5スレ目>>528~>>540

528 : ◆EBFgUqOyPQ[sage] 投稿日:2013/08/07(水) 22:49:40.93 ID:Xn7R3ISMo [2/15]
「というわけで、貴女の部屋はここになります。でこれが鍵です」

アナスタシアはとあるアパートの一室の前で女性からその部屋のものであろう鍵を手渡されていた。

アーニャ「ダー、わかりました。よろしくおねがいします」

「こちらこそ、よろしくおねがいしますね」

女性はアーニャに微笑みながら言う。

「では私はこれで。私は代理ですから、本当の管理人さんは都合がついたら紹介しますね~。ちなみになかなか面倒くさい人ですから覚悟しておいてください♪」

女性はアーニャに背を向けて階段を下りて行こうとしたが階段を下る音が途中で止まった。

「あらあら?文香さんじゃあありませんか。こんにちは~」

「……どうも、こんにちは。茄子さん」

アーニャはその会話が聞こえてきた階段へ覗くように顔を出した。
そこには先ほどの代理管理人、鷹富士茄子ともう一人、瞳まで伸びた前髪にゆったりした服を着た女性が階段半ばくらいにいた。

下の方にいた、文香と呼ばれた女性がアーニャの存在に気づいたのか、隠れて視線の先が読みにくい目をアーニャの方へと向けた。

文香「……あの人は」

茄子「今日から入居したアナスタシアちゃんですよ」

茄子はアーニャの方へと視線を向けながら言う。
角から顔だけ出しているというのは失礼なのでアーニャは階段を下りていき茄子のとなりまで来る。

アーニャ「……オーチン プリヤートナ……あ、はじめまして、アナスタシアです」

文香「……はじめまして?鷺沢文香です」

なぜか軽く首をかしげながら自己紹介を文香はする。
それにアーニャも少し疑問に思い軽く首をかしげる。
なぜかお互いに首をかしげている状況に茄子も微笑みながらもつられて首をかしげる。

すこし沈黙が続いたがそれを茄子が破る。

茄子「そういえば文香さん今日はどういった用事ですか?Пさんは今日は出かけてるんですけど」

文香「……いえ、今日は大した用事ではないんです。ちょっとしたことなんで……」

文香は手に持った紙袋を少し前に出す。

529 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:50:43.52 ID:Xn7R3ISMo [3/15]
文香「……羊羹です。Пさんと一緒に食べてください。ああ……アナスタシアさんにも分けてあげてください」

茄子「これはどうも~。で用事というのは?」

文香「アナスタシアさんには申し訳ないのですが……できれば二人で話したいのです」

茄子「わかりました♪え~と、じゃあアーニャちゃんは……」

文香「いえ、少しアナスタシアさんとも話をしてみたいので。……これから、予定がないのなら少し、待っていてくれますか?」

アーニャ「ダー……問題ないです。待ってますね」

茄子「わかりました。じゃあ管理人室へ行きましょうか~」

茄子は文香の手を引いて階段を下りていく。
アーニャはその後に続いて階段を下りていき地面に着いたところで立ち止まり、そこで待つことにした。
二人は一階の管理人室へと入っていった。

その後、5分も経たないうちに文香は出てきた。
扉からは茄子が顔をのぞかせてアーニャに手を振っている。

文香「……お待たせしました。せっかくなのでこの辺りを少し歩きながら、話しませんか?」

アーニャ「ニェート……いいえ、ほとんど待ってませんよ。じゃあ、少し歩きましょう」

二人は話をするはずだったのになぜか無言のまま街の中を歩いていく。
人通りが全くないわけではないが、ちらほらと見かける人が静かに歩いている。

文香「あ……ここでさっきの羊羹を買ったんです。ここの和菓子……おいしいんですよ」

とある和菓子屋の前で文香が沈黙を破る。

アーニャ「なるほど……覚えておきましょう」

そう言いながら軽く店内を覗き込むアーニャを文香はじっと見ている。

530 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:51:46.99 ID:Xn7R3ISMo [4/15]
文香「日本には……慣れましたか?」

それを聞いたアーニャはすこし警戒しながら和菓子屋の店内から文香の方へ振り向いた。
文香はアーニャから視線を外しそのまま歩を進める。
アーニャは文香の少し後を着いていく。

