1スレ目>>79~>>91


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 てく てく
 
藍子「んっ……、いい天気」
 
―――彼女の名は高森藍子。
 
てく てく
 
にゃあ~
 
藍子「あ、猫さん……、ふふっ」
 
―――近所を散歩することが趣味の彼女は、どこにでもいるちょっとおしゃれな16歳の少女……。
 
にゃあ、にゃあ
 
藍子「どこへ行くのかな?」
 
―――彼女自身……、また彼女の周りの人も、当然そう思っている。
  
 
藍子(何となく……、ついていってみよう)
 
てく てく
 
―――しかしある日を境に高森藍子は、ちょっと普通ではない特別な能力に目覚めていた。
 
少女A「あーもームカつく! 宿題忘れたくらいでさ!」
 
少女B「ね、あんなに怒んなくてもいいじゃんねー」
 
てく てく
 
藍子(変な模様……、ふふっ、可愛い)
 
―――それは……。
 
少女A「……まー、でも宿題やって来なかった私が悪いんだけどさ」
 
少女B「……そうだね、うん、あたしも次からちゃんとやってこようかな」
 
―――『周りの人を癒し、優しい気持ちにする能力』
  
 
―――元来より、藍子は争いを好まぬ優しい性格の持ち主だった。
 
―――物腰も柔らかく、独特のふんわりとした雰囲気の漂う少女で、友人たちからの評判も良かった。
 
―――そんな彼女は、そもそも能力が目覚める以前から周りに癒しを振りまく存在だったので。
 
―――その能力を発現した後も誰も、本人でさえそれに気づかないでいる。
 
―――「なんか最近藍子の癒し力がパないよね」くらいの認識である。
 
てく てく
 てく てく
 
藍子(……見失っちゃった)
 
藍子(そういえば、あんまりこの辺は来たこと無いなぁ)
 
藍子「そうだ、ちょっと1枚……」スッ
 
―――そう言うと藍子は、首からぶら下がっているトイカメラに手を掛けた。
 
―――何気ない、ちょっとした一瞬をカメラに収める。彼女のもう一つの趣味である。
 
パシャッ
 
??「ぎにゃあああぁぁああぁぁぁッ!?」
 
藍子「!?」ビクッ
 
―――彼女は、何があるでもない景色を、特に何も考えずに、何となく撮っただけである。
 
―――しかしそのシャッター音に反応するように、そばの空き地から奇声が発せられ
 
―――それと同時に女の子が目の前に現れた。
  
 
麗奈「だっ! だだっ……!」
 
麗奈「誰っ!?」
 
藍子「ごっ、ごめんなさいっ! 驚かせてしまったみたいで!」
 
麗奈「聞いたわね!?」
 
藍子「えっ?」
 
麗奈「撮ったわね!?」
 
藍子「あ、あの……っ」
 
麗奈「アタシの秘密の計画を知ったわね!!??」
 
藍子(秘密……? 計画……?)
 
―――世界征服は、ただの行き当たりばったりでは達成できない。
 
―――今回そう考えた小関麗奈……、もといミッシェルフ・レイナサマは
 
―――誰にも見つからなそうな空き地……、のように見える隠れ家で
 
―――ちょっと大掛かりなイタズラ……、ではなく、秘密の計画を練っていた。
 
―――その矢先にカメラのシャッター音である。
  
 
麗奈「あなた……! 正義の手先ね!?」
 
―――そう思うのも無理からぬ話であろう。
 
―――……本当に無理からぬ話であろうか?
 
