676 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:50:40.36 ID:zbiALpK30 [2/13]
『―――続いてのニュースです。今現在も緊迫している、通称「憤怒の街」について新たな動きがあったと見られます』
憤怒の街から、そう遠くない別の街。
その街の小さな通りにある一つの店、「アンティークショップ・ヘルメス」。
周りの建物から比べると少々古臭いつくりに見える店構えであり、尚且つ決まった日に開店している事は少ないため相当な物好きが店を開いているのであろう、というのが周辺住民の考えであった。
しかしそんな店構えに反して店長たる人物は若く、またそろえている品物も不思議な物ばかりであるためリピーターも一定人数存在している。
そんなアンティークショップの中庭に、店主である彼女の姿はあった。
「……ふぅ、今日も美味しいですわね」
グラマラスな肢体を強調するようなコルセットにスカート、そしてそれとは少々合わない銀細工の腕輪や首飾り・チェーンに繋がれた数々のアクセサリー類。
しかし、片手に紅茶が注がれたカップを持つその姿はどこか中世の上流貴族を思わせる気品に溢れている。
一口飲んだカップをテーブルに置き、傍らに置いてあった携帯端末を覗き込む。
677 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:52:43.35 ID:zbiALpK30 [3/13]
「……ふふ、星花も変わらないですわね。一度決めたことは絶対に曲げようとしない……確かにそういう子ですわ」
そこには、一般人ではまず知り得ることのできない情報。
―――日本有数の財閥である涼宮財閥、その当主の一人娘が家出したという旨の文が表示されていた。
「まぁ、変わらないという点ではあの子も同じですわね」
更に視線をテーブルの向かい側―――ほんの数刻前まで飲み手が居たであろうティーカップへと移す。
「何も知らない様でいながら、それでいて核心は見逃さない。間違いなくあの子も『榊原』の血筋なのでしょう」
置いた紅茶を再び手に取り一口。
それはいつの日からか奇妙な護衛を連れて歩いて、そして先刻友人の所に行くと言って別れた少女の事を思う。
「……本当なら、もう一人……『西園寺』であるあの子も居るはずでしたのに……やはり、見つかりませんわね」
678 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:53:32.98 ID:zbiALpK30 [4/13]
もう一啜り。
若干、顔に陰りを覗かせながら思うは、彼女たちと同じ『名家』である一人の少女の存在。
そして、更にもう一人。
「桃華も、どうやら今は違うらしいですわね…あの子とはいいお茶の話ができましたのに」
『西園寺』に取って代わった『櫻井』の令嬢にも思いを寄せる。
「皆が皆、それぞれの目的のために動いていますのね…」
クイッと、中身を全て飲み干したカップをテーブルに置く。
「ならば、私もまた動くべきなのでしょうね……そのためには」
すっと、席を立ち店内に戻る彼女。
「『相原』としてではなく、『雪乃』として私自身が戦う力があるか、今一度確かめねばなりませんわね」
そうして彼女―――相原雪乃は、そのままにわかに騒々しくなっていた店の外へと出て行った。
679 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:55:11.89 ID:zbiALpK30
[5/13]
―――店外、大通り。
「ニクイ…ネタマシイ……アンナヤツガオレヨリモ…」
そこには、一つの呪いが現れていた。
その内から負の叫び声を放ち、赴くままに害なす黒い呪い。
逃げ出す人々には目もくれず、ただただ破壊だけを繰り返す存在。
「ごきげんよう、嫉妬の呪い様」
「アァン?……ナンダオマエ」
そこに、まるで旧知の友人にでも挨拶するかのように雪乃が声をかけた。
「私、相原雪乃と申します……これから貴方様を討つ者の名ですわ」
「フザケヤガッテ……ヤッテミロヨオオ!」
そして次に発するは、毅然とした挑発。
680 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:56:00.53 ID:zbiALpK30
[6/13]
それを受けたカースは激情に身を任せるように震い上がり、雪乃に襲いかかる。
「…参ります!……破滅の枝―――《レーヴァテイン》よ!」
同時に、雪乃は数あるアクセサリーの中から一つを手に取りその名を呼ぶ。
次の瞬間には、僅かな赤い閃光と共に周囲一帯の気温を一瞬ではね上げるような熱量を持った、振るうだけで陽炎さえ生じる深紅のランスが雪乃の手に握られていた。