アーニャ「ヤー……私が、日本に来て間もないことを、知っているのですか?」

文香「……新しい入居者だとか、日本語に慣れていないとかで、予想はできるでしょう?」

アーニャ「ニェート……いえ、それに、初対面の外国人に、『日本に慣れたか?』などとは、あまり聞かないでしょう。……しばらく付き合いがあった後に、聞くことのはずです」

文香は立ち止まって後ろにいたアーニャの方へと振り返る。

文香「……さすがですね。……確かに、私は、貴女を知っています。いえ、識っている……ですね」

アーニャ「知っている?」

文香「……ええ、貴女は私を知らないでしょうけど、私は貴女を識っているんです」

その言葉にアーニャはさらに警戒する。

文香「……ああ、身構えないでください。私に……敵意はないです。あなたを知っている理由は、頼まれたからなんです」

アーニャ「ブィール スプロースィヌ?……頼まれた?」

文香「……はい、あなたについて調べるように頼まれたのです」

アーニャ「……いったい……誰に?」

文香「……塩見周子さん、ご存知ですよね」

その名前が出てきて、アーニャは納得がいったのか警戒を少し解く。
その様子に文香も安心したのか少し息を吐いた。

アーニャ「周子さんに、頼まれたのですか?」

文香「……正確には、周子さんが、ある人に頼んで、その人が私に頼んだのです。……私は叔父の古書店の手伝いをしているのですが、そこにたまにお客としてやってくる人なんです」

アーニャ「……なるほど、そういうことだったのですか。プラシチー……すみませんでした」

文香「……いえ、気にしないでください」


531 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:53:01.20 ID:Xn7R3ISMo [5/15]
アーニャは警戒を解いて、文香の隣まで行く。
文香もそのまま歩き出し、横並びで再び進みだした。

アーニャ「ところで……どうやって私のことを調べたのですか?話を聞く限りではただの古書店員が調べられるようなことではない気がするのですが」

文香はちらりとアーニャの目を見た後に、肩にかけていた地味な色合いのショルダーバッグから一冊の本を取り出した。

文香「……これを、見てみてください」

文香はその本をアーニャに手渡す。
言われたとおりにアーニャは本を開くが、怪訝な顔をして、パラパラとページをめくっていき、そのまま背表紙までたどり着いてしまった。

アーニャ「パストーィ……白紙ですね。落丁ではないでしょうし。……よく見れば表紙にも何も書かれていない。本であるのに、文字が見当たりません」

アーニャはその本をそのまま文香に返す。
受け取った文香はその本を半ばあたりから開く。

文香「……私には、いろいろなことが書いてあるのが見えます。この本は……私だけが読めるのです」

文香はその本を先ほどまでしまってあったバッグに戻す。

文香「……アカシックレコード、というものを……ご存知ですか?」

アーニャ「ニェ ズナーユ……わからないです。教養には疎いもので」

文香「……ざっくりと言ってしまえば、この世のすべてが書かれているんです。アカシックレコードには、この世、いや、すべての世のことがそこには記されています。すべての人の歴史が、一字一句、過去から未来。……神羅万象、一切合財、書かれている。らしいものです」

アーニャ「……らしい、ですか?」

文香「……はい。実際に試したことはないので。要するに私は、そのアカシックレコードの読み手なのです。これを使って、アナスタシアさんについての過去を、すべて調べさせてもらいました」

それを聞いたアーニャは苦い顔をする。

アーニャ「……私自身でさえ、知らないことまでも含めて、自分を知られるというのは、余り心地のいい物ではありません」

文香「それについては……謝罪します」

文香は足を止めてアーニャの方を向いて頭を下げる。

アーニャ「ニェ ヴァルヌーィチェシ……気にしないでください。そのおかげで、私が得られたものもあったので」

文香「……そう言ってくれるのであれば、こんな力をもった私でも、救われます」

アーニャは文香が頭を上げたのを確認した後、再び歩き出す。
それに続いて文香も半歩後ろを歩き出した。

532 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:54:08.56 ID:Xn7R3ISMo [6/15]
アーニャ「……そういえば、そのアカシック、レコードというのは、何でも知れるのですか?」

