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ネバーディスペアの隠れ家
 
とある一軒の家に4人の少女が暮らしていた。
 
現在は朝食の時間。食事ができない李衣菜は充電中である。
 
朝のニュースが流れるテレビ画面が、予告も無しに変わった。
 
『おはよう、きらり、夏樹、李衣菜、奈緒。こんな朝早くにすまんが、任務だ。』
 
画面には地球管理局の軍の小隊のリーダーが映し出される。
 
「あー!リーダーちゃん!おっすおっす!」
 
『…きらりは朝でも変わらんな。…それより任務なんだが…。』
 
彼の口から告げられたのは、エンヴィーという名を名乗る、人型のカースの討伐任務だった。
 
 
「…エンヴィー?なんじゃそりゃ。」
 
『その名前が自称か他称かは知らんが、人型のカースらしい。他の嫉妬のカースを従えた強力なカースだそうだ。』
 
「人型?ドロドロした化け物じゃないんですか?」
 
『…完全に人型だそうだ。送信データの中に画像を添付しておいた。動きがすばやく少々ピンボケしているが、後で確認してくれ。』
 
「わかった。ところで、アタシ達に直接依頼するってことは今までなかったよな?」
 
「そーいえばそーだねー?リーダーちゃん、そんなに強いってことー?」
 
『ああ、地球のナチュルスター等、様々なグループと何度も戦闘したそうだが、全ての戦いで逃走され、我々も足跡を掴めていない。』
 
「あ、なるほどアタシの出番か。逃げても追いかけられるもんな。」
 
「完全に人型で、つかめるなら、私も出番が…!」
 
『そういうことだ。戦闘能力も高いそうだが…その二人の少女であるナチュルスターさえ倒せていないからな…。攻撃翌力以外が高い可能性もあるが。』
 
「防御能力が高いとかか。」
 
『そんなところだ。今までの襲撃地点から、次の襲撃地点を3つに絞った。君たちにはその3地点にてエンヴィーが襲撃するのを待ち伏せしてくれ。』
 
「「「了解。」」」「りょーかーい!」
 
 
一人でも大丈夫な2人は単独行動。後衛・前衛がはっきりしている夏樹と李衣菜はペアで行動を始めた。
 
地点A・住宅街・きらり
 
住宅街をきらりは一人で歩いていた。
 
平日だからか、人は少ない。主婦たちが井戸端会議をしているくらいだ。
 
「…つまんなーい。むぇー。」
 
きらりは久しぶりに一人になった。
 
買い物には最初こそ一人で行っていたが、最近は人ならざる部分を隠すことに慣れてきた2人が一緒に行ってくれる。
 
(…李衣菜ちゃんの頭のアレ、どうやったら隠せるかなー?)
 
…これは皆で考えなくては。
 
…家族っていいな。と少しきらりは思ってしまう。もう友達を通り越して家族だ。
 
リーダーちゃん以外に家族なんて初めて思ったかもしれない。
 
きらりは取りあえず、全ての家族の平穏が壊されないことを願った。
 
 
地点B・某中学校付近・奈緒
 
「こっちこっちオアアアー!」
「うおおお!あやめの動き速えええええ!」
「行きますよ!忍者シュート!」
「頑張れ昼子ちゃーん!」
「フハハハ!未熟な忍者ごときのチャクラムで我が結界(ゴール)を割れるものか!」
 
