2スレ目>>638~>>645


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「・・・はぁ、またダメだった・・・」

夕暮れ時の公園を、とぼとぼ歩く少女が一人。

「もうこれで九件目かぁ・・・いよいよ後がなくなっちゃったよ」

アイドルになりたい、と息巻いて家を飛び出したまでは良かったが、両親が折れる条件として提示したのは、「受けるオーディションは十件まで、それで駄目なら戻ってこい」というものだった。

「十件ぽっちで拾ってもらえるほど甘い業界じゃないとは思ってたけど・・・実際目の当たりにするとヘコむ・・・はぁ」

後が無い焦りと緊張で、数をこなせばこなすほどアピールが下手くそになっているのを自分でも感じるくらいだ。

このままでは次のオーディションも良い結果は残せそうにない。

「・・・あーダメダメ、こんな悪いイメージ持ってちゃ上手くいくものも失敗しちゃうよ!気合入れなおさないとッ!!」

ふんす、と心機一転、次こそ合格だッ、と気合を入れたその瞬間のこと。ふっ、と少女の真上から影が差す。

「・・・ん?」

日が暮れるにはまだ早いよね、っていうか周りまだ夕日が照らしてるし。何事かと上を見上げると、

「わわわっ、どいてどいてえええええええっ!!!」

「え、ええええええええええええっっ!!!」

親方、空から女の子が!!いや、親方って誰よ!?

「「ふぎゅっ!!?」」

哀れ少女は突如現れた謎のもう一人の少女の下敷きに。

「ちょっと伊吹、何やってんすか・・・うわっ、ホントに何やってんすかっ!!?ちょ、大丈夫っすか!?」

二人が目を回した所に、飛んできた少女の様子を見にきたらしい少女が血相を変えて駆け寄って来た。


「ほんっとーにゴメン!!大丈夫!?たんこぶとかできてない!?」

「だ、大丈夫ですから・・・俯いて歩いてたアタシも悪いんだし・・・」

「まったく、チョーシ乗って無茶な跳び方するからこうなるんっすよ・・・えっと、忍ちゃんでしたっけ?遠慮なく怒っていいっすからね?」

アイドル志望の少女は、工藤忍。空から降って来た少女は、小松伊吹。その様子を見にきた少女は、吉岡沙紀。

ひとまず自己紹介を終えたあと、伊吹がひたすら謝りたおし、忍がそれをなだめ、沙紀が伊吹をつつく、という光景がしばらく続いていた。

「・・・この辺にしときましょうか、キリがないっす。それで、忍ちゃんはなんで俯いてたっすか?」

と、沙紀が話を切り替えようと話題を振った。静かに目を伏せ、忍がそれに答える。

「え、っと・・・アタシ、アイドルを目指して、上京してきたんです。でも、両親に『十件目までに事務所が決まらなかったら諦めろ』って言われてて・・・さっき、九件目で、落ちたんです」

「ふーん・・・崖っぷち、ってワケだ」

伊吹に改めて口にされ、忍がぎゅっと拳をにぎる。意識させてどうすんっすか、と沙紀がぺしり。

「痛っ。・・・でもさ、それって考えてみれば絶好のチャンスじゃん?」

「チャンス、っすか?」


訝しげな眼で聞き返す沙紀に、伊吹は得意げな笑みを浮かべて答える。

「そ、大チャンス。後が無いってことはさ、言い換えれば『力を残しておく必要がない』ってコトでしょ?思う存分全力でアピールできるんだし、これ以上ないチャンスじゃん?」

前向きすぎるでしょソレ、と沙紀がツッコミを入れるが、その言葉は不思議と忍の胸を打った。

(・・・そっか。今まで、多分心のどこかで『失敗しても次があるし』って、無意識に力を抜いちゃってたのかもしれない)

「・・・ありがとうございます。なんか、ちょっと気分が楽になりました」

そう言って微笑む忍を見て、沙紀と伊吹が思わず口を噤む。

「あ、あれ?どうか、しましたか・・・?」

何か変なこと言っちゃったんだろうか、そう思ってうろたえる忍に、

「・・・いや、良い笑顔するなぁ、と」

「ソレ見せれば、次は絶対受かるって!良かったじゃん、チャンスとそれを活かせる武器、どっちも持ってるんじゃん忍ッ!!」

「わ、わあっ」

しみじみ呟く沙紀と、思いっきり抱きついてくる伊吹。

「って、冷たっ。うわ、忍めっちゃ体温低いじゃん!?」

「・・・あ」

しまった、と忍の顔が青ざめる。そうだ、ここは故郷みたいに『受け入れられる』場所じゃない、もっと警戒するべきだったのに・・・


「ん、ホントだ。ひやっこくて気持ちいいっすねー」

「どーなってんのコレ、凄い冷え性?いや、それでもここまで冷たくはなんないか」

「・・・え、あれ」

気味悪がられてしまう、と身構えた忍だったが、二人の反応は先ほどまでと至って変わらず、平静そのものだった。

「あ、伊吹伊吹、忍のほっぺた凄いやわらかいっすよ」むにっ

「んーどれどれ・・・おーホントだ、お餅みたい」むにゅー

「うぇ、わ、ひゃめへーっ」

しばらく茫然としていた忍だったが、二人にほっぺたをいじられ始めると、我に返ってじたばた抵抗する。

「あっはは、そんな暴れないでよ忍ー」

「うりうり、こうっすか?これがいいんっすか?」

「ひゃっ、はらひへっ、ふはいほおーっ」(やっ、離してっ、ふたりともーっ)

