5スレ目>>215~>>241

215 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:19:13.77 ID:6X7TjIiTo [1/28]
投下しちゃうぜー


前回までのあらすじ

「カピバラを仕留めるのはしばらくお預けナリ」

参考
>>5 (美穂と肇)

216 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:20:10.29 ID:6X7TjIiTo [2/28]

『続いてはこのコーナー!』

『《直撃!アナタの街のヒーロー!》』


『本日はなんと!元アイドルヒーローで!』
『現在はフリーのヒーローとしてご活躍されている!セイラさんに来ていただいてます!』

『テレビの前の皆こんにちはっ、セイラだよ。』


『お久しぶりです、セイラさん。』

『本当に久しぶりだねえ』


『アイドルヒーロー時代はこの番組にもよく来ていただいたのを覚えてます。』
『あ、いま丁度その頃の映像も流れてますね。』

『わぁ、懐かしいなぁ・・・ってちょっと!こんな映像まで残ってるんですか?』


『セイラさんがアイドルヒーローを止められた時は、世間でも結構話題になりましたよね。』
『フリーのヒーローに転身される何かきっかけみたいな物はあったのでしょうか?』

『うーん、理由と言うと、やっぱり・・・・・・心境の変化ですかね』


『心境の変化ですか(笑)』

『心境の変化です(笑)。』
『最近は特にですけど、ヒーローの活躍の場はどんどん増えてますよね。』
『だから色々挑戦してみたくなって、アイドルヒーローのままだと出来ないちょっと無茶な事もやりたかったと言うか。』


『事務所には怒られませんでした?』

『めちゃくちゃ怒られました(笑)』

――会場笑――


『でも、その時のプロデューサーには今の活動も応援して貰えてるんですよ。』
『フリーになっても付いてきてくれるファンも居たりして、それが今は励みになってます』

217 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:22:00.79 ID:6X7TjIiTo [3/28]
――

美穂「そっかぁ、セイラさん。アイドルやめても、ずっとヒーローやってたんだ。」


カリスマアイドルヒーロー、セイラ。

以前はテレビでもよく見かけ、彼女の事は美穂も応援していた。

アイドルヒーローをやめると聞いた時は、すごく残念だったものだ。


美穂「・・・・・・アイドルヒーローかぁ。」


お昼のTV番組を見ながら、美穂は考える。

アイドルヒーローと言うものについて。


アイドルヒーロー、歌って踊って戦える女の子の憧れ。

蝶のように可憐に舞い、重機関砲のように豪快に敵を討つ。

その愛らしい勇姿に、誰もが好感を抱き、勇気を貰う。


彼女達のまばゆい笑顔は、この時代において人々の希望の象徴なのだ。


卯月ちゃんの話では、アイドルヒーローは、

近年の小学生~高校生までの将来の夢のアンケートで、ずっと堂々の1位に輝いてるらしい。


美穂「アイドル・・・・・・なってみたいなぁ」


それは美穂にとっても同じで、ずっとずっと憧れていたことだった。

218 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:23:14.40 ID:6X7TjIiTo [4/28]

美穂は手元にあった『小春日和』を、引き寄せて、

ギュッと抱きしめる。

美穂「ヒヨちゃんなら、アイドルヒーローもきっと上手くできるんだろうね。」


ヒヨちゃんとは『小春日和』のことである。

日和からとってヒヨちゃんだ。

ちなみに美穂にとっての、ヒヨちゃんとは、

彼女の中の『小春日和』から生まれた人格、『ひなたん星人』の事も指している。


ヒヨちゃんこと、『ひなたん星人』は小日向美穂の”ヒーローに憧れる意思”をベースに作られた人格だ。

色んな面で、過剰な性格ではあるが、そんな彼女ならうまくアイドルヒーローだってできるであろう。


美穂「・・・・・・。」

美穂「えいっ」


唐突に『小春日和』を抜いてみる美穂。

瞬間、彼女は華麗な衣装に包まれ、

その表情は笑顔・・・・・・と言うか獰猛な笑みに変わる。

219 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:23:56.59 ID:6X7TjIiTo [5/28]