―――正直、レイナサマの前でこんなことを言うと怒られるので普段は言わないが
 
―――多分、普通の人はそんなことを考えないと思う。
 
―――しかしレイナサマは普通の人ではないので
 
―――悪い意味ではない
 
―――決して悪い意味で言ったわけではなく
 
―――世界征服を成し遂げる器を持った者が普通でないのは当たり前で
 
―――そんなレイナサマであるからこそ、こういった事態には敏感に反応してしまうのは当然であり……
 
―――……。
 
―――話が逸れたが
 
―――簡単に言うと、藍子は麗奈の怒りを買ってしまったようである。
  
 
麗奈「……消すしか無いわね」スッ
 
藍子「えぇっ!?」
 
―――大きく出た。
 
―――『消すしか無い』とは大きく出た。
 
―――言ってから麗奈も気付いた。
 
麗奈(『消す』は言いすぎた……)
 
―――しかしもう遅い。
 
―――一度言った言葉は取り下げられない。
 
―――そんなことをするのは悪の美学に反する。
 
―――消すしか無い。
 
―――もう、目の前の少女を消すしか道は無い。
 
―――しかし。
 
藍子「あ、あの……。大丈夫?」
 
藍子「顔色も悪いし、凄い汗……」
 
藍子「具合が悪いのなら、少し休んだほうが……」
 
麗奈「う……っ」
 
麗奈(な、何か……)
 
麗奈(何か……)
 