文香「はい……、多分世界の終わりから、今日のあなたの朝食まで、すべて識ることができると思います」

アーニャ「ンー……では、今日私と出会うことも、知っていたのですか?」

文香「いえ……私は、未来は読まないので……今日出会ったことは、本当に偶然です。いや、偶然ではないのかもしれないけれど……」

アーニャ「未来は……読まない?便利そうな力なのに……なぜ?」

文香の前を歩くアーニャに、後ろの様子はわからない。
並び茂る街路樹の影は二人を飲み込んでいる。

文香「……アナスタシアさんは、シュレディンガーの猫、というのを知っていますか?」

アーニャ「コート……猫なら知っていますが……」

文香「……猫を知らない人を探す方が大変ですよ。シュレディンガーの猫というのは物理学者のシュレディンガーが提唱した量子論における思考実験です。……最近では関係ないところで有名ですね」

アーニャ「……難しそうな言葉ですね」

アーニャはよくわかっていないようだが、文香は続ける。

文香「……要するに、箱の中に猫と、50%で発動する致死性の毒ガス発生装置を一緒に入れておくのです。その時、箱の中の猫は生きているか死んでいるか、という実験なのです」

アーニャ「なんだか……科学っぽくないですね」

文香「思考実験ですからね。……アナスタシアさん、箱の中の猫は生きているでしょうか?死んでいるでしょうか?」

アーニャ「それは……透明な箱でない限り、開けるまで、わかりません」

文香「……そうですね。箱を開けるまでは猫は、生きているかもしれないし、死んでいるかもしれない。どちらの可能性もあるわけです。……本来ならばここから量子論についての考え方に進んでいくのですが、今は少し、違う使い方をします」

突然、建物の間から二匹の猫が飛び出してきた。その猫はアーニャの後方へ向かって走って行った。
アーニャはそれを目で追うと、後ろにいた文香の目と合う。
文香は合った目を外して歩きは止めずにそのままアーニャの前へと出た。
気が付けば猫はもう姿が見えなくなっていた。

文香「……アナスタシアさんは、箱の中の猫には、生きていてほしいですか?死んでいてほしいですか?」

533 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:55:10.08 ID:Xn7R3ISMo [7/15]
アーニャは振り向いた顔を戻して、少し顔を下に向けながら、歩き出す。

アーニャ「……私は、生きていてほしいです。私が言えることかは、わかりませんが」

文香「そうですか……つまり私は、その箱を開けずに、開けるという動作を行わずに、猫が生きているのか死んでいるのかを判断できるというわけです」

前を歩いていても、後ろを歩いていても、文香の表情はアーニャには見えない。

文香「……だからこそ見ないのです。未来は。結果をはっきりさせるよりも……私は、生きている可能性のままの方が、好きですから。……いや、正確には、猫が死んでいた場合のことを考えると、箱の中身を見るのが怖くなるからだと思います。……可能性にすがるのは建前です。私は……ただ怖いのですよ」

雲の動きでひと時太陽が遮られる。
雲が退いたとき、ちょうど街路樹の途切れた場所にいたアーニャは差し込む光をまぶしく感じる。
それに対して、そのことに気づかずに文香は街路樹の下で足を止めない。

アーニャ「ィエーシェ……なら、怖いのなら、その本を、捨ててしまえばよくないですか?」

そんなアーニャの言葉に文香は振り向いて、ずっと一直線だった口角を少しだけ上げた。

文香「……もう試しました。でもこの本は燃えませんし、勝手に手元に戻ってきます。それに、この本に怖いという感情だけを抱いているわけではないです。……自分に関係のない過去を読むのは、悪趣味だと思うかもしれませんが、少し楽しいですし、たまに役に立ったりしますしね。あなたの名前を知ったように」

アーニャ「ヤー……私の……名前」

文香「私のこの本が……あなたの可能性になれたと思うことは、少しばかり、傲慢ですかね?」

文香は少し自虐的に言う。

続いてきた街路樹は途切れて日は真上に上ってきていることがわかる。


534 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:56:06.52 ID:Xn7R3ISMo [8/15]
アーニャ「ニェート……そんなことは、絶対にないです。私は、あなたに感謝しています」

