2スレ目>>627~>>634


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──とある街中──

二人組の覆面男が、大きな袋を抱えて銀行から飛び出してきた。どうやら銀行強盗であるらしい。
手には銃を持っているため、周囲の人間は迂闊に近寄れず、ヒーローかGDFの登場を待つしかなかった。

強盗「よし! とっととずらかるぞ!」

弟分「へい兄貴!」

 

「そこまでだ!!」

 

強盗らが逃走用に用意したと思われるバンに乗り込もうとしたその時、ビルの谷間に二人を制止する声が響いた。

強盗「な、なんだ!?」

弟分「兄貴! あそこ!」

強盗を含め周囲の人々が声の主を探していると、ある雑居ビルの上に馬に跨った人影を見つける。

「その方らの悪行、この目でしかと見届けたぞ!」

強盗「なにモンだ!」

「悪党相手に、名乗る名などない!!」

弟分「お、お前は……!」

 

仁美「天知る地知る瞳知る……武辺者ヒトミが居る限り、この世に悪は栄えない!!」ババーン!

 

弟分「誰だー!?」

野次馬「(自分で名乗ってるし……)」

強盗「おい、なんだかよくわからんが、今の内に逃げるぞ!」

弟分「へい!」

周囲の人間がざわめく中、ビルの上の人影が長ったらしい口上をぶっている間に強盗らは逃げていってしまった。


仁美「──さあ、この朱槍の錆となりたくなくば、神妙にお縄につけい!」

『おい! おい仁美!!』

ヒトミと名乗った少女が跨る馬が、彼女に話しかける。
話しかけるといっても、念話の類であるが。

仁美「んもうなによ松風! 今良い所なのに!」

松風『その松風っていうのヤメロっつってるだろ!』

松風『お前がワケのわからんことをぶつくさほざいてる間に、奴ら逃げっちまったぞ』

仁美「……エ? あああっ! アタシの登場シーンを無視するとは!!」

仁美「松風! 追いかけるよ!」

松風『やれやれ……』

松風と呼ばれた馬は、地上30メートル程の高さを一息に飛び降りると、逃げていった強盗の車を追いかけるのだった。

 

弟分「あ、兄貴ィ! さっきの奴が追いかけてきますぅ!」

強盗「へっ、高速に乗っちまえばこっちのもんだ」

強盗「いくら馬に乗ってるとはいってもさすがに追い付けまい!」

仁美「待て待て待て待てぇーい!」ドドドド

弟分「う、うわああ! 追い付いてきやがったぁ!!」

強盗「な、何だってんだ一体!? もっと飛ばせ!!」

弟分「これでも180km/hくらい出てんですよぉ!」

仁美「丹羽仁美! 推して参るーっ!!」


強盗「チッ……こいつは出来れば使いたくなかったが、仕方ねぇな!」

そう言うと強盗は後部座席からサブマシンガンを取り出した。
慣れた手つきで動作を確認する様子を見るに、どうやら素人ではないらしい。

強盗「てめえに恨みはねえが……死にな!!」

仁美「むっ!!」

強盗は銃を構え仁美に狙いを定めると、躊躇いなく引鉄を引いた。
仁美は銃を向けられている事に気づくと、手に持った長柄を高速で回転させる。
勝利を確信した強盗の予想に反し、撃たれた銃弾は全て弾き落とされてしまった。

仁美「飛び道具とは……卑怯なり!!」

強盗「ばっ、化け物めぇ!」

仁美「冗談! むしろアタシは化け物を狩る側よ!」

そうこうしている内に強盗と仁美の距離はどんどんと縮まり、ついに目と鼻の先にまで近づいた。

 

仁美「覚悟おぉーっ!!」

仁美は手に持った槍を大上段に振りかぶると、思い切り振り下ろす。

強盗「うわあああぁぁ!」

弟分「ひいいいいぃぃ!」

仁美の槍によって強盗らの乗っていたバンは、真ん中から縦に真っ二つに両断される。
制御を失った車はその場でスリップを起こし、道路脇の防音壁に激突した。
衝撃で中の強盗は気を失ってしまったようだ。

仁美「銀行強盗、討ち取ったりーっ!!」

黒煙を上げる車の傍で、仁美は勝どきを上げるのだった。

 

気絶した強盗を簀巻きにしてGDFに引き渡した仁美は、帰宅の途についていた。
街中を歩いていると、突然松風が何かに反応を示す。

松風『!? おい、仁美! 俺を外に出せ!』

仁美「エ? いきなり何言ってんの?」

松風『魔族の反応だ! どういうこった、魔王様は人間界にはあまり干渉しないってぇ話だったが』

仁美「魔族? まあいいや」

松風の話を聞いた仁美が槍を振りかぶると、穂先から黒いモヤが現れ馬の形を作った。

仁美「じゃ、案内してよ」

松風『こっちだ』


「んー、思ってたより見つけるのは簡単じゃないか……反応があっても、的外れの小物ばっかりだもんなー」

松風『あいつだ』

松風が反応したのは、人間にしか見えない少女だった。

仁美「ん? 魔族って人間と同じ見た目なの?」

魔族と言われても松風しか知らない仁美が疑問に思うのは当然だ。

松風『いや、そうとは限らねぇんだが……おいアンタ!』

「ん?」

 

