その日、マンモンたる彼女は露骨に機嫌が悪かった。
桃華「・・・・・・・。」
サクライP「・・・・・・やはり、例の能力者ですか?」
桃華「Pちゃま、その件についてはもうよろしいと言ったはずですわ。」
サクライP「失礼しました。」
桃華「・・・・・・神が相手では分が悪すぎますもの。」
櫻井有する能力者の組織は「アカシックレコードの読み手」を追っていたが、
その実行部隊が次々と失踪することとなる。
対策を打たれたのだ。
それも神によって。
サクライPの必死の調査によってわかった事は三つ。
1.彼女を追えば、何らかのアクシデントが起こって探索・追尾不能となる。
2.彼女を憎めば、何らかの事故が起こって病院送りになる。
3.それらは神の仕業である。
これだけの事を調べ上げるのに、彼自身”偶然の不幸な事故によって”三度ほど死に掛けた。
持ち前の貪欲さで九死に一生を得てきたそうだ。
桃華(それでも、手が無いわけではありませんでしたけれど・・・・・・。)
桃華(神とはこの世の摂理、云わばルールのようなもの。)
桃華(ルールを破らなければ、干渉しない。干渉できない。)
桃華(つまり、この場合わたくし自身が「正面から堂々と」「平和的に話し合い」に向かえば失敗しないはずですわ。)
しかし、それを実行したところで。それを突破したところで。
その先にはアカシックレコードの所有者とそれを匿う「神をも使役する者」が居る。
次はどんな手を使われるかわかったものではない。
今の桃華は彼らの気紛れによって生かされてるようなものである。
ならば、手出しなどできるはずがない。
と言うわけで、『強欲』たる彼女はとりあえずそれを諦めざるをえなかったのである。
桃華(いずれは神も手にするつもりではありますが、流石に時期尚早すぎますし・・・・・・。)
桃華(ほかに選択肢などありませんもの。)
桃華「触らぬ神に祟り無しですわ。」
桃華「ですから、あの件はもうよろしいですの。」
桃華「それよりも当面の問題は。」
サクライP「キングオブグリード・・・・・・でございますか?」
桃華「・・・・・・そうですわ。よくも・・・・・・よくもわたくしの・・・・・・!」
櫻井桃華の機嫌がすこぶる悪い理由。
その理由に「アカシックレコードの入手が困難になった事」が少し。
残り大半が、「キングオブグリードのその後」についての怒りである。
サクライP「今も探索を続けておりますが、依然足取りがつかめぬ状況で。」
サクライP「手がかりは皆無と言っていいでしょう。」
サクライP「ただ一つ、『少女を見た。』と言う証言以外には。」
桃華「でしたら、十中八九その少女ですわね。」
桃華「キングオブグリードの、その”核”を持ち去ったのは。」
キングオブグリードが死神によって討伐されたあの時。
櫻井財閥もまた、キングオブグリードの『核』の回収を行おうとしていたのだ。
後に『原罪』と呼ばれる、その『核』を。
『原罪』を作り出した、キングオブグリードは『強欲』のカースであった。
例え、その由来に彼女が全く関わっていなかったとしても、
元が『強欲』のカースの核であったならば、
『強欲』たる彼女にとっては、彼女の所有物なのだ。
しかし、その『核』は櫻井財閥が回収する前に奪われた。
第三者によって、その場から持ち去られていたのだ。
故に、『強欲』特有のジャイアニズムを持つ彼女はブチ切れ寸前な訳である。
サクライP「問題なのは、『核』を入手したと思われるその少女の所属する勢力が未だにわからないことです。」
サクライP「我々人類、そして地底人では無いことは確かでしょう。」
サクライP「その二つであるならば、私は苦労せずにその足取りを知ることができるでしょうから。」
桃華「それでは、異世界か宇宙と言う事になりますの?」
サクライP「あるいは、全く別の勢力かです。」
桃華「・・・・・・いずれにしても、アレをわざわざ欲しがるのは厄介な勢力に違いありませんわ。」
桃華「Pちゃま、必ず見つけ出してくださいな。」
サクライP「はい、貴女様の仰せのままに。」
そこまで話して、彼女は一息付く。
桃華「ふぅ・・・・・・少し気分を変えたいですわ。」
桃華「Pちゃま、紅茶を頂けるかしら。あと、テレビをつけてくださる?」
サクライPは手元のリモコンを操作して、部屋にあるテレビの電源を入れた後、
席を立つと、慣れた手つきで紅茶を入れ始めた。
テレビの中では、
鎌を持った黒いフード付きコートの少女が、
巨躯なる『強欲』の化身に立ち向かう姿が映し出されていた。
桃華「綺麗に撮れてますわね。」
サクライP「現地で能力者達が撮った映像ですから。」
本来なら人払いの魔法によって映る筈のなかった映像。
しかし、その映像はそこにあった。
今頃は、どのチャンネルどの時間帯でも、
『強欲の王』討伐のニュース映像が映される。