捜索中だとはいえ、奈緒は中学校から目が離せなかった。…授業でサッカーをしているらしい。
 
奈緒には一定の範囲の記憶…そのなかでも学校という物の記憶が特にない。
 
宇宙管理局に保護された直後、知能テストがあったのだが…今思い出すと恥ずかしい位の点数だった。
 
そもそも文字も書けなかったのだが、一応今は年相応ではあると思う。
 
平和そうに校庭でサッカーをしている中学生が、どうか不幸になりませんようにと、思わずにはいられなかった。
 
 
地点C・国道付近・夏樹&李衣菜
 
李衣菜は頭のボルトをどう隠すか…結局隠せなかった。
 
まぁそんな格好していれば嫌でも目立ってしまうため、物陰で二人座っていた。
 
夏樹の目玉型ユニット…本体近くの2つを除いた4つが辺りを飛び回り、夏樹の視覚として情報を送る。
 
「…!あれか!」
 
「いたの!?」
 
「黒い翼の生えた女が飛行してこっち側に向かってきてる…二人に連絡してくれ。穴で迎えに行く。」
 
ユニットを呼び寄せつつ夏樹が言う。
 
夏樹の穴は、人の居ない場所には容易に作れるが、人の居る場所にはうまく作れない。
 
無関係な人を巻き込まないためと…元は政府の反逆用能力だからなのだろう。スパイ用か何かだったのかもしれない。
 
ある程度はイメージすればその周辺に行けるが、迎えに行くのなら正確な座標が必要なのだ。
 
「わか…!なつきち!気付かれた!こっちに来る!」
 
「!?」
 
 
エンヴィー…加蓮は嫉妬のカースドヒューマンである。
 
嫉妬。それは無限に膨らむ。自分の上に何かが存在する限り。
 
加蓮がカースドヒューマンになって数週間。なりたての頃より遥かにその力は増していた。
 
配下のカースは不定形なその姿から、黒い体に緑色の瞳の、嫉妬の象徴である巨大な蛇の姿になった。
加蓮自身もナチュルスターの攻撃を前より余裕をもって防げるようになっていた。
 
そして次の襲撃場所へと向かう途中に、不審な目玉型の機械を発見し、不審に思い、降下してきたのだ。
 
加蓮が着地すると同時に、地面から大量の蛇型カースが湧き出してきた。
 
 
「こちら李衣菜!地点Cでエンヴィーと遭遇!余裕ができ次第なつきちが迎えに行くk…」
 
李衣菜が連絡を取ると、黒い泥で作られた矢が通信機を打ち抜いた。
 
「貴方達、何者?」
 
「…あんたがエンヴィーか。」
 
「…あ、そう。貴方たちも正義の味方ごっこ?…そういうの好きじゃないんだよね。」
 
夏樹の問いには答えず、蛇型カースをわらわらと自分の傍に集める。目が妖しい紫色に光ると、蛇型カースたちは一斉に襲い掛かった。
 
 
もちろん、緊急事態だとは伝わったようで、
 
「おい!李衣菜!どうした!?やべぇな…急がねぇと…!」
 
奈緒は虎に姿を変え、翼を生やして高スピードで空を駆け、地点Cへ向かった。
 
「李衣菜ちゃん…!?…行かなきゃ…!」
 
きらりも全力疾走で地点Cへと向かっていった。
 
 
夏樹と李衣菜は、加蓮に近づくことすら許されず、ただひたすらに蛇型カースと乱闘を繰り広げていた。
 
「だりー!電撃は節約しろよ!」
 
「わかってる!」
 
李衣菜は怪力を発揮して、蛇型カースの一体の尻尾を掴んではジャイアントスイングで周りを巻き込んでは投げ続ける。
 
夏樹は、レーザーの他にも、穴を利用して、カース同士で噛み合ったり、カースの体が穴の途中にある状態で穴を消すことで体を切断することで応戦していた。
 
核を壊すことを目的とせず、仲間が来るまでの時間稼ぎだ。
 
「だりー!これを使え!」
 
夏樹が攻撃の波が止まった一瞬の隙を見逃さず、道路の標識を李衣菜の近くまで送り、途中で斜めに切断した。
 
「ありがと!」
 
切断された標識を李衣菜が振り回すと、カースの体が次々と切断される。
 
さらに、切った部分を竹槍のように使い、カースを串刺しにする。
 
「…妬ましい。」
 
遠くから見ていた加蓮が嫉妬を露わにする。
 
圧倒的な力を見せつけられたのだ。友情を見せつけられたのだ。嫉妬が湧きあがる。
 
加蓮から黒い泥が溢れ出る。その全てを蛇にして、死角から二人に飛び掛かった。
 
ガキィン!
 
