1スレ目>>641~>>646


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「・・・・・・はぁ」
 
夕暮れ時、とある雑居ビルのテナントに居を構える『安斎探偵事務所』にて。
 
若干16歳にしてたった一人でこの事務所を切り盛りする少女、安斎都はため息をついていた。
 
「・・・依頼である以上文句を言うつもりは無いんですけど。このところ犬猫探ししかやってない気がします・・・はぁ」
 
祖父が急逝し、事務所を継いでから一年。数十年この道のプロとして活躍してきた祖父と比べれば、自分などまだまだぺーぺーなのは彼女自身百も承知のつもりだった。
 
だがしかし、こうして目に見えて持ち込まれる依頼が減ってしまうと、どうしても気分が沈んでしまう。
 
「くよくよ悩んでるヒマがあったら行動で実力を示してみろ、っておじいちゃんなら言うんでしょうけど。そもそも実力を見せられる依頼が来ないんじゃお手上げですよ・・・はぁ」
 
ぐでーっ、と机に突っ伏して呻いていると、壁に掛けられた時計が終業時間を知らせるメロディを奏でだす。
 
「・・・っと、もうそんな時間ですか。戸締り戸締り、っと」
 
窓を施錠しようと立ち上がった、その時だった。
 
 
ぴんぽーん、と、エレベーターが停止する音が、彼女の耳に届いた。そして、かつん、かつん、と、こちらへ向かって歩いてくる足音も。
 
(ふむ、二人・・・片方はまだ小さな子供ですね。もう一人も、成人しているかどうか位の女性でしょう)
 
足音だけでそれだけの事を割り出す。探偵としての彼女の資質は、決して祖父に劣るものではない。むしろ、『ある一点』においては、彼以上の可能性を秘めているのだ。
 
この階には、この事務所以外に何もない。依頼者以外の選択肢はそもそも存在しないと考えて良い。
 
(たとえ犬猫探しでも、依頼は依頼。終業時間だからといって、無碍につき返すわけにはいかないですね)
 
そう考えて、無意識に犬猫探し以外の依頼である可能性を排除していることに気がついて少々げんなりする。
 
それでも、こんこん、と遠慮がちなノックの音を聞いた瞬間に表情が引き締まるのは、彼女がプロであることの証明であると言えるだろう。
 
「どうぞ、お入り下さい。本日はどのようなご用件で・・・・・・」
 
いざ客人を迎え入れようとドアを開けた瞬間、目に映ったものを見て都は固まった。
 
「突然の訪問、失礼します。失せ物探しを代行して頂けると伺ったのですが・・・」
 
片や、背中に羽をあしらった水色のワンピースに、白いマフラーを付け、片手に弓を携えた少女。
 
片や、神々しさすら感じる神官のような出立ちに、身の丈以上の大きな杖を抱えた少女。
 
「・・・あ、あの、どうかなさいましたか?」
 
まるで漫画かゲームからそのまま飛び出してきたような二人の少女というあまりに予想外な出来事を前に、都の頭は考えることを放棄してしまっていた。
 
 
「・・・あー、つまり、その持ち去られた『秘宝』を探して欲しい、と」
 
「えぇ、そうです。この世界に運ばれたことだけは確かなのですが、それ以上のことは何もつかめなかったもので。是非、ご協力いただければと」
 
いきなりの事に少々脳がオーバーフローを起こしたが、今のご時世、少々変わった服装の人など殊更珍しいものでもない。
 
すぐに気を取り直して彼女らを招きいれ、話を聞いてみれば、なんと彼女らはこの世界の人間ではないという。
 
法衣のような物々しい服装の少女は、異世界の妖精の国のお姫様。
 
もう一人、弓を持っていた少女は、お姫様の小さい頃からの世話役兼護衛の近衛兵。
 
二人は、妖精の国から何者かによって持ち出された『妖精の秘宝』なるものを探して、この人間の世界へやってきたのだとか。
 
そして、どこからかこの探偵事務所の噂を聞き、助けを求めてやってきたということらしい。
 
「ふむ・・・それで、その『秘宝』というのは、一体どのようなものなのですか?」
 
久々の犬猫探し以外の依頼、それも異世界のお宝を探す。退屈を募らせていた都にとって、この依頼を断るという選択肢は、話を聞いた時点で頭から抜け落ちていた。
 
それに、彼女には『とっておきの切り札』がある。『それ』があれば、もしかしたら一瞬で秘宝の在り処がわかるかもしれない。
 
わくわくする気持ちを、しかし依頼人の手前表情には出さないようにしながら、都は話の続きを促す。
 
「それが・・・わからないのです」
 
「・・・・・・え゛」
 
しかし、彼女を待ち受けていたのは、またしても予想外の返答だった。
 
 
「一番新しい記録では『本の形をとっていた』とされていますが、その前は『杖』、またその前は『剣』というように、秘宝は『ひとつの決まった形』を持たないものなのです。
 ときには、『意志を持った生物の形』をとっていたこともある、という記録もあります。
 ですから、今も持ち去られた時と同じ形をしているかどうかはわかりませんし、そもそも持ち出された時点で『本』以外のものになっていた可能性も・・・」
 
