5スレ目>>701~>>711

701 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:20:04.40 ID:MUXmzIE50 [4/16]
「ハァ…ハァ…」

深夜。殆ど人も生物も寝静まった時間。着ぐるみのウサギの耳を揺らしながら、小さな少女が歩いていた。

彼女は仁奈。彼女は真夜中に里を抜け出し、森を超えて街へ向かっていた。

…もちろん徒歩で。実際の小さな少女なら無理だろうが、彼女は一応妖怪だ。疲労してはいたが全く無理というわけでもない。

実際、こっそり鈴帆に会いに行ったことは数回ほどある。後でこってり怒られるのだが。

しかし、今回の目的は鈴帆に会いに行くことではない。

「重い…ですよ…」

…それに、彼女の体は普段よりもまるで誰かもう一人をおんぶしてる様に重くなっていた。

割と近くにあった憤怒の街から里を守る為にカースが来ないようにしていた為、あまりにも厄をため込みすぎていたのだ。

「でも…いかないと…」

頭に響き渡るのは誰かの声。

『聞コエルカ我ガ『核』トナル者ヨ…我ガ『力』ノ所ヘ行クノダ…サモナクバ貴様ノ大切ナ人間ヲ殺シテヤル…』

大切な人はたくさんいる。みんながいなくなるのは嫌だ。だから声が導くままに街へ向かって仁奈は歩いていた。

702 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:20:45.56 ID:MUXmzIE50 [5/16]
そしてあずきもまた、奇妙な声に言われるがままに街を彷徨っていた。

『核』と会わなければ大切な人を殺すと言われたのだ。

「…あれ?」

広い広場に出ると、ウサギの耳を揺らして小さな女の子がふらふらと歩いていた。

「ハァ…お…ねぇ…ハァ…さん…」

「だ、大丈夫!?」

時間帯・虚ろな目・荒れている呼吸・千鳥足のような足取り。何もかもが明らかにおかしい。

「おもい…ハァ…です…よ…」

すぐに駆け寄り体を支えようとしたが、あまりにもその体は冷たく、そして重かった。

予想外の重さに動揺し、手が滑る。そして仁奈は地面に倒れた。

「おねえさん…仁奈から…逃げてくだせー…」

「え?…!」

仁奈がその言葉を発したのと同時に、地面に仁奈が沈み出した。まるでその部分だけが沼になってしまったかのように。

そして仁奈の中の厄が、黒い波紋となって広がっていった。

703 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:21:28.53 ID:MUXmzIE50 [6/16]
「は、早く引き上げないと…!」

「ダメです…逃げて…くだせー…」

仁奈の警告を聞かずにあずきは仁奈の手を掴んだ。

「…え?あ…れ…力が…ぬけ…て…」

仁奈の厄に引きずられるようにあずきの妖力も波紋となって広がってしまう。

『ククク…フハハハハ!核ト力ガ一カ所ニ集マッタ!』

黒い靄のような何かが、二人に近づいてくる。

『コノ世界デ再ビ我ガ頂点ニ立ツ!』

「こないで!何をする気なの!」

あずきが仁奈を庇うように抱きしめる。

『フフフ…力ヲ失ッタ我ハ消滅寸前ダガ…厄を溜メタ土地神ヲ核トシテ、復活スルダケノ事。何モ恐レル事ハナイ…!』

「い、いや…!」

仁奈はもうすでに意識を失っている。怯えるあずきに容赦なく靄のような腕がゆっくり近づいてくる。

「き、急急如律令!」

『!?』

背後から、光を纏った矢が放たれ、黒い靄は慌てて避ける。

そこにいたのは巫女服の少女。巫女服と似た色合いの小さな腰巾着を付けていて、矢筒を背負い、弓を黒い靄に向けていた。

704 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:22:04.27 ID:MUXmzIE50 [7/16]
『キサマ!道明寺ノ娘カ!』

「ふぇ!?は、はい!道明寺歌鈴です!」

『ソンナ事ハ聞イテイナイ!何故ココニ来タ!貴様ノ様ナへっぽこガ、ドノヨウナ手段デ来タ!』

怒りを露わにして黒い靄が少女…歌鈴に問いかける。

「そそ、そのー…私、貴方を倒したと思ったらこの辺りにいて…!」

『コノへっぽこ巫女ガアアアア!!何故ダ!我ノ転移術ハ完璧ダッタハズダ!』

「すみませんっ…術を発動した後…時に足を滑らせて近寄りすぎたみたいで…!」

『モウヨイ!邪魔ヲサレルマエニ力ヲ取戻シテヤル!』

「あっ!さ、させません!鬼魔駆逐 急々如律令!」

腰巾着から折り鶴を取り出し、式神として使役し飛ばす。続けて矢筒から破魔矢を取り出し、光を纏わせて放った。

折り紙の式神は自らが燃えない炎を纏い、矢は魔を打ち破る光を纏って真っ直ぐに飛んでいく。

『邪魔ヲスルナ!』

靄は矢を回避しようとするが、式神の力で少々強引に矢の軌道を変える。

705 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:22:44.07 ID:MUXmzIE50 [8/16]
「力を失った貴方なら…わわわ、私でも…っ!」

