5スレ目>>756~>>764

756 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:40:57.70 ID:3R8NXU9G0 [1/10]
がむしゃらに書いてたらもうこんな時間
よし、投下してすっきりしてから寝よう

直接名前が出ているわけでは在りませんが、実質リンちゃんと肇ちゃんをお借りしています。
時系列は「嘘つきと本音」開始直後くらいです。

757 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:42:11.07 ID:3R8NXU9G0 [2/10]

――海皇宮。

サヤ「ヨリコ様ぁ、ただいま戻りましたぁ」

ヨリコ「ああ、いい所に帰ってきてくれましたサヤ」

サヤが帰還報告の為に海皇の自室を訪れると、携帯端末を片手にヨリコが出迎えた。

サヤ「どうかしたんですかぁ?」

ヨリコ「ええ。帰ってきて早々ですが、至急サヤに頼みたい仕事があるのです」

携帯端末を手放す事無く、ヨリコは少し興奮した面持ちで続ける。

ヨリコ「少し私用で地上へ行くので、護衛をお願いしたいのです。留守中の事は、参謀達に任せてあります」

サヤ「はぁ……」

ヨリコ「では、お願いしますね」

言うが速いか、ヨリコはテーブルの上にいくつか置いてある小箱の内一つを引っつかんで部屋を出て行った。

サヤ「……はぁ、まぁた地上の美術品ですか?」

足早についていきながら、半ば呆れ顔でサヤは尋ねる。

ヨリコ「はい。前々から目をつけていた品が、とうとうオークションに出品されるという情報があったのです」

海皇ヨリコは最近、地上の美術品に凝っている。最早部屋を埋め尽くさんレベルで。

持ってきた小箱の中身は、大方、あの傭兵への報酬と同じ大真珠だろう。

地上の通貨に換金して、オークションの軍資金にするつもりらしい。

ヨリコ「前回に出品された時は惜しくも手に入らなかったので、今度こそは……」

サヤ「……うふっ」

ヨリコ「……どうかしましたか?」

サヤ「いいえぇ?」

いつものヨリコからは想像もつかない、無邪気な表情。

こういう時ばかりは、「真面目で心優しい海皇」から、「年頃の女の子ヨリコ」に戻るのだ。

そのギャップに、思わずサヤは吹き出してしまった。

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758 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:43:13.27 ID:3R8NXU9G0 [3/10]
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地上。

質屋から大量の札束入りトランクケースを引きずって出てきたのは、ヨリコだった。

しかしいつもの海皇としての正装ではない。地上人のファッションを研究し、完全に溶け込んでいる。

それは隣を歩くサヤも同様で、今の二人は完全に地上人古澤頼子と松原沙耶となっていた。

ヨリコ「さあ、急ぎましょうサヤ。オークションが始まってしまいます」

サヤ「まだ一時間ありますよぉ。っていうかぁ、お荷物ならサヤがお持ちしますよぉ?」

ヨリコ「いえ、護衛を頼んだのは私のワガママです。このくらいは自分でしないと」

さっきからそう言って聞かないヨリコは、とうとうオークション会場までトランクケースを放さなかった。

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759 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:44:00.88 ID:3R8NXU9G0 [4/10]
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進行『さあこちらの品、十万からどうぞ!』

モブ達「十一万!」「十一万五千!」「十二万!」

ヨリコ「十五万!」 オォー

モブ富豪「……三十万!」 オオオー!?

ヨリコ「なっ……く、四十万!」

モブ達「四十一万!」「四十五万!」「五十万!」

モブ富豪「……六十万!」 ウオオオオオ!!

ヨリコ「むむ……」

サヤ「ヨリコ様ぁ、諦めませんか?」

ヨリコ「なんの! 八十万!」 ザワザワザワザワ

モブ達「……」「……」「八十……五万!」

モブ富豪「……ふん、百万!」 ウワアアアアアア!!!

ヨリコ「ぐ、うううう……二百万!」 オオオオオオオッッ!!!

モブ富豪「なにぃ!? ……三百万!」 オ、オオオ・・・

ヨリコ「四百万!」 ・・・・・・

モブ富豪「五百万!」 ・・・・・・ゴクリ

ヨリコ「…………」 ・・・・・・オ?

進行『五百万! ……ありませんか? ありませんか?』

モブ富豪「ふん……勢いに任せて危うく原価以上の額で買わされる所だっt」

ヨリコ「七百二十万!!」 ・・・エッ?

