4スレ目>>142~>>146


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「あ、アタシが夕美さんの代役ですか!?」

突然言い渡されたそのとんでもない提案に、工藤忍は大きな声をあげた。

「ああ。収録予定の歌番組がったんだが、彼女は例の『カースの街』へ向かう事になったらしくてね。こういう時には、キミが『同盟』に参加していなことが助かるよ」

担当プロデューサーが苦笑まじりに呟く。

雪女である忍は、やろうと思えばカース位ならばカチカチに凍りつかせることもでき、アイドルヒーローとして活動できるだけの能力を持っている。

これが最後、と意気込んで受けたオーディションで思いきってカミングアウトして以来、アイドルヒーローとして活動してみないか、とプロダクションから何度か提案されていた。

もちろん、それだけが決め手になったわけではなく、アイドルとしての素質があると見込んだから合格させた、とは社長の弁であり、実際何度か断ってもアイドルとして活動させてくれているので、嘘ではないのだろう。

「や、む、無理ですよっ。アタシみたいな駆け出しが、夕美さんみたいな売れっ子の代わりなんて」

ぶんぶん、と手をふり首をふり自信がないことを伝える忍。デビュー間もない自分に、すでに各所で活躍している先輩アイドルの代役など務まるはずがない、と。

だが、プロデューサーは忍にこの仕事を受けるように説得を続ける。

「こんな言い方は正直気分が悪いかもしれないが、これは忍にとってまたとないチャンスなんだ。忍は、きっと今よりもっと大きなステージで輝ける。

その為の足がかりとして、この仕事は是非受けておくべきだと俺は考えている」

非常事態の救援に向かったという仕方のない事情があるとはいえ、本来彼女が受けるべき仕事を横取りする形になるわけで、それも忍には気がかりなことだった。

だが、彼の言う事にも一理あることは忍にもわかっている。本来なら、駆け出しの自分にはどうやったって立つことができないステージ。正に降って湧いたチャンスだ。

ここで良い印象を与えられれば、今後の活動においても大きなアドバンテージになるだろう。

「忍、俺は、忍なら絶対に大丈夫だと思って、この仕事をお前に回すようにしてもらった。俺を信じてくれないか?」

しっかりと目をみて、真摯に語りかけるプロデューサー。

「・・・もう一日だけ、考えさせてください。明日までには、絶対答えを出しますから」

「わかった。明日は、午後からダンスレッスンだったな。その時に答えを聞かせてもらうよ」

忍にはまだ答えが出せなかった。それでも一言も責めることなく待つと言ってくれたプロデューサーに感謝しながら、忍はため息交じりに事務所を後にした。


浜口あやめは、己の不甲斐無さが悔しかった。

『憤怒の街』。憤怒のカースドヒューマン、岡崎泰葉の作りだしたカースによって占拠され、未だに多くの人々がその中に取り残されている街。

櫻井財閥によって内部の詳細が少なからず暴かれ、すでにナチュルスターをはじめ数名のヒーロー達が突入を開始しているという話だ。

しかし、あやめには同じように『街』へと向かうだけの力が無かった。幼くして免許皆伝を受けた忍術の天才とはいえ、あやめ自身は特殊な能力を持つわけではない、ただの中学生なのだ。

街中に出現するのとは違い、そこかしこから際限なくカースが現れる『街』においては、彼女にできることは決して多くない。

せいぜいが、周辺で『街』から出て来ようとするカースの足止めが関の山だろう。それも、GDFがその役目を担っている以上、自分が行ったところでその和を乱すだけだ。

何か良い方法は無いだろうかと、先ごろに出会い行動を共にするようになった丹羽仁美に相談してみたところ、

「うーん、アタシたちがあそこに行ってもしょうがないのは本当だしねぇ。普段通り、この辺で暴れてるカースとか悪人を止めることに専念するのが一番じゃないかな」

と、にべもない返答が返ってきた。

違う、そうではない。あやめは、どうにかして『憤怒の街で正義を成す方法』は無いのかが聞きたかったのだ。

決して、『行くだけ無駄だ』などと冷たい答えが欲しかったわけではない。

「あやめは・・・あやめは、どうしてこんなにも無力なのでしょうか・・・」

夕暮れの公園、ベンチに腰かけて俯きながら、あやめはひとりごちた。

「「はぁ・・・」」

と、溜息を一つつくと、隣からも溜息。

ふと顔をあげて横を見てみると、何やら自分と同じく落ち込んだ表情の少女と目が合った。


「多分、その人が言いたかったのって、『諦めろ』ってことじゃないと思うんだ」

奇妙な縁を感じた忍とあやめは、お互いに軽く自己紹介をすると、互いの悩みを打ち明けあった。初対面の相手にこんなことを相談しても、と二人とも思ったが、不思議と話してしまったのだ。

