えと…なんて言えばいいんだろう……?
…ある時期からこの世界の人たちは少し普通から外れてしまいました。
普通から外れてしまったっていうのは分かりにくいかな…?
異世界からの侵略者とか地球を守る戦隊ヒーローとか…後は異世界からやってきた勇者とかがやってきて…。
なんか剣と魔法の世界って言うとロマンがないかな…?
師匠は『沢山の世界と繋がってしまった弊害かもしれませんね~♪』
なんて気軽に言ってたけどこのことが私達の世界に与えた影響はとっても大きくてそして……。
それは私たちが『特別』では無くなったということでした。
「イヴさん!事務所の壁が吹っ飛んで大穴空いてるよ!」
私はパタパタと派手な足音を立てながら綺麗にまんまるにくり抜かれた事務所の壁から中に入ります。
…一体何したらこんなことになるんだろう…?
「昨日この辺で少し戦いでもあったみたいですねぇ~♪」
平然と事務所のソファーに深く腰掛けながらマグカップに口を付けてコーヒーを啜るイヴさん。
「…苦っ♪」
苦いなら素直にお砂糖入れればいいのに…。
「裕美ちゃんは大げさですねぇ~♪」
「昨日の夜とかにこの辺で侵略者とヒーローあたりが戦ってただけですよきっと~♪」
「も、もうっ!イヴさんは適当なんだから…」
辺りを見回してみますが特に事務所が荒らされた形跡もなく事務所の壁に円形に空いた壁以外にダメージはありませんでした。
「瓦礫が事務所の中まで散らばってたんですよ~?」
「片付けるの大変なんだから壊したらきちんと片付けて行って欲しいですよねぇ~」
そういう問題じゃないと思うよ?
「…この壁…どうしましょう…?」
私は呆然と事務所にまんまると空いた穴を見ながら呟きます。
「…裕美ちゃんなら出来ますよぉ~♪」
マグカップを両手で持ちながら笑顔でこちらを見てくるイブさん。
「…私がやるんですか…?」
「はい~♪」
「細かい制御は裕美ちゃんの十八番ですから~♪」
…ここまで信頼されてるなら…頑張ってみようかな…。
私は胸ポケットからボールペンを取り出します。
「み、見ててね!師匠!」
「はいっ♪」
私の中にある力の水溜りから両手で力を掬い上げるようなイメージ。
そしてボールペンの先に力を集中させる。
『元ある形に戻れっ!』
私はイヴさんが片付けたのか事務所の端に積み上げられていた瓦礫に力を集中。
瓦礫の欠片が、粒たちがそれぞれ意思を持ったように己が元居た位置に飛んでいきます。
「これで最後っ!」
最後の一欠片をパズルのピースのように壁に当てはめる。
『繋がりあえっ!』
ボールペンの先が一際眩しく光って壁に詰まった欠片同士が溶けるようにして繋がります。
「お見事ですぅ!流石私の一番弟子ですねぇ~♪」
イブさんが嬉しそうに両手をうちあわせます。
「…一番弟子も何も私しか弟子はいませんよね…?」
―
そう、私…『関裕美』と、そして私の師匠の『イヴ・サンタクロース』は魔法使いなのです。
「それにしても最近は魔法を堂々と使えて本当に便利ですよねぇ~♪」
ふよふよと私の前に宙に浮かんだマグカップがやってきます。
「…あんまり必要のないことに魔法を使うのは良くないと思うよ師匠……」
「師匠じゃなくてイブって呼んでくれないとせっかくコーヒー淹れてあげたのに下げちゃいますよ~?」
「す、すいません…イヴさん…」
私の手前まで飛んできたマグカップを丁寧に掴んで引き寄せる。
そしてボールペンで浮かんでいたマグカップの底の部分を突いて魔翌力を散らす。
「本当に裕美さんは魔力の扱いが器用ですよねぇ~♪」
「そ、そうかな…?」
少し照れます。
「でも私たち魔法使いは長年ひっそりと暮らしていたのに奇妙な話ですよねぇ~」
「…そうだね、世界が変わる前なら私たちは現代の魔女狩りにあってもおかしくない身分だったから…」
異星人や異能持ちや変身ヒロインが大手を振って闊歩する時代になって私たちの存在もちっぽけなものになってしまいました。
「とっても賑やかになりましたねぇ~♪」
事務所の壁が吹っ飛んでるのは賑やかってレベルじゃないと思うよ?
