を忘れ、何時か食われるその日まで下らん安寧を生きる豚だ」
「………………」
「豚の友人……ふん、奴も下らん輩だったな」
「取り消してよ……」
「豚と言われたことか?それともあんな死体など友人扱いするなということか?成程、豚は豚なりにプライドだけが肥え太ってしまったみたいだな」
「ジュペッタは下らない奴なんかじゃない……」
ジュペッタとプチヒーローが共に過ごした時間は少ない。
だが、時間の多少は問題ではない。
「ジュペッタは僕を……勇者になれない僕でも見てくれた!!」
孤独だったプチヒーローと共に過ごしてくれたことが、どれほど彼の救いとなったか。
「ジュペッタは僕の友達で…………」
体の震えは、初めての武者震いなのだろう。
きっと、そうに違いない。
プチヒーローは立ち向かおうとしていた。
見ろ、プチヒーローの側に横たわっているのは傷ひとつ無いぬいぐるみだ。
届きはしなかった、間に合いはしなかった、それでも、
プチヒーローはジュペッタにベホマを当てたのだ。
「アイドルなんだ!!」
アイドルが何なのかは、プチヒーローにはよくわからない。
それでも、プチヒーローはおぼろげながら理解していた。
アイドルとはきっと、勇気を与えてくれる者の事を云うのだ。
「怒るなら……」
プチヒーローの心臓を、ヒノカグツチが無慈悲に焼き貫いた。
「奴が死ぬ前にやれ」
&color(red){【プチヒーロー@ドラゴンクエストシリーズ 死亡】 }
「つまらん……」
誰も聞くことのない言葉を、ギルガメッシュは吐き捨てる。
結局、この戦いをギルガメッシュは楽しむことが出来なかった。
苛立たしさに死体を壊すことなどはしない、ギルガメッシュは新たな戦いを求めて再び歩き出す。
【ジュペッタ ぬいぐるみポケモン】
「…………ッハ!」
背後に再び気配を感じたギルガメッシュは足を止める。
まだ、戦いは終わっていない。
【たかさ 1.1m おもさ 12.5kg】
「僕は……勇気をもらったんだ…………」
ジュペッタは死に、そこに残されたのは傷一つ無いぬいぐるみだ。
【すてられた ぬいぐるみに】
「だから…………」
彼に立ち上がる意思があるのならば、
【おんねんが やどり】
「僕は戦うよ」
死んだプチヒーローが、その心を落としたのならば、
強い意志がぬいぐるみに宿ったのならば、
【ポケモンになった。 】
「答えろ、お前は何だ?」
「僕は…………」
「勇気を与える者だ!」
▽
「モンスターだって何にでもなれるさ」
「魔物にだって可能性はあるんだからさ」
「プチヒーローは何になりたい?」
▼
「きたれ、英雄の剣……アルテマソード!」
超然のエネルギー体である剣が、プチヒーローの手に握られた。
「我と剣で勝負するか、その心意気やよし!」
アルテマソードに応えるかのように、ヒノカグツチの紅蓮がより深く燃え上がる。
「…………」
「…………」
この日、プチヒーローは初めて己の意思で目の前の敵を傷つけようとしていた。
それが、どれ程の覚悟の上であるか、言い表せるものか。
恐怖が心中を埋め尽くした。
恐怖という闇の中、道を照らすのは勇気という灯火だ。
プチヒーローの唯一の友であるアイドルのくれた勇気だ。
息を深く吸い込み、吐いた。
プチヒーローはギルガメッシュを見た。
剣士が同時に剣を構えた場合、多くの場合沈黙の時が生じる。
剣士独特の呼吸が有り、死の間合いがある、
二つを測りそこねれば、多くの場合において死を意味する。
プチヒーローはギルガメッシュ比べて小さいが、今はジュペッタであるために、浮遊している。
浮遊しているということは、そのままの高さのギルガメッシュの振りでも突きでも仕留められるということである。
それはまた、プチヒーローにも言えたことである。
体躯の差は無いに等しい。
ギルガメッシュは、自らに浮かぶ死の幻影をはっきりと見ていた。
目の前の敵から発せられる圧力は、先程の豚からはとてもイメージ出来ない。
急激に強くなった理由、ギルガメッシュは測りかねていた。
もちろん、プチヒーローは急に強くなったわけではない。
元々、勇者としての教育を受けさせられていた彼は強かった。
しかし、実力を発揮させることが出来なかっただけなのだ。
それだけの理由と納得出来ないのならば、一つの理由を付け加えよう。
プチヒーローはジュペッタの体で、すなわち二人で戦っている。