美穂「はーっはっはっはっはっはっ!」

美穂「愛と正義のはにかみ侵略者ひなたん星人!!」

美穂「この街はまるごとつるっとぜーんぶ!私の」


「美穂ー!!お昼から大きな声で騒がないのっ!!!」

美穂「ひっ!ご、ごめんなさいナリっ!」

別室から聞こえたお叱りの声に慌てて刀を納めるひなたん星人。

けど、叱る母の声の方が絶対声大きかったと思う。


美穂「怒られちゃったね。」

美穂のアホ毛が申し訳無さそうに少し萎れる。


反転状態で家に帰った時は、娘の乱心にさぞ面喰った両親であったが、今では随分と慣れたものだ。


『小春日和』と美穂の関係にしても、肇が小日向家に来た日に説明を終えてしまっている。

娘が(半ば強制的に)ヒーローとして活動してると聞いて、心配した両親であったが、

美穂が前からアイドルヒーローに憧れていたのも知っていたし、肇の説得もあってか、どうにか納得してもらえたようであった。

こんな物騒な時代であるし、年頃の娘が何も自衛手段を持ってないよりは、むしろ安全ではないかといったところだ。

220 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:24:51.55 ID:6X7TjIiTo [6/28]

ところで肇の話だが、

現在、彼女は小日向家に居候中に身である。

「肇さんは今はどちらにお住まいに?」と美穂の家族と談笑中に聞かれ、

「すぐ近くの川原ですよ。」と普通に答えたのには、一瞬、場が凍りついた。

ずっと鬼の里暮らしてきた肇は、時折、世間様と言うものと考え方がズレてる事がある。

本人曰く、鬼のまじないと後は水場があれば、何処でも快適に過ごせるらしいが。

でも流石に年頃の娘が野宿はアカンやろ・・・・・・。


と言う訳で、不憫に思った小日向夫妻に空いていた部屋を貸してもらい、

そこを拠点に現在バイト探し中であった。


今朝も「今日こそ、お仕事見つけてきます!」と気合を入れて出掛けていったのを思い出す。

「今日こそ」と強調していたのが、なんだか不吉だが。


美穂「肇ちゃん、真面目なのにどうしてお仕事見つからないんだろうね?」

「さぁ?」と言わんばかりに、彼女のアホ毛も?マークを浮かべた。

221 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:25:39.35 ID:6X7TjIiTo [7/28]

再びテレビを見入る美穂。


『セイラさんにとって、アイドルヒーローとはどのようなものでしたか?』

『そうですねぇ、ヒーローの活動を見世物にする事には若干の批判の声もあるみたいですが、
でも、その反面メディアを通して、多くの人にヒーロー活動を見てもらう事で、

「あなたの傍には、あなたの笑顔を守ってくれる人がこんなにもたくさんいる。」
そんな大事な事を伝えられる素敵な職業だったと思います。』


TVの前でうんうん、と頷く美穂。


『いやあ、カッコイイですねぇ』

『もう、茶化さないで下さい(笑)』

――会場笑――

『しかし我々もまた、こうしてヒーロー達の活躍を放送することで、
皆さんを守る人たちの事を伝える、ささやかなお手伝いできることを誇りに思っていますよ。

おっと、お時間が来てしまったようですね。
《直撃!アナタの街のヒーロー!》のコーナー、本日はセイラさんにお越し頂きました。』

『次のコーナーは《ウサコと亜里沙のヒーロー指南教室!》ですよ。チャンネルはそのまま!』

 

美穂「セイラさんみたいにカッコイイ、アイドルヒーローになれたらなぁ。」

再び呟く美穂。

美穂「だけど・・・・・・うーん。」


難しい顔で悩み始める美穂。


そんな時、アホ毛がぴこぴこ動き始める。


美穂「カースの気配?近所かな?」

『小春日和』が近くにカースの気配を感じ取ったようだ。

『ひなたん星人』の出動である。


美穂「お母さん、ちょっと出かけて来る!」

「気をつけるのよー。」

222 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:26:37.88 ID:6X7TjIiTo [8/28]

――省略――

 

美穂「あ~っはっはっはっはっは!」

カース『ダレダ!?』

美穂「私は愛と正義とのはにかみ侵略者ひなたん星人ナリ!」

美穂「この街はまるごとつるっとぜ~んぶ(略

 

――省略――

 

美穂「ラブリージャスティスひなたんクライシスッ!!」

カース『ギエピー!』

 