「だ、誰が持ち去ったのかも、確か・・・」
 
「・・・えぇ、解りません。数日前、まるで消えてしまったかのように、気がついたときには無くなっていたのです」
 
得られた情報は、『秘宝が持ち出された(であろう)日付』と、『秘宝は形を変えるものである』という二つのみ。
 
資料が古すぎて解読できないらしく、『秘宝の本来の名前』ですら解らないという。
 
「・・・・・・いくら『アレ』でも、そんな情報だけじゃ何もわかりっこないですよぉぉぉ・・・・・・・・」
 
軽く涙目で頭を抱えて俯いてしまった都を見て、二人の妖精はおろおろとうろたえるばかりであった。
 
 
それから半年。安斎探偵事務所にて。
 
「いやー、ありがとうねぇ由愛ちゃん。見つけてくれただけじゃなくて遊び相手までしてもらっちゃって」
 
「い、いえ、そんな。私、お留守番しかできないですし、見つけてくれたのは都さんですから・・・」
 
「とんでもない!ほっといたらまたどっか行っちまっただろうし、由愛ちゃんが面倒見てくれてて助かったよ。都ちゃんにもよろしく言っといておくれねぇ。
 ほらゴロー、由愛ちゃんにバイバーイ、って」
 
「んな゛ぁぁ・・・」
 
「は、はいっ。またなにかご用のときは、いつでもいらしてくださいね」
 
あの後しばらくして、何とか立ち直った都は、
 
「少々時間はかかるかも知れませんし、確実に見つけられるとも言い切れません。それでもよければ、お二人に協力させてください」
 
と、あの依頼を受けることにした。だが、そこでまた一つ問題が発生。二人は、とにかく秘宝の在り処を探すことだけを考えて行動していた。つまり。
 
「・・・・・・ところで、お二人はこれからどうされるのですか?どこか行くあては・・・」
 
あるはずもない。そもそも、妖精界と同じ服装で町じゅう練り歩いていた時点でお察しである。よく通報されなかったものだ。
 
そこで都が提案したのが、『助手としてこの事務所で働かないか』というものであった。
 
妖精二人にとっては、捜査の進展がすぐに解るし、働くことで依頼料の代わりとすることができる。
 
都としては、人手が増えることで今まで以上に仕事がやりやすくなるし、何かあったときの連絡の手間が省ける。
 
どちらにとっても好条件であるこの提案に、二人はありがたく乗らせてもらうことにした。
 
人間では聞き取れない本名の代わりに、『成宮由愛』と『水野翠』という名前を都にもらい、共に過ごしてはや半年。
 
「由愛様、ただいま戻りました」「ただいまですー」
 
「あ、おかえりなさい、都さん、翠さん。ゴローちゃん、飼い主さんが引き取りに来られましたよ」
 
「あぁ、そうですか。対応ありがとうございます。ゴロー、放っておくとすぐ逃げ出しちゃいますから・・・」
 
「うふふ、すっかり常連さんですものね、ゴローちゃん」
 
「み、翠さん、迷子の常連さん、ってあんまり良いことじゃないんじゃ・・・」
 
結局、秘宝についてはあまり進展はないが、焦ってどうにかなるものでもない。それに。
 
 
「それで、どうなったんですか?今回の依頼・・・」
 
「バッチリです!かなり派手に暴れまわっていたようですし、なにより『名前』がわかったのが何より大きいです」
 
祖父と親交のあったらしい、ある『組織』からの『ある人物に関する情報を集めて欲しい』という依頼。
 
依頼に来た当初は、(こんな小さな女の子に勤まるのか?)と猜疑的な目を向けていた組織の職員は、彼女の『力』に目を剥くことになった。
 
『本来の名前』と『カースとしての行動範囲』、『嫉妬のカースドヒューマン』という三つのキーワードだけで、『北条加蓮』に関するありとあらゆる情報を、たった一晩で割り出してしまったのだから。
 
「彼女・・・加蓮さん、でしたか。これから、どうなるのでしょうね・・・」
 
「・・・そればかりは、私たちにはどうすることもできません。手に入る限りの情報は渡しましたし、それをどう使うかは彼女たち次第でしょう」
 
『見通す者の目(サードアイ)』。断片的な情報から、関連する『大小ありとあらゆる情報』を探し出し、真実を露にする、都の持つ特殊能力。
 
この力があれば、いつかきっと、秘宝の在り処もわかるはずだろう。由愛も翠も、そう信じている。
 
・・・もっとも、まだ覚醒が不完全なようで、本来なら『持ち出された日付』だけでも現在の在り処がわかるはずなのは、幸か不幸か、三人ともまだ知らない。
 
「・・・と、そろそろ終業の時間ですね。由愛さん、窓の鍵の確認を。翠さん、ちゃちゃっと報告書を書いてしまいましょう」
 
そうして、一日の業務を終えようとしたとき、ぴんぽーん、とエレベーターが止まる音。
 
「あら?ご依頼の方でしょうか・・・」
 
「・・・由愛さん、お茶の用意を。翠さんも、報告書は明日に回して結構です」
 
『いつ何時でも、真実を求める誰かの為に働くのが探偵の仕事だ』。祖父が最初に教えてくれた探偵の心得を胸に、都は一度ゆるんだ気持ちを引き締め直す。
 
遠慮がちなノックの音に、次の依頼は一体どんなものだろうか、期待を胸にドアを開けて一言。
 
「ようこそ、安斎探偵事務所へ!今回はどういったご依頼でしょうか?」