1スレ目>>983~>>993


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とある平行世界。妖怪が人類の天敵となっていた世界。
 
妖怪たちの長は、人類の精鋭部隊に敗れ去ろうとしていた。
 
『我、死ストモ…我ガ執念ハ消エズ…!』
 
「ま、まだ生きてるの!?」
 
「もう一回ぶち込め!早く!」
 
人間たちが呪文を唱えると、聖なる力が集まってゆく。
 
『我ガ妖力、失ワレル事無シ…!』
 
妖怪の長が妖力を放出しようとするものの、完全に人間の攻撃に間に合わない。
 
最後の足掻きのように出した攻撃と聖なる力がぶつかり合い、衝撃が完全に消えた時、妖怪の長は消滅していた。
 
 
ごみ捨て場。そこには捨てられた着物があった。
 
ある呉服店で遥か昔から受け継がれ続けてきた伝統の着物…だった着物。
 
不幸にも一番若い娘に捨てられてしまった、持ち主を失った着物。
 
そこに空からまるで流れ星のような何かが降り、強い光を放った。
 
 
とある休日。とあるライブハウスでライブを終えたバンドグループが休憩中。
 
「ねぇねぇ、アンタこういう話題好きでしょ?」
 
突然、バンドグループのドラマーが、ボーカルの少女に笑って言った。
 
「何の話?」
 
「都市伝説だよ!正体不明の着物女!街に神出鬼没に現れ、出会ってしまえば呪われるって噂よ!」
 
「えー?どうせ正体は宇宙人とか能力者とかそんなところでしょー?」
 
ベースの少女が茶化す。そんなものだ。最近は都市伝説等はそういう輩の仕業と決めつけられてしまう物だった。
 
「まぁ、そんなもんだろ…あ、アタシそろそろバイトいかねーと。急にシフト入れられたんだった…。」
 
「えーもうそんな時間!?って私もバイトじゃん!今日もお疲れー!」
 
「お疲れ!」
 
 
松永涼。彼女はとあるバンドのボーカルだ。
 
普段は学生生活や、アルバイトをすることもあるが、彼女が最も楽しんで生きている時間は歌っている時なのである。
 
バイトを終わらせ、独り暮らしをしているアパートに歩いてゆく。
 
「急に一人シフトから外れたってどういうことだよ…休みたかったってのに…。」
 
真夜中の人通りの少ない道を、たった一人で歩いている。不審者なんて能力者の悪人が現れてからはめったにいない。
 
しかし、不幸にも少女を襲ったのは、超常現象の類、カースだった。
 
街灯に照らされた黒い泥のようなそれは、どんどん膨れ上がる。こんな時、彼女のような人間に用意された選択肢は二つ。
 
全速力で逆方向へ逃げるか…
 
「…こ、これが…カース…?」
 
『能力』で抵抗しつつ逃げるかである。
 
 
涼は近くに粗大ごみが捨てられているのを見てすぐさま能力を使う。
 
『アイツが来た瞬間にバリケードになれ!』
 
一瞬声を張り上げるだけ。しかし答えるようにごみが一瞬光る。
 
彼女の能力…それは『声を操作し、その声で物体を操作する能力』。
 
張り上げた声はカースにも、付近で眠る住民の耳にも届いていない。彼女が声を操作してごみだけに聞こえるようにしたのだから。
 
そして、全速力でカースと逆方向へ走る。カースの出現を感知したヒーローが登場するまで逃げなくてはならない。
 
しかし真夜中、道には彼女しかいないわけで、カースが狙うのは彼女しかいない。
 
『グオオオオオオオ!』
 
咆哮しながら接近してくる。しかし、ある地点に到達した瞬間、粗大ごみ達が大きなバリケードとなり、カースを妨害する。
 
その隙に急いで裏路地へと駆け込む。しかし、それと同時にバリケードが派手な音を立てて崩壊した。
 
『ギャオオオオオオオオオオオオオ!!』
 
「は!?」
 
彼女がカースと遭遇するのは初めてだ。当然、テレビのアイドルヒーローたちが闘っている姿は何度かチラリと見たことはあるものの、その脅威が自分に襲い掛かるとは夢にも思っていなかったのである。
 
「早すぎるだろ…!」
 
かなり大きな物や、頑丈そうな物まであったのにすぐに破壊された。その力自分に襲い掛かったら…。
 
(これじゃまるでホラー映画の初期の犠牲者じゃねーか!)
 
そんな考えを捨てて、全力で走るしかなかった。
 
 
走って走って時折振り返る。完全に振り切れているわけではないようで、道に捨てられていた物がカースに破壊されていく音が恐怖を煽る。
 
どのくらい走っただろうか、ライブで何時間も歌ったほどで、決して少なくないと自負していたはずの体力も限界が近いようだ。
 
あと何回角を曲がればいい?あとどれぐらい走ればいい?
 
