1スレ目>>815~>>821


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バスが田舎道のバス停に停車する。
 
もはや乗客は一人だけで、その一人が大きな荷物を持ってバスを降りた。
 
「鈴帆おねーさん!ひさびさでごぜーますね!寂しかったですよ!」
 
バス停から降りた少女に、ウサギのようなキグルミを着た子供が駆け寄る。
 
「仁奈ちゃん、スマンばいね…期末テストがあってなぁ…。だけん、今日は午後から一緒に街に買い物いっちゃるけん、機嫌ば治してくれん?」
 
「本当ですか!お買い物!仁奈、お買い物楽しみです!」
 
ぴょこぴょこ跳ねるのと一緒に着ぐるみの耳も揺れる。そして、仁奈の後ろから、老婆が歩いてくる。
 
「鈴帆、仁奈ちゃんにすっかり懐かれとるばい。」
 
「ばっちゃん!」
 
「おばーちゃんも一緒にお迎えに来やがったでごぜーますよ!」
 
「期末テストはどげんやったか?」
 
「ちゃんと勉強しとーばい。平均以上は余裕ばい!」
 
「よかよか。赤点なぞ、とらんほうがよかね。」
 
 
そのまま少し歩いて、祖母の自宅へと着く。
 
「おばーちゃん!仁奈のおサイフ、どこでごぜーますか?」
 
「ああ、それならそこの棚のいっちゃん下よ。」
 
「…あった!鈴帆おねーさん!肩たたきとか、お皿洗ったりとか、畑のお手伝いとか…その仁奈のおこづかい全部ここにあるですよ!これだけあればパフェ食べれますか!?」
 
仁奈がウサギのようながま口サイフをもってくる。
 
「んー…っと810円!十分あるばいね!」
 
「わーいパフェ!おねーさんにもちゃんと一口あげてやります!」
 
鈴帆と仁奈が仲良く準備をしているのを祖母はニコニコと眺めていた。
 
 
ここは、都市の郊外にある、田舎の里である。
 
本来ならば、都市に近いここも、開発が進み、ビルが建ち、交通が発達しているのが普通なのだろうが、ここは普通ではなかったのだ。
 
ここの里の住人は、はるか昔から妖怪と共存している。
 
里には大きな山があり、そこには妖怪が住んでいるのだ。
 
里の者は、山のふもとの小さな祠に収穫を捧げ、妖怪はその見返りに、外敵から里を自らの山を守るついでに守ってくれているのだ。
 
そしてその妖怪たちは、この里が人間に開発されることを拒否したのだ。
 
その為、ここは都市からバスで一時間という距離にもかかわらず、本当に山奥の田舎のような姿を保っているのだ。
 
そして、ここにいる仁奈という少女も、妖怪の類である。
 
しかし、山に昔から住み着いていた妖怪ではなく、鈴帆が祖母に会いに行く途中の道で行き倒れのように倒れていたのだ。
 
山の妖怪たちにはもうすでに決まった縄張りがあるため、鈴帆の祖母がとりあえず引き取ることにしたのだ。
 
それからというものの、祖母の足腰の調子がよくなり、お隣の爺さんの病気が治り、お向かいの婆さんはかなりの高齢だというのに元気だ。
 
里の者たちは皆、仁奈の事を受け入れている。そして仁奈はそれが嬉しいのだ。
 
遠いところから数年前に越してきた鈴帆の祖母も受け入られているほどに、この里は寛容なのだ。
 
そして里に頻繁に遊びに来る鈴帆が、仁奈サイズのキグルミを作って着せたところ、仁奈は大喜びして、それ以来キグルミばかり着ているのだ。
 
 
「仁奈ちゃんはきっと座敷童たいね。」
 
「皆を笑顔にするけんね。」
 
「そーでごぜーますか!仁奈はみんなを笑顔にできてるですか!」
 
ぴょこぴょこと仁奈が嬉しそうに跳ねる。
 
二人でそんな仁奈を眺めつつ笑いあった。
 
 
午後、バスに揺られ、二人は都市についた。
 
「…そんで、今度の文化祭、光っちとヒーローショーするばい。仁奈ちゃんとばっちゃんも見に来るとよか。」
 
「おお!絶対行くですよ!」
 
二人で手を繋いで手芸店へ向かう。まずはキグルミの材料を買うのだ。
 
「カンガルーがいいです!絶対つえーでごぜーます!」
 
「なら、ウチが母さんカンガルーで、仁奈ちゃんが子供カンガルー…腹のポケットに入れれば大爆笑間違いなしたい!」
 
「ふぉおおお!それ、すっごくいいですよ!仁奈、子供カンガルーの気持ちになりたいですよ!」
 
「んじゃ、頑丈につくらんとな!」
 
 
手芸店で布を購入した後、仁奈の希望でパフェを食べにファミレスへ。
 
「びっぐチョコレートパフェです!仁奈はこれを頼むですよ!」
 
「ならウチは…この抹茶ケーキにするけん、仁奈ちゃん注文しちゃってん。ウチ、ちょっとトイレ…」
 
「はい!」ピンポーン
 
仁奈は問題なく注文を済ませ、席で鈴帆を待った。
 
窓際の席なんだからと、外の様子を見つめる。平日だからか、人は少なく、道路をまばらに車が走っている。
 
ふと、反対側の歩道に、黒い泥が少しづつではあるものの、大きくなっているのが見えた。
 
(…?なんでごぜーましょう。なんだかいやーなカンジです…。)
 
反対側の歩道には人が全くおらず、誰も泥に気付いていない。
 
「…えいっ!」
 
仁奈は半分無意識に指をその黒い泥に向けていた。
 
 
その次の瞬間だった。
 
『不幸にも』通っていた車の目の前に猫が通り、車が大きく曲がってしまう。
 
『不幸にも』その車は大きな水たまり程度の大きさのカースの方向へと向かう。
 
『不幸にも』カースの核は、車に轢かれて粉々に砕けてしまった。
 
そして『幸いにも』猫を含み、死者は一人もいなかった。車にも傷一つ無い。
 
「仁奈ちゃーん!すまんたいね、トイレ混んでたけん…って事故!?」
 
「だいじょーぶでごぜーますよ?みんな無事でやがりますから!」
 
仁奈はただ純粋にニコニコ笑っていた。