――省略――

 

美穂「は~はっはっはっはっは!これにて一件落着ナリ♪」

美穂「今日もまるごとつるっとぜ~んぶ!守ってみせたひなたっ☆」 キャピピーン

 

―以上、本日もひなたん星人、大☆活☆躍!!!―

 


カースを退治した少女は刀を納める。

「ひなたん星人ありがとー!」

美穂「・・・・・・ど、どどういたしまして!」

このやり取りも慣れたが、

やはりまだ恥かしさは如何ともしがたく

そそくさとその場を去る美穂であった。

223 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:27:15.71 ID:6X7TjIiTo [9/28]

家路を辿る美穂。

その表情は芳しくない。

美穂「・・・・・・はぁ。」

無意識に溜息が漏れてしまう。


現在、彼女にはある悩みがあった。


自分の持つ力についての悩みだ。


目を瞑り、少し俯いてずっと考え込むようにしながら、とぼとぼと歩く。

 

そんな風だったから、

背後で大きな影が盛り上がろうとしているのにも、気づかなかったのかもしれない。

アホ毛が忙しなく揺れ動くが、それでも美穂は気づかない。


影から大きな手が生まれ、

美穂に迫り、


パァァン、と鋭い銃声が響く。


美穂「えっ?」


その音で、後ろを振り向いた彼女は、

巨大なドス黒い獣が崩れ落ちる姿をみて、

ようやく自分が、カースに狙われていた事に気づいた。


「ダメだよ?ヒーローが油断してたら。」

224 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:28:01.01 ID:6X7TjIiTo [10/28]

「それに、表情が暗いのもよくないかな。」


見た事も無い銃を手に持った、女性が声を掛けて来た。

どうやら彼女が美穂を助けてくれたらしい。

美穂「あ、ありがとうございま・・・・・・えっ。」


美穂「ええっ!?!」


自分の事を助けてくれた人を見て二度、驚く美穂。


美穂「う、うそ!?」


信じられないことであった。

そのくらい”まさか”の奇跡。


美穂「せ、セイラさん?!」


聖來「あっ、しまった。」


テレビの中でしか見ることの無かった憧れの人が、目の前に居た。

225 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:28:32.00 ID:6X7TjIiTo [11/28]

聖來「咄嗟の事だったから、ついウッカリしてたよー。」


銃を撃つために、頭にずらしていたサングラスを掛けなおす聖來。

途端に彼女の存在感が薄くなる。


聖來「普段は、こんな風に正体を隠して活動してるの。」


サングラス一つで隠せる正体などあったものかと、普通なら思うところだが。

実際に、彼女の顔がおぼろげになっているので、

どうやら普通のサングラスではない、そう言う類のアイテムらしい。


聖來「けれど、まあバレちゃったから意味無いけどね。」

そう言って、元カリスマアイドルヒーローは悪戯っぽく笑った。


美穂「え、えええええと、せ、セイラさんがど、どどどどどうしてここんなとところに?!」

聖來(どうしよう。何言ってるか全然分からない・・・・・・。)

聖來「そうだね、一旦落ち着こっか。ちょっと付いてきてくれるかな?」

226 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:29:21.59 ID:6X7TjIiTo [12/28]

――

――

美穂の家のすぐ近く。毎度おなじみ、『万年桜』の公園。いつものベンチ。


聖來に手を引かれ、訳も分からずほいほい付いて来た美穂であった。

憧れの(元)アイドルヒーローに、ここまで少し強引に連れてこられ、

心臓は弾けて何処かに飛んでいってしまいそうなくらいドキドキしている。


聖來「急にごめんね。時間大丈夫だったかな?」

美穂「えっ?!あっ、ひゃいっ!大丈夫ですっ!?」

聖來「コーヒーとお茶、どっちがいい?」

美穂「お、おおおおひゃで!」

美穂(噛んじゃった・・・・・・)

聖來「お茶ね。はい。」


聖來は手に持っていた、ペットボトルを片方、美穂に手渡す。

そこの自販機で購入したものだ。

美穂「あ、ああありがとうございます!」

聖來「いいよ気にしなくて。それよりまだ硬いね?ほらほら、飲んで飲んで。」

美穂「い、いただきますっ!」


促されて、んくっ、んくっと、聖來から貰ったお茶を飲む。

美穂「ぷはっ」

聖來「いい飲みっぷりだね。」


美穂(お茶を飲んで、なんだか落ち着けた気がする)

今ならきっと、ちゃんと喋れるだろう。

美穂(よしっ!)