モブ富豪「なっ、なにぃぃぃ!?」

進行『……………………はい、105番の方、七百二十万で落札です! おめでとうございます!』

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・

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760 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:44:59.60 ID:3R8NXU9G0 [5/10]
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サヤ「……ヨリコ様ぁ、やっぱり大損ですよぉ? ちょっと周りから聞こえたんですけどそのお皿、
よくても五百万チョイの価値だって……」

オークション会場からの帰り道、戦利品が入った桐箱を大事そうに抱えるヨリコにサヤが苦言を呈する。

ヨリコ「損とか得とかではありません。私はこの絵皿が欲しかったのですから」

しかし、目当ての物を手に入れたヨリコにとって、その忠告は最早無意味であった。

サヤ「あんなにあった地上のお金も、今や七万六千五百円……」

ヨリコ「私にとってはそれほどの価値があったのですよ。ん、少し休憩しましょうか」

そう言ってヨリコは公園内のベンチに歩み寄る。ベンチには既に先客がいるようだ。

ヨリコ「お隣、失礼してもよろしいです……か……」

カイ「あ、はい、大丈夫で……す……」

サヤ「もう、ちょっとヨリコ様ぁ。ごめんなさぁい、ご迷惑……を……」

三人がその場で凍りついた。目の前にいるのは、本来、こんな場所で会うはずのない人物。

ヨリコ・サヤ「「カイ!?」」

カイ「ヨリコ様!? サヤ!?」

ヨリコ「ど、ど、どうしてここに……」

カイ「い、いや、ヨリコ様こそ……」

サヤ「はぁ……美術品オークションの帰りなのぉ」

サヤの言葉を聞いたカイは、ふとヨリコが抱える荷物を見やる。

カイ「ああ……あはは、相変わらずお好きなんですね、ヨリコ様」

昔の事を思い出してか、思わず吹き出してしまうカイ。

ヨリコ「ふふ……ええ、今日はいい物が手に入りました」

つられてヨリコも口元を押さえてクスッと笑う。

761 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:45:54.27 ID:3R8NXU9G0 [6/10]
サヤ「……で、カイはどぉして?」

カイ「あ、うん……ちょっと肌乾いてきちゃって……今友達が塩探してくれてて……」

言われてみれば、カイの表情は少しばかり陰っているように見える。

ヨリコ「いけない……サヤ、私の海水の予備を早く!」

サヤ「えっ、でもカイって今敵……」

ヨリコ「いいから早く!」

サヤ「はっ、はい!」

サヤから海水入りの小瓶を受け取ったヨリコは、それをカイの頭上で開封した。

ヨリコ「……カイ、平気ですか?」

やがてカイの顔に精気が戻り、ヨリコもよく知るカイの表情が戻ってきた。

カイ「あ、ありがとうございますヨリコ様。あたしなんかの為にわざわざ予備を……」

ヨリコ「袂を分かったとしても、苦しむ同族を放ってはおけません」

カイ「ヨリコ様……」

サヤ「…………」

少しの沈黙が三人の間を支配した。

亜季「カイー! 塩を分けてもらえたでありますよー!」

『キンキンキン!』

星花「お水もありますわ!」

ストラディバリ『レディ』

カイ「あ、皆……ありがと。でももう大丈夫になっちゃった」

塩と水を持ってきた仲間たちは、ケロッとしているカイと見知らぬ少女二人を交互に見比べた。

ヨリコ「カイのお仲間の方ですね。私、海底都市の指導者をしております、海皇ヨリコと申します」

亜季「……へ?」

うやうやしくお辞儀をするヨリコに、亜季は目を丸くした。一方、

星花「これはご丁寧に。わたくしは涼宮星花と申します。こちらはストラディバリ」

ストラディバリ『レディ』

星花とストラディバリは丁寧に挨拶を返した。

亜季「いや、あの、海皇って敵の、あれ? え? こんなフレンドリーなんでありますか?」

サヤ「ヨリコ様とカイは仲が良かったから。あ、親衛隊のサヤでぇす。相棒のペラちゃん」

『キリキリキリキリ』

空中を泳ぐ鉄のアカエイを指差しながら、サヤがウインクしてみせる。

亜季「あ、えっと、大和亜季です。上を飛んでるのは相棒のマイシスターであります」

762 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:46:55.81 ID:3R8NXU9G0 [7/10]
互いに自己紹介が終わったところで、ヨリコが静かに切り出した。