少し頼りなさげではあるが、しっかりとした意思を持った声で叫ぶ。

「急々如律令 奉導誓願可 不成就也!」

矢の周りを飛行していた折り鶴の炎がさらに輝きを増す。

「燃え上がれ、業火!」

矢の光も白から赤に変わる。

「お願い!」

叫ぶと同時に先ほどのスピードよりも速く赤い光が走った。

そして黒い靄を貫き、あっという間に火だるまになった。

『グオオオオオオオオオオオ!』

706 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:23:22.46 ID:MUXmzIE50 [9/16]
「やった!できた!…あっ式神集合!」

敵が完全に燃え尽きたのを確認して、巾着に式神をしまう。

「大丈夫ですかー!ってきゃあ!」

そしてあずき達に駆け寄ってきたが盛大に転んでしまう。

「そっちこそ大丈夫!?」

「いたた…ご、ごめんなさい…えっと、ととと取りあえず引き上げないと…!」

先程とは違い、普通の重さになった仁奈を引き上げる。本人が言うにはもう大丈夫らしい。

「…そういえばなんで巫女服を着てるの?」

「コスプレでごぜーますか?」

「えっ…えっと…実はですね…」

彼女が言うには、黒い靄の本当の姿…大妖怪の討伐を行っていた部隊の一人だったのだが、止めを刺す時に空間移動に巻き込まれてしまったらしい。

「…つまり別世界の人間さんってこと?」

「多分そうなんでしょうね…私の住んでいた場所では少なくともこんなに夜はぴかぴかしていませんよぉ…」

その言葉を聞いて思わずあずきは辺りを見渡す。

「…あれーおかしいなーあたしの知ってる街はこんなに禍々しいところだったっけー?」

全体的に街が薄暗くなっている。霧が漂い、暗闇が強く自己主張している。

「こえーですよ…」

仁奈が思わず二人に抱き着く。

707 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:24:37.42 ID:MUXmzIE50 [10/16]
「か、かなりの広範囲が祟り場になってますね…」

少し震えた声で歌鈴が説明する。

「祟り場?」

「妖気で汚染された、妖怪や悪霊が活発になる環境です…清めの符をあちこちに貼れば戻ると思いますけど…その、私ここら辺よく分からなくて…」

「ならあずきにお任せ!あずきが…えっと名前なんだっけ?」

「私、えっと、ど、道明寺歌鈴です!」

「よーし歌鈴ちゃん護衛大作戦!つまり、プロジェクトKを始動しちゃうよ!」

「なんだかかっけーでごぜーます!仁奈もやるです!」

「仁奈ちゃんもじゃあ行こうか?」

「はい!お迎えが来るまで一緒でごぜーますよ!」

妖気が満ちているからか、二人のテンションがやけに高い。

(だ、大丈夫かな…ダメ、後ろ向きになっちゃだめよ歌鈴!)

空を見れば、もうすぐ夜が明けようとしていた。

708 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:25:45.87 ID:MUXmzIE50 [11/16]
人々が何も知らないまま朝が来た。

涼はいつも通りの時間に目を覚ましていた。夏休みだからそこまで時間に悩まされることも無い。

「あずき?」

ふと、あずきがいない事に気付く。…部屋がやけにがらんとしている気がした。

カーテンを開けて、窓の外を見る。

「…は?」

霧が街を覆い尽くしていた。…それに、なんと言えばいいのだろう、不気味な感じがする。

…今の景色と何故かあずきがいないことが関係ある気がしてきた。

「…そうだニュース!こんな異常気象なんだし…!」

急いでリモコンのボタンを押す。

…しかし、映っているのは砂嵐だけだった。

嫌な予感がして携帯を見ると予想どおり圏外。

「まんまホラーじゃん…。」

部屋を漁って武器になりそうなものを探す。こんな時にあのバカはどこに行ったのやら。

…いろいろ探した結果、アパートに入居した時になぜか前の入居者が物置に入れっぱなしだったバールくらいしかないようだ。

あずきがいれば物を強化できるから割と適当な物でもよかったのだが…。

大きめのバックのすぐに取り出せる位置に入れる。他のは応急処置用の薬や包帯等だ。危険な予感しかしないから念のために。

玄関を開けて鍵をかけて、アパートから飛び出した。

「でろでろば~!」

「ぎゃあああああああ!」

「きゃははは!」

いきなり出てきた一つ目妖怪に悲鳴を上げる。

…割と前途多難の様だ。

709 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:28:14.85 ID:MUXmzIE50 [12/16]
「…死神長様から連絡がありまして、異常な妖気が溢れかえっているこの周辺に、複数の死神が派遣されたようです。」