二人ならば、弱いはずがない。
プチヒーローがアルテマソードを振るい、
それと同時に、ヒノカグツチも振り下ろされた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
戦いが始まった。
ヒノカグツチとアルテマソードが激しく打ち鳴らされる、もちろんアルテマソードに通常の刀身は存在しない。
だが、神の剣であるヒノカグツチの炎ならば、アルテマソードに対して打ち消されない威力を発揮しているというだけだ。
鍔競り合いは行わない。
プチヒーローはアルテマソードと共に浮遊したその体で軽やかに後退し、ギルガメッシュは前進する。
浮遊しているという事は、三次元を自由に動き回れるということだ。
プチヒーローは、攻撃の基本を抑える。
すなわち、相手の死角から攻撃を加え続けること。
しかし、ギルガメッシュは歴戦の猛者である。
その様な単純な攻撃は許さない。
何度攻撃しても、ギルガメッシュはただヒノカグツチの刃にて返す。
アルテマソードの威力ならば、ヒノカグツチの威力ならば、
相手に三寸切り込めば、勝てるだろう。
だが、その三寸が光年程に遠い。
互いに、有効打は無く。
ただ、剣を打ち鳴らす。
その様な事を、ギルガメッシュは許さない。
「いいだろう!」
──プロテス
「お前を!」
──シェル
「全力で!」
──ヘイスト
「殺してやろう!」
──ブレイブ
「斬ッ!!」
恐るべき程に強化されたギルガメッシュの斬撃は、最早打撃と言っても過言ではない。
だが、ギルガメッシュがアルテマソードごと、ジュペッタを地面に叩きつけた。
刀身が折れなかったのは、アルテマソードの奇跡と言っていいだろう。
地面に倒れ込んだジュペッタとヒノカグツチを構えたギルガメッシュ、その後の運命など誰が見てもわかるだろう。
ギルガメッシュは遺言など聞きはしない、全力を尽くすといった以上相手にそのような隙を与えない。
──ブレイブ
通常の攻撃力の三倍の斬撃、それを持ってして一度に勝負を決める。
「死ねッ!!!!」
ヒノカグツチを振り下ろしかけたその時、ギルガメッシュは己が死ぬ幻影を見た。
それはヘイストによって発揮された恐るべき程の危機察知能力。
もしもそれが無ければ、ギルガメッシュは死んでいただろう。
「きたれ勇気の雷……」
ギルガメッシュは天に向けて、剣を構えた。
先程の詠唱で、この呪文がどの位置から来るかを、
そして、今のプチヒーローならば、例え息の根を止めようが詠唱を止めないことを知っている!
「ギガディン!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
空から降り注ぐ雷撃に対し、ギルガメッシュはヒノカグツチで抵抗する。
ギルガメッシュ程の剣の使い手ならば雷をも剣で斬り裂くことは当然、
また、炎の剣であるヒノカグツチならば、同質エネルギーとしてギガディンに抵抗できることも当然といえるだろう。
「もっと!勇気を!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
雷は止まない。
プチヒーローは止ませない!
ギルガメッシュも止まらない!
ここで勝負の分かれ目となったのは、互いの意思ではなく……戦術だった!
ジュペッタならば、抜け目なくそうしていただろう!
そして、この時、プチヒーローもそうした!
「なっ!」
突如、威力が収まった雷……ギルガメッシュは完全に雷に勝利した。
だが、突然の勝利にギルガメッシュの意識は完全にそちらに向かわされた。
「サイコキネシス!!」
突如として念動力で飛来してきた水鏡の盾が、ギルガメッシュの首を強打する。
プロテスが掛かっているために強打ですんだが、もしもそれを生身で受け止めていれば切断されていただろう。
激しい衝撃と共に、ギルガメッシュの呼吸が乱れる。
酸素の強制的なシャットダウンは、すなわち意識の消失を意味する。
「がっ……」
意識が虚ろう。
ギルガメッシュの視界がぼやけた。
「きたれ、勇気の雷!ギガディン!!」
天より放たれた雷が、ギルガメッシュを直撃する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
痛みがギルガメッシュを叫びに向かわせる。
だが、それでも!