しばらくそのままほっぺをおもちゃにされ、ようやく解放された忍は頬をさすりながら二人を問い詰める。

「変だと思わないの?これだけ身体が冷たいって、異常でしょ?」

「んー、つってもアタシそういうの慣れっこだしねー」「えっ」

「今のご時世、ちょっと変わってるくらいじゃそこまで驚くほどでもないっすし」「えっ」

どうしよう、聞いてたのと違う。都会だと『アタシたち』みたいなのって受け入れられないっておばあちゃんたち言ってたのに。


「っていうか、人に言えない秘密くらいは誰でも持ってるもんでしょ?アタシも地上生まれじゃないし」

「・・・ん、地上?」

「あー、伊吹は地下の出身らしいんっす。昔に地底に潜っていった人たちの子孫だとかで。つっても、アタシ以外は誰も信じてないみたいっすけど」

「・・・喋っちゃったら、『人に言えない秘密』じゃないんじゃ」

「細かいことはいーのよどうでも。要は聞いた相手が気にするかどうかでしょ?アタシは忍が何者でも気にしない。っていうか、さっきの笑顔見たらそんなんどーでも良くなるって」

「っすね。あれにやられないヤツがいたら、それこそどうかしてるっすよ」

「それは・・・」

ぼそりと忍がつぶやくと、周囲の気温ががくりと下がる。

急な肌寒さに伊吹と沙紀が身を震わせると、忍の姿が見当たらない。


「・・・アタシが『妖怪でも』、同じこと言える?」


ぞっとするほど冷たい声が、二人の背後から聞こえた。振り向くと、いつの間にか和服姿になった忍が、周囲に雪をちらつかせながら立っていた。


「おー、早着替え?やるじゃん忍ー」

「見た感じ雪女さんっすかね。いやー、なかなか和服も似合うっすね、忍」

「あっれー」

おかしい、なんでこの人たちこんなに順応性高いの。

「言ったっしょー、慣れっこなんだって。アタシもこんなことできるし」

そういった伊吹は、その場でジャンプすると、『空中を蹴り上げて』さらに跳び上がる。

「よっ、ほっ、とっ」

二度、三度、空中で『まるでそこに足場でもあるように』自由自在に跳び回る。

「・・・どうやってるの、あれ」

「伊吹いわく、『空気を固める能力』らしいっす。足場を作って、あぁやって跳び回るんっすよ。アレを取り入れたダンスは結構見ものっすよ」

気前よくバク転まで決めて着地する伊吹。忍が呆気にとられていると、

「じゃー次は沙紀の番ね」「ん、了解っす」「まだ何かあるの!?」

傍らに置いてあった鞄からスケッチプックとペンを取り出すと、さらさらとイラストを描いていく沙紀。

「・・・よし、出来た。見てるっすよ・・・」

ものの数十秒で犬を描きあげた沙紀が、その絵を忍と伊吹に向けてみせる。すると、

「・・・わ、え、動いた!?」「相変わらずやるもんだわねー」

なんと描かれた犬の絵が動きだし、ページの中を駆け回りだしたのだ。

「『描いた絵を動かす能力』。普段はもっとでっかいキャンバスにでかでかと描くんっす。結構な迫力で評判良いんっすよ」

骨を描き足して絵の犬にあげながら、沙紀は誇らしげに胸を張る。


「・・・なんか、都会って結構寛容なの?」

「都会でなくても、今の時代これくらいはフツーでしょ、フツー」

「変に身構えることないんっすよ。忍は気にしすぎっす」

わしゃわしゃ、と二人がかりで頭を撫でられ、少しくすぐったそうにする忍。

「そうだ、良かったらダンス見てあげようか?アドバイスできるトコあるかもしんないし!」

「ストリートのダンスとアイドルのダンスはまた別モノだと思うっすけどね・・・」

「こら沙紀ー余計な茶々入れるなー」

初対面で、なおかつ自分の正体を打ち明けて、それでもここまで親身になってくれて。

(・・・次のオーディション、負けられない。私だけじゃない、この二人のためにも)

ここまでしてもらって、すごすご田舎に引き返したんじゃ、申し訳が立つ筈がないじゃないか。


「アタシッ!!」「ぅわ」「ひゃっ」

「アタシ!絶対、次のオーディション、受かってきますッ!!だから、その時は・・・またここに、二人に会いに来てもいいですかッ!!?」


忍は、大声で宣誓する。それを聞いた二人は。


「・・・当然っす」「なんだったら、十一件目以降もサポートしてあげるわよ?」


微笑みを浮かべる沙紀と、少し意地悪を言って、それでも優しい目で見つめる伊吹。

「・・・ありがとう、二人ともっ。アタシ、がんばってくるからッ!」

その二人の姿に勇気をもらい、忍は笑顔で決意を新たにする。

 


数日後、泣きながらやってきた忍が「合格した」と二人に伝えると、「「紛らわしいことするんじゃない」」とくしゃくしゃになるまで撫でくり倒されるのだが、それはまた別のお話。