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ずっと、ひとりぼっちだった。
 
生まれたときから、みんなとちがったから。
 
ひとりでエサが取れるようになったら、すぐに群れからおい出された。
 
それから、ずっと、たったひとりで。
 
「―――――お、気がついた?」
 
高いがけから落っこちて、たぶんこのまま死んじゃうんだろうな、って。
 
そう思ってたのに。
 
「じっとしててよー?そりゃーもう色んなとこボロボロだったんだから、しばらく安静にね」
 
なんで、ウチはまだ生きてるんだろう?それに、コイツはいったい誰だろう?
 
怪我と疲れのせいで頭がぼーっとしていても、それがとても気になった。
 
 
「『誰だコイツ』って顔してるから名乗らせてもらうけど、あたしは塩見周子。おせっかい焼きの妖怪さんだよん♪」
 
しゅーこ。コイツは、シューコっていうのか。『ようかい』っていうのは何なのかよくわからない。
 
「ん、わかんなかった?んー、実際見せたほうが早いかな・・・」
 
そういってシューコが、ぱちん、と指を鳴らすと、その頭からぴょこんと耳が生えてきた。
 
それと、腰からはふさふさしたしっぽが何本も。びっくりして後ずさろうとして、傷が痛んですっころんだ。
 
「わわ、ごめんごめん、いきなり姿が変わってびっくりした?痛かったでしょ」
 
確かにびっくりしたけど、気になったのはそこじゃない。
 
よしよし、となでてくる手をふりはらって、ウチは意識を集中する。
 
「・・・おー、もうそんだけコントロールできるんだ。誰かに教えてもらったんでもなさそうだったけど」
 
やっぱり、この状態は体がつるつるしてへんな感じがする。でも、こうしないと言いたいことが伝わらないし。
 
「・・・・・・ウチも、その『ようかい』なのか?」
 
それが、ウチが狼の姿から変身して、初めてしっかり口にした言葉だった。
 
 
それからシューコは、妖怪のことや変身したあとの体のことを―――こっちは『人間』っていうらしい―――いろいろ教えてくれた。
 
シューコが言うには、ウチは人狼の『先祖返り』っていうやつらしく、何回練習しても耳と左目が狼のまんまになってしまうのは、ウチがぶきっちょなわけではないそうだ。
 
人間の姿の方がいろいろ便利だから、ということで、耳は服についてた『ふーど』っていう帽子で、左目は眼帯を付けて隠すことにした。
 
それからしばらくして、片目が見えないことにも慣れて、たんすに小指をぶつけることも少なくなってきたころ。
 
「シューコッ!!またウチがとっといたずんだ餅かってに食べただろッ!!!」
 
「あーごめんごめんおなかすいちゃってつい」
 
「棒読みにもほどがあるぞっ!?ぜったい反省してないだろっ」
 
こんな風にちょっとしたことで喧嘩できるくらい、他の誰かと話すことにも慣れてきたころだった。
 
「おぉ、周子くん、ここにいたかね」
 
いきなり知らないおじさんがやって来たもんだから、びっくりしてシューコの後ろに隠れてしまった。知らない人は、やっぱりまだこわい。
 
「・・・ずいぶん、怖がらせてしまったかな?」
 
「あはは、ちょっと人見知りなだけだよ。・・・ほら、自己紹介して。大丈夫、このおじさん優しいから」
 
おじっ、と言っておじさんが固まった。どうしたんだろう。
 
まぁ、あやしいヤツならとっととシューコが追い払ってるはずだし、悪いヤツじゃないのは本当だろう。
 
「・・・・・・美玲」
 
でもやっぱりこわいので、ちょっと顔をのぞかせて、ぼそっと名前だけ名乗った。
 
美玲。名前がないのは不便だ、っていってシューコがつけてくれた、シューコからもらったもので一番すきなもの。
 
 
「ふむ、美玲くんか。『美しいさま』を表す字が二つ、うんうん、名前通りの可愛らしい子だね」
 
名前を褒められて、それを考えてくれたシューコのことも褒められたみたいでうれしくなる。
 
悪いヤツじゃないっていうの、ちょっとなら認めてやってもいいかもしれない。
 
「それで、わざわざどうしたの、社長さん?」
 
「おぉ、そうだそうだ。周子くん、君に是非頼みたいことがあってね」
 
「うん?また何か始めたの?」
 
「うむ。今回の『プロダクション』は、なかなか期待できそうでね。周子くんには、そこでカウンセラーのようなことをやってもらいたいんだよ」
 
「え、カウンセラー?あたしそんな難しいことできないよ?」
 
「いやいや、あまり難しく考えなくてもいいんだ。能力を持つがゆえに疎んじられたり、傷つけられた子たちの話し相手になってもらえれば、というだけの話さ」
 
「うーん、そう言われてもねぇ」
 
「できれば、また周子くんの力を借りられればと思ったんだが・・・」
 
・・・なんか難しい話みたいだけど、ちょっと気になった。
 
「シューコ」
 
「ん?どったの美玲?」
 
「えっと、今の話ってさ。『前までのウチ』みたいなヤツのことを助けてあげられる、ってことで良いのか?」
 
「あー、うん、まーだいたいあってるかな。もしかしたら、美玲よりもっとふさぎ込んじゃった子もいるかもしんないけど」
 
やっぱり、そういうことみたいだ。だったら―――
 
 
「―――だったら、ウチ、それやりたい」
 
「・・・へ?ちょ、ちょっと美玲?」
 
「だって、だって!!それって、すっごく良いことだろッ!?ウチ、シューコと話して、名前もらって、それで、えと、えっと!」
 
言いたいことがいっぱいでてきて、うまく言葉にならない。それでも、シューコもおじさんも、ウチの考えがまとまるのを待ってくれた。
 
「えっと・・・ウチ、生きていていいんだって、シューコに会って初めてそう思ったんだ!だから、前までのウチとおんなじヤツがいるなら、そいつのこと助けてあげたいんだ!」
 
生まれてすぐ、みんなからのけものにされてきたウチが、初めて生きていることを嬉しいと思ったのは、シューコがいたからだ。
 
ウチも、そうやって、『誰かが生きていていいと思える人』になれるなら、それってすごいことだと思った。―――ウチはヒトじゃなくて狼だけど。
 
「・・・美玲にそこまで言われちゃうと、ちょっとノーとは言えないよねぇ・・・・・・」
 
しばらく考え込んでいたシューコが、苦笑いしながらそう言った。っていうことは・・・
 
「おぉ、引き受けてくれるかね!いやぁ助かったよ」
 
「んーん、あたしやんないよ?やるのは美玲」
 
・・・・・・ん?
 
 
「・・・・・・え!?う、ウチひとりでやるのかッ!?」
 
「いんや、もちろんお手伝いくらいはするよ?でも、あくまでこれは美玲のお仕事。そういう条件なら受けるけど、どうする、社長さん?」
 
「ふむ・・・ティンと来た!良いだろう、その方向で話を進めよう!周子くんがサポートについてくれるなら、万が一ということもないだろうしね」
 
・・・なんだろう、なんか大変なことになっちゃった気がする。けど、やりたいって言いだしたのはウチだし、その気持ちに嘘はない。
 
「とりあえず、一度うちの事務所まで来てもらえるかな?プロデューサーの彼とも顔合わせをしておいた方がいいだろう」
 
・・・嘘じゃないんだけど。
 
「・・・みれいー?しがみつかれたまんまだと、あたし動けないんだけどー?」
 
やっぱり、知らない人に会うのは、まだちょっとこわい。

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最終更新:2013年06月26日 17:50