 
…はずだった。
 
「誰…?」
 
「間に合ったか…!」
 
「奈緒!」
 
「遅くなった!こっちは任せろ!二人は蛇の相手をしていてくれ!」
 
奈緒が変身を解き、空中から割り込んできたのだ。突然の乱入に、加蓮は思わず一歩下がる。
 
そして、乱入者を目と目が合った瞬間、気付いた。『彼女も私と同じ』だと。
 
それは奈緒も同様で、明らかに動揺している。
 
素質がないのに無理やり組み込まれた者と、その呪いと同調し取り込んだ者。
 
あまりに真逆だ。しかし、奈緒も加蓮も、お互いが真逆の存在とは夢にも思っていない。
 
 
「…お前の相手はあたしがやる。…殺しはしないから安心しな。」
 
「…へぇ、貴方は仲間がいるんだ。私と同じ癖に…!妬ましい…!」
 
お互いに肉体から黒い泥を溢れさせる。奈緒はそれを統一性のない動物達の姿に。加蓮はそれを大蛇と槍と盾の姿に。
 
翼を出して、二人は空中でぶつかり合った。
 
能力を完全に使いこなしているのは奈緒だが、加蓮は力で勝っている。
 
狼が蛇に噛まれ、盾を馬が破壊し…一歩も引かない状況。
 
しかし、全力で殺そうとして来る加蓮と、なるべく殺さないように手加減している奈緒。
 
確実に前者が競り勝っていた。
 
一瞬奈緒がバランスを崩したのを見逃さず、槍が奈緒の異形の左腕を貫いた。
 
「っ!」
 
貫かれ、皮一枚で繋がっていた腕を大蛇が食らう。
 
「さぁ、これでもまだ戦う?」
 
加蓮は勝利を確信したが、奈緒の腕を食らった大蛇が破裂し、食われた骨と肉が元の場所にくっつき再生した。
 
「…化け物。」
 
「好きに言え。」
 
とは言ったものの、少しばかり傷ついてはいる。
 
再生しても、痛みはあったし、血は戻ってきていない。少し血が減っているのを体で感じた。
 
 
その時だった。地上から声が聞こえた。
 
「奈緒ーっ!きらりが来たぞーっ!もっと上昇しろーっ!」
 
何の迷いもなく翼を動かして上昇する。地上に目を向けると、夏樹たちはすでに見えない。
恐らくすでに穴に入ったのだろう。
 
「W★きらりん☆ビーム!極太ばーん!」
 
遠くから極太の光線が飛んでくる。
 
太いが故に、物体を破壊する程のエネルギーはないが、光のパワーが襲い掛かり、カースは核ごと光になった。
 
「おっすおっすばっちし!」
 
「…な、なんなの…アレ…。」
 
加蓮はギリギリのところで回避したものの、仲間たちは皆消滅してしまっていた。
 
「…っ!あの力…!妬ましい…!」
 
しかし、形勢は一気に1対4だ。逃げなければならない。
 
加蓮が逃亡しようとした瞬間、上で飛んでいた奈緒が急降下しながら掴んできた。
 
「離せ!やめ、やめて!」
 
「逃がすわけにはいかないんだよ!」
 
そのまま縦に何回も回転しながら、きらりに向かって加蓮を投げつけた。
 
「頼んだぞ!」
 
「まかせてー!『きらりん☆ルーム』、かもーん!」
 
きらりが両腕を広げて大きく円を描くと、きらりと加蓮の姿が歪み、消えてしまった。
 
「うまくいったか?」
 
地上に着地すると同時に地面に穴が現れ、二人が飛び出してくる。
 
夏樹の問いに奈緒は少し神妙な表情で答えた。
 
「多分な。きらりなら…きっと。」
 
 
きらりによって加蓮は特殊な空間へと移動させられていた。
 
まるで神殿の様だ。…どう考えても縮尺が彼女の知っているような神殿の十倍以上の大きさでなければ。
 
「ここは…?」
 
「にゃっほーい!エンヴィーちゃん!きらりの世界によーこそよーこそー!」
 
「…貴方の結界か。」
 
「…エンヴィーちゃん、悲しそうなの。そんな心を見ていたらきらりもショボーンってなるの!だから、はぴはぴしよ?」
 
「意味わかんない。それに、一人で勝てると思ってるの?」
 
「勝つとか、負けるとかじゃないんだにぃ。ね?」
 
きらりの両手から光が放たれる。
 
二つの光が加蓮へ飛んでゆく。
 
「…なにこれ。」
 
しかし、その光は、加蓮に触れた瞬間にかき消されてしまった。
 
「ほえ?…な、なんでぇ?」
 
「その程度なの!」
 
茫然とするきらりに加蓮は飛び掛かる。そして泥を体から溢れさせ、体重をかけてきらりを押し倒す。
 
「その力、私の中に取り込んであげる…!」
 
 
奈緒の時とは違うのだ。きらりは混乱する。そして、不意に故郷での女王の言葉が響いた。
 
母星が滅びる前日。きらりは、女王の手のひらに乗っていた。そして女王は優しく言った。
 
『きらり。貴方は私の…いえ、私たちの最後の希望。いいですか?よく聞きなさい。そして決して忘れてはいけません。』
 
彼女は子守歌を歌う様に、言葉を紡いだ。
 
 
汝、『憤怒』に捕らわれてはならぬ。あらゆる事象に『寛容』となれ。
 
汝、『高慢』になってはならぬ。友人に、家族に、仲間に『誠実』であれ。
 
汝、『暴食』をしてはならぬ。必要・不必要を『分別』し、必要以上の食物は、分け与えよ。
 
汝、『色欲』を知ってはならぬ。永久に穢れを知らぬ『純潔』であれ。
 
汝、『強欲』に心奪われてはならぬ。『自制』し、最低限の物だけで生きよ。
 
汝、『怠惰』に生きてはならぬ。するべきことは無限にあるのだ。『勤勉』に生きよ。
 
汝、『嫉妬』に身を焼いてはならぬ。自らの上に立つ者にも『慈愛』の心を忘れるな。
 
美しく生きよ。罪を心に宿したその時、我らは肉体を失うのだから。
 
美しく生きよ。全ての存在にとっての光になれ。
 
美しく生きよ。心に闇を持ち得ないのは我らだけなのだから。
 
 
『きらり、今は分からなくてもいいのです。けれど、知らなくてはいけない。きらり、光は完全に世界を覆うことはできません。影という闇が生まれるのですから。』
 
『この宇宙の人々の心もそう。我らと我らの対極に位置する闇の存在以外、心に必ず光と闇を持っているのです。』
 
『もし、闇に心を奪われた人々を助けたいのなら…覚えておきなさい。』
 
『闇に光を当てても、弱ければただ吸い込まれるだけ。強ければ闇は消えて光は存在を失ってしまう。闇が自分から光を放つように、わずかに心に残った光に、呼びかけるのです。』
 