近づいてくる破壊音から少しでも遠ざかろうとはするものの、足はさっきのようにはもう動かなくなっていた。
 
なんとか角を右に曲がり、少し先に少女がいることに気付く。
 
着物姿の少女だ。しかし、涼の頭に友人の都市伝説の話はもうすでに頭になく、ただひたすらに叫んでいた。
 
「カースが来る!早く逃げな!」
 
しかし、少女は首をかしげるばかり。
 
そして少女の背後の道からカースが現れた。
 
「な!?」
 
涼は思わず少女の手を引くが、涼に追いついたカースが道を塞いだ。
 
「挟み撃ちかよ…」
 
絶体絶命だ。自分の能力ではこの状況を切り抜けることは不可能だ。
 
 
…自分はここで死ぬのか?涼はもはや腰が抜けていた。
 
「…これは何?」
 
着物の少女が問いかけた。
 
「…カースはカースだろ?…知らないのか?」
 
「うん、よくしらないんだ。あずきのお仲間じゃないのは確かみたいなんだけど…危険なの…?」
 
そう彼女が聞いた瞬間、一体のカースの腕がその少女を腕のような部分で掴んだ。
 
思い切り力を入れているのがよく分かる。
 
涼は思わず声にならない悲鳴を上げた。あんな大きな腕に掴まれて無事でいるはずがない!
 
しかし、それに続くかのようにもう片方のカースも彼女を掴みにかかった。
 
 
「や、やめろおおおおおおおお!」
 
思わず叫んだ瞬間だった。カースの腕が少女から引きはがされたのだ。
 
しかし少女は空中に浮かびつつ顔はうなだれたように下を向いている。
 
そして…
 
「でろでろでろでろ、ばぁ~!!!」
 
顔を上げた少女の顔を見て、涼は先ほどとは別の声にならない悲鳴を上げた。
 
先程までの普通の少女ではなく、大きな一つ目に、長い舌を出した妖怪そのものだったからだ。
 
「ただで済むと思わないでよ!」
 
そう叫ぶと彼女は両手を万歳するかのように振り上げた。
 
すると、巨大な半透明の手が現れ、カースたちを思い切り掴んだ。
 
「潰し返してあげる!!」
 
思い切り泥上のカースを掴む。そして掴んで動かなくなったカースを地面に叩き付けると、その手を握り、カースに叩き付ける。
 
ドォォォォン と地響きのような音が響いた。
 
地面と泥ごと核が砕け、カースが消滅する。それと彼女が空中から落ちるのはほぼ同時だった。
 
 
駆け寄り、無事を確認する。
 
「おい…おい…!」
 
少女の顔は先ほどの普通の顔に戻っており、気を失っているようだった。
 
「どうしようか…」
 
涼は何度も思案したが、結局、完全に疲労した自分の体にムチうち、自分の家に連れて帰ることにした。
 
「…一応、命の恩人だしな…」
 
 
翌日。
 
「涼さん!涼さん!」
 
涼は誰かの呼び声で目が覚めた。…あの少女だ。
 
「おはよう!取りあえず朝ごはん作っておいたからねっ!」
 
「…元気だな…。」
 
テーブルに朝ごはんが用意されているのをボーっと見て、ハッとした。
 
「っていうかなんで人の家の台所勝手につかってるんだ!?」
 
「え?だってあずき、拾われたからここの家の物になったのかなーって。」
 
「…」
 
 
涼は着替えて朝食をとるとすぐに問答を始めた。まとめると、こうだ。
 
・あずきは付喪神で、捨てられて妖怪になった着物。
 
・捨てた人は恨んではいないが、目標は世界で和服を制服にすること!(世界和服制服大作戦!)
 
・最近妖怪になったらしく、世間知らずなのもそのせい。
 
・気を失ったのはまだ力を完全に制御できていないから。飛ぶのはやりすぎた。反省している。
 
・もともとは物だったから拾われた家に尽くすのは当たり前!
 
そこまで聞いて涼は頭を抱えた。拾ったつもりはない。かといってまた捨てるのも罪悪感がある。
 
「…名前はどこで?」
 
「ここの涼さんの所有物さんたちが教えてくれたの!」
 
「…よし、最後の質問だ。あの壁の切断された跡はなんだ?」
 
「…ちょっと包丁を使ったときに力を抑えきれずに…壁ごと切れちゃって…ごめんなさい」
 
…涼は再び頭を抱えた。これからどうしようか。
 
とりあえず解決策が見つかるまで、奇妙な同居人に悩まされることになりそうだ。