ギルガメッシュは敗北しない!
「よくぞ我をここまで追い詰めた!!」
瀕死のギルガメッシュがプチヒーローに送るのは称賛。
「褒美として、我が最強の技をくれてやる!!」
そして死だ。
この技を初めて使った時のことをギルガメッシュは今でも覚えている。
「この程度かよ!ギルガメッシュッ!!」
「冗談を抜かすな!」
宿敵と呼べる唯一の相手だった。
「輝きの世界を!」
「切り捨て御免!」
そして、二度と呼べなくなってしまった相手だった。
己が生み出した最終奥義の前に、宿敵は死んだ。
それ以来、ギルガメッシュは二度とその技を使ってはいない。
己が認めた敵以外の誰が、我に抗えようか。
だが、プチヒーローの雷にギルガメッシュはかつての宿敵の光を見た。
ならば、放とう。
最終奥義を。
「最終幻想」
その一太刀のもとに、全てが滅び去る。
全てを呑み込む崩壊の光の中、プチヒーローは立っていた。
「なぁ、プチヒーローは何になりたい?」
声を聞いた。それは絶対に聞こえるはずのない声だった。
不思議と恐怖はなかった、むしろその声に安らぎすら覚えた。
「ジュペッタみたいな……アイドルになりたいな」
「無理だろなぁ」
軽く笑って否定する声に嫌悪感は無かった、なんでさ?とプチヒーローも笑って返す。
「俺ほどのアイドルになると、そりゃあ天才すぎてなぁ」
「アハハッ」
「だから、プチヒーローはプチヒーローで頑張れよ、俺も応援してやるから」
「ジュペッタの応援なら、100人力だろうなぁ」
「あぁ、アイドルだからな」
「なにか、誰かに届けたい言葉はある?」
「んーー、ファンが多すぎるからな、マスターによろしく言っといてくれ」
「うん……」
「多分、この一撃放ったら俺消えるから、よろしく」
「…………」
「一人で戦えるか?」
「戦うよ」
「そうか、良かった」
プチヒーローがあれ程までに戦えたのは、
肉体の奥底に眠るジュペッタの意思が補佐してくれたからに過ぎない。
だが、ジュペッタの意思も所詮は残滓のようなもの、程なくして消える。
「…………」
「泣くなよ」
「泣いてないよ……」
「次は、僕が誰かを泣き止ませる番なんだ」
▽
もう、そこに未熟なヒーローはいなかった。
「「届け──」」
完全でも無敵でもないけど、そこには勇気を与える者がいた。
僕達の
「「 ──絆 の雷」」
俺達の
この場に味方は誰一人としていない。
でも、独りじゃない。
プチヒーローの手に、ぬいぐるみのような感触が重なった。
「「 ダブルディン 」」
「お前なのかバ……」
ジュペッタの意思も、
プチヒーローの涙も、
ギルガメッシュの言葉も、
何もかも、何もかも、光に包まれて、消えた。
「耐え残ってしまったか…………」
結んでいたきあいのハチマキが燃え尽きて、地面へと落ちた。
燃え尽きる前の最期の働きとして、ギルガメッシュを生かしたのだろう。
「名前を……聞いておけば良かったな」
全てが終わった後の風景で、ギルガメッシュは苦笑を浮かべて呟く。
敵を褒め称えようと思ったが、名前がわからないのではしょうがない。
「いい友だちをもったな」
もしも宿敵がまだ生きていたのならば、その時はギルガメッシュも目の前の敵と同じような関係になれただろうか。
「ついでに、いい物を見せてもらったよ。勇者の剣、コレクションに加えられないのが残念だ……」
だが、言うほどに無念ではない。
最高の使い手が振るう最高の剣を見ることが出来たのだ。
「…………じゃあな」
別れの言葉を何としたものかギルガメッシュは悩み、宿敵の言葉遣いを真似ることにした。
確かにギルガメッシュは生きている、回復を行えば再び戦うことも出来るだろう。
だが、敗けたのならば大人しく死んでおくべきであるとギルガメッシュは考える。
それが、目の前の全てを出し尽くして戦った者達への、
そして己の勝利ゆえに死んでいった者達への礼儀というものだろう。
「お前達強かったぜ!」
じばく
&color(red){【ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーシリーズ 死亡】}