「…よく、わかんない。」
 
『…それでいいのです。いつかは分かる日が来るでしょう。貴方は私なのだから。』
 
「…なら、きらりもじょーおー様みたいにおっきくなれる?」
 
『もちろんですよ。だから…きらり、貴方は生きるのです。一人は辛いかもしれませんが…生きるのです。』
 
「…きらり、一人はやだよぉ…」
 
『きらり、泣くことは世界が我らに唯一許して下さった負の感情…。本当に大切な時だけ流しなさい。』
 
「…うん。わかった。きらり、頑張るから…!」
 
『本当に…御免なさい。』
 
 
「…そっか。…ごめんねリーダーちゃん。きらり、約束破るね。」
 
「何を言って…きゃああ!」
 
きらりの体が虹色に光り、加蓮は吹き飛ばされる。
 
そして、光が収まった時…
 
「にょっっっわー!!!きらりん☆ハーフサイズモード!」
 
加蓮の目の前には、先ほどの約5倍の大きさになったきらりがいた。
 
この姿は本来の力の約十分の一の力が発揮できる。先ほどまでは百分の一だったのだから、その違いは分かるだろう。
 
完全にパニックになった必死に加蓮が逃げようとするものの、すぐに捕まってしまった。
 
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。怖がらなくていいの。悲しまなくていいの…。」
 
きらりがその巨体で加蓮を優しく抱きしめる。
 
壊すことがないように、大切に。
 
 
「そんな事言って…!私のことなんてわからないくせに…!」
 
「うん、きらり、エンヴィーちゃんの事よく知らない。」
 
「じゃあなんで…!偽善者!こんな事をして何が楽しいの!?」
 
きらりはじっと加蓮を見つめる。悲しい心だ。彼女は悲しい心に捕らわれている。
 
きらりは、その「悲しい心」を詳しく知ることは決してできないけれど。
 
「でもね、きらりは…この小さな手にも収まりきらないこの世界を…はぴはぴにしたいの。きっとそのためにきらりはここにいるから。」
 
光りが再びきらりの両手から発せられる。
 
闇に消されてしまうような弱い光でもなく、闇を消滅させるような強い光でもない。
 
闇すら包み込む、優しい、浄化の光ともまた違う…抱擁のような光だ。
 
憐れみも、同情もない、100%の希望を望む心から生まれた光。
 
 
…嫉妬とは。本来の姿は憧れである。
 
憧れが、羨望が、心の闇によって歪んだ姿が嫉妬なのだ。そして、その闇がきらりの光に共鳴する。
 
「なに、これ…なん、で私…?」
 
加蓮は紫色の涙を流していた。自らの中のカースの呪いを吐き出すように。
 
今まで嫉妬というフィルターを通して見ていた世界から、急にフィルターのはずれた世界を見た。
 
今まで見ていないふりをしてきた事も、眼鏡をかけたようにはっきり見えるようになって。
 
自分はとんでもないことをしたのではないかと。
 
自分のせいで悲しむ人が居たのではないかと。
 
加蓮は、正常な心を取り戻しつつあった。
 
 
「だいじょーぶ。悲しくてもね。みんなまた、はぴはぴできるんだよ?だから、だいじょーぶ。だいじょーぶ…。」
 
ただきらりは繰り返す。無責任にも見えるほどに、優しい言葉で加蓮の心を慰めながら。
 
「…ほん…とう…?こん…な、わた、しでも…?」
 
加蓮の中の核が、エネルギーを失い、少しずつ動きが鈍くなっていた。
 