「クライヤガレ!」
泥の腕を振り回し、なぎ払おうとするのを雪乃はあえて正面からランスで受け止める。
普通ならば軽く弾き飛ばされても不思議ではない一撃を、しかし雪乃はしっかりと受けきっていた。
「《メギンギョルド》……装着者に怪力を授ける帯…これなら充分ですわね」
「ナンダト…」
「さぁ、次は私の番ですわ!」
受け止めていた腕を、ひと思いに押し返しがら空きの胴体にランスを叩きつける。
681 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:56:30.62 ID:zbiALpK30
[7/13]
それだけではなく、ランス自身が灼熱の炎を纏って触れたそばから焦がし、カースの体を灰に変えていく。
「ナニシヤガル!」
「逃がしは致しませんわ!」
慌てたようにカースが暴れ、雪乃を引き剥がす。
しかし一旦離れてもすぐに、今度は真っ直ぐに突き刺す。
それだけで、ランスは触れた瞬間に灰塵えと変えながらカースの内部へと入り込む。
「チョウシニ……ノッテンジャネェゾ!」
「!こんなこともできるのですね…」
そこに、業を煮やした様にカースの体から槍のように幾つもの触手が飛び出す。
それを避けながら雪乃は冷静に一旦距離をとり、
「ならば、私も次の手をお見せしましょう」
682 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:58:25.03 ID:zbiALpK30 [8/13]
「ならば、私も次の手をお見せしましょう」
ガキンッと音を立て、ランスが二つに割れ下がると共に内側から刃が飛び出る。
再びガキンッと音が鳴った時には、ランスは両刃の長剣へと変わっていた。
「焼き切らせていただきますわ!」
「ナンダトォ!?」
その長剣を、明らかに届かない距離で振り下ろすと同時にその軌跡をなぞる様に炎の刃が出現、カースの触手を切り裂きながら本体の一部をまた灰へと変える。
「動作は良好、違和感も無し…行けますわね」
一つ一つ、確認するように確かめながらも確実にカースを追い詰める。
既にカースの体の半分は灰となって風に飛ばされ、残った半分から飛び出す触手にも動きのキレはなくなっていた。
「そろそろ幕引きと致しましょう…私の傑作の力、見せて差し上げますわ!」
ガキンッと、更に音を立てたかと思えば今度は刃とランスであった部分が更に別れ、内側から紅い宝石のようなものが現れる。
そしてそれを中心に、先端に集まるように別れた部分がスライドして固定。
683 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 18:59:14.98 ID:zbiALpK30 [9/13]
再度音を立てた時には、剣から灼熱の炎を放つ杖へと姿を変えていた。
「破滅の枝……とある神話に語られるその形は、槍とも剣とも杖とも言われておりますわ」
「オレガ、コンナモノデェエ!!」
「ですから私は思いましたの。ならばそれは、そのすべての形を持っていたのではないかと」
カースに話しかけるように、雪乃は言葉を紡ぐ。
カースはそれを挑発と捉えたのか、それともこの後に起こる事態を予感したのか一気に触手を張り巡らせ襲いかかる。
「一点集中の槍、指向性の剣、そしてこれが最後の…」
杖を地面に叩きつける。
ただそれだけの動作で灼熱の炎が立ち上り、壁となって触手を阻む。
「―――放出の杖、ですわ!」
「バカn―――………」
一閃、炎の壁が膨れ上がりさながら洪水のようにカースを飲み込んだ。
―――カースは、最期の言葉を発することなく塵へと姿を変えたのだった。
684 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 19:00:13.90 ID:zbiALpK30 [10/13]
「ふぅ……年甲斐もなく熱くなってしまいましたわね」
レーヴァテインをアクセサリーに戻し、自らの行動を多少反省する。
―――戦場となった大通りは、あちこちが焼き焦げたり信号が溶けたりしてしまっていた。
「……まぁ、このくらいならばすぐに直せると考えておきましょう」
しかし深く考えるのはやめ、ゆったりと自らの店に戻ることにする。
「…ふふ、それに、家の反対を押し切ってまで作った甲斐はありましたわ」
今でも鮮明に感じ取れる炎の感触、雪乃自身が最高傑作とまで言い切った一品―――レーヴァテイン。
そして、それを作成した雪乃の正体、それは………
「…さぁ『軍事』の『相原』の本気、そして『錬金術師』である私自身の力、これからは存分に振るいましょう」
日本が誇る『四大名家』の一角、軍事を司る相原家の当主にして稀代の錬金術師でもある相原雪乃が、行動を開始する瞬間であった。
続く?