無論、あやめは自身がヒーローとして活動していることはぼかして話したし、忍も先輩がヒーローとして『街』へ向かったことは黙っていたが。

そして、あやめの話を聞いた忍は、あやめの『普段通りにするのが一番』という言葉の受け取り方に疑問を持った。

「と、言われますと?」

「えっと、上手く伝わらなかったらゴメンね?たぶんその人は、『あやめちゃんが無理することはないんだよ』って、そう言いたかったんじゃないかな」

そう切り出して、忍は自分の感じたことを言葉に紡いでいく。

「んー、なんて言えばいいのかな。その場所に人が集まってるってことは、本来その人が居るべきところから人がいなくなるでしょ?

きっと、そういう人たちのフォローに回るのが今の自分たちの役目だ、って。無理にあやめちゃんが他の人の役目を代わることないんだよって、そう言いたかったんじゃないかな」

うーあー、何か上手く言葉が出てこないー、と手足をバタつかせる忍。しかし、あやめには彼女の言わんとすることがなんとなく理解できた。

確かに、在野にしろ同盟に所属するにしろ、『街』を攻略せんとヒーローが一か所に集まれば、本来彼らがカース等から守っている街が手薄になってしまう。

それをフォローし、『街』の外の平和を守ることもまた、ヒーローたる自分の役目だと、そういうことなのだ。

そう思い至って、あやめは『自分は不甲斐無い』などと考えていたことを恥じた。己の成すべきことを放りだしておきながら何が『力が無いのが悔しい』だ、情けないやつめ。


「っていうか、そのフォローもできてないアタシが言っても説得力ないか、あはは・・・」

「・・・いえ、ありがとうございます、忍どの。おかげ様で、胸のつかえが取れた気分です」

「そっか、なら良いんだけど。・・・うん、決めた」

穏やかな表情で頭を下げるあやめの姿を見て、忍もまた決意を固めた。

「アタシ、仕事受けるよ。あやめちゃんに偉そうに言った手前、アタシが何もしないのもおかしな話だもんね」

自信が無い事には変わりはないが、『街』へ向かった先輩たちをフォローすることが、今の忍に与えられた役割なのだろう。

もちろん、一人で何もかも背負い込むつもりはないが、出来る限りのことはやってみよう。そう思う事が出来た。

「ありがとね、あやめちゃん。話聞いてくれて」

「いえいえこちらこそ、助言までいただいて。お互い、頑張りましょうね」

「うん!・・・じゃあ、またね」

「ええ。お仕事、成功することを祈っています。しからば」

そうして、二人はそれぞれに歩きだした。

忍は、恐らくまだプロデューサーが残っているだろう事務所へ向かって。

あやめは、先ほどこっそりと確認した、仁美からのメールに書かれたカースの現れたという場所へ。


「プロデューサー」

「・・・ん、忍か。今日はもう家に戻るんじゃなかったか?」

「アタシ、夕実さんの代わりの仕事、受けるよ」

「・・・・・・そうか。早速向こうさんに連絡しとくよ。これまでより一層厳しく行くからな、覚悟しとけ?」

「へへっ、どんとこい、だよ。見てほしい相手ができたんだからっ」

 

「忍法『疾風弾導破』ッ!!」

『ヌォッ、グ、アアアアアアァッッ!!!?』

「・・・おぉ、一発。なんかあやめっち、気合入ってる?」

「えぇ。あやめは、今のあやめに出来ることを精一杯成すことにしましたから」

「ん、そっか。こりゃアタシたちも負けてらんないかなー?」

『おい、「たち」って何だ「たち」って。オレはべつに張り合うつもりはねーぞ』

「もー、松風ノリ悪いー」

「・・・それに、守りたい相手ができましたからね。ニンッ」