【G-6/草原/一日目/夕方】
【プチヒーロー@ドラゴンクエスト】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)、気絶中
[装備]:水鏡の盾@ドラゴンクエスト
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:勇気を与える者になる
1:…………
【備考】
オス。泣き虫でこわがり。プチット族に期待されていたプチット族の勇者。一人称は「僕」
死後、心をジュペッタの死体に宿らせることで復活しました。
※
ヒノカグツチはギルガメッシュの死体の側に転がっています
|No.48:[[無色透明の]]|[[投下順]]|No.50:[[escape]]|
|No.36:[[可能性の魔物]]|プチヒーロー|No.61:[[ありがとう]]|
|No.36:[[可能性の魔物]]|ジュペッタ|&color(red){死亡}|
|No.38:[[キミが死んで、僕が生まれた]]|ギルガメッシュ|&color(red){死亡}|
▽
もう、そこにプチヒーローはいなかった。
「「届け──」」
でも、完全でも無敵でもないけど、そこには勇者がいた。
「「 ──絆 の雷」」
この場に味方は誰一人としていない。
でも、独りじゃない。
「「 ダブルディン 」」
▼
海に沈み込まんとする太陽を背に向けて、ギルガメッシュは立つ。
風に乗って流れてくる乾いた血の臭気が、戦いの予感を告げていた。
「ようやくだ」
ヒノカグツチを構えたギルガメッシュの頬が上がった。
笑うという行為が獣が牙を剥くことに由来するのであれば、ギルガメッシュの笑みも獲物を見つけた獣の歓喜なのだろう。
夕焼けを切り裂いて、こちらへと向かう二つの弾丸を見るその目のなんと爛々たることか。
空は赤々と燃えていた。それは世界が夜闇に沈むことに対する夕陽の最後の抵抗なのだろう。
けれど夜闇は、どこまでもどこまでも決して太陽を逃さない。
『逃がさない』
先程の戦いから離脱した二匹の視線がギルガメッシュと合ったその時、ギルガメッシュの視線が何よりも雄弁にそのメッセージを伝えてきた。
飛行が終わり、二匹が地面へと──ギルガメッシュの真正面へと降り立つ。
「ギルガメッシュ……お前達を殺す者の名前だ」
一方的な死刑宣告は強者の自負であり、圧倒的な真実であった。
「名前は要らん、愉しませてくれたのならばその姿だけは覚えておいてやる」
濁流のような殺気が、二匹を圧殺せんばかりに放たれた。
全身を氷で包まれたかのように、寒い。
二匹は震えていた。
逃げられない。
プチヒーローの手がジュペッタの手に触れた。
ジュペッタはその手をぎゅっと握り返す。
震えは収まらない。
「無駄なことはやめとけよ、降参するんなら心優しい俺は許してやらないこともないぜ?」
「…………そ、そうだよ」
けれど、二人で震えていれば、
どっちが震えているかなんてわからない。
アイドルはこんな時でも虚勢を演じられる。
アイドルはどんな時でも勇気を与えられる。
だから、勇者も奮い立てる。
「許しなど要るものか」
そして道化の滑稽な演技に、王も嗤う。
「だが、いい度胸だ」
戦いが始まる。
風を切って、鎖が大地を穿った。
ギルガメッシュの技術と力があるからこそ出来る、本来の使用方を逸脱したその攻撃はまさしく鋼鉄の鞭と呼ばれるに値するだろう。
鋼鉄の連打はまるで嵐のような暴風を伴って、二匹を襲う。
食らえば、死ぬ。
「だが、当たらなければどうということはない!」
ジュペッタの叫びと共に、何の脈絡もなく鎖が空中で静止した。
サイコキネシスの真価は、相手が武器を持った時に最大限に発揮される。
鎖が主たるギルガメッシュに反逆し、拘束具と化した。
鉄の冷えた感触が、ギチギチとギルガメッシュを縛り付け、食い込んでいく。
「だから言ったろ!降参すれば許してやるって」
呆気ない勝利、ジュペッタはそのことに逆に不安を覚える。
──いや、これまじで大丈夫だよな?とっとと降参してくれよ!頼むから!!