ヨリコ「……カイ、やはりこちらに戻ってくる気はありませんか?」

カイ「……ヨリコ様が、地上侵攻を取りやめて下さるなら、喜んで」

それを聞いて、ヨリコは悲しそうに首を振る。

ヨリコ「……残念ですが、それは出来ません」

カイ「……何故……ですか……?」

ヨリコ「何故かは私にも分かりません……ですが、どうあってもそれはならないのです」

亜季「…………」

星花「…………」

サヤ「…………」

『…………』

『…………』

ヴン・・・

ストラディバリ『…………』

二人以外は、余計な口出しをするまいと、その様子を黙って見守っている。

カイ「……分かりました。なら……」

カイの言葉が、長い沈黙を切り裂いた。

カイ「改めて宣言します。ヨリコ様がお考えを改めて下さるまで、あたしは刺客を叩き続けます」

ヨリコ「……そうですか。……残念です、カイ。もう会えないかも知れないのですね……」

カイ「あたしも……残念です」

ヨリコ「…………」

カイ「…………」

 

763 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:48:33.84 ID:3R8NXU9G0 [8/10]
再び、長い沈黙が訪れた。

ストラディバリ『…………』

ヴン・・・

『…………』

『…………』

サヤ「…………」

星花「…………」

??「あば?」

亜季「……………………ん? あば……?」

誰だ今の、と言わんばかりの勢いで全員が振り返る。

??「あっばー!」

星花「きゃあ!?」

サヤ「ち、地上の生き物ぉ!?」

現れたのは、宇宙レベル犯罪者、ヘレンによって送り込まれた怪人、アバクーゾだった。

アバクーゾ「あばくぞー!」

ヨリコ「…………可愛い」

星花「確かに……撫でてもよろしいですか?」

言いながら恐る恐る頭を撫でる星花。と、次の瞬間。

星花「たまには野宿でなく、ふかふかのベッドで眠りたいですわー! ……あ、あら? わたくしは今何を……?」

アバクーゾの体毛に仕込まれた本音薬が作用に、星花の隠れた本音を引き出したのだ。

カイ「星花……ごめんね」

亜季「私たちが不甲斐ないばかりに……」

ストラディバリ『レディ……』

星花「ち、違いますわ! 今のはきっと何かの間違いで……」

サヤ「なんだか危険そうですね、ヨリコ様、近寄らないように……あら?」

サヤが手で制した先には、既にヨリコの姿は無かった。

ヨリコ「し、失礼しますね……」

ヨリコは既にアバクーゾの頭を撫でる体勢に入っていた。

サヤ「よ、ヨリコ様ぁ!?」

サヤの叫びもむなしく、ヨリコはわしゃっとアバクーゾの頭を撫でた。そして、

764 名前: ◆llXLnL0MGk[saga] 投稿日:2013/08/12(月) 03:49:26.61 ID:3R8NXU9G0 [9/10]

 

ヨリコ「地上侵攻だなんて……本当はしたくない……!」

 

カイ「え……?」

ヨリコの口から、信じられない言葉が飛び出した。

サヤ「今の……は……?」

星花「もし、あれが撫でて本音を吐露してしまう生物だとすれば……」

亜季「今のが……海皇殿の本音……?」

みな、呆然と立ち尽くす。

しかし、一番それを信じられないのは、他ならぬヨリコ自身だった。

ヨリコ「……今の……言葉が……私の、本音……? 嘘……でしょう?」

アバクーゾ「あっばー♪」

この事態を引き起こした当人(獣?)は、空気を読まずに愉快そうな声を上げてその場を去る。

ヨリコ「…………サヤ、帰りましょう」

しばらく黙って震えていたヨリコだったが、突然気を取り直し、きびすを返した。

サヤ「あっ、は、はい! おいで、ペラちゃん」

『キリキリ』

カイ「よ、ヨリコ様! 待っ……」

カイの制止の言葉も聞かず、ヨリコ、サヤ、ペラは、目の前に出現した水柱の中へ姿を消した。

カイ「ヨリコ……様……」

亜季「カイ…………その、上手く言えませんが……私たちがついているであります」

『キィン……』

星花「辛いのであれば、いつでも胸をお貸ししますわ。ね?」

ヴーン・・・

ストラディバリ「……レディ」

カイ「みんな………………ありがとぉ……うっ、うぐっ……ぐずっ……」

その日、カイは泣き疲れて眠るまで、ずっと星花の胸の中で泣きじゃくっていた。

かつて憧れた相手との、あまりに辛い別れを、押し殺すかのように。

余談ではあるが、あのアバクーゾはこの日以降、鬼の孫娘や地底のテクノロジスト等を筆頭に、加速度的に被害を広げていったという。

続く

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最終更新:2019年04月27日 20:24