テレビの中で死神ユズは業火を繰り出し、
死の鎌の一撃をもって『強欲の王』を打倒す。
サクライP「この結果も、残念でございましたか?」
紅茶を彼女に手渡しながら、サクライPは問う。
結局、『キングオブカース』は何の結果も出せず、何の抵抗も出来ず、
まるでただのやられ役の様に崩れ去ってしまった。
彼女は紅茶を一口飲んだ後、
桃華「まさかですわ♪」
上機嫌に、否と答えた。
桃華「『キングオブグリード』は確かにやられ役でしたけれど、」
桃華「おかげで、こうして死神ちゃまの実力をほんの少しでも見せて頂く事ができましたのよ♪」
サクライP「『憤怒』の魔王の刺客、死神ユズでしたね。」
サクライP「なるほど、確かにこれは驚異的な力でありましょう。」
桃華「まだまだ本気は隠しているみたいですけれど・・・・・・」
桃華「もし彼女が本気を出して戦えば、わたくし達七罪の悪魔全員が」
桃華「負けはしなくとも、無事では済まないですわね。」
桃華「もちろん、正面から真っ当に正攻法で戦った場合ですわよ♪」
サクライP「心得ております。」
桃華「ですけど、あの魔王に対する評価は改めないといけませんわね。」
桃華「本当に、こんなにも見事な人材を隠し持っていたなんて思いませんでしたわ!」
サクライP「高評でございますね。」
桃華「当然ですわ、特にわたくしは死神ちゃまの強さ以上にその成長速度が気に入りましたのよ♪」
サクライP「あの死神は確かベルフェゴールに一度敗北していたのでしたね。」
桃華「あの子はその敗北から立ち上がり、そして新たな力を手にして戻ってきたのですわ。」
桃華「この短期間に結果を出すために、時間まで歪ませて・・・・・・。」
桃華「それは、よほどの『渇望』が無ければ成し得ない事ですのよ。」
桃華「ウフ、ゾクゾクしますわねっ!」
死神ユズのその力への渇望に『強欲さ』を感じ取り、彼女は打ち震える。
サクライP「なるほど、貴女様が気に入った理由はわかりました。」
桃華「このままでは本当にわたくしも殺されてしまうかもしれませんわね♪」
言葉とは裏腹に、その顔には笑みが浮かんでいた。
サクライP「そうはなりません。私がこの身にかえても貴女様をお守り致します。」
桃華「期待してますわよ、Pちゃま♪」
桃華「わたくしにとってPちゃま達が居ることが、死神ちゃまに対するアドバンテージ。」
桃華「死神ちゃまは、わたくし達『大罪』を処する権利を持っているみたいですけれど。」
桃華「わたくしを守る、Pちゃま達の命をどうこうする権利はありませんもの♪」
『寿命を迎えるわけでも無い人間を自身の判断で殺めることはできない。』
それが死神ユズに課せられたルール。
桃華「ウフ、そう・・・・・・死神ちゃま。わたくしは人間を使いますのよ。」
テレビの画面では死神と魔法使いが戦っていた。
ニュースのテロップはこうだ。
『敵か、味方か。黒いローブの死神。』
サクライP「偏向報道。」
サクライP「古典的な手ではありますが、効果は十分でしょう。」
サクライP「本来ならば『強欲の王を討った英雄』が、『正体不明の死神』に早変わりです。」
テレビの映像は、財閥が用意したものならば。
テレビの報道はすべて、財閥の息がかかっている。
桃華「『キングオブグリード』は民衆にとって恐怖の対象でしたわ。」
桃華「そんな恐怖を、黒い一撃に切伏せるそのお姿。」
桃華「それは恐怖を超える恐怖ですわ。」
桃華「そして、魔法使いと戦ってるその姿。」
桃華「業界のヒーローリストに載ってる魔法使いと、」
桃華「リストには無い、正体不明の死神。」
桃華「なぜ、死神はヒーローを”襲っている”んですの?」
桃華「その姿は民衆にはどう映るのかしら。」
サクライP「とは言え、件の魔法使い。」
サクライP「イヴ・サンタクロースの証言があれば、この程度の風評はたちどころに消えてしまうでしょう。」
桃華「わかってますわ。あとは”彼女”がわたくしの意図を汲んでくれれば、磐石なのですけれど。」
その時、画面が切り替わる。
『緊急ニュース』
そして画面に映るものを見て、桃華はにんまりと笑う。
そこには、カースを操り、人を襲わせる死神ユズの姿があった。
サクライPが席を立つ。
サクライP「それでは私は失礼します。『人類の敵』を討伐するために財閥も動かねばなりませんので。」
桃華「頑張りなさい、Pちゃま♪」
桃華「死神ちゃま。わたくし達と同じ魔の存在であるあなたは、その事にもう少し気を配るべきでしたのよ。」
桃華「さあ、死神ちゃま。これで貴女も『キングオブグリード』『嫉妬の蛇龍』と同じくして、」
桃華「『人類の敵』ですわ。」
桃華「もう大っぴらに活動することも、人ごみに隠れることもできませんわね。」
桃華「そして次の相手は、あなたが狩るべきカースでも大罪でもなくて・・・・・・」
桃華「人々を守護する、正真正銘のヒーロー達ですわよ。」