不安が拘束をより強固なものにする。
苦痛で音を上げてくれるように、より強く、より痛く。
縛られながらも不敵な笑みを崩さないギルガメッシュと懇願するかのようにより強く締め上げるジュペッタ。
奇妙な状況の終わりは、やはりギチという音を立てて始まった。
「それで終わりか」
腕ごと巻き込んで鎖に縛り付けられているギルガメッシュは、退屈気にそう言った。
「まだだ!ここから俺のスーパーデンジャラスハイセンスグロテスクモダンアタ……」
ジュペッタの言葉終わりを待つまでもなく、鎖が散弾のように弾け飛んだ。
ギルガメッシュの力ならば、サイコキネシスすら凌駕して無理やり壊せんこともない。
突然の奇襲をプチヒーローは水鏡の盾で防ぎ、
ジュペッタは向かい来る鎖を、逆にサイコキネシスで撃ち返した。
「見せてみるが良い、そのスーパー何とかとやらを」
撃ち返された鎖は音を立てて溶け落ちた。
ギルガメッシュの手に握られたヒノカグツチが、轟音と共に刀身に炎を纏う。
それは炎の剣であり剣の形をした炎だった。
「 冥 府 で な !!」
ヘイストを駆けたギルガメッシュの体が、一っ飛びにジュペッタとの距離を詰める。
「サイコキネ……」
発動前に止められてしまえば、どんな力も意味は無い。
本質を見破ったギルガメッシュの拳がジュペッタの体を紙のように宙に放る。
ギルガメッシュは跳んだ。
「……プチヒーロー」
吹き飛ばされたジュペッタの諦めと苦笑交じりの顔がプチヒーローを見た。
「ダメだ!そんなの!」
ギルガメッシュにトドメを刺されて、ジュペッタはこのままでは死ぬ。
──死なせない!死なせてたまるもんか!
空にいる相手だろうと、いや空にいる相手だからこそ勇者の呪文は当たる。
「きたれ!勇者の雷……ライディン!」
ジュペッタが、口元に微笑を浮かべて言った。
「まぁ、大丈夫……なんとかなるって、色々とさ」
この一瞬が永遠のものだったら、どれほど良かっただろうか。
ギルガメッシュの天からの一撃がジュペッタを貫いた。
雷はギルガメッシュを穿つことはなかった。
&color(red){【ジュペッタ@ポケットモンスター 死亡】}
「ベホマ……」
プチヒーローの必死の祈りも、抜け殻となったぬいぐるみには最早届かない。
「ベホマ……ッ」
命に手が届かない。
「…………うぅ」
何もかもが遅すぎた。
そこにあるのは、もはやジュペッタではなかった。
「当たらなかったんじゃない……当てなかったな」
無感動にジュペッタの死体を見下すと、ギルガメッシュは苛立ちを隠しもせずにプチヒーローに向き直った。
「僕は……僕は……」
──当てたかった。
何としてでも、プチヒーローはライディンをギルガメッシュに当ててジュペッタを救いたかった。
それでもプチヒーローに明確な意思を持って誰かを傷つけることは出来なかった。
だから、涙が溢れた目を閉じた。
何も見ぬままに、終わることを祈った。
そうして放った雷は、当然のように外れた。
「雑種以下の豚が」
泣き崩れるプチヒーローに、ギルガメッシュは侮蔑を隠そうともしない。
「鼠でも叶わぬと知りながらも懸命に足掻くものを」
「…………」
「貴様は豚だ。飼いならされ、抵抗を忘れ、何時か食われるその日まで下らん安寧を生きる豚だ」
「………………」
「豚の友人……ふん、奴も下らん輩だったな」
「取り消してよ……」
「豚と言われたことか?それともあんな死体など友人扱いするなということか?成程、豚は豚なりにプライドだけが肥え太ってしまったみたいだな」
「ジュペッタは下らない奴なんかじゃない……」
ジュペッタとプチヒーローが共に過ごした時間は少ない。
だが、時間の多少は問題ではない。
「ジュペッタは僕を……勇者になれない僕でも見てくれた!!」
孤独だったプチヒーローと共に過ごしてくれたことが、どれほど彼の救いとなったか。
「ジュペッタは僕の友達で…………」
体の震えは、初めての武者震いなのだろう。
きっと、そうに違いない。
プチヒーローは立ち向かおうとしていた。