美穂「あ、あああああのっ、せせセイラさんっ!」

美穂(はい、全然ダメでした。)

227 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:30:11.39 ID:6X7TjIiTo [13/28]

美穂「えっと!あの!その!ご、ごめんなさい!」

美穂「な、なんだか混乱のあまり頭の中がそのっ!うまくまとまらなくって!」

聖來「じゃあ、深呼吸してみよっか。」

美穂「すぅー・・・・・・すぅー・・・・・・すぅー」

聖來「待って、それ息吸いすぎだから!吐いて吐いて!」

美穂「はっ、はぁー!」

今度こそ本当に落ち着けたと思う、たぶん


美穂「あ、あの!ずずっと憧れてて!!ファンでしたっ!!」

聖來「そっか、嬉しいな。ありがとっ♪」

美穂(よ、良かった、言えたぁ!)


美穂「って違っ!そうじゃなくてっ!」

美穂「あ、いや、違うくはないんですけどっ!ファンなのは本当ですっ!」

美穂「な、何言ってるんだろ、私っ?!」

美穂「え、えっと、せ、セイラさんはどうしてここに居るんですか!?」

美穂「さ、さっきまでテレビに映ってたのに!」

聖來「ん?」


美穂の言葉に少しだけ考えて、気づく聖來。


聖來「あっ!あははっ!あの番組は収録だよ」

美穂「えっ?あっ!!そ、そうですよねっ」

美穂もまた、自分がおかしな事を言った事に気づいて顔を赤らめるのだった。

228 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:30:56.39 ID:6X7TjIiTo [14/28]

聖來「ふふっ、面白い子だね」

美穂「わ、私、さ、さっきからおかしな事ばっかり言ってますよね・・・・・・。」

美穂(うぅ・・・・・・絶対変な子だと思われてる・・・・・・。)

こちらをみて、クスクス笑う聖來の様子に、美穂は不安になってしまう。

聖來「あ、気を悪くしちゃったならごめんね。」

聖來「ただ普段は、ずっと可愛らしい子なんだなって思っちゃって。」

聖來「ヒーローやってる時の豪胆さからは想像できないくらい。」

美穂「か、かかか可愛いってそんな、わ、私なんて・・・・・・。」

そこまで言いかけて気づく。


美穂「えっ?ひーろーやってるときの?」

 

美穂「も、もしかしてセイラさん・・・・・・わ、わたしの事知って?」

聖來「うん、よく知ってるよ。”愛と正義のはにかみ侵略者、ひなたん星人”。」

聖來「私は今回、この辺りにはお仕事で来たんだけど。」

聖來「現地で活躍してるヒーローの事はちゃんと調べて・・・・・・。」


美穂「う、ううう、うわぁあああああああああああああああ!!」

聖來「!?」

聖來「えっ、ど、どうしたの?!」

唐突に叫び悶え始める美穂。

美穂(知られてたっ、知られちゃってたぁっ!)

美穂(あ、憧れの人に私の・・・・・・”ひなたん星人”のこと知られちゃってたよぉ!)

美穂(あの何処に出しても恥ずかしいような電波っぽい私の事ずっと見られてたんだ)

美穂(ああ・・・・・・もうダメだ・・・・・・セイラさんだけじゃなくってきっとみんな私の事知ってるよ・・・・・・)

美穂「うぅ・・・・・・熊本に帰るぅ・・・・・・」

半泣きになりながら美穂は、ベンチの下に蹲って隠れてしまった。

聖來「えっ、く、熊本?お家この辺りじゃなかったのかな・・・・・・?」

229 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:31:53.94 ID:6X7TjIiTo [15/28]