文香「……それは、うれしいですね。ですが、あの人、志乃さんになら、あなたのことを調べる手段は他にあったはずだと思います。それなのに、私に頼んでくれた。……だから、期待に応えたくなった。感謝されたくて、あなたのことを調べたと思います。それでも」

アーニャ「……そこまでです。それは自然なことです。……スパシーバ、ありがとう。この言葉はあなたがもらっていい言葉ですよ」

その言葉に文香は少しだけ目を見開いて、沈黙する。
そして、目にかかった前髪を軽く上げて

文香「……どういたしまして」

目を合わせてしっかりとした笑顔でそう言った。


535 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:56:49.45 ID:Xn7R3ISMo [9/15]
しかしその直後、人の本能に警戒を語り掛けるようなサイレンがあたりに鳴り響く。

文香「……緊急避難勧告の、サイレンですね。近くで何かあったのかもしれません。避難場所へ行きましょう」

文香はアーニャの手を取って、避難場所へと向かおうとする。
しかし、アーニャは動こうとはしない。

アーニャ「……私には、柄じゃないかもしれません。でも、私でも箱の中の猫を救うことはできるかもしれません」

それを聞いて文香はアーニャから手を放す。
そしてショルダーバッグに入っていた白紙の本を取り出した。

文香「……その可能性が、あなたの最善の可能性であることを、私は祈ります。……場所は二つ先の交差点を右に曲がった次の交差点の通り。複数体のカースがいます」

アーニャ「……ありがとう、ございます」

文香「……では、気を付けて」

その言葉を背に受けてアーニャは走り出した。
部隊当時で100メートル8秒フラットをたたき出した脚によって文香との距離は空いていく。
そして交差点を右折したところで文香からはアーニャが見えなくなった。


536 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:57:31.60 ID:Xn7R3ISMo [10/15]

 

 

突如現れたカースによって、その通りは恐怖に包まれていた。

『モットヨコセコラアァァーーーー!!!』

カースは周囲の店を破壊し、店内のものを触手で掠め取って次々吸収していく。
人々はカースに背を向けるようにして逃げていく。

「ああっ!」

しかし小さな女の子が転んでしまい、膝をすりむいてしまったのかその場で泣き出してしまった。
その様子に気づいたのかカースが女の子に近づいていく。
それに続いてその子の母親らしき人が少し離れた後方で、娘が止まっていることにようやく気付いた。
母親は娘の元へと向かおうとするが気づいたのが遅く、距離が空いている。カースがたどり着く方が確実に速いだろう。

カースが女の子の目の前まで来てそのままのみ込もうとする。
女の子は泣き叫びながら目をつむってのまれるのを待つだけだった。

しかしその瞬間、アーニャが転がり込むようにその間に入って女の子を抱え上げてカースから離れていく。
そしてそのまま母親の元までたどり着いた。


537 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 22:58:35.07 ID:Xn7R3ISMo [11/15]
アーニャ「フシエー フ パリヤートキエ……もう、大丈夫」

アーニャはそう言って女の子の擦りむいた膝に手を当てると、その傷は一瞬で治った。

「ああっ、ありがとうございます!」

母親は女の子を抱きながら礼を言う。

アーニャ「……早く逃げてください。ここは私が食い止めるので」

その言葉を聞いて母親は女の子の手を引いて逃げていく。
カースも逃げていくのに気付いたのか追おうとするが、そこにアーニャが立ちふさがった。

アーニャ「……ここを通りたければ、私を倒していけ、です」

『フ、フザケンジャネエゾオラァーーー!』

カースは触手をアーニャに向かって放つ。
しかしアーニャはその向かってくる触手に向かって走り出してその間を縫うように前進していく。

アーニャ「この間のより……速くもないし、威力もないです」

あっという間にカースの懐までたどり着いて、カースの核を掴み取るためにカースへと手を差し込んだ。

『オマエモオレノモノニシテヤロウカァーー!』

しかしアーニャの手には手ごたえは感じずに、逆に腕を引き込まれていく。
それを感じ取ったアーニャは腕を引き抜いて、カースに背を向け後ろへと下がろうとする。

カースは伸ばしていた触手でアーニャを捕まえようとするがそれさえも、紙一重で避けられる。
本体もアーニャを追っていくが、カースが追ってくるのを確認したアーニャは近くにあった電柱に向かって走る。

