オーブンを開けると熱気と一緒に甘い香りが立ち上る。
カップケーキを取り出すと、竹串を刺して中まで焼けているのを確かめる。
一つ味見に齧りつく――うん、美味しい!
こんな体になってからも、お菓子作りはやめてない。
むしろ前より頻繁になったくらい。
以前は体重を気にしたりもしたけど、今はお菓子のほうがずっと大事。
作ったお菓子は二人にも振舞う。
好みが少し違うから、文句が挙がることもあるけれど、幸せな時間は三人で共有したいから。
でも……
法子「ぎ も゛ぢ わ゛る゛い゛……」
今日の法子ちゃんはずっとこんな感じ。
天気が良かったから公園でシートを敷いて待ってたんだけど、やってきた法子ちゃんを見て無理やり帰そうかとも思ったくらい。
大丈夫と言い張って聞かないからそのまま居させてるけど、さっきからロクに食べてない。
せっかくドーナツも作ってきたのに手を付けようともしないなんて、かなり深刻な事態かもしれない。
みちるちゃんも、食べながらだけど心配してる。
そうして法子ちゃんに注意が向いていたとき、不意に後ろから伸びてきた手がドーナツを掴む。
??「食べないなら貰ってもいいですか~」
声のした方を見ると……同い年くらいかな? なんかちょっと色っぽい人が返事も待たずにドーナツをかじってた。
??「ん~っ、美味しい! これ手作りですか? 上手なんですね~」
??『ちょっと菜帆ちゃん? 良いって言ってくれるまで待たないと~』
その人を窘める誰かの声、それを聞いたとたん思わず座りなおしてしまった。
なんでかは良く分からないけど、そうしなければならないと感じた。
法子「う゛ぇ゛っ」
法子ちゃんが吐いた。なんでこのタイミングで……
ゴトッと音をたててそれは地面に落ち……え?
法子ちゃんが吐いたのは七色の、多分カースの核だった。何これ?
法子「あー、吐いたらすっきりした」
法子ちゃんが回復したのはいいんだけど、コレどうするの?
手をこまねいていると、さっきから居た人が核を拾って――齧った。
??「……硬くて噛めない~」
法子「人が吐いたもの食べようとしないで!?」
顔を真っ赤にして怒る法子ちゃんかわいい、じゃなくて。
ああもう何が何だか。
法子「って、誰?」
そういえば知らない人だった。
菜帆「私? 私は海老原菜帆っていうの~」
ベル『そして私はベルゼブブ。暴食を司る悪魔よ~』
あ、悪魔!?
私たちは竦み上がってしまう。
菜帆「あー、ベルちゃんったら怖がらせちゃって。いけないんだ~」
ベル『別にそんなつもり無かったのに~』
なんか凹んでる。
そんな様子を見てると怖がったのが馬鹿みたいに思えて、私は笑っちゃった。
ベル『あっひどいー、笑わないでよ~』
こうして良く分からない流れで打ち解けた私たちは、四人(五人?)でお菓子を食べた。
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菜帆「今日はごちそうさま~」
ベル『ごちそうさま~』
菜帆さんたちは食べ終えるとすぐに居なくなっちゃって、私たちは三人で片づけをする。
みちる「そういえばこの核? どうする?」
法子「その辺に捨てちゃってもいいんじゃないかな」
かな子「何か使い道が出てくるかも知れないから、取っておかない?」
みちる「じゃあ任せた」
かな子「えっ」
法子「あたしも、吐いたもの持ってるのはイヤかな」
かな子「あっ」
……言いだしっぺの法則って、あるよね。
つづく
??「原罪とは、要するに『人が知恵を持った罪』ですよねぇ。
――ねぇ、王子様?
彼女が生んだ原罪は、一体『誰』が知恵を持った罪なんでしょうねぇ。
……むふふ♪」