聖來「そんな所に入ったら、服汚れちゃうよ?」

ベンチの下からは彼女のアホ毛だけがピコピコとはみ出ている。


聖來「・・・・・・なんだかのっぴきならない事情がありそうだね。」

聖來「さっき暗そうな表情をしてたのもその辺りが関係してるのかな?」

美穂「そ、それはその・・・・・・うぅ・・・・・・」

聖來「えーっと、お名前聞いてもいい?」

美穂「・・・・・・。」

美穂「・・・・・・み、美穂です。小日向美穂。」

聖來「ありがと、美穂ちゃんは知ってると思うけど、」

聖來「アタシはセイラ、水木聖來だよ。」

聖來「アタシでよければ、美穂ちゃんの悩み事聞かせてもらってもいいかな?」

掛けていたサングラスを外して、美穂の隠れるベンチの傍でしゃがみ込み

アイドルヒーローらしい笑顔を向けて、彼女は問いかけた。

聖來「恥ずかしかったら、そのままでもいいから、ね?」

美穂「・・・・・・セイラさん」

230 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:32:44.18 ID:6X7TjIiTo [16/28]

――

――

聖來「あっ、もぉ~、よしよし!可愛いなぁ、この子は~!」

犬「わふっ!わふっ!」

聖來「いい子だねぇ、わんわん♪」

聖來「なんだかごめんね。サングラス外しちゃうといつもこうで。」

美穂「い、いえ、その、だ、大丈夫です。」


公園のベンチの周りには、何処からともなくたくさんの犬が集まってきていた。

理屈はわからないが彼女は正体を隠してないと、周りに動物が集まってくるらしい。

そう言えばアイドルヒーロー時代も、動物達と連携して活躍していた事が多くあった気がする。


聖來の周りに集まってきた犬達が、ベンチの下に居る美穂に興味を示し、変なところを嗅いだり舐めてきたりしそうだったので、

結局、美穂は恥ずかしさを抑えて、その場所から出てくる事となったのだった。


聖來「それにしても、刀を持てば性格が変わっちゃうか。」

美穂「性格と言うか・・・・・・人格が変わっちゃうと言うか・・・・・・。」


今は二人、ベンチに座って、

美穂が、自身の身に起きたこれまでを全て話し終えたところだった。

日本一、横暴な刀『小春日和』と、美穂の内にある人格『ひなたん星人』について。

231 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:33:52.72 ID:6X7TjIiTo [17/28]

聖來「なら美穂ちゃんの悩みって言うのは。」

聖來「”刀に無理やりヒーローをやらされて困ってる”ってところ。」

美穂「・・・・・・。」

聖來「じゃなくって、逆かな?」

美穂「えっ。」


聖來「”刀の力を使って、ヒーローをやってる事に後ろめたさみたいなものを感じてる”とか。」

聖來「”自分の力は借り物なのに”なんて思ってたり?」

美穂「・・・・・・。」

美穂「・・・・・・・すごいな。わかっちゃうんですね。」

聖來「んー、そうだね。それなりにこの業界に身を置いてたからかな?」

聖來「結構、ヒーローには自分の力に悩んでる子って言うのは多いし。」

聖來「美穂ちゃんみたいに、刀って言う形で、自分の体とは切り離された力を持ってると、」

聖來「特に自身の力とは意識しづらいだろうから。」

美穂「・・・・・・。」

美穂「私、アイドルヒーローに憧れてるんです。」

悩みを言い当てられて、少女はぽつりと語り始める。

232 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:34:45.95 ID:6X7TjIiTo [18/28]

美穂「テレビで見る菜々ちゃんや、セイラさんみたいにたくさんの人を守るために戦えて、」

美穂「みんなに向けて、心が暖かくなる様な笑顔ができたら、きっと素敵だなって。」

美穂「そんな風に思ってて。」

美穂「だから漠然と、強くなれたらいいなって思ってたんですけど。」


そして少女の願いは、その刀を手にする事で叶った。


美穂「最初、ヒヨちゃん・・・・・・『小春日和』を手にした時は戸惑いましたけど。」

美穂「本当はそれ以上に嬉しかったんです。」

美穂「確かに、ヒヨちゃんの性格は少し恥ずかしくはありましたけど」

美穂「でも、この力があれば、私でも誰かを守る事が出来るんだって思ったら嬉しくて。」

美穂「だけど・・・・・・。」


だけれど、その力は『小春日和』の力であって、”小日向美穂”の力じゃない。

『小春日和』は、『小春日和』を扱える人格を作り出す刀。

ならば、別に、誰が持つ事になっても良かったんじゃないか。

233 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:35:33.70 ID:6X7TjIiTo [19/28]