見ろ、プチヒーローの側に横たわっているのは傷ひとつ無いぬいぐるみだ。
届きはしなかった、間に合いはしなかった、それでも、
プチヒーローはジュペッタにベホマを当てたのだ。
「アイドルなんだ!!」
アイドルが何なのかは、プチヒーローにはよくわからない。
それでも、プチヒーローはおぼろげながら理解していた。
アイドルとはきっと、勇気を与えてくれる者の事を云うのだ。
「怒るなら……」
プチヒーローの心臓を、ヒノカグツチが無慈悲に焼き貫いた。
「奴が死ぬ前にやれ」
&color(red){【プチヒーロー@ドラゴンクエストシリーズ 死亡】 }
「つまらん……」
誰も聞くことのない言葉を、ギルガメッシュは吐き捨てる。
結局、この戦いをギルガメッシュは楽しむことが出来なかった。
苛立たしさに死体を壊すことなどはしない、ギルガメッシュは新たな戦いを求めて再び歩き出す。
【ジュペッタ ぬいぐるみポケモン】
「…………ッハ!」
背後に再び気配を感じたギルガメッシュは足を止める。
まだ、戦いは終わっていない。
【たかさ 1.1m おもさ 12.5kg】
「僕は……勇気をもらったんだ…………」
ジュペッタは死に、そこに残されたのは傷一つ無いぬいぐるみだ。
【すてられた ぬいぐるみに】
「だから…………」
彼に立ち上がる意思があるのならば、
【おんねんが やどり】
「僕は戦うよ」
死んだプチヒーローが、その心を落としたのならば、
強い意志がぬいぐるみに宿ったのならば、
【ポケモンになった。 】
「答えろ、お前は何だ?」
「僕は…………」
「勇気を与える者だ!」
▽
「モンスターだって何にでもなれるさ」
「魔物にだって可能性はあるんだからさ」
「プチヒーローは何になりたい?」
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「きたれ、英雄の剣……アルテマソード!」
超然のエネルギー体である剣が、プチヒーローの手に握られた。
「我と剣で勝負するか、その心意気やよし!」
アルテマソードに応えるかのように、ヒノカグツチの紅蓮がより深く燃え上がる。
「…………」
「…………」
この日、プチヒーローは初めて己の意思で目の前の敵を傷つけようとしていた。
それが、どれ程の覚悟の上であるか、言い表せるものか。
恐怖が心中を埋め尽くした。
恐怖という闇の中、道を照らすのは勇気という灯火だ。
プチヒーローの唯一の友であるアイドルのくれた勇気だ。
息を深く吸い込み、吐いた。
プチヒーローはギルガメッシュを見た。
剣士が同時に剣を構えた場合、多くの場合沈黙の時が生じる。
剣士独特の呼吸が有り、死の間合いがある、
二つを測りそこねれば、多くの場合において死を意味する。
プチヒーローはギルガメッシュ比べて小さいが、今はジュペッタであるために、浮遊している。
浮遊しているということは、そのままの高さのギルガメッシュの振りでも突きでも仕留められるということである。
それはまた、プチヒーローにも言えたことである。
体躯の差は無いに等しい。
ギルガメッシュは、自らに浮かぶ死の幻影をはっきりと見ていた。
目の前の敵から発せられる圧力は、先程の豚からはとてもイメージ出来ない。
急激に強くなった理由、ギルガメッシュは測りかねていた。
もちろん、プチヒーローは急に強くなったわけではない。
元々、勇者としての教育を受けさせられていた彼は強かった。
しかし、実力を発揮させることが出来なかっただけなのだ。
それだけの理由と納得出来ないのならば、一つの理由を付け加えよう。
プチヒーローはジュペッタの体で、すなわち二人で戦っている。
二人ならば、弱いはずがない。
プチヒーローがアルテマソードを振るい、
それと同時に、ヒノカグツチも振り下ろされた。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
戦いが始まった。
ヒノカグツチとアルテマソードが激しく打ち鳴らされる、もちろんアルテマソードに通常の刀身は存在しない。
