1スレ目>>801~>>808


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『異変』の日以来、良くも悪くも、地球は非常に賑やかになった。
 
闇の力をその身に宿した者、人ならざる者達と契約を交わした者、宇宙からの侵略者。
西に異世界からの来訪者がいれば、東に遠い未来から時を超えてやってきた者達がいる。
北に人の負の感情から生まれた者がいれば、南に突然変異のミュータントがいる。
そして、それらの悪に敢然と立ち向かう正義のヒーロー達がいる。
 
数え切れないほどの異形と、異能。
相容れぬ正義と悪の死闘。あるいは、正義と正義の摩擦。悪と悪のぶつかり合い。
それまでの常識は消し飛び、秩序が崩壊しかけてもなお、人は変わりつつある世界に順応し、
それぞれの生活を送っている。
 
そんな終わることのない混乱の只中で、逞しく生きている者もいた。
 
 
アスファルトの大地が大きな亀裂を走らせ、高層ビルをツタとコケが覆っている。
 
廃墟さながらの様相を呈する街に住み着いた虫や獣達が、自らの縄張りを主張しながら
気ままに、そして必死に日々を生きている。
 
やがてこの街にも復興のための作業員と救援物資が投下され、彼らは新たな棲み処を
追われることになるだろうが、そんな未来予想図は彼らの頭の中にはない。
ここを棲み処と定めたのも、今日一日を生存するための最適行動を選択しているにすぎないのだから。
 
自然界の使徒『ナチュルスター』が力を振るった後は、決まってこのような光景が広がることになる。
 
侵略者の猛威を食いとめるために自然の精霊が与えた力は、必ずしも人間に都合のいいものではない。
生息圏の拡大と生活環境の整備は人間側の理屈であって、それが精霊達を納得させうるものかどうかは
また別問題なのだ。
 
同様に、精霊の代弁者であるナチュルスターの行いに人々が必ずしも賛同するかといえば、
それも否であった。
ハッキリと言ってしまえば、いくら侵略者を退治してくれるとはいえ、一般人からすれば
迷惑この上ない話だったのだが……一部にはこの状況に利する者もいた。
 
例えば、今しがた背の高い草に埋もれた自動車のボンネットをこじ開けている少女がそうである。
 
 
少女は露出したエンジンを一瞥すると、いかにも期待外れだと言いたげな表情を作ってみせた。
特殊偏光グラスの眼鏡越しに見ても、彼女の期待する技術水準には達していなかったからだ。
 
「う~ん……やっぱり地上人の技術はなー。どうもイマイチ時代遅れ感があるんよね」
 
口ではそうぼやきつつも、手際良く使えそうな部品は取り外している辺りはちゃっかりしている。
 
「でもこの部品全部売れたら、とりあえず活動資金には……ふひひ……」
 
丈夫な麻袋に解体した部品を放り込みながら、少女は取らぬ狸の皮算用に耽る。
地上人に売っても大した金額にはならないかもしれないが、彼女の故郷では別だ。
異邦人の技術を欲しがる好事家などいくらでもいる。
 
特に軍関係の人間や、暇と金を持て余した貴族連中は上客になりうる。
近頃は地上侵略に乗りだそうなんて話も耳にするし、ひょっとしたら戦争が近いかもしれない。
だとすれば、彼女のビジネスチャンスもグッと拡大する。
危険と収入が正比例する、まさに理想的な状況だと言える。
 
彼女の名前はアコ。地上では土屋亜子と名乗っている。
地底世界『アンダーワールド』の、スカベンジャー兼行商人。それが彼女の肩書きのすべてであった。
 
 
かつて地上人との戦争に敗れて地底へ逃れた者達の末裔が住まう場所。
それがアンダーワールドである。
 
アンダーワールドでは地上人の忘れ去った高度なテクノロジーを保全し、来るべき逆襲の日に備えてきた。
いずれは地上に攻め入り、光溢れる地上を取り戻すために。
そうした数千年に渡る技術の蓄積は、アンダーワールドに高度な文明を発達させた。
 
