5スレ目>>166~>>172

166 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:58:06.37 ID:TCLX5nBXo [3/10]
美しい、薄い桃のかかった髪をたなびかせて少女が空を駆ける。
まとわりつこうとする真っ黒な呪いの泥へ銀の閃光を走らせ散らすと、中心の赤い核を蹴りぬいた。

琴歌「きりがありませんね……卑怯ですよ! もうっ!」

正義に目覚め、義憤に燃えている――というわけでもないが。彼女には戦う理由がある。
少なくとも、目の前で起きている理不尽が。起きようとしている不条理が許せない。

彼女は世間知らずのお嬢様だった。蝶よ花よと育てられ、動かない両足を周りの人の助けによって乗り越えられてきただけの、お嬢様だった。
そんな彼女は、ある日さらわれて自由に動く銀の脚と、戦うための技術を教えられる。
未知の知識、未知の世界。怖いと思う気持ちと同時に持っていたのは、それに対する探究心。

浚われてしまった悲しみも、どうすればいいのかわからない不安も。
初めて知った感覚へ高まる鼓動にはかなわなかった。大丈夫だと、思えていたから。

その中で、友人もできた。同じ悩みを持って、相談して、悪さをするだなんて!
まるでお話の中の『悪い子』みたいだなんてことを思い、それすら楽しく思えていた。

無事に脱走してから、はぐれてしまったのは困ったけれど。きっとみんなは大丈夫だと彼女は信じている。
それは、彼女が能天気だから勝手に思っていることなのかもしれない。――それでも。

彼女、西園寺琴歌は世間知らずのお嬢様だ。
それでも、人のために戦うことを。人のことを思う心を。知らないわけではないのだ。

167 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:58:33.91 ID:TCLX5nBXo [4/10]
琴歌「えぇいっ!」

琴歌の銀の脚が宙を蹴り、追いすがる黒い獣を引きはがした。
そのまま半回転し、今度は天を蹴ると一気に突き刺すように急降下をして地面へと叩きつける。
どうやら核も砕けたようで、そのまま獣は動かなくなって溶けていった。

この場で、動けないでいる少女たちへ呪いが降りかからないようにと。
怪物たちを銀の脚でもって琴歌が調伏していく。

琴歌「でもっ……少し…………」

際限なく押し寄せる黒波に、琴歌は額に流れる汗をぬぐった。
OZ≪ドロシー≫は自己修復機能があり、彼女自身の超高速移動を可能にはしている。

圧倒的な速さでもってカースとカースの間を潜り抜け、蹴り、叩く。
その速度は不定形の泥のカースならば追いすがることすら不可能だ
強力な脚力でもって蹴り飛ばせば、一撃の元で葬ることだってできる。

彼女にとって、10や20の並のカースならば相手にならないだろう。
ならば50なら。100なら。1000なら――無限に湧き出るかのように押し寄せる呪いが、琴歌を襲おうとする。

このままでは、キリがない。そう判断した琴歌は自らの脚を一撫でして逡巡する。

琴歌「ドロシー……使うべき、なんでしょうか……私は……」

168 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:59:09.30 ID:TCLX5nBXo [5/10]
彼女の銀の脚、OZ。金属生命体である『それ』には、隠された力がある。

――隠された、というのは正確ではないかもしれない。ただ、とても。

琴歌「使いたく……ないのですけれど……」

とてもとても怖い力。彼女の探求心も、友人のお気楽さも、豪胆さも。
全員がなんとなく、嫌だ。そう思ってしまった、その力。

琴歌「……まだ、大丈夫。いけます、ね?」

誰に聞かせるわけでもなくそう呟いて、琴歌はまた銀の閃光へと姿を変える。
黒い津波に穴が開き、ふたつみっつと切り裂かれた。

降りかかる呪いの泥が落ちるよりも速く。次の獣を蹴り、打ち倒す。
カースたちには決して追いつかれないようにと滑るように地面を移動して――

――その足が、固まってしまう。

169 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 02:59:43.28 ID:TCLX5nBXo [6/10]
琴歌「―――ッ!?」