ユズが布団をかぶって震えている蘭子と昼子に告げる。

「忌々しき霊魂どもが、神に仕える農夫の軍によって魔の地へ還る刻か…!」

「幽霊とか妖怪とか、死神さんたちが魔界に連れて帰ってくれるんですかぁ!」

(ヤバイなぁ姫様がなに言ってるのか全然わからない…)

妖気にそこまで関係がない魔族でも少なからず影響を受ける者もいる。…昼子は訳の分からないテンションになっているようだ。

「…えー死神が狩るのは悪霊とか地縛霊ですね。どちらも何らかの理由で狩り損ねた魂が何かに執着した成れの果てですからねぇ…妖怪は専門外です。」

「死神でもあまりに弱ってたり、呪われた魂は下手に狩れません。でも今なら意思が強く、それなりの魂になってる筈です。呪われた魂は専門家が来るそうですし。」

「…それに悪霊はタチが悪いんですよ。普段はそこまで力がないから騒ぎになることも少ないのですが、生者の魂を道連れにしようとしてきますから。」

「…神崎家には一応結界貼りましたけど…あたしも助っ人として行かなきゃならないんですよ。…大丈夫ですか?」

「魔力を司る選ばれし風よ!我を地獄の釜へ置いて行くというのか!」

「そんなぁ!ユズさん!こんな怖いところに置いていかないでください!」

「…てへっ☆」

ペロっと舌を出してごまかすと、ユズは逃げるように出て行ってしまった。

「ユズさあああああああああああああああああん!」

蘭子の悲鳴は霧と闇に飲まれただけだった。

710 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:29:11.08 ID:MUXmzIE50 [13/16]
道明寺歌鈴
職業:巫女
属性:平行世界のヘッポコ巫女
能力:破魔矢による退魔、式神操作、符の作成・使用

平行世界の妖怪が人類の敵となっている世界からうっかりやってきてしまった少女。それでも悪い妖怪しか退治しようとはしない。
大妖怪の転移術に巻き込まれたが、大妖怪よりも後の時間の世界にほんの少し前に来たばかり。
現代よりも科学がかなり発展していない世界から来たらしい。
まだまだひよっこ巫女なのだが、潜在能力を買われ、さらに家の名誉の為に怪我を負った両親の代わりに精鋭部隊にねじ込まれた。
破魔矢は魔に対して強力な威力を持っており、光を纏って飛ぶ。
矢は矢筒にいつの間にか補充されているらしい。先が尖っていないので、魔の者以外にはほぼ無効。
式神は基本的に折り紙で作ったものを使役する。炎を纏わせることも可能。
腰巾着は見た目よりも多めに物が入る術がかかった物。母親の手作りでとても大切にしている。中身は今のところ式神と符と携帯用の筆のみ。
筆に力を込めて墨なしで符を作ることができ、簡単な封印や浄化などができる。和紙を必要とするがある程度のストックはある模様。
取りあえず今は元の世界に帰る方法も探さないといけないと思っている。
呪文は「急々如律令」って言わせておけばいいってばっちゃが(ry

711 名前: ◆zvY2y1UzWw[saga sage] 投稿日:2013/08/11(日) 22:30:16.95 ID:MUXmzIE50 [14/16]
イベント「真夏の肝試し大作戦!」
・あずきの妖力と仁奈の厄がかなりの広範囲にばらまかれ、祟り場となりました。霧が漂い、全体的に暗い風景に…
・妖気で汚染された負のエネルギーにより魔族、妖怪、幽霊、精霊の類のテンションがおかしくなりやすく、一部は暴走してしまったようです
・妖気が満ちている為カースは生まれず小さな妖怪が生まれている模様
・基本的に妖怪は軽い悪戯程度の被害が多いですが、悪霊には気を付けて。…魂を連れていかれないように…ね?
・モブ死神とユズがこの機会に悪霊を狩る為、それなりに徘徊しています。運が良ければ助けてもらえるかも
・テレビ、電話等が使えない状態です。他に何が使えないかは不明
・歌鈴・あずき・仁奈が清めの符を貼って回っています。手伝うのも妨害するのもお好きにどうぞ
・涼さんがあずきを捜索中です
・また、人間の運気がかなりダウンしています。お気をつけて…

 

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最終更新:2019年04月27日 20:20