だが、神の剣であるヒノカグツチの炎ならば、アルテマソードに対して打ち消されない威力を発揮しているというだけだ。
鍔競り合いは行わない。
プチヒーローはアルテマソードと共に浮遊したその体で軽やかに後退し、ギルガメッシュは前進する。
浮遊しているという事は、三次元を自由に動き回れるということだ。
プチヒーローは、攻撃の基本を抑える。
すなわち、相手の死角から攻撃を加え続けること。
しかし、ギルガメッシュは歴戦の猛者である。
その様な単純な攻撃は許さない。
何度攻撃しても、ギルガメッシュはただヒノカグツチの刃にて返す。
アルテマソードの威力ならば、ヒノカグツチの威力ならば、
相手に三寸切り込めば、勝てるだろう。
だが、その三寸が光年程に遠い。
互いに、有効打は無く。
ただ、剣を打ち鳴らす。
その様な事を、ギルガメッシュは許さない。
「いいだろう!」
──プロテス
「お前を!」
──シェル
「全力で!」
──ヘイスト
「殺してやろう!」
──ブレイブ
「斬ッ!!」
恐るべき程に強化されたギルガメッシュの斬撃は、最早打撃と言っても過言ではない。
だが、ギルガメッシュがアルテマソードごと、ジュペッタを地面に叩きつけた。
刀身が折れなかったのは、アルテマソードの奇跡と言っていいだろう。
地面に倒れ込んだジュペッタとヒノカグツチを構えたギルガメッシュ、その後の運命など誰が見てもわかるだろう。
ギルガメッシュは遺言など聞きはしない、全力を尽くすといった以上相手にそのような隙を与えない。
──ブレイブ
通常の攻撃力の三倍の斬撃、それを持ってして一度に勝負を決める。
「死ねッ!!!!」
ヒノカグツチを振り下ろしかけたその時、ギルガメッシュは己が死ぬ幻影を見た。
それはヘイストによって発揮された恐るべき程の危機察知能力。
もしもそれが無ければ、ギルガメッシュは死んでいただろう。
「きたれ勇気の雷……」
ギルガメッシュは天に向けて、剣を構えた。
先程の詠唱で、この呪文がどの位置から来るかを、
そして、今のプチヒーローならば、例え息の根を止めようが詠唱を止めないことを知っている!
「ギガディン!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
空から降り注ぐ雷撃に対し、ギルガメッシュはヒノカグツチで抵抗する。
ギルガメッシュ程の剣の使い手ならば雷をも剣で斬り裂くことは当然、
また、炎の剣であるヒノカグツチならば、同質エネルギーとしてギガディンに抵抗できることも当然といえるだろう。
「もっと!勇気を!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
雷は止まない。
プチヒーローは止ませない!
ギルガメッシュも止まらない!
ここで勝負の分かれ目となったのは、互いの意思ではなく……戦術だった!
ジュペッタならば、抜け目なくそうしていただろう!
そして、この時、プチヒーローもそうした!
「なっ!」
突如、威力が収まった雷……ギルガメッシュは完全に雷に勝利した。
だが、突然の勝利にギルガメッシュの意識は完全にそちらに向かわされた。
「サイコキネシス!!」
突如として念動力で飛来してきた水鏡の盾が、ギルガメッシュの首を強打する。
プロテスが掛かっているために強打ですんだが、もしもそれを生身で受け止めていれば切断されていただろう。
激しい衝撃と共に、ギルガメッシュの呼吸が乱れる。
酸素の強制的なシャットダウンは、すなわち意識の消失を意味する。
「がっ……」
意識が虚ろう。
ギルガメッシュの視界がぼやけた。
「きたれ、勇気の雷!ギガディン!!」
天より放たれた雷が、ギルガメッシュを直撃する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
痛みがギルガメッシュを叫びに向かわせる。
だが、それでも!
ギルガメッシュは敗北しない!