核を砕き損ねたカースの泥が、別のカースと反応して強烈に足を締め上げていた。
すぐさま逆の脚で蹴り脱出を図るが、ほんの一瞬止まった隙を逃さずに、津波は彼女を飲み込まんと迫る。

その光景に彼女は思わず目を瞑ってしまい、身体に走るであろう衝撃に身構えた。

 


――だが。その衝撃は想像よりもずっとあたたかく。
まるで、誰かに抱かれているかのような錯覚をおこしてしまうほど優しかった。

 

琴歌「……?」

恐る恐る目を開けてみれば、目の前にあるのは怪物の泥ではなく人の顔。
とてもセンスがいいとは言えないような仮面を付けた、スーツ姿の男だった。

店長「間一髪か……大丈夫か、君?」

琴歌「え、あ、はい……ありがとうございます……っ、後ろ!」

男の背後から泥が迫る。とっさに蹴りあげようと思うも、この体勢ではできない。
しかし、焦る琴歌が男を逃がそうとするよりも早く。光の矢が泥を貫いた。

170 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03:00:36.95 ID:TCLX5nBXo [7/10]
琴歌「まぁ……!」

光が飛んできた方向へと目をやれば、そこに立っているのは美しく可愛らしい衣装に身を包んだ2人の女性。
琴歌が感心する中、1人は剣を宙から生み出してあたりのカースを次々に切り捨てていく。

美優「シビルマスクさん、危ないですよ! もうっ」

もう1人は琴歌の方へと駆け足で寄り、男へと注意を促す。
シビルマスクと呼ばれた男のほうは余裕ありげに笑うとこう返した。

店長「2人の合体技ならあれぐらいは倒せるし、普通の人には影響はないのはわかってたさ。だけどもしもがあったら危ないだろ?」

美優「そうですけど……無理はしないでくださいね」

店長「わかってる。でも、頑張ってる子供たちもいるんだ……大人が意地をみせなくてどうする」

シビルマスクが懐から何かを取り出す。
雷の走る、聖獣の角。友の証でもあるそれは、主張するかのように小さな火花を光らせた。

美優「……そうですね。あなたは?」

琴歌「え? 私は……」

急に話を振られて、琴歌が慌てたように立ち上がる。

171 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03:01:31.52 ID:TCLX5nBXo [8/10]
琴歌「あ……」

琴歌は、自分の脚にまた力が戻ってくるのを感じた。
ドロシーを解放しないでも、このまま自分自身の力で守れるのだと。
不思議と、先ほどまで襲ってきていた疲労感もない。

店長「大丈夫か? 無理はしないほうがいい」

琴歌「……いえ! 私、いま! とても……とっても、元気になりました!」

銀の脚の輝きが増す。彼女の顔には再び笑顔が戻る。

店長「う、うん?」

琴歌「ありがとうございます、みなさん! 私、西園寺琴歌と申します!」

底抜けに明るい声で琴歌が自己紹介をし始める。
思わず近くにいた2人はめんくらってしまったようだ。

店長「これはこれはご丁寧に……」

美優「店長っ!」

172 名前: ◆IRWVB8Juyg[saga] 投稿日:2013/07/31(水) 03:02:00.14 ID:TCLX5nBXo [9/10]
カインドの咎めるセリフに、シビルマスクがはっとした様子で恰好をつけなおす。

店長「っと……あぁ。琴歌ちゃんか……俺はシビルマスク。2人は……カインドと、グレイスだ。よろしく」

琴歌「はいっ! よろしくお願いします! 私の特技は――」

タン、と足音だけを残して琴歌が消え、グレイスが相手をしていた巨大なカースを砕く。
あまりの威力にグレイスも驚き、その顔をみて琴歌はまた笑った。

琴歌「ダンス、です♪」

レナ「……ヒュー♪ いいわね、いけてる。オールナイトは平気かしら?」

琴歌「さぁ、わかりません。私、夜更かしはいけないことだと聞いていたので!」

心底嬉しそうに琴歌が目を輝かせる。
興味津々といった様子で、共に戦う人がいる嬉しさで。

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最終更新:2019年04月21日 22:22