新技術の開発に余念がない技術者階級の者達は、大量の生産と消費、そして再利用を繰り返した。
そして、そのおこぼれを貰う形で生計を立てているのがスカベンジャーであった。
 
ジャンクヤードに廃棄された大量のゴミやガラクタを拾い、修理し、彼らに売りつけて金銭を得る。
そうした生活から自然と高い技術力を身に着けるに至っているものの、尊敬される職業ではない。
多くは下層階級出身の者がやる仕事であったし、その例に漏れず、亜子も下層民の出だった。
 
下層民に特有の気質として、金銭にがめつく上昇志向が強いことが挙げられる。
亜子もいっぱしのスカベンジャーとしてそうしたハングリー精神を忘れたことはなかったし、
ガラクタを安く仕入れて高く売るという商売を天職だと考えていた。
いずれは稼ぎに稼いで貴族の地位を買い、自治領主くらいには出世したいという夢もあった。
 
その矢先、地上にて『異変』が起きていることを知った。
 
宇宙人、未来人、異世界人といった異邦人が地球を――より正確に言えば地上を――攻撃している。
それに立ち向かって戦う地上人がいる。
 
この話を聞いたとき、亜子は飛び上がって喜んだものだった。
 
 
地上で戦いが起きている。
つまり、この混乱に乗じて異邦人のテクノロジーを手に入れることができる!
 
地上に送り込まれているスパイの暗躍によって、地上のテクノロジーはアンダーワールドのそれから
500年は遅れていることが既にわかっている。
無論、それでも地上人の機械を欲しがる好事家は多かったのだが、いわんや地球外の技術である。
金に糸目はつけないという顧客がどれだけいることだろう。
聞くところによれば、魔法を使う者達さえいるという。メルヘンやファンタジーじゃあるまいし!
 
いてもたってもいられなくなった亜子はすぐさま旅支度を整えると、自分の伝手を惜しみなく使って
役人に多額の賄賂を贈り、地上行きの権利を買ったのであった。
 
がめつい小役人にずいぶんとふっかけられたが、それを補って余りあるほどのお宝が
この地上世界には溢れていた。
危険ではあったが、それに見合うだけの見返りは確かにあったのだ。
 
「それに、あの情報にあったお宝を手に入れれば……フヒヒ、一攫千金大逆転やー♪」
 
そして現在。
亜子はこの緑に覆われた街の捨てられた建物を拠点にしながら、あるものを探している。
 
それは……
 
 
「亜子ちゃーん!! 言われたのを拾ってきたよーっ!!」
 
出し抜けに轟いた大音声に、電線にとまっていた鳥達が驚いて一斉に飛び立った。
音源は十数メートル離れた先だが、こんなバカみたいな大声を張り上げる地上人を亜子は他に知らない。
 
ガラクタの満載された段ボール箱を抱えながら駆け寄ってきた協力者に、亜子は白々しい
作り笑いを向けた。
 
「お疲れさん、茜。いつもいつもすまんなぁ」
 
「ううん、大丈夫っ!! これくらいの荷物、いつも部活で運んだりしてるし!」
 
「いやいや、アタシがこうしてやってけるのは茜のおかげだし。感謝しとるよ」
 
「えへへ……私も役に立てて嬉しいよ!! なんたって世界平和のためだもんね!!」
 
そう言って、協力者――日野茜は、真夏の太陽のような笑顔を見せた。
亜子の冬の木枯らしのような空々しい笑みとはまったく対照的なのは、言うまでもなかった。
 
地上に出てガラクタ拾いをしていた亜子は、この広大な地上でより効率的に活動していくためには
協力者が不可欠であることを知っていた。
 
しかし、同じアンダーワールド出身者に頼むわけにはいかない。
同業者と手を組んだところで背中から撃たれるかもしれないし、警察や役人に見つかっても面倒な
ことになる。自分はあくまでも非合法な手順と手段でもって地上に来たのだから。
 