心臓と一体化したそれの動きが鈍くなっているということは…加蓮の命が終わりに近づいているということで。
 
「…もう、無理…か、な?」
 
「…エンヴィーちゃん…」
 
「…もうエン、ヴィーじゃないよ。かれ、ん。わたし、加蓮。」
 
「かれんちゃんって事?きらりは、きらりだよ!」
 
加蓮は頷いた。もう息が苦しい。言葉を発するのもとぎれとぎれになってしまう。
 
「…もう、だめみたい。…あんな、力、だった、けど…自由に…外で生、活、できて、嬉しかったの。」
 
「皆に、迷、惑かけて、謝る事、もできなかった、けど…次、生まれ、変わったら…。」
 
ナチュルスターの二人組の事をふと思い出した。彼女達には救ってもらうことができなかったけれど…最後に、謝りたかった。
 
きっと彼女達も思いはきらりと同じだったから。
 
強い眠気に襲われ、そのまま加蓮は重い瞼を閉じた。
 
 
きらりの結界が解除され、3人はきらりに駆け寄った。
 
きらりは人間サイズに戻り、一糸まとわぬ姿の加蓮をお姫様抱っこしながら泣いていた。
 
「…きらり?」
 
奈緒が沈黙を破る。
 
「奈緒ちゃん…!かれんちゃんが…!」
 
ポロポロ、星のように光る涙を流しながら、きらりは話す。
 
「かれん?エンヴィーの本名か?」
 
「そうなの…でも、死んじゃった…!」
 
「…え?」
 
「ごめんね、ごめんね、きらり、悪い子だ…!」
 
「ああ!きらり、泣くなって!もっと詳しく教えてくれねぇと…!」
 
「そ、そうだよ!きらりがやった訳じゃないんでしょ?」
 
夏樹と李衣菜がきらりを落ち着かせようとし、奈緒が加蓮の腕をつかみ、脈をとる。
 
 
「…?…!生きてるぞ…?」
 
「ふえ?」
 
「ええ!?ちょちょちょ、ちょっと待って、私もやるから!」
 
「バカ、骨折ったらどうするんだよ、アタシが『診る』からちょっと待ってろ!」
 
夏樹が慌てて目玉型ユニットのめったに使ってない『診る』能力を起動。
 
「…生きてるな。ちょっと体力消耗してるぐらいか。」
 
「…どういうことー?」
 
「アタシが聞きたいっての。」
 
「…なぁ、一番心当たりあるあたしが言っていいか?…推測だけど。」
 
3人が奈緒を見る。
 
「…戦ったときに飲まれた、あたしの血のせいじゃないか?よく知らないけど、吸血鬼の血を飲んだら吸血鬼になるんだろ?」
 
「…取りあえず連絡とらないとな。この謎の現象もしらべねぇと。」
 
「…きらりも、よくわかんなーい。」
 
「…確かに一理あるkふぉが ! ?…………………ごめん。ずれた…。」
 
(…スルーされたってこういう事なのか…?)
 
 
加蓮は、あり得ないはずの目覚めに驚愕していた。
 
見たこともない部屋に、やわらかいベッド。
 
そして、先ほどまで戦っていたはずの4人と、1人の男性がベッドの周りに立っていた。
 
起きたことに歓喜したのか数人が声を出したが、男性が彼女達を黙らせて声をかける。
 
「君は、北条加蓮だな?」
 
「…はい。」
 
「我々は君をどうするつもりもない。…君は自由の身だ。」
 
「…そう、ですか。」
 
「…少々混乱してるかもしれないが、よければ我々に教えてくれ。君がこれからどうしたいのか。」
 
加蓮は、少し考えて…彼を真っ直ぐ見据えて…口を開いた。
 
「…私は――」

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最終更新:2013年06月26日 18:52