686 名前:@設定 ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 19:01:39.09 ID:zbiALpK30
[11/13]
「アンティークショップ『ヘルメス』」
相原雪乃が自らの作品を世に送り出す事が目的で開いた店。
作品といっても、主に観賞用・日常雑貨のマジックアイテムがほとんどである。
ただし店の奥には強力な物もあり、さらには錬金術の工房まで存在する。
決まった日に営業していなく、ほぼ趣味でやってる店でもある。
「四大名家」
相原・榊原・西園寺・涼宮の四つの家系のこと、古くから日本の行く末を守ってきた。
それぞれが軍事・教育・経済・政治を司っていたが、ある日西園寺が櫻井に取って代わられた。
それによってパワーバランスが崩れており、一時期は軍事以外は全て櫻井が手に入れてしまっていた。
現在は、櫻井が弱体化した隙をついてなんとかパワーバランスを回復させることに成功している。
「錬金術」
古くは化学の基盤ともなった、れっきとした学問。
現代では魔術・魔法と一部混同・融合されており、主にマジックアイテムを生み出す手段となっている。
しかし、それでも錬金術の最終目標とも言われる「賢者の石」の製作を成し遂げたものは存在しないらしい。
ちなみに結構材料費がかさむため、錬金術一本で食べていける人物はあまりいないとか。
「レーヴァテイン」
元々は北欧に語られる神話に出てくるアイテム。
その名は「破滅の枝」を意味する。
槍とも剣とも杖とも伝えられるが、雪乃は作成した際にこの三形態全てに切り替えられるようにした。
雪乃が作成したマジックアイテムの中でも最上級の出来であり、本人曰く「傑作」とのこと。
ちなみに制作費用は最低でも空母が一隻作れるレベルとかなんとか。
「メギンギョルズ」
北欧神話に語り継がれるアイテムの一つ。
元々は装着者に怪力を授ける帯であり、雪乃はそれを参考に紐として作った。
実は結構余ってたりする。
687 名前:@設定 ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 19:02:51.62 ID:zbiALpK30
[12/13]
相原雪乃
職業:相原家当主、兼「アンティークショップ『ヘルメス』」店主。
属性:錬金術師
詳細説明
日本を古くから支えてきた「四大名家」の家系である相原家の若き当主。
その年齢に反して、政治的・外交的手腕は目を見張るものがある。
また、相原家は主に「軍事」を統括する家系であり直接的な力を持つ分他の名家とは一線を画している。
その力は軍事関係だけで見れば国内に留まらずアジア地域、下手したら欧米諸国にさえ強い影響力をもっている。
実はサクライPが世界制覇目前まで行きながらも後一歩届かなかった遠因でもあるとかなんとか。
また有能な錬金術師でもあり、ことマジックアイテムの作成にかけては希代の天才とも呼ばれている。
688 名前: ◆UCaKi7reYU[saga] 投稿日:2013/08/11(日) 19:06:41.59 ID:zbiALpK30
[13/13]
情報
・アンティークショップ『ヘルメス』が登場しました、色々置いてあって売ってますよ!
という訳で投下終了です…なんか凄い事になったな…
とりあえず今まで温めてきたネタやらなんやらを一気に詰め込んでみました;
ちなみに時間軸はだいたい憤怒の街で翼竜が空から叩き落とされたぐらいです。
それではおめ汚し失礼しました。