麗奈「はぁ……」
 
麗奈「やっぱいいわ……」
 
藍子「?」
 
―――悪の美学はあっさり屈した。
 
―――言うまでもなく、この心変わりは藍子の能力である。
  
 
麗奈「で、アンタどこまで聞いてたの?」
 
藍子「えっと、何を?」
 
麗奈「惚けんじゃないわよ! アタシの秘密の計画よ! 聞いてたんでしょ!?」
 
藍子「聞いてないけど……」
 
麗奈「……」
 
藍子「……」
 
麗奈「と、撮ったでしょ!? カメラで!」
 
藍子「あの電柱を……」
 
麗奈「……」
 
藍子「……」
 
麗奈「……本当に知らないの?」
 
藍子「うん……」
 
麗奈「……」
 
藍子「……」
 
―――アホー、アホー。
 
―――カラスの鳴き声である。レイナサマを罵倒したわけではない。
 
―――断じて違う。
  
 
麗奈「帰る」
 
藍子「あっ、ちょっと待って!」
 
麗奈「何よ、まだなんか用?」
 
藍子「あそこに喫茶店があるし、どうせなら一緒に」
 
麗奈「いやいや……」
 
―――所変わって喫茶店。
 
麗奈「いやいやいや……」
 
藍子「嫌だった……?」
 
麗奈「いや、嫌という意味のいやじゃなくって……」
 
藍子「あ、お金なら私が出すから大丈夫」
 
麗奈「そういう問題じゃ無いわよ!!」
 
麗奈「何でさっき出会ったばっかのアンタなんかと!! このアタシが!! お茶しなきゃなんないのよ!!」
 
麗奈「ナンパ!? ナンパなの!?」
 
麗奈「女の子が好きな人なの!?」
 
藍子「ふふっ、麗奈ちゃんって面白い子だね」
 
麗奈「あー!!! もー!!! アンタといると調子が狂うのよ!!!」
 
藍子「あ、やっぱり具合悪いの……?」
 
麗奈「そーいう所が!!!」
 
―――完全に藍子のペースである。
 
―――麗奈のペースなんてものがあるのかは知らないが。
  
 
麗奈「あぁもうっ!! わかったわよ!! お茶すればいいんでしょ!!」
 
藍子「ごめんね? 無理言って……」
 
麗奈「ふんッ……! 言っとくけど遠慮なんてしないわよ! たっかいやつ頼んでやるんだから!」
 
藍子「うん、気にしないで好きなの頼んで」
 
麗奈「じゃあこの……、BIGチョコレートパフェ」
 
藍子「えっと、私はー……」
 
麗奈「……ちょっと、本当にいいの?」
 
藍子「え?」
 
麗奈「720円もするわよこれ」
 
藍子「本当だっ、高いねー」
 
麗奈「……それだけ?」
 
藍子「ふふっ」
 
麗奈「何よ」
 
藍子「麗奈ちゃんって優しいんだね」
 
麗奈「~~~~ッッ! アッ、アンタはまた……ッ!」
 
麗奈「もう知らないッ! 本当に頼んでやるんだから!」
  
 
―――麗奈がBIGチョコレートパフェを、藍子はカプチーノをそれぞれ注文し
 
―――程なくテーブルに二人の頼んだ品が並べられた。
 
―――カプチーノに描かれた模様に小さな感嘆をあげ、トイカメラを手にする藍子を見ながら
 
―――ふと思い出したように麗奈が口を開いた。
 
麗奈「そういえば」
 
藍子「ん?」
 
麗奈「テレビでカメラ好きのお笑い芸人が言ってたわ」
 
麗奈「カメラにわかは空だの犬だの猫だのおしゃれなカプチーノだのばっかり撮るって」ハムッ
 
藍子「……」ズーン
 
麗奈「あ、美味しいわねこれ!」
 
―――麗奈は特に悪気があって言ったわけでは無かったので
 
―――今の発言で藍子がちょっぴり落ち込んだことには気付いてないようだ。
  
 
藍子「……」フー フー
 
麗奈「……」モグモグ
 
―――何となく会話が止まり。二人の間に沈黙が流れる。
 
―――麗奈は何か言おうかと考えて、しかし不思議とこの静寂が心地いいとも感じており
 
―――結局黙ってパフェを食べ続けた。
 
麗奈(何かコイツといると、すごい……、落ち着く……)
 
麗奈(癪だけど、不思議な感じ……)
 
―――麗奈はぼんやりと藍子を眺めてみた。
 
―――率直に言って可愛い。美少女と言っていい。
 
―――しかし、ただ可愛いだけではなく、それ以上に優しい印象を受ける。
 
―――見ているだけでなんだか安心してしまう。
 
―――まるで木漏れ日の下で昼寝をしているように、気持ちが穏やかになっていく。
 
麗奈「アン……、藍子」
 
藍子「ん? なぁに?」
 
麗奈「その……、藍子なら、とッ! 特別にアタシの下僕にしてあげても! いいわ、よ……?」
 
藍子「げぼく……、あっ、お友達、ってことでいいのかな?」
 
麗奈「ま、まぁそうとも言うわね! アタシ以外の連中は!」
 
藍子「ふふっ、それじゃあ私と麗奈ちゃんは今日からお友達っ!」
 
麗奈「ん……、うん、ともだ……、下僕ね!!」
  
 
―――藍子の能力は
 
―――部屋でアロマを焚いたり……。
 
―――静かな喫茶店でコーヒーを飲んだり……。
 
―――横になりながらヒーリング音楽を聞いたり……。
 
―――可愛らしい子猫に触れたり……。
 
―――自然に囲まれて新緑を眺めたり……。
 
―――そんなちょっとしたことに感じる安らぎや癒し、優しい気持ちを、周りの人に与えられる
 
―――そういう人になりたいと願って。願い続けて。
 
―――ある日、叶った。
 
―――そうやって得た素敵な能力である。
 
藍子「あ、やっと笑ってくれた」
 
麗奈「む……」
 
藍子「麗奈ちゃん笑ったほうが絶対可愛いっ!」
 
麗奈「またそういう……!」
 
―――藍子にこの能力が備わったことはきっと、とても幸福なことなのだろう。
  
 
藍子「そうだ、携帯の番号交換しようかっ!」
 
麗奈「フンッ! 特別だからね! ありがたく思いなさいよ!」
 
藍子「それじゃあ……」
 
―――と、お互いに携帯電話を手にとった時。
 
―――麗奈が異常に気付いた。
 
麗奈「うわッ!? メールが沢山来てる!?」
 
藍子「えっ?」
 
麗奈「……全部南条から」
 
藍子「お友達?」
 
麗奈「え……、もうこんな時間!?」
 
藍子「……本当だ、あれから随分経ってる」
 
―――その昔、アインシュタインが相対性理論について、わかりやすくこう例えたという。
 
―――『美人と一緒にいる時の1時間は1分に思えるがストーブの上に座った時の1分は1時間に思える。』
 
―――これは藍子のそばにいるとよく起きる事態で、彼女の能力の唯一の弊害と言えるかもしれない。