美穂「私なんかが、本当に使っていい力なのかなって。」

美穂「もし私が、この力でアイドルヒーローを目指したら、」

美穂「それはズルい事なんじゃないかなって。」


聖來「なるほどね。たまたま自分が選ばれたって事が、どうしても納得できてないって訳だ。」

聖來「だから刀を・・・・・・つまり自分の力じゃない力を使って、ヒーローをしている事が、後ろめたい。」

美穂「・・・・・・。」


聖來「悩めることはいいことだけどね。」

聖來「本当にそれが正しい事なのか、ちゃんと考えて、悩んで」

聖來「答えを出せるなら、それはとってもいい事だよ。」

美穂「・・・・・・はい。」


聖來「けど、悩みすぎて暗い顔で足を止めちゃうのは、アイドルとしてもヒーローとしてもよくないかな。」

聖來「だから、そうだね。特別に先輩から一つ、参考意見をあげよう♪」

美穂「参考意見ですか?」

聖來「そうそう。元アイドルヒーローとしてのアタシの考え。気楽に聞いててくれればいいよ。」


傍に寄ってくる犬達を撫でながら、聖來は語る。


聖來「ヒーローがズルくても、いいんじゃないかな。」

234 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:36:19.99 ID:6X7TjIiTo [20/28]

聖來「こんな事言うと幻滅しちゃうかもだけど。」

聖來「美穂ちゃんが憧れてる、私もズルい事たくさんしてるよ。」

聖來「アイドルとして、ヒーローとして人に誇れないようなズルいこと。」

聖來「あ、今のオフレコでね!」

美穂「・・・・・・セイラさんもですか?」

聖來「うん、そうだよ。」

美穂「とてもそうは見えないですよ。」

聖來「そう?なら私のアイドルとしてのイメージ戦略が成功してるのかな?」

そう言って、彼女はおどけて笑ってみせた。


聖來「けど、美穂ちゃんにはそう見えてるだけで、本当は違うんだ。」

聖來「情けないことに”カリスマアイドルヒーロー”なんて偽りの仮面みたいなもので。」

聖來「その正体は等身大の、ズルくて嘘つきなただの人間だよ。」


美穂「そんなっ!そんな事はないです!」

美穂「だって、私ずっと見てました!セイラさん、本当にたくさんの人を助けてて!」

美穂「私もそんなセイラさんの姿にそのっ!勇気を貰ってました!」

聖來「ふふっ、ありがと!美穂ちゃん、こんなアタシに憧れてくれてっ。」

235 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:37:29.57 ID:6X7TjIiTo [21/28]

聖來「アタシはね、美穂ちゃんみたいに応援してくれる人達がいるから、」

聖來「ズルくて、嘘つきなアタシでも、本当のヒーローみたいになれるかもって思えるんだっ!」


聖來「だから、美穂ちゃんもさ。」

聖來「本当は強くなかったとしても、ヒーローをやったっていいんじゃないかな?」

聖來「ズルくてもアイドル目指したっていいって、アタシは思うな。」

美穂「・・・・・・ズルくてもアイドルヒーロー目指してもいいんですか?」

聖來「うん。」

聖來「綺麗なだけがアイドルじゃない、正しいだけがヒーローじゃない。」

聖來「少しくらい不恰好で弱くて後ろめたくて嘘つきだったとしても、」

聖來「最後は人を笑顔にできるならそれでいいんじゃない?」


聖來「きっと、それでも応援してくれる人はたくさん居るよ。」

聖來「この地域では、ひなたん星人はよく評価されてるし、」

聖來「ひなたん星人に助けられたって人も多いよ。ファンだって言ってた人も居たし。」

美穂「う、嬉しいけど・・・・・・複雑な気分です。」


美穂「それにやっぱりそれも”ヒヨちゃん”のおかげで」

美穂「私自身は何も・・・・・・出来てないです。」


ここ最近のヒーローとしての活躍は、”小日向美穂”ではなく”ひなたん星人”のおかげだ。

”彼女”と私は違う、そんな風に考えてしまう。

だって、私は そんなに強くない。


聖來「うーん、美穂ちゃんに足りないのは自信なのかな。」

236 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:38:30.31 ID:6X7TjIiTo [22/28]

