1スレ目>>456~>>460


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 駅前の大通りを鼻歌混じりに歩く。
 今回の新作ドーナツは大当たりだった。
 ついついいつもより20個も多く買ってしまったものだから、両手に感じる感触はちょっとずしりとくる。
 けれどこの重さはあたしの幸せの象徴だから苦にならない。
 
 買い物も済ませたし日も陰り始めている、悪党やらカース? とやらが出てこない内に早く帰って食べる順番を吟味しよう――と、帰路につこうと目を向けた先、数メートル離れた位置にある噴水から暗い暗い藍色の液体が噴き出すのを目の当たりにして、あたしの頭は真っ白になった。
 噴き出した液体は排水溝から流れたりせずに段々とうず高く盛り上がっていき、やがて泥を捏ねて作ったかのような不格好で巨大な人型になると、頭の辺りにパックリと穴が開き、
 
「 喰 ワ セ ロ オ ォ ォ ォ ! ! 」
 
 吼えた。
 
「ひっ」
 
 唐突に響き渡った声に怯み、手に持った荷物を落として二歩三歩と後ずさる。
 ビュオッと目の前を何かが通り過ぎ、落とした荷物が消える。
 ぎこちない動作で巨人を見上げると、穴の辺りに手を持っていき、そこからポロポロと見覚えのあるものが穴に落ちていった。
 
――もし、後ずさるのが遅かったら。荷物を落としていなかったら。
 
 考えがそこに至ると、足の力が抜けてへたり込んでしまう。
 逃げなければ、とは思うけど立ち上がることすらできない。
 
 
「タリナイ……モット喰ワセロ……」
 
 巨人がこちらを見た、気がした。
 左右から悲鳴が上がる。どうやらあたし以外にも逃げれなくなった子が居るらしい。
 巨人はあたしたちが逃げ出せないと悟ったのか、恐怖を煽るかのようにゆっくりと体を曲げて口を近づけてくる。
 
 
 
「そこまでだ!!!」
 
 
 
 力強い声が響き、巨人がビクリと動きを止める。
 眼前まで迫っていた口が離れていき、巨人は体を捻って反対側を向いた。
 声の主は巨人の向こうに居るらしい。口上を述べているようだが、恐怖が過ぎ去ったばかりで弛緩したあたしの頭には入ってこない。
 
「ハラガ、ヘッタンダヨォ!」
 
 巨人は腕を振り上げて乱入者に攻撃を仕掛けた。かと思ったら、胸のあたりが弾け飛んだ。
 
「一丁上がりっ」
 
 巨人の胸を一撃で突き破り、得意げに声を上げる乱入者の正体は逆光で見えなかった。
 その周囲にキラキラと何かが輝いているように見え、眩しさに腕で目を庇うと――それらはあたしの肌を裂き、
 
 
 
 
 
 
 その内ひとつは、あたしの口の中に入った。
 
 
 
 
 
 
 あの後、ヒーローは手早くあたしたちの手当てを済ませると、「しくじってゴメンな」と言い捨てて逃げるように去ってしまい、あたしたちは別の人が呼んだ救急車で運ばれて簡単な検査を受けた。
 結果は異常なし。念のため再度肌の手当てを受けて、心配して駆け付けた両親に連れられて病院を出た。
 そこには丁度あたしと一緒にとばっちりを被った二人の少女が居て、タイミング良く目が合った。
 
――クゥ、とお腹が鳴った気がした――
 
 ・
 
 ・
 
 ・
 
 抑えきれない空腹感を抱えたあたしはこっそりと部屋を抜け出し、深夜の駅前を訪れた。
 KEEP OUTのテープを潜り、あたしが襲われた場所へ辿り着くと、既にそこには二人が居た。
 
「こんばんわ」
 
 と当然のように笑みを向けると、二人からも挨拶と笑みが返ってくる。
 
「三人揃うの待ってたんだよ?」
 
「パンより食べたいものができたのなんて初めてだったのに、おあずけは辛かったんだよ?」
 
「ごめんね、みんなが寝るのを待ってたら遅くなっちゃった」
 
「じゃ、揃ったことだし、あたしはこれ以上待てないよ」
 
「うん、私も辛いしそろそろ――」
 
「「「いただきます」」」
 
 
 声を揃えて言った後、三人で同時にしゃがみ込む。
 うかつに触れないが故に放置されたそれらは、未だ消えていなかった。
 破片の一つを摘みあげ、躊躇いなく口に放る。舌の上で転がしてみるが、味はしない。
 奥歯を使って噛み潰すと、それは角砂糖を噛み砕いた時のようにするりと解け、トロリと融けた。
 液化したそれを嚥下すると、食道を通って全身に染み渡っていくのを感じる。
 それはあたしに満足感をもたらすと同時に、より強い空腹を生みだす。
 
――足りない、もっと欲しい。
 
 色を失った破片は暗がりでは見つけにくいはずだが、あたしたちは難なく見つけては口に放る。
 散らばった破片を食べつくすのに、長い時間はかからなかった。
 最後の破片が口の中に消えた直後、頭の中に何かが繋がるような感じがして、あたしは唐突に二人のことを理解した。
 どうやらあたしが一番年下だったみたいだけど、こうしてあたしたちが『わたし』になった以上、気にする必要はないだろう。
 自分を呼ぶのに敬語は要らない。
 
「あ~、お腹すいた。パンをいっぱい食べたいなあ」
 
 とみちるがこぼすと、
 
「ケーキの方が良いと思うよ」
 
 とかな子が言う。
 
「あたしはドーナツを薦めるよ」
 
 とあたしも加わり、三者三様バラバラの意見が出揃うと、誰ともなく笑いだす。
 
「でも、今からじゃロクなもの無いかも」
 
「あ、そっか……じゃあ、明日にする?」
 
「そうだね、明日の朝一番、焼きたてを食べようよ」
 
「明日が待ち遠しいね」
 
「「「それじゃあ、また明日」」」
 
 簡潔に別れを済ませると、別々の方に歩きだす。
 あぁ、早く明日にならないかな。
 
つづく……?