そしてそのまま電柱を駆け上がり、ある程度の高さから宙返りをしながら、カースに前後があるのかは謎だが、カースの背後に着地した。
カースはアーニャが頭上を通って行ったことに反応ができずにそのまま電柱へと衝突した。

アーニャ「……核は、真ん中にあるとは限らないのですか。なら」

538 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 23:00:02.96 ID:Xn7R3ISMo [12/15]
アーニャは転がっていたカースの攻撃によって壊されたと思われるパイプ状のガードレールの破片を手に取った。

アーニャ「これで……十分です」

『コシャクナマネヲテメェーーー!』

電柱にぶつかっていたカースが再びアーニャに触手を伸ばしてくる。
しかしアーニャはその触手さえ躱して、よけきれない触手は手に持っていたガードレールで弾いた。

その衝撃でガードレールは少し歪むがそれを気にせず、がら空きであるカースの懐まで接近。

アーニャ「……甘い」

手に持ったガードレールで切り裂くというよりも、暴力的に、強引にカースの体を引き裂いた。

『クソガァ―――!』

それでもカースはすぐにその裂かれた断面を修復して元に戻ろうとするが

アーニャ「……だから、遅いです」

体を引き裂かれたことによって内部の核がその断面の浅いところに露出したのをアーニャは見逃さなかった。
そこに鋭い蹴りを入れて、脚を振リ抜く。
そのままカースの核はヒビが入り、ガラス球を砕くようにあっけなく崩壊した。

アーニャは手に持ったガードレールを放り棄てる。
それを合図にカースの泥の体は崩れるように消えていった。

539 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 23:01:01.59 ID:Xn7R3ISMo [13/15]
アーニャ「……まさか、律儀に待っていたんですか?」

カースの残骸の方からアーニャは振り向くと、そこにはさらに複数体のカースがいた。

アーニャ「……数は多いと、少し、厳しいかもしれませんね」

そう言いながらもアーニャはカースの方へと行こうとしたが

アーニャ「シトー?……なんですか、これは?」

気が付くと足元には黒い水たまりが広がっていた。その水たまりは粘性を帯びていて、アーニャの足をしっかりと捕えている。
そして水たまりが膨らんでいく。

『メンドクセェ……ダカラズットマッテタゼー……」

アーニャ「……下水に、潜んでいたとは」

動けないアーニャに影がかかる。
それに気づいたアーニャは上方を見ると2体のカースがこちらに向かって飛び上がってきていた。

アーニャ「……くっ、跳ぶとか、聞いてませんよ」

そのカースはそのまま動けないアーニャにのしかかり体内へと取りこむ。

アーニャ(どうにか、脱出しないと……)

しかし完全に不意を突かれ、さらに殺傷能力を伴わない捕縛する攻撃は圧倒的に相性が悪かった。
前のように殺傷能力に特化している方がアーニャの能力を最大に発揮できるからだ。

アーニャは思考を巡らせるが、カースの体を構成する泥は動きを奪う。
さらに呼吸もできないので脳に酸素も行き渡らなくなり、思考が鈍る。

アーニャ(……こんな、ところで……)

もはや絶体絶命かと思われた。

 


540 : ◆EBFgUqOyPQ[sage saga] 投稿日:2013/08/07(水) 23:01:36.43 ID:Xn7R3ISMo [14/15]


がしかし突如アーニャを捕縛していたカースが塵となった。
アーニャの体は傷ついたアスファルトに落ちる。
酸素が足らず意識が朦朧とする中、誰かの話し声が聞こえる。

「核が中の人の影になってなくてよかったわ」

「まったくバイトの帰りに迷惑な奴らだにゃ」

「……ええ、今日は迎えに行って正解だったわ。こうも数が多いとさすがに一人じゃ大変でしょうしね」

「さて、お腹も空いてきたことだし、さっさと片付けて帰るにゃあ」

「ちなみに今日の晩御飯は、魚よ」

「え……ひどくない」

そんな声を聴きながら、アーニャは気を失った。

 

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最終更新:2019年04月24日 23:55