聖來「うん、それじゃあ、こうしようか」

聖來「アタシが応援してあげよう♪」

美穂「えっ?」

聖來「ひなたん星人じゃない、他ならぬ美穂ちゃんの事をアタシが応援するから。」

聖來「だから、美穂ちゃんは、もっと胸張ってズルしちゃえ!」


美穂(ああ、きっとこの人は本当に・・・・・・私が憧れる根っからのヒーローなんだ。)

美穂「セイラさん、ありがとうございます。」

美穂「セイラさんに応援してもらえるなら、ちょっとだけ自信が持てそうです。」

聖來「うーん、ちょっとだけかぁ」

美穂「あっ、いやっ、そ、そのっ!すごく自信持てますっ!!」


聖來「まあ急に自信持てって言われても困るよね。」

聖來「何かきっかけは必要かな。」

聖來「あ、そうだ。」

彼女は何か思いついたようだ。

237 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:39:11.46 ID:6X7TjIiTo [23/28]

聖來「美穂ちゃんはアイドルヒーロー目指してるみたいだけど。」

聖來「戦えるだけじゃダメなんだよ。」

聖來「アイドルなんだから歌って踊れなきゃね。」

美穂「そうですよね。人の前で歌ったり・・・・・・踊ったり・・・・・・」

美穂「あ、あぁ、そ、想像しただけで緊張してきましたっ。」

聖來「その刀は歌い方や踊り方は教えてくれた?」

美穂「えっ、それは・・・・・・知らないです。」


『小春日和』は刀。戦うための力だ。

刀や負のエネルギーの扱い方は知っていても、

まさか、歌い方や踊り方を知ってるはずはない。


聖來「じゃあ、それを美穂ちゃんの力にしようよ。」

美穂「私の・・・力に?」

聖來「うん、それなら刀の人格に負い目を感じずにアイドルヒーローを目指せるんじゃない?」

聖來「美穂ちゃんも自信がつくよね。」

美穂「あっ、確かにそうかも・・・・・・。」


言われて見れば、今まで戦って人々を守れる強さに拘りすぎていたのかもしれない。

歌って踊って希望を振りまく。それもアイドルヒーローの一面なのだ。

もし、それが出来たなら・・・・・・


美穂「セイラさん!私にも何かできるような気がしてきましたっ!」

聖來「うんうん♪いい返事だね!」

美穂「あっ、でも、歌い方や踊り方はどこで習えばいいのかな・・・・・・。」

聖來「美穂ちゃん、そのための私だよ?」

美穂「えっ?」


聖來「歌い方や踊り方は、アタシがコーチして、レッスンしてあげるっ!」

美穂「えっ?」

 

美穂「ええぇえええええええっ!?」

238 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:40:10.47 ID:6X7TjIiTo [24/28]

美穂「せ、せせせせせセイラさんがっ、わ、私に!?レレレッスン!?」

聖來「あれ、いい感じに打ち解けたかなって思ってたけど、対応が逆戻りしちゃった?」

そりゃあそうだ。いきなり何を言い出したのか、この人は。


美穂「だだ、だってセイラさん、おおお、お仕事はっ!?」

聖來「今、やってるお仕事は探し物なんだけど、期限は無いからゆっくりやっていけばいいし。」

聖來「それに後任のアイドルヒーロー候補を育てるのもお仕事みたいなものだよ。」

聖來「あっ、それとも普段はあまり時間取れないのかな?」

美穂「と、とと取れます!取らせてくださいっ!!」

憧れの(元)アイドルヒーローが自らコーチしてくれると言うのに、時間がとれない理由が無い。


美穂「で、でも・・・・・セイラさん、どうして私にそこまでしてくれるんですか?」

聖來「うーん、そうだね。」

聖來「最初は、この地域で精力的に活動してるひなたん星人って子の事が気になって。」

聖來「その子が暗い顔して歩いてたから放って置けなくて、声を掛けたのだけど。」

聖來「話してみて、この子ならきっといいアイドルヒーローになれるって思ったからかな。」

聖來「気に入っちゃったんだ、美穂ちゃんの事。」

彼女は随分と美穂の事を買っていたようであった。

美穂「あ、あああ、あううぅ」

美穂は赤面しすぎて、彼女自身もう訳分からない事になっている。

聖來「これから、よろしくね!美穂ちゃん!」

美穂「よよよよよろしくお願いしますっ!」


こうして、小日向美穂は水木聖來に導かれ、アイドルヒーローを目指すことになったのだった。

239 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:41:23.90 ID:6X7TjIiTo [25/28]