「よくぞ我をここまで追い詰めた!!」
瀕死のギルガメッシュがプチヒーローに送るのは称賛。
「褒美として、我が最強の技をくれてやる!!」
そして死だ。
この技を初めて使った時のことをギルガメッシュは今でも覚えている。
「この程度かよ!ギルガメッシュッ!!」
「冗談を抜かすな!」
宿敵と呼べる唯一の相手だった。
「輝きの世界を!」
「切り捨て御免!」
そして、二度と呼べなくなってしまった相手だった。
己が生み出した最終奥義の前に、宿敵は死んだ。
それ以来、ギルガメッシュは二度とその技を使ってはいない。
己が認めた敵以外の誰が、我に抗えようか。
だが、プチヒーローの雷にギルガメッシュはかつての宿敵の光を見た。
ならば、放とう。
最終奥義を。
「最終幻想」
その一太刀のもとに、全てが滅び去る。
全てを呑み込む崩壊の光の中、プチヒーローは立っていた。
「なぁ、プチヒーローは何になりたい?」
声を聞いた。それは絶対に聞こえるはずのない声だった。
不思議と恐怖はなかった、むしろその声に安らぎすら覚えた。
「ジュペッタみたいな……アイドルになりたいな」
「無理だろなぁ」
軽く笑って否定する声に嫌悪感は無かった、なんでさ?とプチヒーローも笑って返す。
「俺ほどのアイドルになると、そりゃあ天才すぎてなぁ」
「アハハッ」
「だから、プチヒーローはプチヒーローで頑張れよ、俺も応援してやるから」
「ジュペッタの応援なら、100人力だろうなぁ」
「あぁ、アイドルだからな」
「なにか、誰かに届けたい言葉はある?」
「んーー、ファンが多すぎるからな、マスターによろしく言っといてくれ」
「うん……」
「多分、この一撃放ったら俺消えるから、よろしく」
「…………」
「一人で戦えるか?」
「戦うよ」
「そうか、良かった」
プチヒーローがあれ程までに戦えたのは、
肉体の奥底に眠るジュペッタの意思が補佐してくれたからに過ぎない。
だが、ジュペッタの意思も所詮は残滓のようなもの、程なくして消える。
「…………」
「泣くなよ」
「泣いてないよ……」
「次は、僕が誰かを泣き止ませる番なんだ」
▽
もう、そこに未熟なヒーローはいなかった。
「「届け──」」
完全でも無敵でもないけど、そこには勇気を与える者がいた。
僕達の
「「 ──絆 の雷」」
俺達の
この場に味方は誰一人としていない。
でも、独りじゃない。
プチヒーローの手に、ぬいぐるみのような感触が重なった。
「「 ダブルディン 」」
「お前なのかバ……」
ジュペッタの意思も、
プチヒーローの涙も、
ギルガメッシュの言葉も、
何もかも、何もかも、光に包まれて、消えた。
「耐え残ってしまったか…………」
結んでいたきあいのハチマキが燃え尽きて、地面へと落ちた。
燃え尽きる前の最期の働きとして、ギルガメッシュを生かしたのだろう。
「名前を……聞いておけば良かったな」
全てが終わった後の風景で、ギルガメッシュは苦笑を浮かべて呟く。
敵を褒め称えようと思ったが、名前がわからないのではしょうがない。
「いい友だちをもったな」
もしも宿敵がまだ生きていたのならば、その時はギルガメッシュも目の前の敵と同じような関係になれただろうか。
「ついでに、いい物を見せてもらったよ。勇者の剣、コレクションに加えられないのが残念だ……」
だが、言うほどに無念ではない。
最高の使い手が振るう最高の剣を見ることが出来たのだ。
「…………じゃあな」
別れの言葉を何としたものかギルガメッシュは悩み、宿敵の言葉遣いを真似ることにした。
確かにギルガメッシュは生きている、回復を行えば再び戦うことも出来るだろう。
だが、敗けたのならば大人しく死んでおくべきであるとギルガメッシュは考える。
それが、目の前の全てを出し尽くして戦った者達への、
そして己の勝利ゆえに死んでいった者達への礼儀というものだろう。
「お前達強かったぜ!」
じばく
&color(red){【ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーシリーズ 死亡】}
【G-6/草原/一日目/夕方】
【プチヒーロー@ドラゴンクエスト】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)、気絶中
[装備]:水鏡の盾@ドラゴンクエスト
[所持]:ふくろ(中身無し)
[思考・状況]
基本:勇気を与える者になる
1:…………
【備考】
オス。泣き虫でこわがり。プチット族に期待されていたプチット族の勇者。一人称は「僕」
死後、心をジュペッタの死体に宿らせることで復活しました。
※
ヒノカグツチはギルガメッシュの死体の側に転がっています
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|No.36:[[可能性の魔物]]|ジュペッタ|&color(red){死亡}|
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