「どうせなら魔法使いっぽいでっかい杖とか持って全身黒ずくめになってみますかぁ~?」
「流石にそれは夏場暑そうだからいいかな…」
なんだか凄く蒸れそうです。
「……残念ですぅ…」
「大体このボールペン型の杖くれたのってイヴさんだよね…?」
「…違いますよぉ?」
「これは知り合いから裕美ちゃんへのプレゼントですよぉ?」
「それに私は元々杖は使いませんからぁ~♪」
初耳です。
「その知り合いの人って……?」
「裕美ちゃんもいつか会うかもしれませんねぇ~♪」
こんないいものを貰ってしまって申し訳ないです。
『主よ、私はそれどころではない』
事務所の奥からのそのそとやってくる白い塊。
『ブリッツェン!?』
恐ろしく堅い口調の鼻垂れトナカイ。
イヴさんの使い魔、『ブリッツェン』
使い魔としての魔力の影響でイブさんはもちろん同じく魔力を持つ私は会話のようなマネが出来ている。
昨日まで茶色だったブリッツェンの毛並みは真っ白になりまるで羊のようになっている。
『朝起きたらこのザマだ。事務所に開けられたその丸い穴とやらから入られたのだろう』
「…これはこれでアリな気がしますぅ~♪」
イヴさんはブリッツェンの真っ白になった毛並みにモフモフ。
『…裕美よ、仕事の時間だ』
『『イヴ非日常相談事務所』としてのな…』
ブリッツェンが怒ってる…表情が変わってないのに…恐い…。
『…私の相談も当然…受けてくれるだろう…?』
「ブリッツェンもふもふ~♪」
イヴさんは割りとどうでも良さげだけど…。
「…えっと犯人を捕まえてくればいいのかな…?」
『然り』
……えっと…。
「どうやって…?」
手がかりもなしに探すの…?
『窓の外を見てみろ』
…窓……?
―
『待て!ミッシェルフ・レイナ!』
『サマを付けなさいよ!サマを!』
『今日という今日こそ捕まえてやるぞ!』
『アンタにそれが出来るワケッ!』
―
「なんか凄くそれっぽいのが居るね…」
『どう見てもアレだろう』
「…イヴさん、箒借りてくね…?」
「どうぞぉ~♪」
やるしかないみたいです。
『意思持つ箒よ、力を貸して!』
箒の持ち主のように掴みどころのない動きをして私の手元に飛んできます。
とりあえず箒を使って空から二人を追いかけてみることにしようかな…。
「えっと…あれは変身ヒロインなんだよね…?」
私は空から恐ろしい速度で追いかけっこをする二人を見て呟きます。
『う、うわぁぁぁ! 俺のパンツが真っ黒に!』
『あ、洗った洗濯物が真っ黒になっちゃうなんて……! こ、これじゃあ世界中が不幸せになっちゃうよ……』
洗濯物くらいではならないと思います。
「えっと…これって悪さしてるうちに入るのかな…?」
「こういうのって乱入したら嫌がられちゃうパターンだよね…?」
「ど、どうしよう…」
これでも沢山の異能者や超人たちを見て来ました。
彼ら、彼女たちには暗黙の了解というやつが沢山あって地味にややこしいのです。
変身中は攻撃しちゃいけないとか。口上名乗ってる間とかも大人しくしてないといけなかったり…。
『輝け、アタシの正義の心!』
『パンツの柄が落ちて真っ白に!?』
…やりすぎちゃってるみたいです。よ、よしっ!
『元ある形に戻れっ!』
『パンツの柄が戻った…!?』
成功したみたいです。
―
『噴水の水にペンキを混ぜてやるわっ!』
『輝け、アタシの正義の心!』
『おい!噴水の水から柑橘系の匂いがするぞ!』
―
オ、オレンジジュースになってる!?
『水よ!清浄なる姿に還れ!』
『あれ、元に戻ってるぞ?』
ふ、ふぅ……。
―
『クーラーの設定を勝手に下げまくってやるわ!』
『輝け、アタシの正義の心!』
『なんか大量の植木鉢が置いてあるけどなんだこれ!?』
―
環境に配慮した結果!?何かズレてる気がするよっ!
『氷よ!寄り集まりて塊になれ!』
『なんだこの氷の塊…?今日はこれ出してるだけで涼しげだしクーラー切るか…』
―
『あの小悪党はまだ捕まらないのか?裕美』
「ごめんね?ブリッツェン…」
「も、もうちょっと……で終わるんじゃない……かな…?」
「た、多分…?」
『……』
そして私は今日も彼女たちのお節介を焼きながら勝負の決着が着くのを待っている。
END
最終更新:2013年06月26日 17:32