――

美穂「ただいまー。」

「おかえりー、遅かったわねー。」

「もうすぐご飯できるから、先座ってなさい。」

美穂「手伝う?」

「いいわよ、今日は肇ちゃんが手伝ってくれたもの。」

肇「お帰りなさい、美穂さん。」

美穂「肇ちゃんも帰ってたんだ。どうだった?バイトの面接。」

肇「そ、それはその・・・・・・表情が固いと言われて。」

そう言って肇は目を反らす。

美穂(ダメだったんだ・・・・・・。)

240 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:42:17.85 ID:6X7TjIiTo [26/28]

肇「美穂さんは機嫌よさそうですね。何かいいことありました?」

美穂「えっ、か、顔に出てるかな?」

肇「はい、美穂さんは結構わかりやすいですよ。」

美穂「う、うぅ、なんか恥ずかしいなあ。」

指摘されると余計に顔が赤くなってしまう。


美穂「えっとね、今日は憧れの人に会ったの。」

肇「憧れの方ですか?」

美穂「元アイドルヒーローのセイラさんって人。」

肇「セイラさん・・・・・・。」

その名前を聞いて、肇も少し思うところがあるようだ。

美穂「あっ、肇ちゃんも知ってた?」

肇「いえ、その方なのかはわかりませんが、」

肇「少し前におじいちゃんの刀を渡した人も、セイラと言う方でしたね。」

美穂「えっ。おじいちゃんの刀って・・・・・・ヒヨちゃんと同じ?」

肇「ええ、『鬼神の七振り』の一本で、日本一、欲張りな刀です。」


元アイドルヒーロー、水木聖來。

彼女は『鬼神の七振り』を所有しているのだろうか。


おしまい

241 名前: ◆6osdZ663So[sage saga] 投稿日:2013/08/01(木) 21:42:56.13 ID:6X7TjIiTo [27/28]
水木聖來

所属:フリーのヒーロー
属性:元カリスマアイドルヒーロー
能力:動物(主にわんこ)の使役、鬼神の七振りを所持?

元アイドルヒーローの女性。現在はフリーのヒーローとして活躍している。
チャレンジ精神旺盛な性格で、アイドルヒーローをはじめたのも、フリーのヒーローに転身したのも、
その辺りの性格に由来する。一度決めたら思い切りが良い。
彼女の戦闘スタイルは多様。挑戦的な性格から色んなやり方を試してみたくなるらしい。
そのため、近距離、遠距離に関わらず、多くの戦い方、武装の心得がある。
彼女独特の手法は、その能力『カリスマ』による動物達の使役。
使役と言っても、完全操作ができる訳ではなく、彼女に魅せられ寄ってきた動物に頼み事ができる程度。
動物達の意思を無視することはできないし、そもそも意思も知恵も希薄な虫などには通じない。
現在はとある人物の依頼で、ある物を捜索しているようだ。


『カリスマ』

能力と言うよりは生まれ持った体質。他者を惹きつける超自然的ななにか。
ただし聖來のそれは、人々に対するものではなく、人外に対するもの。
人間ではない意思持つモノに好かれやすい。
具体的には、普通に立っているだけで、周りにたくさんの犬が寄ってくるなど。
動物はもちろんだが、場合によっては精霊や妖怪、悪魔や神様まで惹きつけてしまうことがある。
『正体隠しのサングラス』はこの効果を抑えることができるため、聖來は普段から愛用している。


《ヒヨちゃん》 …… 美穂が『小春日和』および『ひなたん星人』の事を呼ぶ時のあだ名。
《美穂のアホ毛》 …… いつの間にか侵食されてた。
《肇ちゃんのバイト探し》 …… 悉くバイト断られてるのは肌身離さず持ってる刀のせいだと思う。
《熊本》 …… 美穂の心の故郷。
《鬼神の七振り》 …… 聖來さんが持ってるようです?

 

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最終更新:2019年04月21日 23:24