となれば、亜子が「バカそうな現地民を騙して利用しよう」という結論に至るのも無理からぬことだった。
 
 
この街で茜と偶然出会った亜子は、口から出まかせを駆使して茜に手伝いをさせていた。
 
自分は異世界人で、地上世界に持ちこまれた妖精の秘宝を探している。
その秘宝があれば、地上を脅かす侵略者を撃退して平和を守ることができる。
秘宝はヒーローや侵略者の誰かが持っているかもしれないので、秘宝を探し出すために
戦闘のあった場所でガラクタ拾い――もとい実地検分をしなければならない。
ただし、このことは誰にも話してはいけない。ひょっとしたら、秘宝のことを耳聡く聞きつけた
侵略者が、私を狙うかもしれないから……。
 
……とまあ、概ねこのような趣旨の話をじっくりと話して聞かせ、茜の協力を取り付けたのである。
 
無論、妖精界の秘宝を探しているのは確かだったし、可能なら見つけ出して確保したかったが、
平和利用などする気は毛ほどもないのもまた事実である。
どこぞの好事家にせいぜい高値で売りつけることしか考えてはいない。
 
何も知らない現地民を騙して働かせることは、スカベンジャーの道徳則に何ら反しないのだ。
 
「向こうの広場でなんかピカピカしてるのを見つけたんだけど、これって何かな!?」
 
「これは……プラズマブラスターやん! エイリアンの武器かな……これはすごいで!」
 
「じゃあこれは!? iPodか何かかな?」
 
「ありゃー! これってマイクロフュージョンバッテリーやんか! 超小型核融合電池!
 なるほど、これでブラスターに電力を供給するんか」
 
「おおっ! なんだかよくわからないけど、とにかくすごいんだね!!」
 
「当たり前やん! 携行できるプラズマ兵器なんてアンダーワールドにもなかったよ!」
 
茜は専門的なことはさっぱりわからないが、その方が亜子にとっては都合がいい。
拾ったものをとにかく亜子のところに持ってきてくれるし、下手に勘ぐられるよりはマシだ。
 
 
特に今回はいいものを拾って来てくれた。
このプラズマブラスター一式をどこかの軍隊や研究所に売れば、安く見積もっても
屋敷が買えるくらいの金にはなるに違いない。
 
(その上、これまでに集めたガラクタを修理して、キチンとした売り物にできれば……
 フヒャヒャヒャ、もう笑いが止まらんわ!)
 
しかし、まだまだ課題は多い。
まずは拠点に集めたガラクタを運ぶための足が必要だし、商路の確保も急務と言える。
ガラクタのキャラバンとして本格始動するためにはボディガードも雇っておきたいところだ。
 
とはいえ、今しばらくはガラクタ拾いと修理に精励することになるだろう。
いずれ得られるであろう巨万の富も、今はまだ絵に描いた餅というわけである。
 
「それからね、亜子ちゃん!! あっちに墜落したUFOがあったんだよ!!」
 
「ホンマに!? もう茜ったら、それを先に言わんかい!」
 
「もしかしたら、UFOの中に妖精の宝物があるかも!! 早く行って見てみよう!!」
 
「せやな、世界平和のためやもんな! ……ホントはアタシのためやけど」
 
「うぅ~っ、燃えてきたーっ!! 亜子ちゃん、一緒に走ろうっ!!」
 
「え? いや、そんなに急がんでもええやんか」
 
「さあさあ遠慮せずにっ!! UFOのところまでダッシュだよっ!!」
 
弾丸のような勢いで駆けだした茜にうんざりする内心をおくびにも出さないまま、
亜子も麻袋を担いで走り出した。
 
生き馬の目を抜く地上世界で生き延びるために、今日もスカベンジャーは忙しなく働いている。