当の少女は松風の念話に反応し振り返った。
やはり普通の人間では無さそうだ。

「柚に何か御用? ……って、シャドウメア!?」

自分を柚と呼んだ少女は松風の正体をも知っているらしかった。
どうやら魔族の一員に間違いないようだ。

松風『やっぱり、アンタ悪魔だったか……その雰囲気は死神か?』

ユズ「んー、昔は死神をやってたこともあったけど、今はちょっと違うかな」

松風『魔王様は人間界への不要な干渉はお許しにならない筈だが、どういうこった?』

ユズ「詳しくは言えないけど、その魔王様の密命を受けてここにいるんだよ」

松風『魔王様から!? どうやら、長い間魔界に帰らねえ間に、色々変わっちまったみてえだな』

ユズ「話が済んだならもう行ってもいい? アタシこれでも忙しいんだよね」

松風『そうつれないこと言うなよぉ! 久々に同郷のモンに会えて嬉しいんだよ』

ユズ「えー?」


松風の発言にユズは思案する。
正直、一秒でも時間が惜しいくらいだが、まだ日は高いので大罪の悪魔連中も現れないだろう。
それなら少しくらいは、この人間界に縛られているらしい魔族に付き合ってやってもいいだろう。

ユズ「じゃあ、どっかで座ろうか……ところで、そちらのあなたは何者?」

松風とユズのやり取りを見ていた仁美は、正体を聞かれて素直に答えた。

仁美「アタシは退魔士の仁美、一応この松風の主」

松風『だから松風って呼ぶな!』

ユズ「退魔士? ……シャドウメアの主?」

 

──何処かの公園──

ユズと仁美はその辺りの自販機で買ったお茶を飲みながら話し込んでいた。
松風は人目に付きやすいため、再び封じ込められている。


ユズ「ふーん、じゃあ、魔族は敵ってこと?」

仁美「アタシの祖先は魔族と戦ってたみたいだけど、ここ最近は見なくなったって」

仁美「アタシも松風以外の魔族を見たのは柚っちが初めてなんだよね」

ユズ「その割に、アタシを狩ろうとはしないんだね」

ユズ「(ただの人間にやられるとも思わないけど……)」

仁美「まあ、悪さしてないのに退治するのは気が引けるし……」

松風『ちなみに俺は、悪い人間に騙されてこいつの祖先と契約させられる羽目になったんだがな』


二人の話に松風が割って入る。

仁美「なによそれー、あなたが暴れてたからしょうがなく退治したって聞いてるけど?」

松風『人間の方から召喚してきて、んでこっちは契約通りの仕事をしたから代価を求めたら』

松風『「そんなの聞いてなかったー」って……んで退魔士がしゃしゃり出てきて俺のことボコってきてよぉ』

松風『よく悪魔が邪悪だとか言えるわ! お前ら人間の方がよっぽど邪悪だわ!』

仁美「そりゃあなたが代価の事教えないのが悪いんでしょうが!」

仁美「どうせ後になって突然魂寄越せとか言い出したんでしょ」

松風『だって聞かれてねーし』

仁美「人間の取引には説明義務ってのがあるの!」

松風『俺ァ人間じゃねぇよ!』

ユズ「(なんだかんだで仲良いのかな……? 魔族は大抵人間を見下してるものだけど)」

ちょっとした皮肉の応酬を聞きながらユズは思った。


松風『ま、お前が押っ死ねば晴れてこのクソッタレな契約も解消されるワケだがな』

仁美「100年くらい生きてやるから!」

松風『お前みたいな跳ねっ返り娘が退魔士なんて続けてもどうせすぐくたばるのがオチだよ』

仁美「なにをーっ!」


二人が本格的に言い争いを始めようとしていると、何処からともなく悲鳴が聞こえてきた。
カースの反応ではないため、人間の悪人か宇宙犯罪者の類だろう。

仁美「っ! 行くよ! 松風!!」

松風『チッ……しょうがねえな!』

仁美「いきなりで悪いけど、アタシらは行かないと! またね柚っち!」

松風『久しぶりに悪魔と話せて楽しかったよ、機会があればまた会おうぜ!』


ユズ「(魔王様の言う、人間と魔族の共闘か……)」

ユズ「(あの二人を見ていると、それも夢じゃないって……そんな風に思えるな)」

遠のく二人の背中を眺めながら、ユズはそんなことを考えるのだった。